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11 政略結婚ですよ?

 伯爵領、領主館から少し離れた隣の別館。部屋数二十しかない小さな屋敷に、義姉上と俺の可愛い甥っ子は暮らしてる。

 本邸は来年俺が爵位を継ぐまで、父が使ってるんだよね。ヘタに会うと絶対トラブルから、距離を置いてすっぱり関係を物理的に断ってる。


 強行軍に付き合わせた(運んでもらった)護衛さんたちに特別賞与を約束して、彼らの為に新しい酒樽開けてあげてーと厨房に頼み、先に行ってもらったアマリエラ様とラン姉に合流。

 春の終わり、あるいは夏の初めの昼過ぎ、庭で訓練、というより遊ぶ甥っ子を見ながら休憩していた義姉上が、俺を見て、ベンチから立ち上がった。


「お帰りなさいませ、お話はうかがいました。

 急ぎ、アマリエラ様のお部屋を……本邸ではなく、こちらの別館にご用意いたします」

「お願いします」


 話が早い、さすが義姉上。隣でラン姉も『さす義妹(いも)』って呟いてる。旅装を解いて身支度を整えてもらう間に、ウチ(伯爵家)のこと説明しておいてくれるって! 助かる―。


 俺も、ここの警備を厚くするよう手配してから、着替えに行こ。ん-、警護対象が集まりすぎかなぁ、ここやられたら一網打尽……だけど守りやすいしなぁ。

 集中とリスク分散は、永遠の課題だな。

 そうだ、人力リレー方式のこと、忘れないうちに、『来年、爵位を継いだらやることリスト』に追加しておかないと。


 まとめてある『やることリスト』のトップは、両親が引退して引き篭もる先の別邸の警護の概要。

 ……見るたびに思うけど、あの二人(両親)、なに考えてるんだろ。父が来年で引退する理由は、祖父が早逝した年に自分も当主を退くっていう、また祖父に倣って、だけど。

 実権手放して僻地に篭るって、それなんてセルフ監禁? 自主蟄居?って俺は思うんだ。しかも警護という名の監視付き。

 まあ、討伐にも水運にも関わってないし、どこにいて何していようと、たとえセルフ監禁していても、誰も気にしないからいいか。


 そして、『やることリスト』――腕木通信に加えて人力リレー方式とか、果てしなく長くなってる気がする。だけど……俺一人じゃなくて、アマリエラ様と相談しながら、って思うと、心が浮き立つ不思議。

 うん、今なら俺、義兄さんがラン姉との結婚が決まった時、その場で空に向かって「この世のありとあらゆるものに感謝を!」って吠えた気持ちが少しわか…………いや、やっぱ、わかったらダメだと思う。

 あれは奇行、真似(マネ)したらダメなやつ。

 しっかりしろ、俺。婚約も結婚もゴールじゃないぞ、これからが大事なんだから。


 身支度整えて、みんなで楽しく食堂で夕食。新しい家族(アマリエラ様)におおはしゃぎした甥っ子はおねむの時間が来たので、早々に退出。

 秘密会議はアマリエラ様、ラン姉、義姉上、俺、の四人。


「ではアマリエラ様はこのまま滞在し、来年の春に結婚してそのまま伯爵夫人となられる段取りですね」


 義姉上が祝祭での出来事と俺たちの逃亡を聞いて、今後の予定を確認してきた。


「はい、ご実家の侯爵家では、アマリエラ様を守り切れないと思いますので、こっちに居た方が安全です。

 屋敷の護衛は、領軍から引っ張ってくるつもりです」


 起こりそうな危険は、先に潰しておくに限る。

 一通り義姉上には襲撃とか盗人(人さらい)の危険を伝えて、危機意識を共有。

 したらば、かしこまりましたと平然と頷く義姉上――これって貴族の普通? え、貴族の女の人って、こんな殺伐とした話題もオッケーなの? えーっと、じゃあ、アマリエラ様にも、この手の話題振っても大丈夫? 退かれない?

