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8/11

Pro

いつも誤字脱字が多く、読みづらくてすみません

窓から入ってくる木漏れ日は心地よく、店内に流れる気怠い空気と落ち着いたJAZZミュージックは少し眠気を誘う。もともとこの曲はアップテンポだったと思うがどうやらだいぶ編曲されているようだ。


「お待たせいたしました。プロフェッサー、今日の紅茶は初夏に摘まれたセカンドフラッシュをブレンドしたダージリンを用意しました。スコーンも焼いてあるので、よろしければ注文して下さい。」

「・・・・・・・・」


ティーカップにそそがれた琥珀色の香りを楽しみ、静かにうなずくとこの喫茶店のマスターは察して私に見合った量のスコーンとジャムを用意してくれる。はず。それにしてもマスターが入れてくれるこの紅茶は先ほどのすべての怠惰な眠気を吹き飛ばし、私の脳を活性化させてくれる。


「いかがです、今日のブレンドはすこし深みのあるものを用意しました」

「・・・・・・」

「良かった、気に入ってもらえたようで」


私は私なりのにこやかな表情を見せた。良く学生たちには「先生の笑顔は分からない」や「感情表現が崩壊している」と言われているが、それは彼らの観察能力が欠落しているからだろう。すべての学生がここのマスターのようにしっかりと人を見てくれる人間なら、いや、ないものねだりをしてしまうのは良くない癖だな。


「スコーンをお持ちしました。ジャムは無花果と桃、あと少し変わり種で日本の柿を使ったジャムです。」

「・・・・・・・」


柿ジャムとはなんと!こっちでは日本の柿はなかなかの高級フルーツだが、贅沢にもジャムにしてしまうとは。素晴らしい、マスターのセンスは最高だ。


「こちらも気に入ってもらえてよかった。」

「・・・・・・・」


しかし、どういうことだろうか。以前のマスターの口調とはだいぶ変わったというか、まったくの別物になっている。彼は確かきついアイリッシュのような訛りがあったはず。あの訛りはわざとだったのか、それとも今の普通のクィーンズの話し方がわざとなのか。

「・・・・・・・」

「どうかしましたか?何かついてますか?」


分からない。ただ今の話し方がわざとらしさがないところをみると前のアイリッシュ訛りがわざとなのだろう、そもそもあの話し方と見た目が彼には会っていなかったのだ。多分何かしらの理由でわざとあの口調だったのだろう。そこは敢えて検索するまい。それは紳士としてのふるまいではない。今は琥珀色のエーテルが奏でる香りを楽しもう。いや、でも


カラン、コロン、カラン


開いた重厚な扉から奏でられる乾いたベルの音がこの空間のシックな感じにとても合う。そう今のマスターの風体の方がこの喫茶店に合っているのだ。これまでが異質だったのだ。さて、納得できたことだし、紅茶とマスターお手製のスコーンを追加で頂こうかな。


「マスター、この間の写真ができたから届けに来たよ」

「九十八さん、ありがとう。後で見るんでカウンターに置いといて。何か飲んで行きますか。」

「ああ、そしたらコーヒーを、なぁ、話し方を普通にしたのは良いんだけど、もう少し、なんかフレンドリーに。いや、前のわざとチャラくした話し方に戻せってわけではないんだけど、なんか距離がさ。」

「ははは、そうですか。でもこれは本来の話し方なんで気にしないでください。はい、コーヒーです。」

「そっか、まぁ、いいか。ありがとう・・・・」

「・・・・・・・・」


全くなんだあの馴れ馴れしい態度は、マスターが困ってしまうではないか。しかも前のようなふざけた話し方といったか?何をバカな、紳士的な振る舞いと話し方がこの空間には合致しているのだ。それも分らないとは全く、、、いやいや、いかんいかん、相手を卑下するのは良くないな。それにしても“話し方を普通”といったか、彼は今の話し方がマスターの標準だと知っていたのか。いつ?どうやって?彼は私の知らない情報を持っているということか。だとしたら・・・・・


「二人、幸せそうで、何より。」

「ああ、出席するか迷ったけど、絶対に身バレしないから参加してくれって。巽さんに何回かサポートしたからそのお礼だったみたいで、奥さんになった人からもお礼をすごくいわれたよ。」

