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第三話 先行されて


 俺とはななに撤退の二文字はない。

 家の庭にダンジョンが存在する状態そのものが不味いので踏破消滅は必須マストなのだ。わが家は庭付きダンジョン無しの一戸建て。ダンジョンなど要らない。発見次第消去(デリート)あるのみ。


「ちょっと広くなったね」

「だね」


 一層より通路幅がある。ライトで奥を照らすとかなり先まで延びているのが分かる。

 生まれたての赤ちゃんダンジョンなら、一層のみで魔物も未発生、ダンジョンコア()のある場所まで一直線の場合もある。発見さえ早ければほぼノーリスクで踏破できるのだ。たぶん誕生直後の硬直というか、新しい環境への慣らし時間なのかも知れない。

 とはいえ一時間もすれば魔物が現れ、通路の分岐拡張が始まり、ダンジョンコアも最奥へと移動していくことになる。ここもすでに拡張状態にはあるようだ。

 躊躇うことなくさらに奥へと進む。


「……あ」

「いるね、おとうさん」


 俺もはななも〈探知サーチ〉スキルで進行方向に魔物を感知。三匹いる。恐らく戦闘中だ。


「けんかしてるのかな」

「魔物以外にも何かいる。人じゃ……ないみたいだけど」


 魔物らしくない気配が一体。未知の敵かも知れないから確かめないと。

 急ぎつつ気取られないように〈気配遮断クローク〉を強める。これも攻略者特典で得たスキルだ。もちろんはななも持っている。魔物に気付かれなくなる効果があり、強度を上げると相手の視界の中心に入らなければ認識されない。

 ただしその状態だと俺もはななも互いの存在を感じられず、はぐれたような気分になる。だからなるべく常時発動はしないことにしている。でないと二人で手を繋いだまま探索しないといけない。


(やっぱりゴブリンだね)

(はなな、あれってまさか)

(ジュヌヴィエーヴちゃん……!)


 通路の曲がり角から覗いて、びっくり仰天。本当に先行者がいた。


 そいつはゴブリンが繰り出す棍棒の一撃を、俊足ダッシュでかわし、懐に潜り込んで喉元への斬撃スラッシュを狙う。囲まれれば壁ジャンプも使って脱出し、空中回転で着地。

 野生の獣もかくやという奮戦だ。とても悠々自適のお屋敷暮らしには見えない。それでも三対一はさすがに厳しいようで、とうとう棍棒が小さな体を掠める。


「たすけないとっ」

「おうっ」


 俺たちは〈気配遮断〉を解除し、わざとやかましく飛び出す。

 ゴブリンたちがこちらに目を向け、新手の敵と認識した時には、すでに俺の聖剣バールが一匹の頭を粉砕していた。そのまま返すバールで、別の一匹の脇腹に渾身のスイング。悲鳴を上げる猶予も与えず、壁に叩き付けて絶命させる。

 残り一匹に向き直ると、ジュヌヴィエーヴの爪撃を喉に受けたゴブリンが、血を撒き散らしながら倒れるところだった。


「ジュヌヴィエーヴちゃん!」


 はななの抱擁を鷹揚に受け入れるジュヌヴィエーヴ。

 抱き上げられながら俺を見る。そして『ようやく来たか。ふっ』な顔をする。相変わらず貫禄のある猫様だ。

 ジュヌヴィエーヴは向かいの家の飼い猫である。

 七、八歳くらいになる立派な雌猫だ。水色と黄色のオッドアイ。白毛で耳と尻尾の先だけ黒いのが特徴チャームポイント。うちの庭で勝手に昼寝してたりする気ままな猫だが、たぶん近所の猫の中で一番喧嘩が強い。


「はななは気付いたかい?」

「うんっ。すごいよねジュヌヴィエーヴちゃん」


 そうなのだ。成猫とはいえゴブリンを倒すことなどできるはずがない。ジュヌヴィエーヴが繰り出していた爪撃。前足がゴブリンに届いていないにもかかわらず、深い傷を負わせていた。あれは何らかのスキルによるものだ。

 つまりジュヌヴィエーヴは以前にダンジョンを踏破している。そして強力な斬撃を飛ばすスキルを獲得したのだ。


「スキル持ちの猫なんて、聞いたことないな」

「そうなの?」

「我輩はスキル持ってるにゃー、なんて自己申告できないだろ」

「ワガハイって」

「にゃーぁ」


 猫でもスキルが取れるとは驚きだ。


「ジュヌ…っぶ」


 正直名前はシロとかタマとかにして欲しかった。噛まずに呼ぶ自信がない。ジュヌヴィエーヴの喉脇をこしょこしょと掻いて誤魔化す。これ喜ぶしな。


「こいつはたぶん、生まれたてのダンジョンを父さんとはななが気付く前に攻略したんだろう。こいつにはうちの庭も縄張りだし」

「よく遊びにきてるもんね、ジュ、ヌ、ヴィ、エーヴ、ちゃん」


 名前だけゆっくり発音しないでくれよ。リピートアフターミーですかそうですか。

 ふと俺の手にソフト肉球タッチ。励ますような猫の手だ。

 ありがとう、ジュなんとかさん。


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