なろうのエッセイジャンルには「作者」や「読者」に配慮した内容のエッセイが少なくないけど、もっと「書籍購入(予定)者」に配慮したものがあってもいいんじゃないか。
小説家になろうのエッセイジャンルには「作者」や「読者」の立場に配慮した内容のエッセイが少なからずありますよね。でもそれに比べて「書籍購入(予定)者」に配慮したものは少ない印象があります(ただの私の印象で、事実とは違うかもしれませんが)。
「書籍購入(予定)者」は自分の可処分所得を割いて本を購入するわけですから、なろうでタダ読みしている読者以上に配慮されていいはずです。さらに、本を読むには可処分時間も割く必要がありますから、購入する本に優先順位を付けることも当然、許されてしかるべきです。そこでいくら作者が「買ってもらえないと打ち切られるので買ってください」と懇願しても、どの作品を優先的に購入するかは買う側の選択の自由の問題ですから、つまるところ関係ありません。売る側に配慮して買いたくもないものを無理して買う道理はないですよね。
ではこのことをふまえた上で、「書籍購入(予定)者」に配慮するとはどういうことでしょう。ここまでの流れに従うならば、可処分所得と可処分時間を無駄なことに使わないで済むよう手助けする……すなわち「買ってはみたものの、読んでみたらひどくつまらなかった」といったミスを最小限に減らす方法を、具体的に提案することではないでしょうか。
だとするなら、一巻以上出版されている作品や一作以上出版している作者の作品については、かなり簡単な判別方法があります。
……と、その方法を解説する前に「一般的に判断材料にされがちだが、実際は判断材料として妥当ではない数値」について少し考えてみます。私が判断材料として妥当でないとみなしているのは、初版の出荷数とPOSデータです。え? それ両方とも判断材料になるって? いや、よく考えるとそんなことないですよ。
初版の出荷数は刷った冊数ですから購入者の意志は関係ありません。またPOSデータもなろうで読んでいない未読の人や表紙買い(絵師買い?)の人も少なからずカウントされていますから、それを基準に内容の良し悪しを判断するのは難しいと言えます。要は作品本文との因果関係がはっきりしない数値だから、内容の判断材料として妥当でないわけです。また電子書籍の売上なども、一部を読んでから購入取り消しできないのであれば同様です。中身について十分知らない状態で購入した人が少なからずいるのに、その数値が内容の良し悪しを正確に示しているとするのは、推論として明らかに不適切です。
そこでより信頼できる数値として私が推奨するのが、既刊作品の中古価格です。まず基本的な話として、中古価格の決まり方には、おおまかに以下のような法則性があります。
1、中古市場で買いが多ければ、中古価格は下落しにくい。
2、中古市場で買いが少なければ、中古価格は下落しやすい。
簡単ですよね。需要が多ければ価格は維持されるし、少なければ価格は下落する。加えて中古で買った商品を再度売る人が多ければ、供給過多の状態が続き、やはり価格は下落していく。
中古市場は供給量と価格の両方が常に流動的に変化します。そのため中古商品の価格は、(損耗による価格低下を別にすれば)基本的にその商品に対して「買い」が優勢か「売り」が優勢かで決まります。逆に考えれば、中古価格の下落が著しい商品というのは、中古市場に流通する量が多く(売られやすく)、買われにくい商品だと考えられます。すなわち保有し続ける人よりさっさと売る人のほうが多いと推測できるわけです。そのような点を考慮すると、価格が固定されている新品の売れ行きよりも、中古価格の推移のほうがその商品の真の商品価値を反映していると言えます。
ただここでひとつ注意点があります。それは、商品価値の高低と相性の良し悪しは必ずしも一致しないということです。蓼食う虫も好き好きと言いますし、市場競争に負けた打切り作品が自分に合わないとは限りません。もちろんそれは商業作品以外のすべての物語について言えることですから、「書籍化されていない作品は書籍化されている作品より総じてつまらない」といった、なろう界隈でたまに耳にする主張も、普通に考えて明らかにおかしい(選好性を考慮に入れていない)ので無視してよいでしょう。
(補足:まずもって、書籍化作品を選定している編集者の判断が常に正しいのなら、出版業界がこれほどの苦境に立たされているわけがありません。なろうだけでもリソースは数十万作あるのですから、ヒットする可能性のある埋もれた作品が無いと考えるのは単純に誤った推論です。事実キミスイのような前例もあるわけですし)
そもそも物語なんて読んでみなければ内容なんかわかりようありません。一度も読んだことのない物語についてなんらかの評価を下せると思っている人は、単に知能が低いだけでしょう。試しに私のメイン作品である『亡国の系譜と神の婚約者』を、あらすじも本文も感想もレビューもまったく読まずに評価してみてください。できないですよね? 内容を知らないのに正確な評価を下すなんて、野球経験がまったくない素人のおっさんが二日酔いの状態で120メーター先に落ちている十円玉にノーバウンドでボールを命中させることよりも困難です。
話がだいぶ逸れましたが、中古価格が安いことや、アマゾンなどで低評価が多いことは、自分との相性を判断する上であまり参考になりません。なので中古価格が低かったり評価が低かったりしても、いきなり購入を控えるのではなく、なろうで一度読んで確認してみるとよいでしょう。それでもし面白いと感じたのなら、どれだけ値崩れしてようが低評価が付いていようが、その作品はあなたにとって良作です。打切られないように可能な限り新品で買い支えましょう(なろう書籍化作品の中古価格が二、三か月で大幅に下がることを考えると、新品購入を手控えたくなるかもしれませんが)。
逆になろうで読んでみて「あー、やっぱ評判通りクソだわ」と思ったのなら、それは少なくともあなたにとってまぎれもないクソです。そっとブラバして中古品すら購入しない決意を固めましょう。可処分所得と可処分時間の無駄です。自分の人生の貴重な時間は大切にしましょう。