料理長は精神を擦り減らす 上
拙いと思いますが、生暖かい気持ちでお願いします。
その日いつもの様に料理のメニューを決め段取りを団長補佐のと話していると、料理場に陛下と宰相が現れた。
”何故こんな所に………?!”
あり得ない出来事ほど恐ろしいモノはない。
今日お出しした料理に何か問題があったのだろうか?
いや…… 今日は陛下達お二人に料理を出していない。
それならなぜいらっしゃたのか訳が分からず戸惑う。
「突然すまないな。魔術部門に作って貰った魔道具を試しに来たんだ」
「お仕事中に申し訳ありませんね。どうしても自分自身で確かめたいそうで」
にこやかな陛下と困り顔の宰相。
そんな二人の話にホッと気が抜けため息をついた。
執事が水が入った物を持って来て、陛下の持っているポットらしきモノに水を入れる。
そしてボタンみたいな物を押すと、下の辺りが赤色に変化した。
「なるほど!これで温め中という事だな。」
「問題は沸騰して後、魔力の流れが止まるのかですね」
ポットから沸騰音が聞こえ始めるが、そこから元の色に戻るには時間までかかる。
その様子に不満げに眺めているお二人と、これまたそれを眺めている私達。
「料理長、今の色の戻りはちょうど良いのか?悪いのか?」
「どの辺で過熱を止めたのかわかり辛く判断できません。ただ沸騰音で判断するなら、かかり過ぎの様な気が致します」
フンフンと頷き合い、ふたを開け何か話し合っている二人。
執事はポットの中を見て眉を顰めている。
たぶん沸騰させ過ぎて、水が多少減っていたのだろう。
「まだ改良の余地ありだな。コレじゃ一杯分しかない。」
「そうですね。3杯分は必要でしょう。」
二人そう言ってため息をついている。
そんな二人を呆れた様に眺めている執事。
「料理長申し訳ないが、お湯を貰えないだろうか?」
宰相からの申し出に、ガイが大きめのポットで水を沸かす。
テーブルの上に不思議な素材で作られたモノをカゴから取り出し、覆ってある透明な薄いモノ?を剥がしている。
私はその落ちた不思議な透明な素材を拾い眺めるが、その素材がなんなのかわからない。
”まるでスライムが通った後の跡のようにも見える”
ただそれは土に沁みついてこんなに綺麗に剥がす事は出来ないが………
そんな私を横目にお二人はフタ?を開け、中から袋を取り出し開けて、その中の粉を入れている。
執事も見よう見マネで同じ動作をし、陛下達に確認を取っている。
”一体何をしているんだ?”
陛下達が持っているあの入れ物と中の物体………
ガイが陛下達に近づき、手元のモノをコッソリと見ている。
そして私の下に戻って来ると
「あの中に干からびた緬の様なモノと乾燥された肉?が入っています。」
潜めて話す内容は食材であるらしい。
ガイは沸騰したポットを止めて、陛下達の所に持って行く。
「沸騰しましたが、どうしたらよろしいのでしょうか?」
「このカップの線まで湯を入れてくれ」
陛下が内側を指差した所にうっすらと線らしきモノが見える。
ガイは頷いて湯を慎重に入れて行く。
入れられている間、陛下達の表情はとても豊かに変化していく。
いつも何を考えているかわからない人達。
そんな方たちが無邪気に子供の様はある意味貴重だ。
”私達の料理でも、この様な姿を見たいモノだ”
なぜか訳の判らぬモノに出し抜かれた気分になる私。
陛下達は注がれた器にフタをし、砂時計をセットしてジッと待っている。
よっぽど楽しみなのだろう、フォークを手に所持していた。
