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21、拉致

 レクセルの後へついて艦内を移動する。

 今まで来たことのない区画へ来た。心なしか壁や床が磨きこまれてどこか高級そうな雰囲気がする。

 その中の一つの扉をレクセルは開く。

 中はミオの部屋よりも狭いところで、壁にはめ込まれる形の簡素なベッドに、きちんと整理された書類が置かれた机。

 入口から入って数歩のところに二人掛けのソファーとテーブル。

 ミオはそこに座らされた。

 ミオはぐるりと周りを見渡して、ここはレクセルの私室なんだと理解した。

 レクセルは机に座り、卓上の機械からすぐにどこかに連絡を入れた。そして書類を手に取ると、それに目を通し始めた。

 ミオは所在なく足をぷらぷらとさせるしかなかった。

 何か話をしようにも銀の葉がない。

 やがて入口のベルが鳴らされ、ワゴンに食べ物を載せた人が入ってきた。

 高級そうな制服、洗練された所作は彼がこういうことを専門にしているということが分かる。

 ミオにもこの帝国には「身分」があり、軍には「階級」があってそれぞれいろいろな立場があるということは分かってきている。

 ミオの部屋にはいまだこういった「人」は来ていない。毎食の食事はレクセルが「召使い」と呼ぶ女性が持ってきてくれる。彼女は本当にただの「召使い」といった感じでこの人のようにどこか専門性があるわけではない。それだけレクセルが特別だということが分かる。

 目の前に次々と置かれる皿。サンドイッチ、サラダ、フルーツ・・・。

 簡単につまめそうな、でも美しく盛り付けられた高級そうな一品ばかり。

 レクセルを見ると、

「好きなだけ食べろ」

 と言ったのが聞き取れた。

 そうか、食べそこなった食事のために連れてきてくれたんだ。でも自分の部屋でもいいような。よく分からないけどいろいろあるのかな?

 それから給仕の人は何かの瓶の栓を小気味のいい音で抜くと、グラスに注いだ。

「ワインか、いいな。私ももらおうか」

「はい」

 その人はサッともう一個グラスを出すと、きれいな手つきで赤い色の液体を注ぐ。

「失礼いたします」

 その人が下がると、レクセルがやってきてグラスをとって一息に飲んだ。

 ミオもグラスを手にとって飲もうとすると、

「君にはまだ早い」

 と言われて取り上げられ、飲まれてしまった。

 代わりに備え付けの冷蔵庫から水を出してコップに注いでくれた。

「い、いただきます」

 思わず地球の習慣を思い出して手を合わせていた。

 変な顔されるかと思ったがレクセルは平然として、というかこっちを見ていない。クローゼットみたいな空間でごそごそと何か探している。

 お腹が減っていたミオは目の前に並べられた料理にパクついた。

 レクセルはクローゼットから瓶を出してきて、グラスに注いでは飲んでいた。

 ねぇ、それってお酒だよねぇ・・・。

 ミオはそれを横目に見ながら少し不安だった。そんなにカパカパ飲んで大丈夫なのかな?

 何杯か飲んで気が済んだのか、グラスを置くと、レクセルはふらりとした足取りでこっちにやってきて、ミオのとなりにどすんと座った。 

 明らかに酩酊してる・・・。

 レクセルは額に手をおいて、ふーっと長い息を吐く。

 う、酒臭い・・・。

 レクセルはそうやってしばらくぼんやりした後、

「眠い・・・」

 とつぶやいた。

「はぁ」

「寝る・・・」

「え、ちょ!?」

 レクセルはそう言ってミオの膝に頭を乗せ目をつむってしまった。

「れ、レクセル?レクセル・・・」

「すー・・・」

 寝ちゃった・・・。


 どうしよう・・・。どれくらい時間って経ったんだろう。

 大分経ってるよね、だってもう膝限界・・・、しびれて痛い・・・。

 これ以上我慢できそうにないので、まず自分の上着を脱いだ。それを簡単に丸めて、レクセルの頭をちょっと持ち上げてそれを下に入れる。そしてちょっとずつ動いて自分の膝を外して、その上着を枕代わりに置いた。

 レクセルは起きない。

 レクセルを起こさないように忍び足でベッドからカバーを外して持ってきてレクセルにかけた。

「レクセルお休み」

 だいぶ流暢になった言葉をかけて部屋を出る。

 部屋を出て、はっと気付いた。

 ここどこ・・・?