 そこんとこ気になる、最近素敵な婚約者ができた十九歳です。

 

「待って、ハリーってば、これからすぐ夏の河川の魔獣討伐、秋になったら王領大湖の魔獣討伐で、ほぼこの屋敷にいないじゃない。やだ、アマリエラ様が危ないじゃないの。

 いいわ、アタシしばらく、護衛代わりにこっちにいるわ。あ、ウチの子もこっちに呼ぶけど、いいでしょ?」

「マジ!? ラン姉、助かる、ありがと!

 甥っ子は好きなだけ呼んで!」

「安心なさい、ハリーがいない間、義妹たちはアタシが守るわ!」


 胸を張って見栄を切るラン姉に、心底安心した。

 やった、これで屋敷の守りがさらに堅くなった!

 だけど婚約者のお披露目をした途端に、半年ほど引き裂かれる事実には目を背けたかった!


「でも、慢心はダメよ。

 アマリエラ様は屋敷内でも護衛つけてもらって、三人一組のスリーマンセル。怪しいと思ったら、一人は偵察、一人は連絡、一人は残って護衛が鉄板だから」

「うん、気を付ける、っていうか気をつけて。あんな風にからんできたし、あいつ絶対、アマリエラ様を手放す気なんて、無いよ」


 あのロクデナシと面と向かって話してみて、わかった。

 アマリエラ様を(おとし)めて、引きずり落してなお貶めて、くだらない自分の支配下に置いて安心したいんだろうさ。上等な人間を踏みつけて、それができる自分はくだらない人間じゃないと、確認し(思い込み)たいんだろう……いい迷惑だ。


「我が身へのご配慮、感謝いたします。私自身、結婚式まで油断せず、気を付けることを誓います。

 それはそうとして、他にも早急に話し合わなければならないことがございますが、よろしいでしょうか」

「え、なんでしょう」


 アマリエラ様を守る以外に、急ぐ話あったっけ。

 ちょっと思いつかなくて、びっくりして見ると、思いのほか思いつめた感じのアマリエラ様が、緊張気味に口を開いた。


「来年の春の結婚式の参加者です。

 現状、三伯を筆頭に河川流域の貴族を中心に参加となっておりますが。この度の祝祭で王太子殿下のお声掛け、三人呑みを赤子の如くあしらったとのお褒めの言葉に、興味を惹かれぬ貴族はなく……。

 つまり、(よしみ)を持とうとするありとあらゆる家が、結婚式に参加したいと表明してくると予測します」


「え、もう招待状も配ったし、返事も貰ったし、席次とか、泊まる場所とか、いやだってもう一年後!?」


 いやいやいや? 貴族の、曲がりなりにも伯爵家の結婚式、がっちがちに固めた結婚式に、今さら参加させろって捻じ込んでくる??? 


「手紙は山津波、あるいは川の氾濫のごとく、激流の勢いでもって舞い込んでくることでしょう」


 覚悟を決めた、いっそ静謐な表情で語られた。

 ……冗談を言ってるわけじゃない、と。

 途方にくれて、つい困った時のラン姉と思って顔を向けてしまったけど、俺と同じように、えーっ、ていう顔をしてた。

 うん、貴族的なアレヤコレヤに、ラン姉が頼りになるわけがないよね、知ってた。


「当初の予定では、会場には余裕を持たせてございます。ですので、既存の招待客の方が連れてくる人数を増やしたいのであれば、一名のみ。

 今から参加を表明される男爵、子爵の方々は、爵位を理由に会場内への参列はお断りさせていただき、会場の外に立見席を新たに用意して、一名のみ参加を許可。

 伯爵位以上の方は親戚・縁者を鑑みて、立見席での内寄り、外寄りで差別化を図れば問題はないかと」


 いかがでしょうかと、アマリエラ様が立て板に水とばかりに対策を立ててくれた。

 すごい、優秀、有能!

