細かな編成と手直しと
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
「アイツ”大丈夫です。ちゃんと引継ぎしました”とか言っていたが全然だったって事だな……… 」
何とも言えない顔をして落ち込むヒルト。
だけど、事態は思ったより最悪だった。
ほぼ出ずっぱりだったというから、それだけ信頼していたのだろう。
でも実際はこんな感じだし、いろんな所で軋轢が起こっているんじゃなかろうか。
本来治安維持を目的に来たのだが、それを請け負う肝心の所がとんでもない事になっていた。
はっきり言えば、騎士団は機能停止しになりそうだったとも言える。
ヒルトが出ずっぱりになっているのもそれが原因。
クラウドさんやユーグさんは、気付かなかったのだろうか。
「ヒルトが出ずっぱりなので、時々確認はしていたんですが、細かい部分はどうしても……… 」
「時々声掛けはしているが、騎士に聞いても仕事に対する話を聞かない。それに私達が関わる者は、ほぼ決まった者達ばかりだ。それ以外の者達はどうなんだろうな?」
やっぱり風通し悪くなっていたんだよ。
だから騎士と兵士の衝突が起こるし、処理する時間もかかる。
「ヒルトいつからだ。そいつが副団長になってからどれくらい経ってんだ?」
コイツがどれだけ周りを拗らせているのか、それともコイツ以前から拗らせまくっていたのか。
そういや、有能な奴が敵国に行ったって話を聞いたな。
「半年前だ……… 」
「有能な奴が、敵国に行ったのはいつ頃だ?」
「「ショウゴ……… 」」
ヒルトの返事を聞いて、すぐに別の質問をする。
俺が何を考えて、確認しているのかわかったのだろう。
皆が愕然とした表情をしているが、どれくらい経ってんだ。
まかり間違うと、第二第三の人物がまだまだいるという事になる。
今までこいつらは何をしていたんだ。
国の防衛をなめてんじゃねーぞ。
一人じゃ守る事なんてできる訳ねーんだよ。
「君主制だからって、所詮は烏合の衆なんだよ。陣取り合戦みたいなもんだよな。強力な武器もいいかもしれないが、所詮そんなのはまやかしだ。そんな物より情報が一番の武器なんだよ。それでだ、その情報と有能な者がセットであるんだ。超お買い得な上に、恨み辛み持ちだよ。取り込まなきゃ損だよな。笑える話だよ。それもろくでもねぇ部下のせいで、とんでもねぇ事だぞ。これは上の責任じゃねぇの?そんな部下を選んだ上の責任だよな。今どんな気分だ?寝ぼけてんじゃねーぞ!!」
さすがの俺も怒り心頭だった。
クラウドさんもユーグさんも真っ青な状態で立ち竦んでいる。
そりゃそうだよな。国の治安維持以前の問題だ。
上ばかり見て、足元がおろそかになっている。
どんなに上がいい事考えても、実行に移すのは下の者達だ。
上がどんなに凄い人達でも、実行に移す者が高が知れた者ならその程度でしかない。
だから俺達の世界は日々教育するし、知識を磨き更新するのだ。
その分ちゃんと賃金に反映される仕組みにもなっている。
「ライアンさん、申し訳ないけどすぐ調べて貰えますか?」
紙を渡し願いを伝え、事細かに書いて貰う。
ホント字が書けたら良かったんだけど、どうしようもない。
まずは辞めて行った者達を調査、そして辞めた理由。
ついでに、その後の足取りも調べておいた方がいいだろう。
ライアンさんからも総力をあげると言っている。
そう、これは国を守る上で大切な事だった。
「クラウドさん、兵士または騎士は辞めた後、緊急を要する時は従軍するような制度はあるのかな?」
「イヤそういうのはなかった。辞めて冒険者になる。それっきりがほとんどだ。」
クラウドさんも起こる可能性を、いろいろと考えているようだ。
