プロローグ 娘が俺と結婚するために法律を変えようとしているんだが
俺には最愛の娘がいる。
世界で一番の宝物だ。
「パパ、わたしねっ……おーきくなったら、パパとけっこんするー!」
五歳の時、娘は口癖のように毎日そう言ってくれた。
もちろん、一時的な発言であることは分かっている。
幼い子供の発言を本気にしているわけではない。
だけど、嬉しかった。
大好きな娘が、パパである俺のことを愛してくれている。
それがとても幸せだったのだ。
でも、分かっている。
大きくなったら、きっと娘はパパのことなんて忘れるだろう。
小学校高学年になったら、きっと反抗期になってパパのことを嫌うようになるだろう。
『お父さんの洋服と一緒に洗濯しないでっ』
とか言われちゃったら、泣いちゃうかもしれない。
もっと大きくなって、中学生になったら、絶対に彼氏ができるはずだ。
だって娘は可愛い。パパとしては彼氏なんて作ってほしくないけど……こんなに可愛い子を世間の男が放っておくわけがない。
寂しいけど、それが『成長』だ。
パパは悔し涙を流しながらも、娘の成長を喜ぶのだろう。
そして高校生になったらパパのことなんて無視するようになるかもしれない。
家族よりも友人を大切にするようになる年齢だ。この頃になったらパパのしてあげられることは少なくなる。せいぜい、娘が進みたい進路に行けるように、色々とアドバイスを送ってあげることくらいか。
それから、道を踏み外さないように叱ってあげることも、時には大切だ。
高校生になったら様々な誘惑に直面することになる。悪い大人にそそのかされることもあるかもしれない。その時、子供を守ってあげられるのは、親だけだ。
君のためなら、パパは嫌われ者にだってなれる。
娘の幸せのためなら、パパはなんだってできるのだ。
もっと大きくなったら、晴れて娘は結婚するだろう。
そのとき、三つ指ついて『今までありがとうございました』なんて言われたら、パパは号泣する自信がある。
結婚式なんて、泣きながらスピーチする未来が今からでも予想できた。
それくらいパパは娘を愛している。
嫁にいった娘は、子供を生んで、温かい家庭を築き、幸せな人生を送る。
それは、とても素敵な未来の設計図。
そうなることをパパは願っていた。
だけど……何やら、娘の様子がおかしかった。
五歳の娘は『パパとけっこんするー!』が口癖だった。
そして小学校五年生になったら、『パパと結婚するね?』と確認するようになった。
中学二年生になると『パパとどうやったら結婚できるかな?』と分析を始めていた。
それから高校一年生になると『パパと結婚するために法律を変えるよ!』が目標になった。
…………あれ?
娘よ……君、五歳の頃から口癖が変わってなくない?
大きくなっても『パパとけっこんする』という約束を、娘は忘れていなかった。
ちょ、ちょっと待ってくれっ。その気持ちは嬉しい。嬉しいけど……パパは別に本気で結婚したいわけじゃないんだよ!?
いつまでもそんなことを言うものだから、パパは娘にいつまで経っても本当のことを言えなかった。
娘へ。
君とパパは、実は血の繋がった親子じゃないんだよ?
本当は『義理の娘』なんだ――って、高校生になったら教えてあげるはずだったのに!!
「パパ、わたしねっ……法律を変えるために総理大臣になる!」
娘は本気で俺と結婚しようとしていた。
そのせいで、俺は未だに『義理の親子』であることを言えないままだった。
はたしてこれから、どうなることやら――