「それは九頭見さんの命を救っているからでしょ。うわー、奥さん綺麗だな、」

「俺が巽さんを助けたのはたまたまだよ。ああ、本当にきれいな人だったよ」

「たまたまでも命の恩人には礼を尽くすのが筋と考えるのが彼らなんでしょう。」

「そういうものか、それにしても久遠組って、本当にあの地域に愛されているんだな。俺が外部から参加したのを地域全体で守ってくれているみたいだった。それに俺のこともみんな何となく知っているのか、いろんな人から感謝されたよ。」

「それだけ九頭見さんがあの地域を守ってきた証拠ですね。

「このご時世ああいう人たちの肩身狭くなってるはずなのに、地元の人たちがみんな祝福してたし、というか警察関係っぽい、そんな感じの人も多くいたよ。」

「・・・・・・・」


気になる。写真がすっごいみたい。九頭見という人物は知っている。確かこの喫茶店に出入りしていた者の一人で日本のマフィアのボスをしていた人物だ。なるほど、彼は結婚したのか、羨ましい。私も早く結婚して、幸せな家庭を築きたいものだ。美人な奥さんか~、写真が見たいな~。


「プロフェッサーもみますか?」

「・・・・・・」


さすが、マスターだ。私の雰囲気を察して声をかけてくれたのだろう。彼の気遣いには感動を覚えるよ。どれどれ、どんな写真だろう・・・・


「・・・・・・」


ぐおーーーー、羨ましい、すっごい美人じゃん、えっ、はっ、マジか~~~~~、いかんいかん、冷静を保たねば、紳士らしく平然と


「・・・・・ありがとう。私はもう行くよ。」

スッとチップ分を含めた15ポンドを置き、その場を立ちさる。が、その前に辺りを見渡す。

「いつもありがとうございます。それと依頼の件、宜しくお願い致します。んっ?ああ、スコーンとジャムをテイクアウトされて行かれますか」

「・・・・・ああ」


写真に写っていた人たちはみな幸せそうだった。素晴らしい、九頭見が今までに築いた関係の結果だろう。これからも彼には頑張ってもらいたいものだ。またここで彼にここで会ったら賛辞を送ろう。それにしても・・・羨ましいな。


カランコロンカラン、ドン

「教授は相変わらずみたいだな。」

「ははは、そうだね、彼みたいに分かりやすい人間はそうそういないね。」

「たぶんあれで自分は寡黙で無表情とか思っているんだろうな。」

「ははは」




ツカツカツカツカ

大学の研究室までの廊下を歩く、すれ違う学生たちは私の顔を見て、そそくさと逃げていく。みんなこちらをきょろきょろ見てはそっぽを向いてしまう。やはり私はみんなに避けられている、人気がないんだろうなぁ。私の性格が原因だろうか、でもそんなことは関係ない、私にはよき理解者がいる。


長い歴史を誇る大学らしいお城のような重厚感のある建物の内部とは思えないほど、内部は個性的でカラフル、見て歩いていていくだけでも楽しい。通り過ぎていく扉はそれぞれの研究室の好みに合わせて仕様を変えていて、今通り過ぎたガウディ建築の研究室は扉がカサ・バトーリョのような扉をしている。


伝統的な大学とは思えないほど、学生から在職している職員や教授、皆破天荒な人が多い気がする。そんな中廊下の突き当り、階段やエレベーターから一番離れ、建物の構造上、日差しが全然当たらない場所に何の変哲もないただの扉がある。


直前の研究室からも少し離れており、多分ほとんどの学生はここを研究室と思ってないだろ、多分物置ぐらいに思っているじゃないかな。その扉の先の人物を知っているのはこの大学内でもごくわずかな教授陣と彼のゼミに所属されている学生だけのため、人影はいない。そもそもここを訪ねるのは私ぐらいなのではないか。


コンコン

「ヴィル君、開けるよ」

ガチャッと勢いよく開けると、陰鬱そうな表情を浮かべた男がもの凄く不機嫌な顔をしてこちらをにらんでくる。他の教授の扉など開ける隙間を作るところから始めないといけないが、彼の部屋はそれらの部屋と天と地ほど違い、整っているし、置いてあるものも清潔に保たれている。


「やあ、すまないね、突然扉は開けるべきではないのは分かっていたさ、ああ、一度忠告をうけていたね。そんな顔をしないでおくれ、今日は吉報を届けに来たんだから」

「・・・・・・・・・」

扉に向かって正面を向くように置かれた机からはみ出るように盛り上がった体の上にちょこんと顔が載っている。その顔は少し怪訝そうだ。


「そんなに怒らないでよ。いいじゃないか、それとも何か、突然開けると困るようなことでもあるのかい?」

「・・・・・・」

否定はしていないが、納得もしていない顔でこちらを見てくる。


「うふふ、まぁ、私たちこの大学の嫌われ者同士仲良くしようではないか。」

「・・・・・」

「んっ?なんか異論があるのかい?あぁ、そうそう、吉報だよ、吉報。君の論文がまた取り上げられることになってね。それで今度こそ・・って、ちょっと、ちゃんと最後まで聞き給え」

