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カノジョに恋した理由  作者: 仲村 廣樹
13/15

第十二話:夢の国の彼女

仲村廣樹ナカムラヒロキの高校生時代の話です。ちょくちょく誤字脱字直します。



 ――夢の国――

 廣樹達六人は開園直後のワールドバザールの出口付近にいた。

「ついにここまで来たな」奈那が全員を見ながら言った。

「まさか、いきなりあんな事があるなんて……本当、夢の国って感じがした」廣樹が感動したような口調で興奮気味に言った。

「……あんたね……ディズニーに来てまで通った駐車場に並んでるスーパーカーを見て感動なんかしてるんじゃないわよ! 本当に全くこの男は……」京子が廣樹の背中を叩きながら言った。

「まあまあ、廣樹くんが車好きなのはよく伝わった訳だし……」綾子が京子を諭すように言った。

「それよりここからは別行動だけど、どんなルートで行くか決まってるの?」純也が奈那に訊いた。

「――当たり前だろ! ジャンケンでアドベンチャーランド、トゥモローランド、シンデレラ城ルートのどれにするかを決めるって前もって話もしてるから!」

 京子、綾子、奈那が一斉にジャンケンを始めた。

「――じゃあ、私と廣樹はトゥモローランドルートスタートだね」京子が廣樹に腕を絡めながら言った。

「私と純也はアドベンチャーランドルートだな!」奈那が純也の肩を軽く叩きながら言った。

「……俺と綾子はシンデレラ城スタートのルートだね。みんな開始が違っても……行きたいアトラクションとかで意外とばったり会いそうだけどね?」慎一がピアスを着けた左耳を搔きながら言った。

「……慎一は甘いなぁ……並ぶ時間とか、人の多さでこれが……意外と会わないんだよ?」綾子が顔の前で指をチッチッチとしながら言った。

「――じゃあ、次にみんなで会うのはミッキーマウス像の前に午後三時ね? みんなまた後でね!」

 京子がそういうと、三組のカップルがお互いに手を振りながら個々のルートに向かいゆっくりと歩き出した。


「――純也、とりあえずはカリブの海賊に行こうよ! 何よりも近いしさ!」奈那が燥ぎながら言ってきた。

「はいはい……お姫様に従うのが騎士ですからね……」

「――ダメ! 騎士じゃ王女様と結ばれないだろ? こうゆう時は王子様にならないとね!」奈那は純也に肩を寄せて押しながら屈託ない笑顔で言った。

「……確かにそうだな。じゃあ、今日はプリンセス・ナナの王子様にならないとな!」

「――そうそう! そうゆうノリが、大事、大事!」

 奈那は純也に腕を絡めて組むとカリブの海賊の最後尾に並んだ。

「さて、今日は天気も良いし、俺はサングラスかけて回ろうかな」

 純也がポケットからサングラスを出すと手慣れた仕草でかけた。

「――え? 純也ってサングラス似合うじゃん! その濃すぎない色もデザインも良い! じゃあ、私もかけようっと!」

「――ええ……奈那のサングラスって濃いから綺麗な瞳が見れないじゃん! なんちゃ……」

「――それじゃあ、交換!」

 奈那はそう言って、純也の顔に手を伸ばすとサングラスを剝ぎ取った。代わりに自分の愛用サングラスを純也に差し出しかえさせた。

「……まったく、こんなサングラスを俺がかけたら、バブルの女好きか、ヤクザだろって……」

 純也はため息を吐くと奈那の愛用サングラスを渋々かける。

「……いや、意外に……似合ってるよ? あ、でも髪型がな……ちょっと待ってね!」

 奈那はバッグからコームを出すと、純也の髪に通してササっと分け目と流れを変えた。

「――ほら、これで良い! うん、イイ……カッコ……いいよ……」

 コンパクトを少し離して純也が自分を見えるようにした。

「――おおお! 良いね! 次からはちょっと……髪型を変えようかな?」

「――私に感謝しなさいよ!」

「アハハ、ありがとうな」純也は笑いながら奈那の頭を優しく撫でた。


 純也と奈那は一時間弱並んだ後、カリブの海賊から出てきた。

「……純也、私、喉乾いた……何か飲み物買ってきて!」

「――ったく、仕方無いな……って、言ってる俺も、何か飲みたいし、何か買ってくるよ。何が良い? 炭酸とか?」

「うーん……じゃあ……コーラで!」

「――わかった。じゃあ、そこのベンチに座って待ってなよ」

 純也はベンチを指さしながら言うと、賑わう人混みを足早に歩き出した。奈那はベンチに腰掛け、離れていく背中を優しい笑顔で見つめていた。

『……モノトーンの時間だった毎日がこんなにカラフルな毎日に変わったよ? 今は楽しむことに釘付けで、しばらく御転婆娘はやめられないかもしれないけれど……きっと、あの時に純也に感じた気持ちは本物だと思うから……私の事……一番近くで……ずっと見ていてね……私、純也になら素直でいられるから……』

