表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/44

第十七話 彼氏じゃないよ、お父さんだよ!?

 うちの娘が三人の男にナンパされている。

 彼女はとても迷惑そうな顔で明後日の方向を見ていたので、すぐに駆け付けた。


「こらこら、何やってるのっ?」


 声をかけると、三人の男たちは露骨に嫌そうな顔をした。


「はぁ? そっちこそ何やってんだよ、おっさん」


「女の子を助けたい正義マン気取りか? ウける(笑)」


「ねぇ、かわいこちゃん? そこのおっさんは君の知り合い?」


 散々な言われようだけど、別に気にしてはいない。

 どうも俺は顔が舐められるような形状をしているらしい。

 特に若い男の子にはいつも見下されているので、なんとも思わない。


 しかし、俺のことが大好きなさつきが、何も思わないはずがなかった。


「むぅ」


 男たちの発言にさつきが怒っていた。

 頬をぷっくりと膨らませて、不機嫌そうに唇を尖らせている。


 このまま言われっぱなしなのは、面白くなかったのだろう。

 さつきは、こんなことを言った。


「もちろん知り合いだよ? この人は、わたしの『彼氏』ですっ」


「「「「「えぇ!?」」」」


 驚愕した。男たちはもちろん、俺まで声を上げてしまった。

 いやいや、彼じゃないよ!? お父さんだよ!


「嘘だろ、ありえねぇよっ」


「年の差いくつだ!? 20は離れてるだろっ」


「っつーか、釣り合わねぇ……こんな小太りのおっさんが美少女と付き合ってるなんて、許せねぇ」


 彼らは俺を敵視するように睨んできた。

 もちろん、俺は否定した。


「ち、違うっ。彼氏なんかじゃない!」


「えー? パパ、わたしの彼氏じゃないのー?」


「「「パパ!?」」」


 またしても三人が驚く。

 さつきが彼氏をパパと呼んでいるのだ。びっくりするのも当たり前だ。


「おいおい、おっさん?こいつはいけない関係なんじゃねぇの?」


「あ、オレ知ってるわ。こういうの、援助交際っていうんじゃね?」


「なるほどな。おっさんはこの子を金で買ってんのかよ……おいおい、そいつは良くねぇな」


 そしてあらぬ方向に勘違いしていた。

 援助交際? いやいや、普通に親子だから!


「パパ、がんばれー」


 男たちの後ろでさつきが応援している。

 君のせいでややこしい事態になっているのに、のほほんとしすぎだ。


「じゃあ、こうしようぜっ。おっさんは金を出す、俺たちはこの子と遊ぶ、それでウィンウィンじゃね?」


「そうだな。俺たちの方が若いしかっこいいから、絶対にいいだろ」


「ということで、おっさん……金だけ出して帰ってくんね? あ、一応オレ、ボクシングしたことあるんだけど、一発もらってみる?」


 シュッシュッシュ。まるで電灯のヒモとじゃれる小学生みたいなシャドーボクシングを繰り広げる男に、俺は首を横に振った。


「暴力はよくないよ。あと、援助交際なんてしてないから……俺はただの冴えないおっさんだよ。今から、この状況を楽しんでいる小悪魔に説教しないといけないから、帰ってくれ」


