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第二十二話 娘は学校ではおませちゃん

 さつきの通う王杯学園はこの地域で一番の進学校だ。

 彼女は俺が絡んでいないと基本的に優秀な女の子であろう。テストの成績なども素晴らしかった。


『パパがいっぱい褒めてくれるから、テスト大好きっ』


 小学生の頃くらいから、いい点数を取ったら『みてみてー!』と点数を掲げて持ってくるので、しっかりと褒めてあげていた。


 さつきは褒められるのが大好きだ。おかげで勉強もたくさんしたようである。


 話を戻そう。

 そういうわけで、王杯学園は優秀な生徒も多い。そして大抵、勉強を重視する家庭というのは、親も熱心なようだ。


(授業参観、こんなに来るんだっ)


 学校に到着して、あたりを見渡すと保護者と思わしき人が結構いた。

 みんな、あらかじめ学校から配布されていた案内プリントを見ながら、うろうろしている。きっと、子供が所属する教室を探しているのだろう。


 高校生の授業参観は、場所によっては親がこないところも珍しくないらしい。ただ、娘が通っている学園は例外で、親が参加するのが当たり前になっているようだ。


(なるほどね。だから、授業参観の後に希望者は教師と面談できるのか)


 気になっていたことが、もう一つ。

 授業参観を終えた後『面談』の時間が設けられている。授業そのものは四時限で終わるらしく、生徒はもう帰るようだ。


 しかし希望する保護者は担任教師と面談できるようで、そこで色々と話を聞くことができるようになっているらしい。


(面談も希望しようかな……先生にはご挨拶したいし)


 学校側には色々とお世話になっている。

 サーシャの母親のことや、俺が親権を所有していないことなど、学校側にもきちんと相談していた。その上で今の平穏な状況ができているのだ。


 先生のご協力もあって、俺たちは平穏な毎日を過ごせているというのもあるのだ。


(さて、娘の教室は、確か二年三組だから……)


 俺も教室を探そうとプリントを見下ろす

 そんな時、ふと声が聞こえた。


「パ……じゃない。お父様、ごきげんよう?」


 お父様って呼ぶのは珍しいな。

 お嬢様でもいるのだろうか。まぁ、王杯学園は裕福な家庭の子供も多いらしい。お嬢様もいておかしくないのか。


 と、思っていたのだが。


「お父様、無視なんて酷いです。せっかく、迎えに来たのにっ」


 洋服の裾が引っ張られる。あれ? 俺に話しかけてないか?


 うーん、さつきの声に似ているけど……やっぱり違うだろう。だってさつきは俺のことを『お父様』なんて言わない。『パパ』って呼び方が3歳の頃からずっと続いているのだ。


 たぶん、人違いだろう。俺みたいなぽっちゃりおじさんは中年の男性の中でスタンダードである。間違えても無理はない。


「ごめんね、人違いだとおも……う!?」


 振り向く。その子の顔を見て、俺は目を見開いてしまった。


「人違い? わたしがお父様を間違えるなんて、ありえませんわ」


 銀色の髪の毛が綺麗な女の子。

 まるでお人形さんのように整った顔立ちをしているその子は、いつも見ているうちの娘だった。


「さつき!?」


 びっくりして固まると、さつきが俺の耳元に顔を近づけてくる。そのままこしょこしょと小声で話しかけてきた。


「パパ、迎えに来たのに無視なんて酷いよっ」


 湿った吐息がくすぐったい。それ以上に、さつきの態度がこそばゆい。

 なんでこの子、お嬢様みたいにしているんだろう?


「だ、だって、いつもと違うから別人かと……」


「い、イヤだわお父様。わたしはいつも、こんな感じですもの」


 嘘つけ!

 君、お上品っていうより破天荒そのものじゃないかっ。


 俺はさつきのことをやんちゃ娘としか認識していない。

 だからさつきがお嬢様ぶっているのが、面白かった。


(なるほどね。だからさつきは、学校での姿を見られたくなかったのかっ)


 あれだけ恥ずかしがっていた理由がようやく分かった。

 この子、学校ではかなり猫を被っている。おませな感じで普段を過ごしているのだ。


(可愛いけど……ちょっと面白いなっ)


「ふふっ」


 思わず、ちょっとだけ笑ってしまう。

 それを見て、さつきは涙目になりながらほっぺたを膨らませた。


「わ、笑わらないって約束したのにっ」


「い、いや、笑ってない! 笑ってないから、泣くなさつきっ。お嬢様の皮がはがれてるぞ?」


「はがれてないもん! わたしはいつもこんなだもんっ!」


 思わず素になった娘に、やっぱり笑いは抑えきれなかった。

 この子の別の一面も見られて嬉しい。


 本当に、愛らしい娘だと思った――

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんだ、ただのファザコンの天使かよ
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