 奈那がそんなことを想いながら、南の空を見上げると空港へと向かう飛行機がゆっくりと高度を下げていた。視線を落とした奈那は左腕に着けているプラチナのブレスレットを見つめながら呟いた。

「……土曜日、遊園地……一年経ったらハネムーン……流石に……来年に結婚は無いだろうけど……いつか純也とのハネムーンで飛行機からディズニーランドを見れたら良いなぁ……って、何言ってるんだろ私……」

「――彼女可愛いね! 一人で浮かない顔してどうしたの? 彼氏と喧嘩でもしちゃったのかな? 良かったらさ、これから俺と二人でディズニーデートしたりしない?」

 いかにもチャラそうな男がいきなり奈那に話かけてきた。

「――は? 別に喧嘩してないんだけど! 私はココで連れまってるだけだからさ、どっかに行ってくんない?」

 奈那はサングラス越しにナンパしてきたチャラい男を睨みつけた。

「――彼女ナンパされてるじゃん! だからさ、お兄さん私たちと遊ぼうよ! っていうか、待っていました、合格ライン、早くサングラス取って見せてよ、多分素顔も素敵みたいな?」

 純也がドリンクを二つ持って戻ってきたが、如何にも男漁りしてそうな軽いノリの余計なお姉ちゃん二人もついてきてた。

「彼氏さ、戻ってきたんだけど! 軽い女探してるならさ、そこの二人でもナンパしたら? そもそもアンタ、私の彼氏に比べたら全然カッコ良くないもん! 初対面の人は見た目が十割って言葉知ってる? ナンパするなら絶対に覚えておいた方が良いよ?」奈那が純也についてきた女子二人を指さして言った。更に座ったまま純也についてきた女子にも二人を交互に見ながら言った。「二人とも、彼ってカッコいいでしょ? よく気持ちはわかるわ。だって、私の自慢の彼氏だもん! でもね、ごめんなさい……お姉さん達じゃスペックが全然足りてない……そこの男、女を探してるみたいだから相手してあげたら?」

 奈那は立ち上がると純也からコーラを受け取り、純也の空いた手に腕を絡めた。

「――さ、行こう!」

「あ、ああ……そうね……」

 純也は奈那に引っ張られるようにその場を離れる瞬間、二人組に言った。

「――ね? 俺の彼女、本当に美人だったでしょ?」

 その場に残された三人はきょとんとしていた。


「――ったく、油断も隙もあったもんじゃない……普通さ、男も女もディズニーでナンパとかする? こんなとこでナンパするとか……どう考えても寂しい人間だろ!」奈那がぶつぶつと純也に文句を言ってきた。

「まあまあ、世の中にはああゆう人もいるって知れただけ良いじゃない?」純也は奈那をあやすように優しい声で言った。

「――決めた! 次からは私もついていく!」

「そうしてくれると俺も助かる……かな……さ、次は何に乗ろうか?」

「ううんと……よし! ビッグサンダーマウンテンに乗ってスッキリしよう!」


 廣樹と京子はスペース・マウンテンから出てくるところだった。

「――楽しかったね。バイクとは違うけど、見えない空間でのスピード感があって楽しかった!」京子は廣樹に腕を絡めたまま興奮冷めやらぬ状態だった。

「……本当に京子はスピード狂だな?」

 そう言って歩きながら京子を見た廣樹と京子の視線がぶつかる。

「……な、何?」京子がふと口を開く。

「ん? やっぱり京子は美人だし、可愛いなって思っただけ。ただ、それだけだよ」

 照れて京子が俯くとぼそりと言った。

「……バカ。いきなり何を言い出すのよ……よくこんなに人がいるのに言えるわね?」

 廣樹は京子の細い腰に手を回すとふいに抱き寄せた。

「――いやいや、何回だって言えるよ。だって、俺は京子が好きだもん。周りに遠慮するなんて、すごく勿体ないじゃん?」廣樹が屈託ない笑顔で言った。

「――わかったから! ――もう、わかったから!」

 口ではそう言っても、自分を素直に愛してくれてることが正直嬉しかった。

『……廣樹といると声を聴いていると優しく温かい気持ちになれる……私、人と深く付き合うの得意じゃなかった。廣樹はいつも自分に素直で正直だからかな? ……きっと廣樹の胸になら迷わず飛び込んでいけると思う……』