気難しい宰相まで、笑顔を見せて出来上がりを今か今かと待っている。
砂時計が半分ほど落ちていくと、いい香りがコチラの方にも漂ってくる。
「料理長この香りアレからですよね。何というか食欲をそそる香りなんですが……… 」
「……………… 」
今迄嗅いだことがない独特な香りが調理場に漂う。
砂時計が終わると早々とばかりにフタを開け、ハムハムと食べ始めた陛下達。
その勢いは上品とは程遠く、がっつくという表現があっている。
「料理長、凄くいい香りですね。」
そう……… とてもとても旨そうな香りが調理場に漂い、何ともすきっ腹によく響くのだ。
ガイなどヨダレを垂らし、ジッと陛下達を物欲しそうに見ている。
「コラ、不敬だぞ。余り見るもんじゃない」
「でも料理長気になりませんか?アレ湯を入れただけですよ?」
「まぁな……… そこは確かに気になる」
「それにこの香り!旨そう、というか絶対旨い!!見て下さいよ、陛下達。あんな姿今まで見た事ありませんよ!!!」
その通りなのだ。悔しい事にそうなのだ。
「いいなぁ。俺も食べたいです。」
ジト目で陛下達を見ているガイ。
だが私もその気持ちが判るので、強く怒れない。
「料理長達にも作ってあげようか?」
食べ終わり、私達に気づいた陛下が聞いてくる。
通常なら畏れ多いと遠慮するのだが、「出来ましたらお願いしても」と断る事をしなかった。
私だって旨そうな匂いと、不思議な料理が凄く気になるのだ。
すると先程と同じ様に入れ物に湯を注ぐガイ。
「料理長、先程と中身が違いました。」
陛下はニヤニヤと笑い、宰相達も二杯目の出来上がりを楽しみにしている。
そして漂ってきた香りは先程と違い、濃厚で独特な旨そう香り。
陛下が私達の前にその器を置き、食べる様に促した。
”まさか陛下に給仕をされる日があろうとは……… ”
何とも言えない思いを浮かべ、フタを開けると独特で旨そうな香りが顔いっぱいに占拠する。
「「ゴクリ」」
ガイと二人思わず生唾を飲み込んだ。
器を口にそっと運びスープを飲んでみる。
”………旨い?!”
とんでもなく奥深く複雑で濃厚な味と香り。
”一体どうしたらこの様な味と香りが出来上がるんだ?!どうしたらこのような奥深さを潜めるスープが出来る?!!”
旨すぎて余りの凄さに圧倒され、動きを止める私達に宰相は言う。
「早く食べなさい。緬が伸びると旨さが遠退きますよ」
「「?!!」」
目の前で二杯目を堪能している陛下達は、勢いにままズルズルと啜り食べていた。
その後陛下達が言うには、この料理は異世界の代物だと言う。
インスタントというお湯を注いで3分で出来上がるお手軽な料理。
その知識の水位には頭を垂れるしかない。
「今騎士団長のヒルトがこの世界に遊びに来て貰おうと誘っているんだ。」
「ええ、出来たらこちらの世界に少しでも知恵を頂ければと思っているのです」
何でも二人はあちらの世界を堪能してきたらしい。
料理・住まい・移動手段など、ありとあらゆるモノに高度な技術がある世界。
「あちらの世界では馬車の10倍の速さを走る乗り物が、一般家庭に一台はあります。空も天も行き、飛べる事が出来るとか…… この料理もお土産に沢山頂いたモノの一つです」
「乗り心地も最高だった。少しでもその技術をマネした乗り物を作りたいものだ」
陛下達はその10倍の速さで走るクルマというモノに乗ったそうだ。
確かにそれ程の技術ある世界、自分の手元にある不思議な素材の器を見る。
”これだけ旨いなら、本格的に料理した物はどうなんだ?”