先の戦で嫌な思いしただろうに、また起こりそうな予感。
はっきり言って、気持ちがいいものではないだろう。
ちゃんとしていれば防げた戦に、沢山の予算を喰われていくのだ。
そして相手国は情報持ちなら泥沼状態。
横目で見るとヒルトの落ち込み様が半端ない。
だけど慰める気はさらさら起きない。
だって辞めた者達の気持ちを考えれば、ヒルトも同じ加害者だからだ。
自分でこれからどうすればいいのか、しっかり考えて貰わないとな。
「レミオさん、あなたの記憶ある中に辞めた人物いませんか?出来がいい人?」
「はい、何名かいます。聞かれるだろうと思い、メモに書き出しています。辞めた理由も書きます。そして今現在も書きましょう。変な話ですが、今は下っ端で良かったです。」
そう言って今現在も不遇な境遇の者達、まだ残っている人達も書き足している。
”ホント下っ端はこんな時最悪だ。昔の仲間と生死の戦いをするとか、それもバカな上司のせいでそうなるなど生き地獄じゃねぇか。マジでムカつくな。ぶん殴りてー、でも俺の手が負傷するからできねぇ”
そんな事を思っていると、ユーグさんがヒルトをぶん殴っていた。
怒りも相当で、一発では収まらなかった様だ。
レミオさんから話を聞くと、どうやら夜間兵士は決まった者がずっと配属状態らしい。
そして昼間は訓練と、地獄のような事をさせられている。
”身体が休める暇もないじゃないか”
クラウドさんがその夜間兵を、直ぐこちらに来させるように手配した。
俺はそれを確認しながら、ある可能性を考えた。
それはとても単純な事だ。
多分その夜間兵の何名かは、独自で調整しながら今頃寝ているだろう。
決まっている者達なら調整し易い。
それに有能な者がいるならば、素直に言われた通りしてもろくな事にならないとわかる事だ。
国を守る事もできず中途半端な状態でいるよりは、少数で確実に監視し動ける状態にした方がいい。
そして何か問題が起こっても、それは上司の責任になる証拠を付きつければいい。
それくらい半分国を見限った感じであるだろう。
「しかし困ったな。予想以上に組織がガタガタだ。どこから手を付けていいか訳がわからん。」
クラウドさんも頭を抱えた状態だ。
でもある意味いい機会だったのかもしれない。
これらの問題を理由に、騎士団の編成計画をごり押しで実行に移せる。
反対は一切受け付けない状況に持って行けばいいのだ。
それと並行して、騎士団にガス抜きも同時に必要だろう。
下の者達の不平不満を解消しないと、組織を一新しても気持ちが付いて来ず意味がない。
とりあえず今まで思いついた事、考えた事を紙書き出していく。
”頭の中を整理していかないとな。やり残しはしたくない”
クラウドさんの元に情報が次々と上がっていく。
同時にユーグさんも、文官や城内で働く者達から情報を収集する。
騎士だけじゃないく、ありとあらゆる機関の状態を………
ヒルトも手当てをせず、騎士関連の情報を片っ端から確認している。
やればできるのだやれば、ただ仕事の多さに後回しになった、または信頼して任せたのだろう。
実際は任せた相手らが悪過ぎたがな。
ホント国も運営は大変だ。
いろんな思惑があり過ぎて支障をきたしてやがる。
”ここに貴族階級の考え方が邪魔しているんだろうな”
俺達の世界はいろんな要素が組み合わさって、君主制だったり民主制だったりと変わっていった。
だから考え方がそのものが間違っているとは思わない。
それが当たり前と思っているのだから、それを否定するつもりもない。
”ただおろそかにしてはいけないモノが何かを、ちゃんと理解する必要があると思うけどな”
国を治めるという事はとても大変な事だ。
もちろん彼らが一番判っているだろう。
でも民衆の脅威をどこまで理解しているのか?
