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第五話 ダンジョンコア


 それからは魔物に遭遇せず、すんなりとダンジョンの最奥いきどまりに到達した。

 広めの岩窟の中央に、天然岩に見える大人の腰ほどの高さの台座があり、その上に青色に発光する結晶が鎮座している。握り拳くらいの大きさだ。よく見るとわずかに台座から浮いているのが分かる。ゆっくりと回転し、時折光が揺らめき、いかにもお宝でございますな美しさがある。

 これがダンジョンコアだ。


「さて、前回は父さんが貰ったから、はななの番なんだけど…」

「ジュヌヴィエーヴちゃんがとる?」


 白猫はオッドアイの瞳でしばしダンジョンコアを見詰めていたが、ゆっくりと伸びをすると、横になって毛繕いを始めてしまう。


「興味なしか。まるでどんなスキルが取れるのか分かってるみたいだ」


 まさか〈鑑定〉持ちだったりしてな。


「じゃあ、はななが取りなさい」

「ありがとね、ジュヌヴィエーヴちゃん」


 はななが台座の前に立ちダンジョンコアを両手で持ち上げる。青色の輝きが強まりはななの顔を照らす。


「見えたかい」

「うん見えた」


 コアを手にすると頭の中に取得できるスキルの候補が思念となって浮かんで来る。初めての時はその違和感に驚くが、落ち着いて意識を集中すればちゃんと日本語として認識され、そのスキルの効果が分かるようになる。まれに候補が一つだけのこともあるけれど、通常は三つか四つのスキルの中から選べる。


「〈操雷えれきす〉と〈清泉うぇる〉、それと〈分身あばた〉だって」

「もう〈操雷エレキス〉は持ってたな」

「うん。だから〈清泉〉か〈分身〉だね。〈清泉〉はせいりょうな水をつくりだす。飲める水。じゅくれんにおうじて量がふやせる、だって」

「きれいな水が出せるのは便利だな。水筒ペットボトル要らずだ」

「〈分身〉は、もう一人の自分をつくる。だね」

「幻影でも出すのかな」

「うーんと、のうりょくが半分の分身で、ちゃんとさわれる体があるみたい」


 実体のある身体か。本人が分裂したりして。


「能力が半分って、まさか知能も半分とかじゃ困るな。なんだか地雷臭いね」

「じらい?」

「たとえば分身デコイを出してる間、本人はその場を動けないペナルティがあるとか」

「ちがうと、思う」


 単純に二人分の活動ができる訳ではないんだろう。素のはななの半分の能力では戦力面であまり期待できない。スキルで強化された状態での半分(50%)なら話は違うけれど。


「父さんのおすすめは〈清泉ウェル〉かな」

「わかったー。じゃ取るよー」


 はななが青色に輝くダンジョンコアを両手で持ち頭上高く掲げる。そんなポーズなんてしなくても、手で触れて念じるだけでいいのに。


「いただきまーす」


 はななの全身が眩い光輝に包まれる。

 光が尽きるとコアも消えている。よろけるはななを後ろから支える。スキルを取り込む時はほんの一瞬意識が暗転するのだ。


「大丈夫か」

「だいじょうぶ。……ふぅ」


 深呼吸したはななが俺から離れる。


「じゃあ使ってみるね」


 スキルはダンジョン内でしか発動しないのでその場で試すのが基本。家に帰ってゆっくり検証とかはできないのだ。

 はななが顔の前で手の平を合わせて指を絡め、人差し指を立てる。にんにんいんだ。嫌な予感が。


「ぶんしんっ!」

「やっぱそっちかいっ」


 一瞬はななの姿がぶれ、隣にもう一人のはななが現れる。

 マジで分身するとは!

 体が透けていることもなく見た目は瓜二つだ。鏡像でもない。個別の動きができるみたいだ。

 二人のはななに左右から抱き着かれる。

 本当に実体がある。学校ジャージを通して体温も感じる。でも分身の方はちょっと軽い感じ。力が弱いのか、重さも半分だったりして。


「「ねえ、娘が二人になってうれしい?」」


 なんかエコー掛かってるよ。


「あー、嬉しいナー」

「「心がこもってない。つきましては、おこづかいのバイゾーをヨウキューするのです」」


 息がぴったり過ぎる。ちょっとホラーっぽいし。

 娘が父親に抱き着く時はお小遣い目当て。これ豆知識な。二人だと倍額かい。そして娘のお小遣いと父親の小遣いはトレードオフの関係にあるからおいそれと要求は呑めない。


「ダメ。どうせ遣う時は一人なんだろ」

「「わっはっは」そのとおりだー」


 分身が消え、はななが一人になる。面白いけどこのままじゃジョークスキルだな。


「父さんはてっきり裸のはななが現れると思ってました。安心したよ」

「えー、なんで?」

「服までは分身できないんじゃないかと。もしかして分身の範囲を選べたりするのかな」


 背負った武装ケースは分身していない。どこまでを自分と定義してるのだろうか。

 はななが再びにんにんポーズ。


「ぶんしんっ」


 肌色はななが現れた。

 今度は見事なすっぽんぽん。素のはななだった。

 すかさず発育チェックをするのは親のさが。これは責任であり義務なのだ。


「おー。ふむふむ、なるほどー」

「「……? きゃっ!」」


 二人のはななが両手で隠してしゃがみ込む。いや、ジャージ娘の方はやらなくていいだろ。それに隠すような胸でもない。

 肌色の多いはななが消える。

 本当にこうなるとは。イメージ次第で本人以外の持ち物も選択的に分身するのか。なんか凄いな。たぶん分身物もオリジナルとは性能が違いそうだけど。


「ね。ねえ、おとうさん。見とれちゃった? ねえねえ、ときめいた?」


 誤魔化そうと父親を煽る娘。でも顔真っ赤。

 出るところも出ず、引っ込むところも引っ込んでいない体形。男の子の服を着れば少年にも見える体だ。もうちょっと太ってもいいなと思うくらいである。


「もう忘れたよ。ただの幻さ。ダンジョンの中で喜んで裸になるような娘に育てた覚えはないし」

「おとうさんのほんとうの心がそうねがったから…」

「願ってねー」

「んにゃあ」


 大あくびをしたジュヌヴィエーヴがすっくと立ち上がり、もう行こうぜと鳴く。ダンジョン内の空気が変わったのを感じたんだろう。


「行こうか。そろそろダンジョンが消滅する」


 ダンジョンコアを失うと、残った魔物も消え、ダンジョンはゆっくりと縮んでいく。最後は入り口も閉じて何の痕跡も残さない。押し退けていたはずの土砂などまで元に戻るのは謎だ。

 残念ながら地上までの便利転移機能はないので、自分の足で戻るしかない。逃げ遅れるとどうなるのかは知らない。試す気もない。


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