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9、さし餌で食事

「ここだ」

 目当ての部屋に到着して扉を開ける。

 中には検査のための様々な機器類と、ずらりと並んだ医療班の者たちが待っていた。

 それを見るとミオは「きゃっ」と短い悲鳴を上げてレクセルの背中に回り、その服を掴んだ。

 ―――何か、すっごい嬉しいんですけど。

「こ、こら、少し調べるだけだから、何も変なことはしない、大丈夫だから・・・」 

 慌てるレクセルを見て笑ってはいけないと思いつつもその微笑ましさに一人が吹き出すと、後は連鎖的に皆笑いだした。

「ええい、うるさい、怖がってるからみんな散れ!それとリムド女史、なんとかしてくれ」

「はいはい。さぁ、こっちへいらっしゃい、お嬢さん」

 長身の栗色の髪の白衣の女性が歩み出てきた。

 リムド女史はレクセルがこの艦に着任してから何かと世話になっている人物だ。

 まぁ、何故か向こうからいろいろと声をかけられるので世話にならざるを得ないというか。

 他の者たちはやれやれといった風にそれぞれ散って行った。

 人がいなくなったのに少し安心したのか、ミオはレクセルの影から出てくる。

「後はまかせていいか?」

「もちろんです」

 そう言って去ろうとすると、ミオの顔が一気に不安へと変わった。

「あらー、随分懐いているのね」

 女史の声がなんだか冷たい。

 いつも自分に話しかける際の声音との違いに驚きを覚えた。

 だがそれほど気にも留めず、

「あー、ミオ、とりあえずちょっとそこの台に座ってるだけでいいんだが・・・」

 ミオに座るよう促した。

 レクセルの困った様子にミオは何か感じ取ったのか、

「すわる・・・わたし、すわる」

 と言って自分から台に向かって歩いてそこにちょこんと座った。

「座る、は分かるのか。召使いにでも教えてもらったか。まぁ、とりあえずこれでいいな。女史、後はまかせた」

「はい。さ、ミオちゃん、いい子にしててね」

 女史の優しい笑みとは裏腹にやはり交る冷たい声音。

 だが他に仕事もあるレクセルはその部屋を後にした。


 その夜。

 医療班たちから上がってくる報告を見て特に異常や特殊な器官は見受けられないということ、明日から脳波の検査に入る旨などがあった。

 まだ検査は続くのか・・・。

 あれから結局忙しくて会ってないが大丈夫だっただろうか。

「え、ミオがご飯を食べないって?」

 そう思っていた矢先にミオにつけた召使いから連絡があった。

「はい、昼食は普通に取られたんですが、夕食は食欲がないのかほとんど手をつけていなくて」

「そうか、ありがとう。ちょっと行ってみる」

 部屋に入ると冷めた夕食を前に元気のない様子のミオがいた。

 レクセルの姿を認めると、嬉しいのとびっくりしたのがないまぜになった表情をしてすぐ押し黙った。

「あの、少し疲れてるだけかと・・・」

 咎められると思ったのか、召使いが弁解がましく言ってきた。

「そうだな。まぁいい、下がっていろ」

「はい」

 召使いはほっとした様子で出て行った。

「どうした、疲れたか?」

 ミオの隣に座って話しかけた。

 身体に健康上の問題はないとさっきの報告で見たばかりだ。となれば精神的なものだろう。

「いろいろあって疲れたんだな。でも食べないのはよくない」

 パンをちぎってその口元に持っていった。

 ミオはびっくりしてレクセルをきょとんと見つめた。

 せめて一度なりと様子を見に行ってやればよかった。そうすればこんなに疲れさせることもなかっただろうに。

「無理をさせてすまなかった。少しでもいいから食べてくれないか?」

 努めて優しく言うと、彼女は口を開けてレクセルの手からパンを食べた。

 むぐむぐと口を動かしてそれを飲み込む。

「お、いい子だなぁ。スープも飲むか?」

 生ぬるくなったスープを一すくいして口元へ持っていくとそれも飲んだ。

 そうやって半分くらい食べさせてやると、もう食べたくないのか首を横に振って拒否した。

「ま、これだけ食べれば十分だろう。あとはゆっくり休むといい」

 髪をなでて立ち上がる。

「お休み」

「おやすみ、れくせる」

 ミオは昨日よりもしっかりとした発音でしゃべった。


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