表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/44

第四話 パパと結婚するためなら総理大臣になるくらい楽勝だよ?

 こうしてさつきは総理大臣を目指すようになった。

 父親と結婚できない、という法律を変えるため――という、聞いた人によってはバカバカしいとさえ感じる理由である。


 しかしさつきにとっては本気だった。

 そしてこの子は、やると決めたらとことんやり抜く子である。


 その努力はすさまじかった。


『どうせ法律を変えることなんてできない』


 そう思った俺を否定するように、彼女は能力を開花させる。

 一年後――さつきが高校二年生になった時に、俺は自分の軽々しい発言を後悔することになった。


「パパ、見て! テストで100点取れたー!」


「パパ、聞いて! 学校で生徒会長に選ばれちゃったっ」


「パパ、すごいでしょっ。全国模試で一位になっちゃった!」


「パパ、ほめてほめてっ。陸上で代表選手に選ばれたわっ」


「パパ、どうしよう? 色んな大学からうちに来ないかってスカウトされちゃった!」


 文武両道、品行方正、成績優秀。

 その三つを当たり前のようにこなした娘は、目覚ましい結果を残していったのだ。


「パパ、約束覚えてるよねっ?」


 夜。さつきはリビングのソファで俺に膝枕をさせながら、約束のことを口にする。毎晩のように彼女は俺に言っていた。


「法律を変えたら、結婚してくれるよねっ?」


「…‥う、うん。約束、だからな」


 その問いに対して俺は首を縦に振ることしかできない。

 まさか、その気はなかった――なんて言えるわけなかった。さつきの懸命な努力を前に、そんなことを言うなんてありえない。父親として、娘の思いを裏切ることができなかったのだ。


 ここまでさつきが結果を出すとは思わなかったから、動揺していた。


(どうしよう!? さつきが覚醒しちゃった!!)


 この子の母親はもともと、すごい人だった。

 俺なんかとは比べ物にならないような才能ある方で、その遺伝子を引き継ぐさつきが無能なわけなかった。


 というか、母親以上である。


(あの人は天才だったけど飽き性だったから、器用貧乏だったなぁ)


 さつきみたいな努力はできない、自由な人だったから。

 こんなにすごい子に愛されているのは嬉しい。


 父親としてはこの上ないくらいに喜ばしいことでもある。

 でも、その愛は……ちょっと重かった。


「む、無理しなくていいんだぞ? 自分の体を大切にしてくれ……総理大臣にならなくても、さつきは俺の大切な娘だからな?」


 というか、ただの可愛い娘でいてほしい。

 お嫁さんではなく、小さくてかわいいさつきであってほしい。


 しかしそんな親のわがままが叶うわけがない。子供は親の想像なんて軽々と越えてスクスクと育つのだ。


 さつきも、いつまでも可愛いだけの娘ではないのだ。

 この子もまた、立派な『女の子』に育っている。


「ありがとっ。優しいパパが大好き! でもね、別に無理なんてしてないよ? わたし、今とっても楽しいのっ」


 無邪気な笑顔はずっと変わらない。

 去年からまったく身長は伸びていないけど、しかしさつきは少しずつ大人になっている。


 その証拠に、ドキッとさせられることが多くなった。

 蠱惑的な表情がいつも俺を惑わすのだ。


「パパと結婚するためなら総理大臣になるくらい楽勝だよ?」


 夢みたいな絵空事。

 そう一蹴していた過去の自分を恨みたかった。

 この子なら……発言通り、総理大臣になって法律を変えてもおかしくない。それほどの才能をさつきから感じたのである。


 願わくば、いつまでも可愛い子供のままでいてほしかったけど。

 本当に、子供の成長は早いものだ――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