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8月17日の鬼 〜あだやおろそか〜  作者: 鴨下つぐむ
39/92

39.もしかすると鬼たちの仕業だったのではないだろうか?

 平安京は大きく分けて三つのエリアから成っている。

 まず、市街地としてのエリア。

「碁盤の目」状に整備されており、一般的に平安京と呼ばれるのがこのエリアである。

 その中心部に「大内裏」と呼ばれるエリアがある。

 大内裏は朝廷の中枢機関が集まったところで、いまでいえば永田町や霞が関のある千代田区のようなものだ。

 そして、最後のエリアが大内裏のなかにある「内裏」。

 ここは帝が住まう場所である。

 その日本の最重要地とも言える場所のすぐそばに鬼が出没するようなエリアがあったのだ。


 涼太が首をかしげた理由はそこにある。

 いまの常識ではとても考えられないことだ。

 なぜ、平安京はそんな無法地帯になるような空間を、わざわざ設置したのだろうか? 

 当初は内裏の代替地として用意されたとのことだったが、鬼が出るようになっても放置していたことはどうにもうなずけない。


 平安京がいまとは違う位置にあったことも涼太は知った。

 京都市の中央部には「京都御苑」がある。

 一般的には京都御所と呼ばれているが、御所は御苑のなかにあるもので、ここが明治天皇に至るまでの歴代天皇の住まいだった。

 その御所は平安京の内裏から東へおよそ2キロの場所にある。

 平安京ができたときとは帝の住まう場所が違っていたのだ。

 涼太はいまの京都市は平安京の造りをそのまま踏襲していると考えていた。

 京都御苑のあるところが平安京の中心部、大内裏だと思っていたのである。


 なぜ、内裏は移る必要があったのか?

 図書館の資料では、こんな説明がなされていた。

 内裏は天徳4年(960)に焼亡して以来、およそ6年に一度のペースで焼けている。

 内裏が再建されるあいだ、帝は公卿たちの邸宅を仮の住まいとしていた。

 その仮住居のことを「里内裏」という。

 現在の京都御所もその里内裏の一つで、もともとは東洞院土御門殿だった。

 鎌倉時代初期から内裏が再建されなくなり、里内裏がやがては内裏となった。


「6年ごとに火事になるというのも相当なものだな」

 と涼太はつぶやく。

 そしてふと妙な想像をした。

 その火事は、もしかすると鬼たちの仕業だったのではないだろうか? 

 帝が東へ移ったのは、宴の松原に跋扈する鬼たちから逃れるためだったのかも知れない。

 一方で、こんなことも考えた。

 宴の松原は内裏の代替地だったのだから、いっそのこと、ここに内裏を再建すれば良かったのではないか。

 鬼たちの住処を一掃できるし一石二鳥と言える。

 それができなかったのは、宴の松原は手がつけられないエリアとなっていたからかも知れない。


 では、かつて大内裏や内裏があったところはどうなっているのだろう? 

 地図で調べてみると、普通の市街地になっているようだった。

 内裏跡の石碑はところどころ建っているものの、スポット的に何か建造物があるわけではなさそうだった。

 宴の松原もいまではなくなっているようだ。

 だが、かつてのそのエリアには寺院が密集しているとのことだ。

 住宅地とは違うので、少しは歩きやすいだろう。

 涼太は後日、足を運んでみようと決めた。


 こういう調べ物に慣れていないこともあって、ここまでのことが分かるのに半日以上かかった。

 さすがに疲労を覚えた涼太は時刻を確かめるためにスマートフォンを取り出そうとした。

 だが、どうやら自宅に忘れてきたようだった。

 一刻でも早く図書館に行きたかったので、ついうっかりしてしまったのだろう。

 館内の時計を見ると、すでに3時近くになっている。

 空腹も忘れて没頭していたようだった。

「あ、しまった!」

 と、そのときになってようやく涼太は思い出した。

 今日は両親がやって来る日だった。


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