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23、失う痛み

 レクセルは着たきりのままの姿で簡単に洗顔だけして艦橋に向かった。

 艦橋の監視システムからミオの居場所の特定をするためだ。

 艦内の一人ひとりの位置情報は監視できるシステムになっている。もちろんそんな情報を簡単に開示するわけにはいかないので艦橋に行く必要がある。

 早く確かめたいのと、だがもし万一自分の予感が当たっていたら、と思うと胸が潰れるように痛み、体は急ごうとするのに頭は立ち止まりたいという二つの意識がぶつかりあってレクセルを苛んだ。

 完璧に空調された艦内なのに汗が出てくる。

 ミオがいない。

 そう考えただけで胸が冷たく凍る。

 昨日一緒に部屋にまでいたのに。今日もおはようと声をかけ昨日の夜の失態を謝罪して、それからいつものように勉強を始めて・・・。

 そんなふうに繰り返されるはずだった日常が崩れていく音が聞こえる。

 昨日酒なんか飲まなければ。

 そんな罪悪感だけが滓となって胸に黒く降り積もる。

 ぐるぐると思考しながらもようやく艦橋に辿り着いた。

 艦橋はまだ閑散としていた。無理もないが。

「君、ミオの居場所を特定できるか?」

 先ほど連絡を入れた際に応答に出ただろう若い女性オペレーターに言う。

「いないのですか?」

 レクセルは神妙な面持ちで小さくうなずく。

 そのただならない様子にオペレーターは緊張した様子でキーを叩きだした。

 ・・・。

 検索結果を無言で待った。  

「反応、艦内にありません・・・」

 オペレーターが低く押し殺すような声で言った。

 ガンッと頭に衝撃が走った。まるで大岩が落ちてきたような感覚だった。

 レクセルはよろめいて近くの椅子の背もたれを掴む。

「あ、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ・・・」

 まるで突然夜が来たかのようだ・・・、目の前が真っ暗になってよく見えない。以前に本当に頭を強打した時は真っ白になったというのに。

「座って下さい。ああ、フェルム中佐にミオさんまでいなくなるなんて・・・」

 レクセルは差しだされた椅子にどっかりと座りこんで額を押さえる。

「・・・フェルム中佐はやはり見つからないのか?」

「はい」

「恐らくフェルム中佐はレグスの諜報員だ」

「ええっ!?」

「ミオ・・・は彼女に連れ去られたと思われる・・・」

「ほ、本当ですかっ!?」

「それは本当か!?」

 ちょうど艦長が寝癖をつけたままの頭でやってきた。

「恐らく・・・」

「すぐにフェルム中佐の部屋を調べろ!」

「はいっ」

「なんてことだ・・・、まさか中佐が・・・」

 艦長はあごを手で押さえてうろうろと艦橋を行ったり来たりした。

 レクセルはふらりと立ち上がっておぼつかない足取りで艦橋を出て行こうとする。

「おい、待て、どこへ行くんだこの大事な時に」

 艦長が顔を上げてレクセルを咎める。

「あれを、敵の見えるようになる研究を完成させる・・・」

「は?ちょ、大丈夫か?おい、レクセル、レクセル!」


 レクセルはそのまま艦橋を出て行ってしまった。

「どうしちまったんだ、奴は・・・」

「そりゃ、ミオさんがいなくなったのがショックなんでしょう」

 近くにいた別の男性オペレーターが合いの手を入れる。

「でもあの様子は尋常じゃねーぞ」

「まぁ、あの少女にだいぶご執心でしたから、少尉は。でも敵の見えるようになる研究って・・・」

「そんなに進んでるようには思えなかったがなぁ。あいつがお譲ちゃんと遊んでばっかりいたからな」

「そうですね・・・。しかし、それが完成するなら大きな戦力になりますね」

「うむ。レクセルには悪いが、お譲ちゃんがいなくなったのは帝国にとっては幸運かもしれん。レグスもお譲ちゃんがいなくなれば研究は止まると思っているようだからな」

「レグスも帝国随一の頭脳を持つ秀才の感情を逆なですることになるとは思わなかったのでしょう。フェルム中佐も頭の固い人だったから、人の心の機微を捉えられなかったのでしょうか。こうなることの予測はつかなかったんでしょうかね」

「いや、研究が完成すると決まったわけでもない。フェルム中佐のことだ研究データを盗むくらいやってるだろう。しかしこれで本当に研究が手詰まりになったら・・・」

「そうなったら帝国は・・・」

 ゴクリと喉の鳴る二人。見えざる敵の脅威は身に染みるほどよく知っている。

「よし、レクセルはあのままほっとこう。しかしあの男は何を考えているのか」

 艦長はしみじみとつぶやく。

「は?」

「考えてみろ、お譲ちゃんは皇子のものじゃないか。それをあんなに夢中になっているなんて、自分の首をしめているようなものじゃないか」

「そう簡単に割り切れるものじゃないんじゃないですか」

「お、知ったふうな口をきくな」

「見ていていじらしいほどですからね、あの二人。皇子も知らぬとはいえむごいことをしますね」

「こら、それ以上は言うな」

「はい」

 未明の事件を処理すべくそれぞれの操作盤に向かう二人だった。

 

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