 廣樹と繋ぐ手に思わす力が籠る。

「……廣樹、私のことを離したりしないでね?」

「――ん? どうした? 迷子になんてならないだろ?」

 そう言って京子を見た廣樹が優しい笑顔になる。立ち止まると京子の頭を優しく四回ほどポンポンした。

 不思議そうな顔をした京子に廣樹はゆっくりと口を開いた。

「……夏はバイクで二人街の風を揺らした、ヘルメット五回ぶつければ、それは()()()()()の代わり、頭を四回ポンポンすれば……それは()()()()のサイン……いや、()()()()が良いかな……」

 それを聞いた京子は廣樹にギュッと強く抱きついた。

「――どっちもが良い!」

 廣樹は京子の長い髪を撫でながら優しい声で言った。

「まったく……京子はいつもワガママだなぁ……」

「……ワガママだもん……だから……しっかり捕まえていてね……」

「俺は自分から離れたりはしないから大丈夫だよ」

 コクンと頷くと京子はそっと離れて歩き出した。急に振り返ると言った。

「――廣樹、私も大好き! アイシテル!」

「……知ってる。俺がこんなに好きだから……そうじゃないと困るって!」廣樹が笑いながら言った。

 


 シンデレラ城を抜けてイッツ・ア・スモールワールドに向かい戻ってきた慎一と綾子はシンデレラ城前のベンチに腰掛けてドリンクを飲みながら話をしていた。

 綾子が急にモジモジしながら話し出した。

「……ねえ、慎一……実は私がすごくエッチな子で引いた? 私ね、こんな自分に合う人はいないって半分以上諦めてたんだ……」

「ううん、そんな事ないよ」

「……なら、良かった」綾子は胸を抑えると安堵のため息が零れた。

「……というよりは……男なら逆に嬉しいんじゃない……かな?」慎一が横に座る綾子を見ながら言った。

「……なんで?」綾子は不思議そうに慎一に訊いた。

「……だってさ、若い男って性欲持て余すけどさ……毎回エッチ、エッチってしてると『私の身体が目的なの!』ってなるじゃん? ……たぶん……だけど……」慎一が照れながら言った。

「……まぁ……普通はそう思うの……かなぁ……わからないけど……」

「そうゆう意味では喧嘩することが無い訳だしさ……わからないけれどさ……人間ってさ、好きが強くなれば……やっぱり性欲が働いて……相手がきっと欲しくなるんじゃない……かな?」慎一は更に照れながら話した。「アハハ……女の子にする話ではないね」

「ううん、全然構わないよ? むしろ……ちょっと嬉しいかも……性欲が強い女子って、自分の中で勝手に駄目なんだって思っていたからさ!」

 慎一はシンデレラ城を見つめながら話し始めた。

「でも……人って不思議だね。多分……こんな話はお互いに思っていても、二十四時間前まで絶対に出来なかったはずなのに……今は普通に出来ちゃうんだからさ!」

 綾子が慎一を見ると口を開いた。

「……そうだね。きっと人間ってさ、他と違うことを恐れるんだよ。多数者マジョリティーに属して安心感を感じても、少数者マイノリティーに属すれば仲間が少なくて不安になる。それが同性愛者とか両性愛者みたいな性的マイノリティになると隠したがる人が殆どだと思う。だから……私もそうだった。人より性欲が強いことが劣等感に思えていたんだ。だからね、慎一が受け入れてくれて本当に嬉しかったよ」そういうと綾子は慎一に寄りかかってきた。「……周りに比べてさ、マイノリティーになっても不安にならない人なんて中々いないじゃん?」

「……不安にならない人か……廣樹とか純也みないなヤツってこと?」

 二人の間に少しの沈黙が流れた。

「――あ、あの二人は特別だよ! 異例中の異例だもん! 世の中の人があんな風にダイヤモンドメンタルを持っていたら……きっと、自殺する人なんていなくなるよ!」綾子は慎一の予想外の答えに焦って答えた。

