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3、墜落

「よお、レクセル。なんか大変なことになったってな」

 機関部に向かう途中で赤毛の男が声をかけてきた。レクセルよりも少し背が低く痩せた男だが、整った顔立ちで澄んだ空色の瞳をしている。カーキ色の戦闘服は空挺飛行士のもの。階級章は中尉だった。

「イナラクベル中尉」

 レクセルは背筋を正して敬礼する。

「やめてくれよー、お前にそんなことされると背中がかゆくなる」

「仕方ないだろう、階級はお前のほうが上なんだから」

「そうだけど俺とお前の仲じゃないか、ちゃんと名前で呼んでくれよ」

「分かったよ、ヒーズ。でも、どこで誰が見ているか分からないんだぞ」

「そうですよ、イナラクベル中尉」

 突然落ち着いた女性の声がした。

 その声に覚えのある二人は慌てて敬礼する。

「これはこれはフェルム中佐、今日も相変わらずお美しい」

 ヒーズはすかさずお世辞を言う。

「ありがとう、イナラクベル中尉。オーベルド少尉、こんなところで立ち話してないで、忙しいんだから」

「は、申し訳ありません」

 言いたいことだけ言うとフェルム中佐は足早に去っていった。

「はー、おっかねー」

 ヒーズは額の汗を拭うまねをする。

「なんだってこんなところに・・・」

 レクセルは首を傾げる。この先の区域には情報参謀であるフェルム中佐が用事のあるような場所はないが・・・。

「いいんじゃねーの、別に。いろいろあるんだろ」

 女性を求めてあっちこっちふらつく癖のあるヒーズは自分擁護のためにも気にしない。

 それもそうか。レクセルは深く考えずにヒーズと別れ、その場を去った。


「エンジン異常ありません」

 機関部の様子をチェックし、戻ってきて報告した。

「よし、お前がいいっていうなら大丈夫かな」

 恒星間の移動は亜空間航法によってなされる。2点間に亜空間の扉を開け、光の速度を超えて移動するのだ。その2点をつなぐ回廊となる入口が目の前に迫っていた。

 それは青白い光を放って宇宙空間に悠然と浮かんでいる。人類を宇宙の遥かなる領域へと導く扉。

 これをいくつか経由して主星へと戻ることができる。

 ワーゼル艦長らの乗った艦は、その扉に入る直前だった。

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!


 突然艦内に耳障りな警告音が鳴り響いた。

「何事だっ!?」

「被弾しましたっ!」

 オペレーターが叫ぶ。

「何ぃーーー!?」 

「例の敵の新兵器のようです!」

「ちきしょうっ!亜空間航法止めっ、応戦する!」

「駄目ですっ、間に合いません!」

「被弾により誤差発生!予定亜空間出口に出られないかもしれません!」

「少しでもいい、早く修正しろ!」

「は、はいっ」

 その間にも艦は扉の中に飲み込まれてゆく。

「どこに出るっ!?」

「分かりませんっ、どこかに飛ばされるか、最悪亜空間に囚われるか・・・」

 艦長は迫りくる青白い光を見て、

「陛下・・・」

 この世で神とされる者の名を唱える。



 俄かに空がかき曇った。

 誰かがそれに気付き、空を指差す。

 人々は空を見上げた。

 白雲を割って巨大な黒い船のような形をした物体が落ちてきた。しかし大気圏外から落ちてきたにもかかわらず非常にゆっくりとした動きで、それはまるで重力に逆らっているかのようだった。

 そしてそれはその船尾で東京タワーをぐしゃりと押し潰し、その船首で東海道線を切断した。



「・・・なんとか着陸に成功しました」

「よくやった」

 艦橋のクルーは一様にほっとした顔をした。亜空間の永久の虜囚という最悪の事態だけは避けられた。

 そして亜空間を出た先の手近な惑星に不時着と相成ったわけだが。

「ここがどこか分かるか?」

「・・・帝国領外だということだけは分かりました」

 画面を見つめてフェルム中佐が答える。

「そうか・・・。みんな、気落ちするな、必ず我らが皇帝陛下のもとへ帰ろう」

「はいっ」

「それにしても、困ったな」

「困りましたね」

 レクセルと艦長が息もぴったり外の様子を見て言う。

 不時着したそこは自分たちよりはるかに文明の低い典型的な『人型』生命体のいる惑星だった。

 宇宙に進出を果たしたフィレン帝国は、数々のハビタブルプラネットを見つけたが、どの惑星も進化の度合いはまちまちだが皆同じような進化の軌跡をたどっており、知的生命体といえるものはなべて自分達と同じような『人型』を持っていた。

 そんな惑星は数少ないが、その代表的なものが今戦っているウィグリッド星を母星とするレグスだった。レグスは帝国に対してなぜか挑戦的で、帝国のおかげで多くの恩恵を受けたというのに、その帝国を倒して宇宙支配を目論むのがもはや日常のような星だった。

 この星はどうなることだろう。従順であれば帝国は無益な争いは起こさないのが主義だ。逆らった場合は容赦しないが。

「どうします?」

「危害は加えないように。皇帝陛下の臣民にじきになる奴らだ」

「はっ」

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!


 再び緊急警報が鳴る。

「攻撃されましたっ!」

「ん?ここの奴らか?」

「レグスの奴らです!一緒にくっついてきたようです!」

「な、何だって!?ちきしょうっ、戦闘艇出動!惑星民はなるべく傷つけるな!」

「了解!」


 戦況は非常にまずかった。

「敵は主要部ばかり狙ってきています!破損がひどくなれば宇宙に出ることさえできなくなります!」

「敵を近づけるな!威嚇を続けろ!」

「惑星の被害が甚大ですが・・・」

「この艦が爆発したらそれどころじゃないだろう!」

 見えない敵を落とすのは非常に困難だった。

 戦闘艇は無闇に出て行ってただ無闇に撃ち落とされていく。

「私を出撃させて下さい!」

 レクセルは艦長に向かって頭を下げる。

「レクセル待て、見えない相手にどうするつもりだ」

「このまま手をこまねいて見ていろと言うんですか!?何もしないで死ぬのを待つなんて軍人としての誇りが許しません!」

「しかし・・・」

「艦長!」

「分かった・・・行ってこい」

 艦長は苦渋の表情で言葉を絞り出す。

「はっ、行って参ります」

 レクセルはきびきびとした動作でくるりと踵を返すと艦橋から出ていった。

 

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