14、お勉強の時間
「勉強を、続けようと思う」
改めて皇子からミオ預かりの身となり、その教育に力を入れようと思った。
「えーー?何で?」
抗議の悲鳴を上げる彼女の前に小型の端末と紙の辞書、白紙のノートや筆記具を積み上げた。
「いつまでもこんなのに頼っててはいけない。これは貸されたものでいつか返さなきゃならない。だいたい装着者同士でしか話はできないんだ。そんなのほぼ無意味だろう?」
「うう・・・」
「プラス適度な運動も課す」
「え!?運動?」
「ここは宇宙空間だ。それに最前線だ。何が起こるかわからない。その時に体力の一つもないじゃ話にならない」
「はぁ・・・」
「よって時間でそれぞれ課題を課す。午前中は言葉の勉強、午後は検査や実験。夕方に運動だ」
「もう、学校と変わりないよ!」
「若い者が遊べると思うな」
「はーい・・・」
「わたしのなまえはミオです」
「これはつくえです」
「いまなんじですか?」
装置を外して勉強が始まった。
「うん、だいぶ上手くなったな」
「だいぶうま・・くなつた・・・」
「誉めたんだ」
言葉では通じにくいので頭をなでなでしてやる。
と、そこへ、
「やっほ~、レクセル!久しぶり!」
赤い髪の陽気な男が入ってきた。
「何しに来た、ヒーズ」
「もー、レクセルってば冷たいなぁ。士官学校時代からの大親友が非番だから会いに来たんじゃないか」
「別にいらん」
「や~ん、ひどい」
二人がじゃれあってると、
「だれ?このひと」
つたない発音で覚えたての言葉をミオが言う。
「おおっ、これはこれはレディに失礼を。あなたが噂の勝利の女神、ミオ様ですね。私、ヒーズ・イナラクベルと申します」
「ひぃず・いな、いら・・・?」
「やーん、かわいいなー。こんなかわいい子が今回の作戦の要だなんて思えないよー」
ミオの手を握って身をくねらせる。
「気味悪いからやめろ。それにそんなに気安く触るんじゃない、その子は・・・」
「おっと、そうだった。いやぁ、かわいい子見るとついね」
ヒーズは机に散乱している教科書たちを見て、
「何、勉強?あれもらったんじゃないの?」
「そうだが、実際に覚えたほうが都合がいいだろう。何、すぐ覚えるさ」
「ふーん・・・じゃ、今何言ってるか彼女分からないんだ」
「ああ」
「ふーん・・・」
レクセルの携帯端末からアラーム音が鳴る。
「・・・、少し用事ができた。ちょうどいい、ヒーズ。ちょっと面倒見てろよ」
「えー、何それぇ」
「いいから、すぐ戻る」
「あっそ、行ってらっしゃい」
ひらひらと手を振って見送るヒーズ、その顔にはいたずら小僧の笑みが浮かんでいた。