「……確かに。廣樹はちょっと天然なところがあるからアレだけど、純也の強い精神力は、男の自分からしてもカッコいいと思えるもんな……」

「……私ね、思うんだけど……きっと二人とも昔は慎一と大して変わらなかったんじゃないかなって。いつも虐められていた慎一が私に対して『女に手をあげて、その言い訳はなんなんだよ! 先に彼女に謝るべきだろ!』って、言ってくれた時に慎一が抱いた勇気みたいなきっかけがあったんじゃないかな? ……これね、女の勘なんだけど……廣樹くんが変わったきっかけは京子ちゃんな気がする……理由はわからないけど……」

「――えぇ! それは絶対に違うと思うけどな……逆じゃない? 俺は一年から京子ちゃんと同じクラスだったし、中学も同じだったからさ、京子ちゃんが廣樹と付き合って変わったならわかるんだけど……廣樹は綾子ちゃんと一緒で二年のクラス替えで初めて一緒になった訳だしさ……それに廣樹ってクラス替えして、自分から学級委員長になった時からあんな感じだったじゃん!」

 慎一はそれは無いと言わんばかりに綾子の考察を否定した。

「……さて、どうだろねぇ? 慎一って京子ちゃんと同じ宮中出身でしょ?」

「……うん、そう」

「私は廣樹くんと同じ中学出身で当時クラスも一緒だったんだけど、廣樹くんが変わったのって宮中とのバスケの練習試合に行った次の日からなんだよね? それまではヤラれてもやり返さない真面目だった廣樹くんが、いきなり相手にやり返したり、いきなりボンタン履いて来たりしてさ、まるで不良の女の子を好きになったから……相手にして欲しくて急に不良になったみたいだったんだ」綾子は笑いながら懐かしそうな口調で話した。

「――ええぇ! ……なんか想像つかないんだけど……あの廣樹が……真面目だった?」

「高校一年生の時もそう、短期の留学で一学期の期間だけいた可愛いイタリア人の女の子、男子みんなが言葉もろくにわからないから仲良くなるのさえ諦めていたのに、廣樹くんだけは『もう好きな子と仲良くなるチャンスを諦めるのは嫌だ!』って、必死に仲良くなろうとしていたし……」

 それを聞いて慎一が食いついた。

「……で、その子と廣樹はどうなったの?」

 不敵な笑顔になると綾子が答えた。

「しーらない。だって、夏休みが終わったら彼女はイタリアだもん。そればっかりは廣樹くんしかわからないよ。だから、絶対にこの事は京子ちゃんとかに言ったら絶対にダメだよ? 慎一は私の彼氏だから信用して話したんだからね?」

 綾子は顔の前に指をあてるとシーのジェスチャーをしながら言った。それに対して慎一は顔の前で口チャックのジェスチャーをしながら頷いた。

「……でも、なんか……廣樹にヤキモチ妬いちゃうな……俺が知らない綾子ちゃん知ってるなんてさ」

 慎一は頭の後ろで手を組むと空を見上げながら呟いた。

「……私の初めての彼氏で、私の裸を見て触れた唯一の男の子なのに? ……それに中に――」

 慎一が遮るように謝った。

「――ごめんなさい! 俺が悪かったです! ちょっと調子にのりました。欲張り過ぎました!」

「ウフフ……大丈夫だよ。きっと……私……これからもワガママばかりで困らせると思うけど……こうして慎一と色々な話して……もっとお互いを解り合っていきたいな……」

 そう言って慎一の手をそっと握ってきた。慎一は綾子の顔を見て優しい瞳で好きと伝えるとおでこにキスをした。

「俺もそう……ずっと綾子に隣にいて欲しい。始まりは……純也と廣樹の『二人とも付き合っちゃえば?』だったけど……今は自信もって言えるんだ。綾子じゃないと駄目だって! これから、もっともっとイイ男になるから……一番傍でずっと見ていて欲しいなって……」

「――うん! 私こそ……さ、次に行こうよ」

 二人は立ち上がると手を繋いでシンデレラ城に向かって歩き出した。



 空も晴れ渡る日の正午前、純也と奈那はブルーバイユー・レストランにいた。

「――ずっと、ずっと、ずっとこのレストランに来たかったんだよ!」

 奈那がそう燥ぎながらコースの前菜を待っていた。

「……ま、プリンセスを喜ばせるのも王子様の標準装備だからな……でも……まさか、ここまで喜ぶとは思ってなかったけどさ……」

 純也はカリブの海賊のアトラクションを愉しむ人を見ながら言った。

「……純也……本当にありがとうね……まさか、ここで食事しようって言われるとは夢にも思ってなかった……」

「……まあ、ドリンク買いに行った時に駄目元で聞いて、偶然キャンセルがあったんだから……奈那の運もあるんじゃないの? それにさ……カリブの海賊からあんなキラキラした目でレストラン見ていたら、隣にいる男なら行きたいんだろうなって思うでしょ?」笑いながら言った。