「うるせぇな、いいから言うこと聞けよオラァ!」


 ガシッ!と胸倉を掴まれた。

 威圧すように声を荒げているが、子犬みたいなものだ。


 臆病で頭の悪い犬ほど、よく吠える。

 それは人間も同じだ。


「……あれ? このおっさん、ピクリとも動かねぇ!?」


 胸倉を掴まれているけど、それだけだ。

 一歩も動くことはない。倒れ込むなんてありえない。それも当然。


 俺ほどの重量があって、体幹がしっかりしていれば、一般人に倒すことなんて絶対にできない。


 俺にしりもちをつけることができるのは、同じくらいの重量級の人間か、可愛い娘の『大好きアタック』くらいである。


「……俺はただのおっさんだけど、こういう人間ほどあまり怒らせない方がいいと、忠告しておこう」


「っ!!」


 両手を前に出す。反撃されると思ったのか男が殴りかかってきた。

 その手を躱し、からめとり、足を払ってそのまま地面に叩きつけた。


「ぐはっ!?」


 もちろん、後頭部を打ち付けないように気を付けてあげる。素人なので受身もろくにできていない。ボクサーと名乗るには、体が少し弱すぎた。


「あまり、肩書を自慢するのは、趣味じゃないんだけどね」


 残りの二人にも聞こえるように、ハッキリと言っておく。


「若い頃から柔道を続けていてね。五段……黒帯をつけているよ。俺に喧嘩を売るなら、もう少し体重を増やした方がいい。今みたいに細いままなら、話にならないから」


 運動神経はない。闘志も薄い。しかし俺は生まれつき太かった。

 昨日今日のデブではない。生まれつきのデブだから、体の動かし方は分かっている。そしてそれが武器になるのが、格闘技。特に柔道は殴ったりしなくてすむので、俺に合っていた。


 中学生から始めたならいごとだ。今は週に一回くらい道場に行って、顔見知りに挨拶する程度だけど、その技は今でも体に刻み込まれている。


 初恋の人を守るために、分かりやすい強さを求めた。

 おかげで普通の人間よりは、頼もしい体になってくれたと思う。


「それとも、まだ挑んでくる? これ以上はやめた方がいいよ。君たちを鎮圧してから、今度は警察を呼んで対処してもらうことになる」


 普段は警備員をやっている。警察との連携も慣れたものだ。

 この子たちは分かっていないだろうけど、初対面の相手に殴りかかるのは立派な傷害罪だ。俺が相手だから大事になってないけれど、これ以上エスカレートするようなら、容赦するつもりはない。


「ちっ……おい、帰るぞ!」


 分が悪いと踏んだのだろう。元気のある二人が、背中を打って悶絶する一人を抱えて離れていった。


 これで一件落着だ。

 さて、と。


「こらっ。ああやって煽るようなこと言ったらダメだぞっ。反省しなさい」


 ベンチに座ってニコニコしている娘のほっぺたをつまむ。

 彼女は興奮したようにはしゃいでいた。


「パパ、すごーい! あの人がぴゅーんって飛んだ! やっぱりパパはつよーい!」


「でも、ああいうことは本当はしたくないんだから、今後は大人しくしないとダメだよ?」


 さつきも巻き込まれる可能性はあるのだ。

 いくら俺が守ると信頼していても、やっぱりああやって煽るのは良くない。


 このあたり、俺が本気で怒っていることは感じ取ったのだろう。

 たちまちに、さつきはシュンとして俯いた。


「うぅ……ごめんなさい。パパがバカにされたのが、許せなかったから……」


 ……まぁそうだよな。

 この子が俺をバカにされて、怒らないわけがない

 俺だって、さつきをバカにされたら、さつき以上のことをしでかすかもしれないのだ。


 あまり怒ってばかりだと、さつきが可哀想か。


「反省したなら、それでいいよ。じゃあ、帰ってカレーでも食べよう? 食材は家にあるから、すぐに作る」


 彼女から荷物を受け取るつもりで、手を差し伸べる。

 しかし受け取ったのは、さつきの小さな手だった。


「うんっ。分かった!」


 無邪気に笑って、ルンルンと鼻歌を口ずさみながら歩き出すさつき。

 荷物持ちは俺にはさせてくれなかった。


 まるで、俺が握るべきなのは荷物じゃなくて、さつきの手だと言わんばかりの態度だ。


「……まったく」


 苦笑しながらも、さつきに引っ張られるままに歩く。

 気持ちは、受け取ろう。疲れたように見えたら、その時に荷物は受け取ればいいや。


 まったく……うちの娘は本当に可愛いなぁ――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] お義理父さん、イケメソ
[一言] 大切な人を守れるようになろう、と思い鍛練続けたのが、報われていますね。守る対象は変わっても。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