同僚は自分の机から来客用のソファとローテーブルへと移動する。教授の部屋というと資料やらなんやらであふれかえっているケースが多いが、彼は整理整頓が好きなのかすべての資料が本棚に整理され、広々と感じている。いや、私の部屋も同じ広さのはずなんだが、どうも、うん。


「・・・・・・・」

「おっ、ちょ、ちょっと」

ソファへ座ると思いきや、伝言を全て聞く前に部屋から出ていこうとする同僚の前に立ちはだかる。私も身長が高い方なのだが、彼の方がもっと大きい。というかよくこのでかさで普通の扉の出入りができるものだ。


「さすがに今回は逃がさないぞ、君から良い返事を頂かないことには学園長に合わせる顔がないからね。いい加減に君も人前に出た前、私だって嫌われていようが表舞台に出て話をしているんだぞ」

「・・・・・・・・」

何かを悟ったような表情をしたかと思うと研究室内の給湯室にいき、がさごそと何かを行っている。

「んっ?なんだ、おお、君にしては気が利くじゃないか。そうだね、ゆっくりとお茶しながら話し合おうじゃないか。おっ、これは、美味しそうなスコーンだ。付け合わせにジャムも出してくれるとは、やっとむきあいつも思うんだが、たまに君が食べているお茶菓子はどこで買っているんだ、お店を教えてくれても良いだろう。」

何度かこの場所でお茶をごちそうになったが、その際に出てくるビコッティやマフィンは格別においしく、どこで買っているのか知りたいのだが、絶対に教えてくれない。


「・・・・・・」

「おおお、このジャムは美味しいね、何のジャムだろう。う~ん、、えっ、柿!ってあの日本の果物の?へぇ~、珍しいものをどこで買ったんだい。なんだ、それすらも教えてくれないのか、私たちも随分親しくなったと思ったのに・・・・・、寂しいな・・・・・、はぁ、」

「・・・・・・」

「んふふふ、ありがとう、君のそういうところが好きだよ。まぁ、お店には今度連れて行ってくれ。さて、発表会についてだが、おっ、本当かい。そうだね、直接学園長に承諾の話をしてくれた方が私も助かるよ」

彼はスコーンとジャムの残りを紙袋に入れてくれる。巨漢のイメージというとぶっきらぼうと相場は決まっているが、彼はとても几帳面だ。ジャムには緩衝材となるよう紙蛇腹を巻き付け止めてくれ、スコーンもラッピングし紙袋に入れ、マスキングテープで止めてくれる。


「・・・・・」

他にも準備があるようで少し待てとのことだ。

「よし、そうと決まれば、さぁ、準備してくれたまえ」

「・・・・・」

てきぱきと書類を整理し、焦げ茶色の書類カバンに詰める。普通の人が持てばちょうどよいサイズ感だが、彼の手に収まってしまうのではと錯覚してしまう。

「・・・・・」

「いや、外では待たないよ。同じ轍は踏まない。君の準備が終わり、君が先に外に出てから、一緒に学園長室に向かう。いいね?」

「・・・・・」

「よろしい、ほら、ぼさっとしてないで、さっさと準備して」


寡黙でありながらも表情豊かな同僚を急かし、何とか一緒に研究室を出ることができた。やはり体が大きいせいか、体をよじりながら扉の外に出る姿は何度見ても面白い光景だ。しばらく廊下を歩くと突如隣の巨体が止まった。


「どうしたんだい?」

「・・・・・・・」

「ああ、柿ジャムか、後でまた取りに来るよ。」

「・・」

「いやいや、今とりに行かなくていいから、って、ああ、分かった。私が取りに行くから、君はここで待ってる、いいね。ほら鍵を貸して」

「・・・・・」

「大丈夫、他のものには手を付けないから、ほら、よし。」


研究室のカギは一人一つしか支給されないから、これを持っている限り、彼が逃げることはない。私は鍵を受け取ると安心して同僚の研究室に戻った。が、それが過ちだった。扉の鍵穴に入れようとしたが入らず、振り向いたときにはすでに同僚はいなかった。


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