第六話 プレゼントは……『わ・た・し』だよっ?
五月雨さつき。
今年で17歳になる娘は、今日も元気いっぱいだ。
「パパ! みてみてっ。ツインテールだよー!」
週末の休日。
リビングでのんびりとくつろいでいると、さつきがひょっこりと顔を出してきた。
「かわいい? パパ、どうかな~?」
休日なのにさつきは気合の入った格好をしている。
確か、今着ている純白のワンピースは、お気に入りのお洋服だ。しかも髪形をいつもとは違うツインテールにしていた。
さつきはあまり装飾品を好まない。肌が弱いのでネックレスなどの金属製品も嫌っている。髪留めなども痛いから嫌と言って何もつけないのだが、今日は特別みたいだ。
「可愛いぞ。さすがお父さんの娘だな」
褒めてあげると、さつきは嬉しそうにぴょこぴょこと跳ねた。
「えへへ~。傾国の美女なんて言いすぎだよっ。世界三大美女に追加して四大美女になれるなんて、大げさだよぉ~」
「そこまでは言ってないけどな」
過大解釈のスケールが大きすぎる。
いや、さつきは可愛いよ? 美人だしキュートだし世界で一番と言っても過言ではないと思っている。でも自分で言うのはちょっとどうなんだろう?
「でもね、パパ? 世界で一番なんてどうでもいいの。わたしはね、パパの『一番』になれれば、なんでもいいよっ!」
休日から大好きオーラをまき散らしながら、さつきは俺の膝に飛び乗ってきた。
ふわりと漂ってきた匂いは、女性用のシャンプーの匂いだった。一年くらい前は男性用のを使っていたけど、俺が女性用のを使うようになって、変えてくれたのである。
おかげで髪の毛はもっとふわふわで綺麗になった。
でも、そろそろ17歳なのに、未だに父親と同じ物を好むのはどうなんだろうね?
「やけに気合の入った格好だけど、今日はどっかにお出かけか?」
「うん! 今日はね、デートなのっ」
「そうかそうか、デートか……って、デート!?」
さつきがデート!
寝耳に水だった。びっくりしてぽかんとしていたら、さつきは悪戯っぽく笑いながら、俺のほっぺたをつついてきた。
「えへへ~。なんと今日は、パパとおうちデートでーす!」
……な、なるほどね?
俺とデートだから、家だけど気合を入れた格好をしていたわけだ。
「ドッキリだいせーこー!」
うちの娘は父親を動揺させてご満悦なようだ。
楽しそうにゆらゆらと体を揺らしている。
「びっくりした? パパ、わたしが違う男の子とデートに行くと思った? 嫉妬しちゃったかなっ?」
「……悪い子めっ」
ほっぺたをむぎゅーとつねる。もちろん痛くないように優しくした。
「ごめんにゃさ~い」
「よし、きちんと謝れるなんて、さつきは偉い子だっ。いい子だぞ~」
ご褒美に頭を撫でると、いつものようにさつきは「もっと撫でて!」と言わんばかりに頭を押し付けてきた。
「パパも、娘をちゃんと『なでなで』できるなんて、いい子だねっ。ご褒美にプレゼントをあげちゃいまーす!」
「へぇ、プレゼントか? 何をくれるんだ?」
肩たたき券とかもらえたらとても嬉しいんだけど。
しかしさつきは、俺の想像以上の物をプレゼントしようとしていた。
「プレゼントは……わたしの全部ですっ。パパ、お嫁さんにどうかなっ? わたしの体と心、全部もらっていいよ?」
うん、重いよ。
たかが『なでなで』のご褒美に君の人生は釣り合わないよ。
「え、えっと、お父さんにはもったいないから、遠慮しておこうかな」
「いえいえ、粗品ですので」
「俺の娘を粗品と言うなんてダメな子だっ。さつきはとっても可愛くして素敵だから、高級品だよ? 少なくともお金でなんて買えないからな!」
「えー? パパ、親バカすぎじゃないかなぁ? そんなに大切ならずっと手元で面倒を見た方がいいんじゃないかなっ? たとえば、ほら……お嫁さんにするとかどう?」
「いや、お嫁さんは重い……って、話がループしてないか?」
ぐるぐるぐる。
何度もさつきがお嫁さんになろうと仕掛けてくる。
もちろん俺は断るのだが、さつきはそのやり取りさえも楽しんでいるように思えた。
「えへへ~。パパとのおしゃべり、楽しいね!」
どうやら俺とおしゃべりしたいだけのようだ。
まったく、本当に可愛い娘である――