隣で一緒に食べたガイなど、茫然としたまま空になった器を残念そうに眺めている。
「それでだな。明日の夕食は宰相と騎士団長の家族も来る晩餐会になる。そして交渉が上手くいけば異世界の者もいる予定だ。あちらの世界には魔物がおらず、想像上の生物という事だ。だからそれらを使った料理をお願いしたい。子供達もいる予定だ。」
これ程の料理を手軽に食べている異世界の者に料理を出す。
「い、いや、しかしながら私達に出せる料理など………?!」
さすがのガイも正気に戻り、思わず断りを申し出るほど怖気づいてしまう。
何気に私を貶した状況だが、真実なだけに悔しいという気持ちも起こらない。
私自身もこの異世界の料理を食べた後では、料理を出す自信がない。
ちゃんと食べて貰える料理が作れるのかと思えるほどに自信がない。
「陛下、先程の料理、凄い美味しかったです。私達の料理が子供の料理の様で失礼になりませんか?」
今迄絶対の自信があった料理。
自分以上に旨い料理がある事など、もちろんわかっている。
だがお湯を入れるだけで出来上がる旨い料理に、自信喪失。
今迄の自信など木端微塵に砕け散ったのだった。
「気にするな。今回来るのは料理人ではない。一般の商会人だそうだ。気負う事なく今までの料理を出せばいい。ただ魔物肉を使った料理だ。あちらは魔法がない世界でな。わかったな?」
なるほど魔法がない世界とはこれまたスゴイ。
という事はこれ程の物を、人の英知のみで作り上げたという事だ。
「確かに承りました」
状況に諦め私が頭を下げると、ガイも慌てて頭を下げた。
陛下達が調理場からいなくなると、ドッと疲れ椅子に座り込む。
それはガイも同様で「ハァ~…… 」とため息をつき座っている。
「さて…… 帰れなくなったな」
途方に暮れた様にガイに声をかける。
「そうですねー……… どうすればいいのでしょうか?」
「わからねぇ……… 」
互いに目を合わせ頭を抱える。
「要は魔物を使った料理を作れって事ですよ。この際見た目より味の良さを中心に考えましょう。食べて貰わなきゃどうしようもありません!」
「それなら得意料理を出した方がいいだろうな。一般のと言っても、それなりの物を出さないと見目が悪くなる」
「そうですね。正直先程の料理を食べた後では、食べて貰えるかという心配が先にでます。」
問題はそこなんだよ。
手軽に食べる料理で、あれほどの旨さだという異世界。
帰り際に渡されたカレールーというモノにカレーパン。
「この絵の料理見た目が微妙ですけど、陛下達絶賛していましたね。無表情が標準装備の執事まで、激しく頷いている様は不気味でした」
カレーパンの透明な不思議な素材の袋を破り、カレーパンなるモノを取り出す。
ガイはその不思議素材をじっと眺め、その袋に水を入れた。
「料理長、これ凄いですよ。見て下さい!水漏れしません。」
水漏れをしない袋。
……という事は水を通さない素材が異世界には普通に存在しているという事だ。
こんなにも軽くて薄い、硬くもなければ弱くもない。
「これがあれば下ごしらえの時便利じゃないですか?というか雨の日に便利ですよ!」
ちょっと味付けをしたい時、コレがあればボールを幾つも使う事なく、この袋があればいいのだ。
食材だってこの袋に入れれば汚れる心配もない。
雨なんか同じ素材の服を着れば濡れる心配もない。
それこそ利用価値が無限大で、少し考えれば留まるところを知らない程だ。
手に持つカレーパンから微かにかぐわしい香りが、魅惑の世界へと誘う。
「料理長、そのパン確実に半分でお願いしますね。」
ガイが私が不正でもしそうな程、疑わしい目で訴える。
とんでもなく失礼な奴だなと思いながら、手で割り分け様とすると待ったをかけ包丁を差し出す。
手などで適当に分ける事を許さず、包丁でキッチリ半分に分ける事を強要されたのだった。
「旨いな…… 」
「あり得ないです。これ!とんでもない神ブレンドですよ!!」
「お前…… 神ブレンドって何だ?!」
「神ですよ。もう食神の手を借りたブレンドです。冷えても旨いとかなぜでしょう?」
冷えると肉独特の獣の臭みが強くなるので、どうしても貴族料理は香辛料の使用量が多い。
特に香辛料は油で香りを出して使うので、油のざらつきとえぐみを感じる。
それがこの料理には感じず、更に肉がなくてもコクとまろやかさを感じる。
どうしたらこんな風に出来るのか?
「気になりますね。どんな方なのでしょうか?異世界人」
ガイは幸せそうな顔で、カレーパンをチマチマと堪能している。
かくいう私も今は香りのみ堪能し、少しでも配合を割り出している。
「料理長いかがですか?ペッパーとコリアンダーは判りました。あとターメリックですかね。」
「私はカルダモンとクミン、それからナツメグだな」
クミンは結構匂うのに気付かなかったのだろうか?
私が若干呆れ顔でガイを見ていると、ガイが決まり悪げに言う。
「クミンに気づきましたが、名前が思い浮かばなかっただけです。」
カルダモンより使い勝手はあるが、お菓子を主に作るガイにはカルダモンの方が馴染み深いそうだ。
とにかく明日来るかもしれない、異世界からの来訪者。
出来れば料理の話を伺いたいと思いながら、明日作る料理をガイと考え夜は更けて行く。
読んでくれて、ありがとうございます(*´ω`*)




