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働き方改革

作者: 樹村 綾人

 「働き方改革」が叫ばれて久しいが、介護現場の実態はそれとは縁遠い。


 人が足りないから、介護士ひとりで20人の入居者を見ろと言う。

 20人は起きる時間も寝る時間もバラバラだし、心身の状態もさまざまだ。ふと目を離せば徘徊して転び骨折したり、乾電池を飲み込んで喉を詰まらせたりする。誇張ではなく、数秒の油断で死ぬおそれがある。1対1でも万全かどうかわからないものを、20倍やれと言う。

 そのくせ、給料はひとりぶんだ。いや、0.8人ぶんくらいかもしれない。ろくに資格もないそこらのサラリーマンのほうがよほど多くもらっている。

 そうすると当然、人はどんどん辞めていく。ひとりあたりの業務量が増え、新しい人は来なくなる。

 うちも4月には15人スタッフがいたが、9月のいまは10人だ。


 このままではダメだ。退職の波は止まらず、私もいずれ辞めるか過労死するかになってしまうだろう。

 私は、この仕事は好きなのだ。好きでい続けたい。このまま嫌いになってしまうのが怖い。


 「働き方改革」しなければ。

 上の変化を待っていては遅い。私が変わらなければ。

 私が負の連鎖を止め、ここを人が入ってくる職場に変えるんだ。

 

 私は勉強した。

 書籍を買ってプログラミングを独学で学び、手書きだった日報入力をシステム化した。

 週に一度あるかないかの休日には、マネジメントやコミュニケーションの研修に通った。勉強会を主催し、他のスタッフにも知識を共有した。

 英語を学び、海外の先進事例も見るようにした。すぐに役立つかはわからないが、なにか改革のヒントがあるかもしれない。


 成果はめざましく、年度末の3月には月平均残業時間は15%も削減された。一度だけだが、定時で帰れた日もあった。そしてなにより、下半期は1名も退職が出なかった。この業界では革命的だ。

 これで少しは、就職・転職市場でも人気が出るかもしれない。

 私はひさびさに明るい気持ちで新年度を迎え、朝礼の所長あいさつを聞いていた。


「えー、昨年度はみなさんの頑張りにより、下半期、働き方改革を劇的に推進することができました。心から感謝します。ここでうれしい報告ですが、我々の功績が本部からも認められ、このように表彰状をいただくことができました!また、諸連絡ですが、残業時間が全社平均を下回ったため当面は新卒・中途の採用予定はないとのことです。新年度もこのメンバーで一丸となり頑張っていきましょう!」

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