第十六話 可愛すぎる娘がナンパされないのは逆におかしいから安心した!
予定としては車で駅前のショッピングセンターに行こうと思っていたのだけれど。
「え~? デートなのに車なんてありえないよ~? パパ、デートって知ってる? おてて繋いで仲良く歩かないといけないんだよ? なんで車なんて乗るの?」
さつきにそう言われたので、歩いていくことになった。
まぁ、徒歩ニ十分くらいの距離だ。別にたいへんではないけれど、高校二年生の娘と手をつないで歩くのは、果たして普通なのかどうかちょっと疑問だ。まぁ、疑問なだけで、手はしっかり繋ぐんだけどね。
「さつきの洋服と、それから少し家具も見て行こうか……ソファ、別なのがほしいからね」
できれば、さつきと俺が並んで座っても広々と使えるソファがいい。
今のはちょっと小さめなので、だからさつきは膝の上に座って来るのかもしれない――なんて可能性を、少しだけ考えていたのだが。
「そうだね! 今のソファだと広すぎるから、もっと小さいのがいいねっ。わたしもパパにくっつけて嬉しいしっ♪」
「……もっと小さくなっちゃうかぁ」
まぁ、そうだよな。うん、知ってたよ。
別にスペースなんて関係ない。さつきが膝の上を占領するのは本能なのだ。飼い猫がよりによってキーボードの上にばっかり座る現象と同じである。
「とりあえず、行こうか」
そんなこんなで、色々と見て回った。
さつきの洋服も、彼女が好きそうなものをしっかりと買うことができた。
……いや、さつきの好みというよりは、俺の好みで選んでいたのだが。
洋服って大多数に見られることを意識して買うものではないのだろうか。
「パパにさえ可愛いって思われたら、それだけで満足だもーんっ」
そういうことらしい。
俺以外の人間は、さつきにとってその他にすぎないのかもしれない。
親としては、もっと広い視野を持ってほしいものである……まぁ、視野が広かったら、お父さんのことを好きになんてならないか。
「ソファはまた今度かな」
家具屋さんにも行ってみたが、しっくりくるものがなかった。
というか、さつきが全部ダメって言ったので、買えなかった。
「なんでソファってあんなに大きいのしかないの? 一人座るだけでギューギューになるやつがいいのにっ」
「一人用のソファだと、ぽっちゃりしてるお父さんが窮屈だからね……」
太っていて申し訳ない。
さつきは嘘みたいに細いのに、なんでだろう? 同じご飯を食べているはずなのになぁ……さつきの摂取したエネルギーはどこにいっているのだろうか。
「夕食はどうする? たまには外食しようか?」
ショッピングセンターには飲食店も多数ある。先程、見かけたフードコート付近には、美味しそうなお店がたくさんあった。
しかし、さつきはやれやれと肩をすくめる。
まるで俺がありえない発言をしたと言わんばかりに呆れていた。
「パパはわたしが世界で一番好きなごはんが何か知らないの?」
「カレーだろ? いつも美味しそうに食べてるし」
「違うよ! パパの作ったごはんが、一番好きなのっ! カレーは確かに好きだけど、パパが作ったからより美味しくなるんだよっ!」
……俺は別に、料理が上手というわけではないんだけどなぁ。
さつきは基本的に、俺がやっていることについては色眼鏡で見る傾向がある。料理を作ってあげればなんでも美味しいと思えるくらい、彼女は俺のことが大好きみたいだ。
こういうところは素直に可愛いと思う。
食事を用意するのは大変なので、美味しい!って笑顔で言ってくれるだけで、頑張れるのだ。
「だから、今日はパパの作ったカレーが食べたいなっ♪」
「……じゃあ、家に帰るか」
買い物も終わった。休日を娘と自由に満喫できた。
思い残すことは何もないので、帰宅しようと思ったのだが、ふとトイレを見かけたので、足を止めた。
「さつき、ちょっとお手洗いに行ってくるから、待っててもらえるか?」
「……一緒に行っていい?」
「ダメに決まってるだろっ。大人しく待っててくれ……高校生なんだから、さすがに大丈夫だよな?」
「うぅ……分かった。早く帰って来てね?」
トイレに行くのにも許可がいるのでたいへんだ。
早めに用を済ませる。もちろん手もきれいに洗っておいた。年頃の女の子と生活しているので、清潔さだけはいつも気を付けている。
そして、トイレから出たのだが……
「ねぇねぇ、君可愛いねぇ」
「今一人? ちょっと遊ぼうよ」
「お兄さんたち、楽しい場所知ってるんだけど」
トイレの近くにあるベンチで休んでいたさつきが、三人の男に取り囲まれていた。チャラチャラしてそうな若い成人男性である。
恐らく年齢は大学生くらいか。あるいはフリーターの可能性もあるが、外見からは職業まで分からない。
あれは……もしかして『ナンパ』というやつではないだろうか!?
(や、やっぱり、さつきは可愛いから、ナンパされるのは当たり前か……)
さつきはとても可愛いので、世間の男が放っておくはずがない。
しかし、ナンパされたという話はあまり聞かないので、実は気になっていた。
(良かった。うちの娘はナンパくらい余裕でされるくらい可愛い……って、そんなこと思っている場合じゃなくてっ)
変なことを考えていた自分に喝を入れる。
さつきはものすごく迷惑そうな顔をしているのだから、早めに彼らから離してあげないと!!