「……うん。……でもさ……ほら……やっぱりココって高いじゃん? ……なかなか、言えないよ……」奈那にしては珍しく遠慮気味に言ってきた。

「……まぁね。流石にスワロフスキーのシンデレラ城は今の俺では買ってあげられないからさ……それに海江田の件でお土産を賭けた賭け、俺が負けちゃったしさ……夢の国でちょっとリッチな食事の思い出も良いかなって。もちろん、お土産はプレゼントするけど……お土産って大方は決まってるのか?」純也はドリンクをストローで飲みながら聞いた。

「……それ……なんだけどさ……やっぱりランド内で選ばないと駄目……かな?」奈那が上目使いでブレスレットを擦りながら言ってきた。

「……なんか……すっごく嫌な予感がするんだけど……ま、参考までに聞くよ。あくまで参考だからな! まだ良いとは言ってないからな!」

「……うん。……指輪……欲しいな……って……」奈那が小声で言った。

「――ん? ――指輪! 指輪ってどこぞのブランド品の指輪のこと?」

 てっきりブレスレットをくれと言われると思っていた。予想外ではあったが、モノによっては大して値段は変わらないではないかと思ってしまった。

「……京子がさ、廣樹がバイト代でティファニーのシルバーリングをプレゼントしてくれたって自慢話を聞いてさ……良いなぁ……羨ましいな……って……」

「あ、あぁ……そうゆう事ね……そうね……プラチナとかゴールドはちょっと無理だけどさ……シルバーとかなら良いじゃないの? 別にランド内とかでもそこそこのブランドの指輪は売ってると思うけど……多分……ティファニーあたりが良いんでしょ?」

 奈那は小さくコクンと頷いた。

 女の子にとって水色の箱に入った指輪は特別だという話がある。ブランドのイメージキャラがあのオードリー・ヘップバーンで、映画で着用したのが世界最大級のイエロー ダイヤモンド。映画「ティファニーで朝食を」の宣伝のためにデザインされ、オードリー・ヘップバーンが初めて着用したことでも知られているように、好きな人からティファニーのリングを貰った女子は幸せになれるというジンクスがある。

「……良いよ。仙台に帰ったらプレゼントしたやるよ! その代わり、左手の薬指サイズは絶対に駄目だからな!」

「――えぇ! なんで! 別に良いじゃん!」奈那が不満そうに頬を膨らませる。

「――絶対に駄目だ! 例え将来……奈那と結婚するとしてもだ、初めてあげた薬指の指輪が(シルバー)だなんて俺のプライドが絶対に許さない!」

「――え? ……私と結婚」思わず奈那がニヤけた顔になる。「――ったく……仕方ないな、その時までは他の指で我慢してやるよ!」奈那は嬉しそうな笑顔で純也に言った。

「――ったく、ワガママなプリンセスもいたもんだよ……」

 純也もつられるように笑いながら言った。

 その時、タイミングよく二人が待ちに待った前菜が運ばれてきた。



 同じ頃、廣樹と京子はビッグサンダーマウンテンの列に並んでいた。

「……廣樹……私、お腹すいたの……」京子がお腹を押さえて言ってきた。

「――だから……俺……言ったよね? 飯を食ってから並んだ方が良くない? ってさ?」

「……だって、あの時はまだ大丈夫だったんだもん!」

「……はいはい、まったくしょうがないな……」

 廣樹は腰に付けたウエストバッグを漁るとカロリーメイトを取り出して京子に見せた。

「――およ! イイもの持ってるんじゃん! 一気にご機嫌みたいな?」

 受け取った京子は、先程までに顔が嘘のように笑顔になる。

 廣樹は嬉しそうにカロリーメイトを受け取った京子を見て思った『ディズニーにカップルで来ると別れる。きっとそれは人の列に並んでイライラした時に、お互いを想えないカップルだからなんだろうな……そりゃあ、別れは必然だよねぇ……』そして、京子の性格を自分も結構理解が出来てるなと少し嬉しく思った。

