2、襲撃
深淵なる宇宙の静寂の中に整然と帝国艦隊は並んでいた。
不穏な動きのあるレグスのあるこの宙域はいつもぴりぴりとして警戒怠りない。
だが今日も何事もなく過ぎるはず・・・だった。
突然一隻の艦が爆発を起こして撃沈。近くにいた艦も巻き添えを食って航行不能に陥る。
「なんだ、一体どうしたんだ!?」
あまりにも突然のことに帝国側は泡を食ってまともに対応できない。
「レーダーに反応ありません!」
「目視で確認できません!」
「何なんだこいつらは!?何で見えない!」
それもそのはず、敵の姿が全く見えないのだ。
「どこだ、敵はどこだ!?」
闇雲に戦闘艇を出すも目的の敵が見当たらない。
うろうろしているうちに見えざる敵から狙い撃ちにされて多くの機体が宇宙の屑になっていった。
やがて敵の手が帝国艦隊の旗艦にまで及んだ。
「エンジン機関部破損!隔壁下ろします!避難開始!」
狂ったように叫ぶオペレーター達。
脱出ポッドに蟻のように群がり我先にと逃げ出す乗組員たち。
だが時すでに遅し。
「陛下・・・申し訳ございません・・・、フィレン帝国万歳!!」
帝国の最新鋭戦艦が轟音とともに宇宙の数多の塵の一つになった。
帝国艦隊墜ちる―――。
この報せは瞬く間に帝国全土に広がった。
「なんだって!?本当かそれは!?・・・、うん・・・うん、分かった、すぐに向かおう」
ウィケス宙域を守るレイクゼシ艦隊のワーベラ艦長にもその報は届いた。
「艦長、どうかしましたか?」
黒髪の青年が問うた。その髪は夜明け前の空のような青みを帯びたブルーブラックの髪だ。が、よく見ないと気付かない。
「大変だ、ウィグリッド領の帝国艦隊がレグスに敗れた。主星に一度兵力を集めるらしい。最低限の警備艦のみ残って、他は急いで主星に帰還せよとのことだ。レクセル、すぐに準備を」
「は」
レクセルと呼ばれた青年は短く返事をして艦長の命を艦内に通達した。
「大変なことになりましたね」
レクセルは先ほどの話の内容を携帯端末で確認しながら言う。
「ああ、目にも見えない、レーダーにもかからないじゃ手も足も出んなぁ・・・。どうだ、なんとかならんか、期待の技術将校さん」
ワーベラ艦長はコンソールの椅子に深く座りなおして聞いた。
「実際の機体を見てみなければなんとも・・・。どうやらこちらには未知の物質でできているようですが」
「そうか。わしはそっちの方面はさっぱりだからな。どうだ、ここで奴らの新技術の鼻をあかしてやれば出世は間違いないぞ」
「私は、そんな」
「全く、もう24だろう?それなのにまだ少尉ということに関して何も思わないのかね?」
「はぁ、それは説明しました通り専門知識を学ぶため任官を遅らせていましたので・・・」
普通士官学校を卒業すればその時点で任官、それぞれの部隊に配属となるが、レクセルは優秀だったために専門機関へと派遣され、勉学を重ねていた。
「でもねぇ、次期伯爵様だろ?コネでも袖の下でもあっただろうに」
「しかし・・・」
「はいはいはい、『でも特別扱いはされたくないのできちんと慣習を踏襲して現場での経験を積んでから中央に』でしたよね、わかってますよー」
もちろん父を頼ればこんな辺境艦隊勤務などしなくてもいいだろうと思う。今の肩書きは艦長補佐というあってもなくてもいいようなものだ。しかしレクセルはきちんとしたかったし、実際の現場というのもちゃんと見ておきたかった。
「艦長・・・」
平民出で軍学校を卒業し、現場でたたき上げてやっと大佐の地位を築いたワーベラ艦長は、すでに高級将校の地位を約束されているレクセルのことを嫌ってはいないが、こうしてつっかかる。
まぁ、どんなぼんくらでも貴族というだけで高い地位に楽々つける現状に問題ないというわけではないが・・・。
艦長のむすっとした顔を見て、まぁ、いつものことだと思い、主星帰還に向けてエンジン機関部の様子を見に行こうと艦橋を出た。