 ラン姉と二人、おおっ、と拍手喝采。

 なんてしてる間に、今度は義姉上が結婚式の資料を持ってくるよう、侍女に命じていた。素早い。


「アマリエラ様、これが今の席次です。

 王太子殿下からのお声掛け、三人呑み……もしや公爵家のご参加も。ならば会場内に席が必須でありましょう」

「短剣の下賜は私も初耳でした。殿下ご自身の御列席はなくとも、王家外戚の筆頭公爵家が名代として名乗り出てもおかしくありません。

 会場内の席は、確保しておくべきです」


「追加を申し出た河川流域の貴族の、増やした方は会場内ではなく立見席に回した方が……」

「会場内には新たに縁を結ぶ高位貴族を招きますか?」


「河川流域の貴族を優遇して地方の結束を固めるも良し、高位貴族を優遇して新たな縁を求めるも良し」

「それは今後の伯爵家の方針、川の流れの行く先に関わることでございますね」


「出産のこともあり、しばらく王都から遠ざかっておりました。口惜しゅうございますが、最新の情勢には……」

「王都の派閥と直近の動態はお任せください。私の方こそ謝らなくては。河川地域の血縁関係までは把握しておりますが、領土争いに係る先祖由来の怨恨関係がまだ完全理解に至っておらず……」


「そちらはわたくしが」

「そちらは私が」


 目の前で、義姉上とアマリエラ様が戦場で背を預け合った戦友のように、息の合った会話を繰り広げている。

 ミルクティーベージュの長い髪をさらりと結い上げた、白百合の似合う清楚な麗しい義姉上。

 クセのない長い銀髪を夜に降る月光みたいに流して、夜空に君臨する銀の月(夜の女王)のような玲瓏たるアマリエラ様。

 分かり合い、微笑み合う美女二人。

 ……婚約者は、俺です!!!


 俺はひっそりと会話に参戦した。

 うん、そうです、はい、ソノトオリデスネ、ワカリマシタ……目を見て相槌打ってるだけとか言わないで! 

 ロクデナシ(グラシアノ卿)の家と関係を断つ以外は、地域の縁(河川流域の貴族)も大事にしつつ、新たな縁(高位貴族)もほどほどに仲良くできる感じでオネガイシマス。


「ふ、ふふっ……」

 話してると、急にアマリエラ様が笑い出した。

「ああ、人と話す、『話し合う』なんて、なんて久し振りでしょう。忘れておりましたわ」


 アマリエラ様が張り詰めた表情を崩して、晴れ晴れと笑う。

 話したら聞いてもらえるという事実が、嬉しかったのだと。話したら当たり前に耳を傾けてくれたことに、戸惑いを覚えたのだと。


 問題を指摘して、起こる問題を明示して、解決策を提示する。


 問題を指摘したら、嗤われ。

 起こる問題を想定すれば、馬鹿にされ。

 解決策を提示すれば、怒鳴られた。


 そのせいで問題が起こってからしか手を出せず、ありとあらゆることが後手となっていた、とのこと。打てば響く会話のなんと清々しく、話す度に霧が晴れ、視界が晴れ渡っていく心地がすると。


「アマリエラ様、ご安心ください。俺も、問題は先に潰しておく派、です。気が合いますね。

 どうぞご遠慮なく、これからもばんばん問題を指摘してください。ぜひお願いします」


 おそろいですね、と言ったら嬉しそうに笑ってくれた。こうやってちょっとずつ好感度稼いでいって、少しでも俺のことを好きになってくれたら嬉しいな。


 といっても、これから半年、強制的に会えなくなるんだけどな! 手紙は月一で書くけど、なんでお披露目した途端に会えなくなるんだ、おかしいだろ!

 この恨み、水棲魔獣にぶつけて晴らしてやる。

 八つ当たりじゃないぞ、正当な権利だ!

 ……あ、そうだ。


「アマリエラ様を惜しんで、絶対に取り返しにくると思うんだけど。今って、侯爵家と伯爵家だけの都合で、政略の縛りが弱い。

 王太子殿下からのお墨付きはもらえたけど、グラシアノ公爵家から圧力かけられたら、侯爵家、きっとアマリエラ様を差し出してしまう。

 だから俺たちの結婚、もっと大きく範囲を広げて、拡大解釈できないかな? 内陸名門と河川の田舎貴族の融和って位置づけに。

 どう思う、ラン姉?」

「侯爵家と伯爵家だけの問題じゃなくするってこと?

