光が指し示す道
後方勤務ではあるが、いくつもの戦いを参加し、立場上俯瞰するようにそれを眺めることができたグワラニー。
それによって見えてきたことがあった。
それは……。
このままでは早晩魔族が敗北する。
……個としては魔族の剣士が優秀なのは間違いない。
……軍首脳が喧伝する「我が軍の戦士ひとりは人間の兵士十人分」、つまりキルレシオ十対一はオーバーにしても、三対一から四対一は十分に成立する。
……だが、それでもカバーできない。
……それほど人間と魔族の数の差は大きい。
……つまり、今と同じような戦いを続けていたら、いずれ戦線は崩壊する。
だが、それはこのかりそめに祖国に殉じる気などまったくないうえに、元の世界に戻るという密かな目標を掲げている彼には非常に都合の悪いものだった。
……戦線崩壊。
……そして、それに続く敗北。そこからの始める人間による魔族虐殺。
……当然現在は魔族に属する私は狩られる側となる。
……そうなれば生き残るために逃げ回るだけで精一杯であり、元の世界への帰還への手がかりを探すどころではなくなる。
……そうなることは避けねばならない。絶対に。
……では、どうすればよいのか?
……もちろん講和できればいいのだが、人間側がこの世界から魔族を淘汰することを目的としている以上、降伏、またはそれに近い状況での講和はありえない。
……つまり、こちらが有利な状況でしか講和の可能性はない。
……だが、自軍に有利な状況で王や軍幹部が人間たちと講和するかといえば、これもなかなか難しい。
……まあ、それについては状況と、やり方次第でどうにでもなる。
……つまり、それを考えるのは後回し。それよりも、まず考えるべきは講和できそうなところまで戦況を好転させる方法だ。
……真っ先に手をつけなければならないのは、一番の問題である自軍の損害を極力減らす策を講じること。
……だが、我が軍首脳はその必要性に気づいていない。
……それとも、目の前の戦いのことで頭が一杯で問題には気づいてはいるがそこまで手が回らないということなのか。
……もっとも、軍事に関してはほぼ素人である私自身も今すぐそれは思いつかない。
……しかし、気がついたからには手を考えなければならない。
……手遅れにならないうちに。
……そして、それを有効化するために……。
……どこかの時点で文官から武官へ転じなければならないな。
……だが、これはなかなか難しい。
……しかも、目的を達成するためには一介の兵士ではなく、ある程度まとまった数の兵を預かる指揮官でなければならないのだからハードルはさらに高くなる。
……まあ、そのような好条件は待っていてもやってこないのだから、こちらから手に入れる、または向こうからやってくるようにするしかないだろうな。
……とりあえず、それがいつやってきてもいいように、準備だけはしておくべきだ。
……もっとも、そのベースはすでにある。
……ありがたいことに私には古今東西の膨大な戦いの歴史、その記憶がある。
……先人たちが苦境のさなかにどう戦ったかはこれから私が戦場で戦ううえで十分に参考になる。
……それから、読み漁ったフィクションを含む多くの軍記物語。
……ここにだって参考として利用できるものがあるはずだ。それから……。
……やってきたチャンスを逃さず掴む握力が必要というところか。