治安維持を考えている事からそれなりにわかっているだろう。
だが城で働いている足元の平民を蔑ろにしては意味がない。
その平民が一番国のすぐ近くにおり情報を持って、それなりの知能と武力を有しているのだから………
だからこそ一番おろそかにせず、きちんと対応しないといけない。
市井にとって彼らが城の貴族達を偵察をする部隊なのだ。
****************
部屋には夜間兵のリーダー格のジェレミーさんが加わった。
そして今の騎士団の状況を聞くと、問題点が幾つも浮上して来る。
まずは、兵士と騎士の軋轢だ。
騎士になるとそれなりの装備と武器が個人資産になるので、かなり金銭がかかるそうだ。
だから平民から騎士になるには、後見人なる者が必要となる。
だがそこを国が立て替える制度があるのだが、どういう訳か全く機能していない。
むしろなぜか貴族階級の者が利用している状態だそうだ。
「だから騎士の者がほとんど貴族階級ばかりになっている。そしてその予算や人材の取りまとめが、なぜか騎士団じゃなく財務省になっているんだ。だから騎士扱いでも、ホントに騎士として働けるか疑わし者がいるのです」
「また平民から騎士にする目的だった財源が、騎士の武器維持に使われています。騎士個人の武器をなぜか国の財源で賄っている事さえあります。」
出て来るは出て来るは、ホント職務乱用もいい所だな。
「そういえば私もそう言った書類を何度か見ましたね。最近剣の刃が欠けたから、武器その物を買い直すという馬鹿げた書類を発見したので突き返しました。」
ユーグさんも被害にあってる。
なるほどな……… 個人資産だから武器のメンテナンスも自分達で行わなければならない。
それを国の財源でやっているから、扱いも雑になり買い替えの頻度も高くなる。
実際はそんな事は個人資産でしないといけない事だから、職務乱用だな。
でも書類がある分、証拠もあるという事w。
騎士はそのメンテナンスと維持費にお金もかかる。
だからそれなりの給与を与え、報奨や地位など何かある毎に貰える。
逆に兵士は国からの支給による武器と防具なので、メンテナンスと維持費がかからない。
だから給与も騎士に比べれば低い。ただ緊急性の高い戦闘関係があれば報奨金がある。
そして倒した魔物関係の素材を貰えるらしい。
だが実際は………
「素材は騎士団預かりがほとんどです」
だから兵士も率先して動こうとしないのだ。
武器も対人用なのだから、倒せる可能性も低い。
それに必死に倒す割が合わないのだ。
それならいい武器を持つ騎士が出張ってくるのが当たり前。
だが肝心の騎士は実戦経験が乏しく、臆病者ばかりらしい。
これが市井の一般的考え方だそうだ。
「だからヒルトが毎回出張るハメになっているんだろう。甘やかしすぎだ!」
ユーグさんが噛みつくようにヒルトに言う。
「だから副団長らが、倒し方を教えてやってくれというから……… 」
とヒルトが困り顔で言う。なので俺が
「だったら副団長らが教える様に言えよ」
と思わず突っ込みを入れるのだった。
その間副団長らは一体何をやっているのだ。
「一応団の編成調整をしたり、上の者との掛け合いをしたりはしていますが、組織が雑多なので分かり辛いようです。なのでほとんど私に確認する方がほとんどですね」
働いているんだろうけど、役割の分だけの働きをしているかは怪しい。
「夜間兵はどうやって決まっているんだ?夜勤明けは訓練免除となっているはずだが」
クラウドさんがジェレミーさんに聞いている。
「確かにそうですが、私どもは罰則により夜間兵になっているのです。といっても罰則とは名ばかりで、ただの意見を言った事が罰則行為になりました。職務中上司に意見を言ったらいけないそうです」
「意見ってどんな?」
なんだよ、罰則で夜間兵って。意味が分からん。
夜間兵は警備の仕事だよ。罰則でやるような仕事じゃないはずだ。
「その編成で戦力の偏りがあるので、平均的戦力でグループに分けて欲しいと」
「例えば市井の巡回とかのグループ?」
「いえそちらは冒険者からの応援兵もあるので、ギルド側が考えて調整してくれます。どちらかといえば森の巡回とか調査の時ですね。」
オイ、よそ様にもご迷惑かけている様だぞ。
俺がシラーとした顔で三人を交互に眺めていると、恥ずかしそうに俯いている。
今更俯いても冒険者ギルドはあらゆる国々にあるんだぞ。
つまりは騎士団の内情が、よその国々に筒抜け状態らしい。
「お前らさ、よその国から進軍が来てもおかしくない状態だぞ、マジで!どうするの?ついでにめちゃくちゃ恥ずかしくないか??」
レミオさんも段々と内情がわかって来たのか、違った意味で顔色が悪くなる。
元々知能派タイプなのだろう。
仕事を離れ落ち着いた状況になれば、周りの状態が見えて来る。
「まあ…… そこら辺はもういいか。とりあえず騎士団編成の話をしよう。俺は明日までしかいないのだし、それから先の事は自分達で考えるしかないだろうからな」
俺はもう今更だから、ため息を吐いて放置した。