 振りかえって扉の開閉キーを押したがロックがかかっていた。でも例えレクセルの部屋に戻れたとしてもレクセルは寝てる・・・。

「あら、どうしたの?」

 うろうろとしていたら声をかけられた。

 きりっとした感じの女性、ミオと同じ服を着ている、女性の士官だ。

 知ってる。初めてここに連れて来られた時に艦橋にいた人、時々艦内でも見かけるフェルム中佐という人だ。

「少尉は?いないの?」

 フェルム中佐はためらいなくベルを鳴らす、が反応はない。・・・酔って寝てるんだもんね。

「いないみたいね・・・。少尉に用事?」

 ミオは言葉が分からず、首を傾げる。

「へやがわからないです」

 フェルム中佐は少しびっくりした様子を見せたが、すぐに冷静になる。

「銀の葉がないのね・・・迷子ってことかしら?」

 今いちよく分からない単語だったが、あいまいにうなずいた。

「ふーん・・・珍しいわね、いつもオーベルド少尉がくっついているのに」

「へやにいった・・・れくせる、さけ・・・かえる」

 うまく言えない。「レクセルの部屋に行ったんだけどお酒飲んで寝てしまったので帰れなくなった」という感じで言いたいんだけど・・・、そこまでの語彙力も会話力もない。

「酒・・・?お酒を飲んだの」

 フェルム中佐はミオの顔をのぞきこんだ。

「そういう感じではなさそうね・・・。レクセルがってことかしら」

 フェルム中佐はしばらく思案し、唇の端を上げて笑った。

「・・・いいわ連れて帰ってあげる」

 フェルム中佐は今度はにっこりと笑ってミオに手を差し出した。

 その笑顔にミオはほっとしてその手を掴んだ。


 ほどなくミオの部屋に着いた。

「ありが・・・きゃっ」

 ミオが扉を開けるとフェルム中佐はミオを部屋の中に押し込み自分も入る。すぐに扉を閉めてロックをかける。

「あ、あの・・・」

 フェルム中佐は部屋の中を見渡し、銀の葉を見つけるとミオに貼り付けた。

 同時にその頬を引っぱたく。

「・・・!」 

 あまりのことに声が出ない。ミオは茫然と中佐を見つめた。

「なんて幸運なのかしら。嬉しくて涙が出そう」

 鼓膜を介さない音声が言葉を伝える。この冷たい言葉、一体・・・。

 ぼうっとしてたら今度は反対側の頬を打たれた。

 ミオはよろめき、その痛さに涙を浮かべて頬を両の手で覆う。

「おや、お前も嬉しいのかい?これからレグスへ招待されるんだものね」

 言ってフェルム中佐は懐から小さな機械を取りだした。

「全く手間をかけさせて。初めに私の手を取ってくれればこんなに苦労しなくてすんだものを」

 ミオは訳が分からず立ちつくす。何故いわれのない暴力を受けなければいけないのか。

「おや、ご不満そうな顔だね。まだ分からないのかしら。あんたは敵の手に落ちたんだよ」

「敵・・・?」

 思わず日本語が出る。通じないのは分かってるが。

「私はレグゼのスパイさ、お嬢さん」

「スパイ・・・」

「全くとんだ災難だ。あんたみたいなのが現れるとはね。しかも生かして連れ帰ってこいなんて命令が出るし、たまったもんじゃない」

 フェルム中佐はその機械に忙しく何か打ち込みながらいらいらとミオをなじる。

「だからちょいと一緒に来てもらうよ。暴れたり逃げようとしたら後でひどいからね」

 ミオの襟をぐっと掴んで引き寄せささやく。

 ミオは恐怖で静かにうなずいた。

「いい子だ。おとなしくしていれば何もしやしないさ。さ、いくよ」

 フェルム中佐はミオを連れ出した。 



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