 ん-……伝統ある名家(侯爵家)、勢いのある成り上がり(伯爵家)……貴族入りした平氏と武士階級の源氏で国を分けたわよねぇ……イングランドだと新興富裕層のジェントリ入りがあったし、うん……」


 ちょっとの間、ラン姉は宙に視線をさ迷わせてたけど。


「そうね、陸運の利権貪ってて威張り散らしてた高位貴族に、水運引っ提げてケンカ売りにいくんじゃなくて、婚姻による融和を、って演出するのはどうかしら。

 貴族同士で蹴落とし合って争うのではなく、手に手を取り合って協力して国を盛り立てていきます、的な? うっわ、ソレっぽい」


 すっごく建前っぽい、国思いの忠誠心に溢れたいい子ちゃんな貴族みたいだと、ラン姉が笑う。


「それ! 俺とアマリエラ様の結婚は、国すべての貴族の融和を象徴する結婚ですよ、と。それに横槍入れる奴は、国の乱れを望んでるんですね? ってなるよな!」

「秋には王太子殿下にお会いするんでしょ? それっぽく振る舞ってきなさいよ。

 王家の紋入り短剣もあるし、非公式な王命による結婚って感じを装えるわ」


 俺が胸を張って言うと、ラン姉がグッとこぶしを握り締めて、いいわねって同意してくれた。

 式の参列者も増えるみたいだし、衆人環視の中、公明正大、完全完璧な政略結婚を、がんばるぞ!



    ◇    ◇    ◇



 夏、爺共がヒャッハーするのに付き合って。

 秋、王領大湖で魔獣をぶっ飛ばす傍ら、殿下からは正式に祝いの言葉と、結婚式には名代の出席を、お約束をいただいて。

 装うつもりが、本当に非公式な王命による結婚となった。

 ついでに。

 友達になろうよ、同じ釜で飯食った討伐隊の仲間じゃないか、ってキラキラしい顔で寄って来る奴ら(貴族令息)の、ある意味清々しい貴族っぷりに笑顔を返して、席はないが代わりにと、条件付きで手を差し伸べた。


 合間を見て書きに書いたアマリエラ様への手紙は、月に一度まとめて出した。


「夏は屋敷の北、浅瀬に水が流れてて涼しいです。満開のアジサイの後は、ハイビスカスが綺麗です、おすすめです。

 こちらは、去年までたしか現役当主してたはずのロートル(老兵)が新兵に紛れてしゃしゃり出てきて、目を血走らせて突っ込もうとするので、毎日毎日、最新の戦術をボケた頭に叩き込んでいます。

 この前、目の覚めるような鮮やかな青い色の水棲魔獣を退治しました。月花のような色に、アマリエラ様を思い出しました」


「屋敷の庭には果樹もあります。秋だと、奥にある実が熟れすぎかと思うぐらい真っ赤になったぐらいが、食べ頃です。庭師が毎年、コスモスで花壇を綺麗にしてくれてるので、今年もきっと綺麗なはずです。

 王領大湖で、銀鱗の水棲魔獣を退治しました。憎たらしい魔獣でしたが、銀鱗が光を弾いてアマリエラ様みたいに綺麗でした」


「もうすぐ秋が終わるので、すぐに会いに戻ります、すぐです。

 あと、討伐の同僚から女性を褒めるのに魔獣はダメだと言われましたが、何を見てもアマリエラ様を思い出すので仕方なかったんです、許して下さい」


 月一で出していた手紙に、月一で返事をもらえた。夜風みたいに細く流れる流麗な書体、直筆だ!

 これ、俺が死ぬ時に一緒に墓に入れてもらおう。誰にも見せない、俺だけの宝物だ。




 冬、半年ぶりにやっと、やっとアマリエラ様と再会できて。それから春の結婚式まで、いろんなことを乗り越えた。

 一緒の屋敷にいるのに、手を出さず。

 ラッキースケベが起きないように気を付けて。

 手を変え品を変え、好きなもの、好きな食べ物、義姉上の協力のもとに探り当てて、少しでもと好感度アップを図った。


 あ、定番のトラブルは何事もなくやり過ごしたよ?