冷たい言い方かもしれないけど、俺は別の世界の人間だ。
明日以降どんな事が起こるのかわからないし、知り様もない。
そしてこれっきりの関係とも言えるだろう。
だが頼まれた仕事はちゃんとするさ。
「ショウゴ……… なんかすまん。」
ヒルトが申し訳なさそうに頭を下げる。
俺の考えもわかるのだろう。
これらはクラウドさん達が考える事だ。
自分達のできる事をちゃんとやっている事は評価している。
だが部下の選定をきちんとしていないし、足元もおろそか過ぎる。
いつだって更新して、考えてまた更新してを繰り返さないといけない。
現状維持も必要だが、変則的な事はその都度議題に出して変更しなくてはならない。
そんな問題点を指摘したり、考えたり汲んだりできない者が上にいる意味はないと思う。
「クラウドさんも先に進んでいいかな?」
俺がそう聞くとコクッと頷き、旧騎士団の組織図と改変途中の組織図を広げた。
ユーグさんが新たな組織の説明をしていく。
足りない文や補足も事細かに伝え、それに対して現役の兵士に意見を聞いていく。
そして総務という役割にはレミオさんもいろいろと意見を伝えた。
騎士を輩出する家は、身体の作り関係ないく騎士団に押し込む傾向にあるそうだ。
”要は脳筋だな。精神論で全て収まるってヤツだ”
俺はスンとして冷めた目で話を聞く。
だがこの組織は受け皿にちょうどいいかもしれないな。
黒の色が付いた所にも、書類整理担当がいた方がいいだろう。
そして各団長らの隣にも必要だ。
そして各団長らは社交の場にも出る立場の者達だ。
文武両道は必要不可欠だし、社交術のマナーも必要だろう。
俺は上の階級に上がる毎にスキルを磨き学ぶ、研修マニュアルの作成をお願いした。
そしてレミオさんには、定型文の書類作成を依頼する。
俺が口頭で伝え、ユーグさんが書類作成してくれる。
予算関係、休暇関係、備品関連の購入依頼など
「レミオさんこんな感じで元々から書いてあったら、個人で記入ぐらいできますよね?」
「ハイ!ありがとうございます。これで大分書類も減ると思われます。」
「確認する方も確かにわかり易いな。他の組織にも利用しよう。」
「複写スキル持ちの者がいますので、そちらに書類の複写依頼を致します」
ヒルトも書類を見ながら、なるほどなと納得して頷いているが、ジェレミーさんは考え込んでいる。
「申し訳ないですが、平民の兵士にはこれも難しいです。まず字は自分の名前しか書けませんし、読むのも怪しいので……… 」
言われてみれば確かにそうだ。読み書きが出来なければ意味がない。
考え付くのは数字の記号を覚えさせ、休みはカレンダー表示で丸付けする方法だ。
そして渡す時理由を口頭で伝え、受け取った者が内容を記入する。
だから読み書きは階級が上がる時の必須項目になるのだ。
「階級が上がる毎にテストもし、研修も必要だな。それによって最終判断だ。じゃないと戦ばかりだ」
「戦は金がかかるから、回避だ。」
俺がヘラッと嫌な事を笑って言うと、ユーグさんもうんざり顔で要望を伝える。
「ジェレミーさん、平民の兵士が関わる書類は休みの要望くらいですよね?」
「そうだな。備品とかは上司に伝えるって事か?それともこの総務ってとこか?」
「事務関係の人材を多く必要ですね。平民専用の受け皿が必要でしょう。」
「そうだな。一応総務で考えているが、整うまでは上司でいいぞ。」
ユーグさんは事務方の増員を検討。
編成するのはいいが、仕事の滞りらない様に気をつける。
そして疑問に思っていたことをレミオさんに聞いてみると、必要ない組織である事がわかった。
例えば要人の警護を担当している部署など、ほぼ決まった人物の警護らしい。
「誰だ?その人物以外いないのか?例えば爵位が低い者とか、爵位を新たに承った者の為の部署だったはずだ」
人件費がいちばんかかるもんな。
だから王都にいる間は代わりに安心して貰うための部署だったんだ。
機能すればすごくいい部署じゃないか。
「でも実際は近衛が担当するパターンがほとんどです。王族が客人として招いているので、そうなるようです。」
「確かに招待すると近衛の者にお願いする事が多いな。」
そしてその部署にいる人物も、頼んでいる人物も同じ家中の者だった。
こりゃ横領扱いになりそうな案件だな。
クラウドさんがまた確認をお願いして、疲れたようにため息をついた。
「こう次々出ると他の組織も洗い出しが必要になりそうだな。」
「そうですね。余りにも酷過ぎます。忙しさに甘え過ぎました」
その間もヒルトは黙々と情報を処理している。
集中力が凄いが、ちゃんと頭に入っているんだよな。
クラウドさん達は比較的若い世代に入るらしく、要所にはまだ重鎮達が健在なんだとか。
だからなかなかできなかったのが実状らしい。
古狸はそろそろ今回の件で退任を迫るのもありだろう。
そこら辺はクラウドさん達の仕事だ。
頑張っていい枠組みを作って貰いたいものだ。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)