15、キス
レクセルが行ってしまった。
部屋には美緒と、さっき入ってきた陽気な男と二人だけになってしまった。
ヒーズと名乗ったその人は、なんだかものすごい笑顔で熱心に話しだした。
「みおちゃん・・・・べんきょう・・・おしえ・・・」
半分以上何言ってるか分からなかったが分かる単語だけ拾って組み立てると、何か教えてくれるらしい。
「おしえる?」
「そう、おしえる。・・・れくせる・・・よろこぶ・・・」
「れくせるがよろこぶ?」
「そうそうそう!おれのあと、いう・・・レセタ ヒア」
「レセタ ヒア?」
「いいねっ!レセタ ヒア」
「レセタ ヒア」
二人で何度かそうやり取りした後レクセルが帰ってきた。
「お帰り・・・・・・・・・」
二人は何かまた早口でしゃべりあっている。何を言ってるかさっぱりだ。
「みおちゃん、いう、いう」
やがてヒーズが美緒を促した。
「何だ?どうした?」
レクセルが美緒の方を見て不思議そうにした。
ええと、言うとレクセルが喜ぶっていう言葉なんだよね。意味全く分かんないけど言ってみよう。
「れくせる、レセタ ヒア」
瞬間、レクセルの顔が固まり、次に真っ赤になった。
それを見てヒーズは大笑いした。
レクセルはヒーズの首を締め上げ、ヒーズは首を絞められても笑っていた。
いったい何が起こったのか・・・。
レクセルはまだ笑っているヒーズを廊下に放り出した。
肩でぜいぜいと息をして、かなり興奮状態だ。
一体自分は何を言ってしまったんだろう・・・?
「れくせる、レセタ ヒアってなんていみ?」
その言葉にぴくんと反応して、しばらく黙りこむレクセル。
「れくせる・・・?」
「おしえてほしいか?」
低いトーンで聞いてきた。
全く訳が分からず、反射的に美緒はうんとうなずいていた。
レクセルはつかつかと近寄ってくると、机に手をつき、ぐっと体勢をかがめた。
顔が美緒と同じ高さに来ると、そのままその顔は近づいてきて・・・、キスされた。
「!!」
「わかったな」
それはキスとも呼べない、本当に唇と唇が触れただけのものだったが。
レクセルはそのまま踵を返して出ていってしまった。
美緒はしばらく茫然とその場に固まっていたが、はっと気づいて端末の辞書ツールを呼び出した。
便利なもので音声認識の機能がついている。
そして外していた言語変換装置を額に貼り付け、マイクに向かって言う。
「レセタ ヒア!」
美緒の下手くそな発音でもその機械はちゃんと認識してくれ、即座に回答を返す。
「キスして!」
美緒は頭が真っ白になった。