 押し入り強盗は未然に防いで、人さらいも先に余罪でパクった。そしてこんな状況で、実家(侯爵家)に帰って来いなんていう手紙は、殿下からもらった短剣の御威光を借りて、丁重にお断りを入れた。


 ……これもう、アマリエラ様の実家、敵認定でいいよな? 長年、ロクデナシに生贄よろしく差し出していたのも気に食わなかったし。以前、侯爵邸でアマリエラ様にお会いした時の、あの飾り一つない簡素すぎる装いも。

 華美すぎるのはお好みではないけれど、それ以上にあの装いは質素が過ぎた。


 だから。

 最低限、物資は運んでやる、物流にも乗せてはやる。でも、優先も優遇もしてやるものか。アマリエラ様が去った侯爵家に、栄光は無いと知れ。

 俺は、執念深いぞ。



 やることリストが着々と長くなっていく中。

 ようやく迎えた結婚式。


 王太子殿下の名代、筆頭公爵家のご当主様本人の席は、なんとか無理やり捻じ込んで、会場内に用意した。

 ちなみに、グラシアノ公爵家の席は当然、無い。

 王領大湖で一緒に戦った仲間(笑)は、有志(笑)で式の警備にお飾りの兵として参加してくれて――中身を知ってる俺でさえ、儀仗兵姿は見惚れるぐらい恰好良い。

 祝婚音楽は、春夏の祝祭で愉快な演……見事な演奏をしていた楽団に声をかけた。二つ返事で来てくれて、喜びと希望に満ちたすばらしい演奏が披露される。


 河川流域の貴族たちは、懇願してくる中央のにわか親族(高位貴族)たちに、にこにこ顔で恩を売った。

 昔想定していた元婚約者との枯れ木のような侘しい結婚式からすると、若芽が芽吹いて緑の葉を茂らし、花が咲き実が成るほどの、信じられないほど賑やかで豪華な結婚式になったと感慨深い。


 そして、公爵(準王族)侯爵(中央の有力貴族)伯爵(別河川の河川伯)子爵(低位の貴族)男爵(田舎貴族)平民(領民)、ありとあらゆる身分が入り乱れた結婚式で、トラブル一つ起こすことなくさばききったアマリエラ様、ほんとにすごい。

 トラブルを治めるのではなく。

 そもそもトラブルを起こさない凄さを、思い知る。


 名ばかりの田舎貴族が、水運で成り上がって中央の高位貴族の娘を娶る。新しい勢力と、古い勢力との懸け橋。陸運と水運、つまりは物流革命を契機とした新しい国の始まりの狼煙。

 王太子殿下から押し付けられた王家の紋入り短剣が、天下御免とばかりに政略結婚の後押しとなった。


「俺たちの結婚は国のすべての貴族の結束を象徴し、高陸低川の物流を一元化して融合させた証。

 これは国の命運をかけた、政略結婚です。

 だから。

 あなたに誠実に向き合い、あなたの信頼を得るよう努め、あなたを守り、幾久しく大事にします。

 決して、掴んだ手を離さないと誓います」


 空には大きな銀の月(夜の女王)と、小さな金の月(夜空の騎士)、雲もなく、明日の晴れを約束する満天の星。

 俺の手には、白のスノーフレークと赤のアマリリスの花束。アマリエラ様が好きな、かわいい系の花と色鮮やかで大ぶりな花を選んだ。


 婚約してから一年と少し。

 もう良いかな、言っても良いかな。


 俺は覚悟を決めて、アマリエラ様に伝えた。



 ――顔を上げて胸を張れ。


 あのお言葉を、心の支えにしてがんばってきました。これからも、あのお言葉を励みに生きていくつもりです。

 その誓いの証として、これからはリエラ様と、そう呼びたいのですが、よろしいでしょうか。


年下敬語(丁寧語)男子。

ようやく、愛称呼びの勇気を奮い立たせました。


次回12話(終話) 「それは愚かな 私の罪科」

夜の19時 更新予定です。本編のラストを、お楽しみに!

(※最終話は14話です)





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