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第1章 第3話 アリスからの呼び声 ※挿絵あり

 最高に効率のいい学園生活を送ってみせる。そう意気込んだのはいいが……。


「帰りてぇ……」

 目の前に広がる光景に、俺のメンタルは一瞬にして砕かれていた。


 人、人、人。校門の付近だけで中学の全校生徒分はいるんじゃないかと思うくらい人に溢れていた。

 確かこの私立渡蛍学園は中高大一貫校だったか。大学は少し離れたところにあったはずだが、それを差し引いてもやっぱり異常なほど生徒が多い。今日は入学式だけのはずだろ? 部活勧誘でもやってんのか?


 人混みは嫌いだ。気持ち悪くて仕方ない。家から近いのと、偏差値的に勉強せずに済むという理由だけで選んだのは間違いだったか。効率を優先した結果非効率な結果になってしまった。


「さて……」

 郵送されてきた地図を見る。やっぱりこの人数だけあって敷地は広いな。道路を挟んで橋まで掛けられている。今俺がいる正門側は勉学ゾーンと書かれていて教室や職員室のある棟が多く点在している。対して入学式が行われる体育館は橋の向こう、部活ゾーン。この人の群れを突っ切らなくても敷地の周りを半周して裏門から入れば辿り着けるが……かなり遠回りだな。第一非効率だ。かといってやっぱり正面突破もめんどくさいし……。


「こういう時こそ、最高効率だ」

 今の俺には時謀がある。『時間跳躍(スキップ)』を使えば移動というしんどい時間を無視して体育館に着ける。


 いや、ならいっそ入学式自体を飛ばすのが効率いいか。どうせ入学式でやることなんて校長のありがたい無駄話くらいだろう。確実に時間の無駄だ。


 入学式は11時から12時30分までの予定になっている。盤面の一周を超す12時以降に干渉することはできないが、12時の少し前まで飛び、過ぎたらま跳躍すればいい。


 設定は11時59分。さぁ、『時間跳躍(スキップ)』だ。


 次の瞬間。


「っ……!」

挿絵(By みてみん)


 目の前に下着姿の女性がいた。


「なっ……!?」

 うっそだろ!? 今入学式の最中じゃないのか!? なんで資料が散らばった応対室みたいなところにいるんだよ!?


 いや、今はそれよりも。髪を鮮やかな金に染めた耳のついたカチューシャが目を引く派手目な印象のあるこの女子からどうやって逃げるかだ。

普通に逃げるのはアウトだ。こんながっつり目が合った状況で逃げてもただの覗き魔として終わってしまう。


 かといって『時間逆行(リバース)』は使えない。一度時間に干渉してしまったからだ。だとしたら『時間停止(ストップ)』。時を止めて今の状況を幻にするしかない。


「頼む……!」

 なんとか上手く切り抜けられますように……!


「ご主人さまぁぁぁぁっ!」

 その声と同時に部屋に飛び込んできたのは……、


「メイド!?」

 なんかメイド服姿の女子が凄い勢いで走ってきたんだけど……!? そして、


「ていっ」

「なっ!?」

 俺の両手に手錠をかけた。これ……やばい! 後ろで手を組まされたから時謀を操作できない……!


「愛流この子誰!?」

「それが……というかその前に服! 服着てください!」


「あぁそうだった! じゃあ目塞いで!」

「かしこまりましたご主人さま!」

「そのご主人さま呼びやめてくんない!?」


 なにか話した後、メイドがタオルを使って俺の両目を塞ぐ。くそ……これで覗き魔になるのは確定。でも何かヘマをしても12時を過ぎただろうから『時間逆行(リバース)』を使えばこの地点まで一度戻ってこれる。とりあえず大人しくするしかないか。


「それでこの子なんでここにいるの? たぶん新入生だよね」

「ご主人さまが降壇した後入学式の最中脱走したんです。それで追いかけたらここに逃げ込んで……」

「あーなら覗きは不問だね。そもそもここで着替えしてたあたしが悪いんだし」


 手錠をかけられ目隠しをされたまま大人しく床に座っていると、二人が話している声が聞こえる。

 ていうか脱走? いくら俺でもそれはないだろ。よほど嫌なことでもない限り。


「なにやってたの?」

「ドキドキ☆大自己紹介ゲームです」

 前言撤回。そんなめんどくさそうな企画に付き合ってられるか。


「はい、着替え終わったし外していいよ」

「了解です! 本官にお任せください!」


 本官? メイドだろ? まぁなんでもいいんだけど。

 たぶんメイドの方が俺の目隠しと手錠を外し、その場で立たせる。


「……なんでコスプレ?」

 メイドの方はなぜか警官服に着替えてるし、着替えてた方は真っ白のセーラー服。


 渡蛍学園の制服は四種類。男子用ブレザー、学ラン。女子用ブレザー、セーラー服。だが全てブラック系列だ。そもそも渡蛍学園は私服登校が認められてるからコスプレでもいいっちゃいけど、白セーラーのデザインが渡蛍のものと同じすぎる。


「……オッケーわかった。あたしの話なんも聞いてなかったんだね」

 当然の疑問だと思ったが、セーラーの方は呆れた顔でため息をついている。そもそもこの人誰なんだ? ていうかここどこ?


「これは入学式の挨拶でも言ったけど、あたしは三年生の学園祭実行委員会委員長、(あかつき)兎羽(とわ)。でこっちは、」

「本官は二年の副委員長、東雲(しののめ)愛流(あいる)でありますっ」


 三年生と二年生……学園祭実行委員会か。こりゃ『時間跳躍(スキップ)』を使ってなくても覚えられてないな。学園祭なんて死ぬほど興味ねぇもん。


 だって学園祭なんて非効率性の塊。学校は勉強の場……なんて常套句はどうでもいいが、わざわざ長期間準備してたった一日二日で終わらせる学園祭に意味がないのは事実。そしてそんなものに自分の学生生活を使っている委員会の役員なんて馬鹿の極み。話は合わないだろうな。


「それとこの白セーラーは立派な制服の一つ。挨拶の時にも言ったけど、学園祭実行委員会は外部の生徒にもわかりやすいようにこれを着るようにしてるの。さっきはブレザーだったでしょ? 見せるために着替えたんだよ」

「そうですか……学園祭でもないのにご苦労様です」

 この人たちとこれ以上話すことがないので終わらせるためにわざと感じ悪く言うと、二人の顔が一瞬で硬直した。


「……今入学祭だって知ってるよね……?」

「入学式じゃなくて?」

「そっか……そうなんだね……」


 強張らせた顔のまま二人は顔を見合わせると、メイド……いや警官の方が百五十センチ近くしかない身長から俺を見上げる。


「部活はもう決めてるの?」

「いや入るつもりはないです」

「あー……やっぱそうだよねー……」


 俺が部活に入らないのは効率を考えてのことなのに、自堕落みたいに思われるのはなんか嫌だ。かと思えばまた二人は緊張した面持ちをしているし……何だ? 何を考えてるんだ? この人たち。


「――学園祭実行委員会委員長として命じます」


 そして暁さんは一度下を向くと、意を決したように顔を上げた。


「あなた、学園祭実行委員会に入りなさい」

「……は?」


 『時間逆行(リバース)』。真っ先にそれが頭をよぎったが、不思議と手は動かなかった。

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