17、医務室
レクセルは気持ちの整理がつかないまま、ミオが休んでいるという医務室へと向かう。
頭の中にはどんな言い訳も思いつかなかった。ヒーズの言うとおりだと思った。自分は悪いことをしたとは思っていない。
もともとプライドの高い彼である。そもそも「謝る」ということ自体慣れていない。
悶々としたまま医務室に着き、何の気なしに扉を開けて驚いた。
「皇子・・・」
そこには先客がいた。シャルセ皇子がミオが休んでいるベッドに座り、手まで握って談笑していた。
「供も連れずに・・・。申し訳ございません、気付きませんでした」
レクセルは膝をついて頭を垂れる。
「よい。ミオが病気になったと聞いたからな。居ても立ってもいられずに近衛兵を置いて来たのは僕だ」
女性の機嫌の回復は全ての事項に優先される、ヒーズの言葉を思い出し、自分は女性の扱いにおいて14才に負けていると思った。
「殿下の心をお騒がせ致しましたこと、まことに遺憾に思います。どうかご寛恕のほどを」
「許そう。どうだ、この子の謎は解けたか?」
「目下調査中です。もうしばらくお待ちを」
「早くしろよ。敵がいつ来てもおかしくはないんだ」
「はっ」
シャルセはベッドから降り、ミオの頬をなでて、
「また来る。何かあったら僕を呼べ」
レクセルは奥歯をキリリと噛み締める。ソノヤクメハオレダ。
「はい」
優しい笑顔を向けるミオ。ソノエガオハオレノモノダ。
だがそれは表面に出さず、努めて冷静にシャルセを見送った。
「あ、殿下お探ししました」
シャルセが扉を開けた時、ちょうど廊下からバタバタを足音がしてやっと到着したらしい近衛兵。
「艦に戻る」
「あ?は、はいっ」
早足の皇子をまたバタバタと追いかけていった。
大変そうだなぁ、あの皇子のお付きは・・・。
ふいに静かになった医務室。
ミオの方を振り返ると、目があった。が、すぐに目をそらされた。
そしてここに来た理由を思い出した。
レクセルは咳払いを一つして、
「あ、あの、あれは本当にすまなかった」
とりあえず素直に謝った。
「え?」
「驚かせたようで申し訳ない。つい、というか出来心というか・・・本当にすまなかった!」
ヒーズの言うとおり、平身低頭で平謝りしてみた。
「あ、そうだったんだ・・・」
あれ、なんだかしょんぼりしてる?
「私の方こそごめんなさい。こんな体調まで崩しちゃって。初めてでびっくりしちゃって・・・」
そう言って「あっ」と口をふさいだ。
そ、そうか、初めてだったか・・・。
流れる気まずい沈黙。
「ごめん、本当にごめん」
「いいんです、ごめんなさい、私こそ・・・」
謝りあい大合戦が始まった。
(何やってるんだ)
様子を見に来たヒーズが扉の外であきれていた。
こりゃ厄介だ・・・。あいつらもう大分進んでるぞ・・・。
あいつはどうするつもりなんだ?帝国を裏切って駆け落ちする覚悟はあるんだろうか?
・・・たぶんそこまで考えてないだろうな。恋に落ちたてで周りなんか見えないんだろう。
無理に裂いたらどっちかが・・・、いやどっちも壊れそうだな。
そんなの見たくないぜ、俺の親友さんよ・・・。
まっすぐで一途で、頑ななだけに脆い。
それがいいところではあるのだが、あの固さは命取りだろう。
きっと思いつめて思いつめて・・・。
その先は想像したくない。
どうしてその子なんだよ・・・。
ヒーズは天に向かって嘆息した。