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19、食堂

 勉強、検査、運動(訓練)の日課がしばらく続いた日のこと。

 いつもようにその日の日課を終えて、夕食の時間となったのだが。

「今日の夕飯は食堂でとってくるんだ」

 レクセルが言った。

 いつもはこの部屋に食事を用意してもらってここで食べていた。

 レクセルと一緒に食べることもあったし、忙しければミオ一人で食べていた。

 今日はレクセルと一緒だと思っていたのに・・・。

「食堂?」

 ミオは少し残念そうにレクセルの次の言葉を待った。

「そう。兵士たちの一般食堂へ行ってくるんだ」

「うん・・・レクセルが言うなら」

 ミオは少し不安だったが、特に問題ないと思った。レクセルの次の言葉を聞くまでは。

「それはなしでな」

 レクセルが額飾りを指差した。

 ミオはパッと額飾りを手で押さえて、

「え、駄目、無理無理。これないと全然分からないんだから!」

 と大慌てで反対した。

「訓練の成果は実戦でこそ発揮されるんだ。実際に使ってみることが重要だ」

 レクセルに厳しく言われ、

「はぁい・・・」

 ミオは素直に返事した。

 レクセルの指導は厳しいが、決して無理なことはさせないし、いつもぶっきらぼうだけどちゃんとやればきちんと誉めてくれる。ミオ自身、彼に誉められようと必死に頑張っていた。

 それに厳しいのは彼の家庭環境からと聞いたばかり。

 きっとずっとこうやって厳しく育てられたんだろうな、と思うと彼の少年時代が透けて見えるような気がして少し温かい気持ちになれた。

 レクセルはそんな思いのミオの視線に気づかず、

「何、簡単だ。一般兵用の食堂はその日のメインをいくつか用意していて、どれが欲しいか聞かれるから好きなものを言えばいい。ちゃんと通じたら好きなものを食べられる寸法だ」

 得意げに今回の主旨を説明した。

「き、緊張する・・・」

 ミオは胸を押さえて息をつく。

「大丈夫だ。行ってこい」

「途中までついてって・・・」

「やらん。道に迷ったら人に聞くんだ」

「はぁい・・・」

 レクセルは手を伸ばしてミオの額の銀の葉をぺりっとはがした。

 ミオが妾妃になったことは表向きは伏せられている。艦内の混乱を防ぐためだ。彼女を研究対象として位置づけるにはその方が都合がよかった。妾とはいえ皇子に連なる者。何かと規制がかかってしまう。なのでミオは今まで通り、異星の客人扱いとされている。

 だからその辺をふらついていても問題ない。


 食堂までは無事に着いたミオ。

 夕飯時、食堂は人でいっぱいだった。掲げられているメニューを見て・・・分かんない。

 文字の練習もしているが、やはりさっぱりだ。

 でもいつまでもここでうろうろしているわけにもいかない。お腹がすいてお腹はきゅるきゅると情けない音を立てている。

 晩御飯のためにもっ!ミオは意を決して食堂へ入った。

 ざわざわと騒がしい食堂内。中は広く、たくさんの人が席について思い思いの食事を取っていた。

 その壁際に大勢の人が並んでいるのが見える。

 奥には厨房が見え、皆そこから食事を受け取っている。

 ミオはその中に紛れて立った。

 ま、前の人の真似すればいいや・・・。

 トレー持つのね、おかず勝手に持って行ってるけどいいのかな・・・。いいんだよね、いいはず、同じの持っていこう。で、あれがメインね。皆何事か言って皿を受け取っている。何て言ってるんだろう?「リシュ」かな?

 順番が回ってきた。

「り、りしゅ!」

 緊張しながらも勇気を出して言ってみる。

 一瞬ぽかんとする食堂の人。

「あ、あの・・・」

 伝わらなかったようだ。う、後ろがつかえてる・・・。

 食堂の人は適当なのを渡してきた。それを持ってそそくさとテーブルへ着く。

 だめだぁ・・・。

 早く食べて帰ろう。

「ハーイ、彼女」

 食べていると声をかけられた。こげ茶色の髪、薄い緑色の瞳。少し濃い色の肌と彫りの深い顔はラテン系を思い出させた。年は若そうだ、まだ10代じゃないだろうか。

「ねぇ、君ってあれだろ?敵の姿が見えるっていう異星の女の子!」

 なんとなく聞き取れる単語もあるけど、早口で言われるとやはり分からない。

「・・・。ごめんなさい、ことばがわかりません」

 なんとか知ってる言葉で意思を伝える。

 そのたどたどしい言葉を聞いて、

「うわー、本物だ!」

「こんなかわいい女の子だったんだー」

「何!?見せて見せて!」

 あっという間に人だかりができてしまった。

「あ、俺レノウっていうんだ、よろしく!」

 一番初めに話しかけてきた人が言った。

 あ、これは分かる!

「わたしはミオといいます。よろしく」

 ほとんどオウム返しだったが、ちゃんと聞きとれて返せたことが嬉しかった。

「何、もう言葉とか分かるわけ?すげー」

 だいぶ崩れた早口だったがなんとか聞きとる。

「れんしゅうをしています」

「なら俺がいっぱい教えてやるよ。これは『ガルナ』っていう料理、これは『レイシェ』っていう果物」

 目の前の料理を一つ一つ教えてくれた。

 その一生懸命な様子に、

「『りしゅ』ってなんですか?」

 ミオはさきほどの間違いの元をを聞いてみた。

「あ?『りしゅ』?りしゅりしゅ・・・リズレットか!」

 レノウはぽんと手を打って「りしゅ」の正体を教えてくれた。

 全然違った・・・。

「何、リズレット食べたいわけ?いいよ、持ってきてやる。おら、お前ら邪魔だ」

 人垣をかき分けて行列に割り込むと、先ほどの食堂の人に何事か言ってすぐに持ってきてくれた。

「はい、どーぞ」

「ありがとう!」

「いーえ、どういたしまして」

 レノウは照れたように後ろ頭をかいて笑った。

 優しくて親切な人だなぁ。

 他愛ないことを話していると、後ろがざわっと騒がしくなった。

 なんだろうと思って振り返ると、レクセルがいた。

 兵士ばかりの服装の群れの中に、士官用の軍服を着たレクセルはとても目立って見えた。

 明らかに場違い、という雰囲気がした。

 レクセルが動くと、その前の人だかりが割れる。

 レクセルはつかつかと歩み寄ってきてミオの腕をとると、

「帰るぞ。こんなとこやっぱり駄目だ」

「・・・?レクセル?どうして?」

 ミオは何かただならない様子におろおろとする。

「ちょっと待てよ、食事中のレディを立たせるなんてどうかと思うぜ」

 レクセルに腕をとられてミオが立ち上がろうとすると、レノウがつっかかった。

 二人にらみ合う。

 バチッって、何かバチッて火花散ったよ・・・。

 平和な食堂が、一気に緊張状態になった。

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