「……あ、ごめん……全部食べちゃった……」京子がベロを出して謝る。

「別に良いよ、俺は空腹には慣れてるからさ。……そう、空腹には……」

 廣樹は思い出したように拳を握った。

「……慣れて……る? ――え? どうゆう事?」京子は首をかしげて訊いてきた。

「純也のバイトでさ、徒歩で高いパソコンとかを運んでいたからさ、例え腹が減ってもコンビニとかに寄り道が出来なかったんだよ。置き引きとか、盗難にあったらヤバいだろ?」

「……あぁ、そうゆうこと……まったくアイツは、私の可愛い廣樹を酷使して……」

「俺もさ、しばらくは恨んだけどさ……奈那と楽しそうにして純也を見ていたら、なんかどうでも良くなっちゃったんだ。食い物の恨みより、女っ気が無かった純也が彼氏してる方がさ、見ていてなんだか嬉しくてさ……」

「……確かに……純也、良い彼氏してるもんね? 私も先輩があんな女の子してるところなんて今まで見たこと無かったもん! 其処らの男にワガママは言っても、自分から甘えるなんてしない人だって、ずっと思っていたから……」

「……俺は奈那との付き合いが短いから……その辺はよくわからないけれど、純也と付き合ってから奈那は綺麗になったと思うよ? ……なんとなくだけどさ……」

「へぇ……廣樹が先輩を褒めるなんて珍しいね?」京子は廣樹の脇腹を突きながら言った。

「うん、きっとさ、奈那がよく笑うようになったからだと思う」

「……そうね、先輩……純也の横では本当に幸せそうに笑うもんね?」

「そうだな……確かに幸せそうに笑うよな……あ、そろそろ順番が来るかな? それにしても京子は絶叫系好きだよな……次はスプラッシュ・マウンテン乗るんだろうし……」

「――もちろん、乗るに決まってるじゃん! 絶叫系は遊園地の花形でしょ? 並ぶ価値があるから、どこも人気で人が並んでるんじゃない? ――ねぇ、廣樹が一番怖かった絶叫系って何だった?」京子が興味深々な表情で聞いてきた。

「――え? ……いや……えっと……それは……」

 廣樹は答えは出ているが、それを言って良いものかと悩んだような表情になる。周囲を見てなんとか誤魔化せないかと言わんばかりの態度になる。

「――はい? 何、ハッキリしなさいよ! アンタ、男でしょ?」

「……ほら、なんて言うの……知らぬが仏っていうか……世の中、知らない方が良い事って……あるじゃん?」まるで電波の悪いラジオみたいに言った。

「――は、何? 愛する私にも隠し事? あ、言いたくないんだ……へぇ……そう…… ――なら、もう良いよ!」プイっとそっぽを向くと臍を曲げて明らかに不機嫌になる。

「……わかったよ……言えば良いんだろう? 言えば……」

 京子がチラッと廣樹を見た。

「……固定具も無かったし、スピードも速く感じたし……京子と初めて水族館に行った時に乗った京子の後ろ……だよ……」俯くと廣樹が小声で言った。

 京子の大きな笑い声が聞こえた。

「――えぇ、私の後ろが一番怖かったの? あんなに楽しんでいたのに? 『風が見えるよ。バイクってさ、すごく気持ちいい』とか楽しんでいたじゃん! それに廣樹は私の後ろが好きじゃない!」京子が軽くお尻をフリフリしながら言った。

「……いや……それはそうなんだけどさ……そ、そんな事言ったら、京子だって俺の上が好きだろ?」

 廣樹がそう言ったと同時、隣の列にいた男が勢いよく飲んでいたものを吹き出した。周囲はプチパニック状態になる。



 その頃、慎一と綾子はグランドサーキット・レースウェイで燥いでいた。二人の他にも家族連れやカップルが各々にカートの運転を楽しんでいる。

「――慎一との初めてのドライブだねぇ?」

 ガソリンエンジンのゴーカートを楽しそうに運転する慎一の横で言った。

「――アハハ、確かにそうだね! 綾子ちゃんとの初めてのドライブは白い車か!」

「――うん! 白馬じゃなくて、白い車に乗った王子様なんて、慎一らしくて良いじゃない!」

 綾子はカートのエンジン音に負けないよう、慎一に体を近づけて言った。

「――ありがとう! なんか、そう言って貰えると嬉しいや!」


 グランドサーキット・レースウェイを終えると、慎一が横を歩く綾子に話しかけた。

「付き合ってくれてありがとう。俺がどうしても乗りたかったアトラクションってこれだったんだ……やっぱり、車が好きだからさ!」

「……知ってる。慎一が免許を取ったら……一番最初に助手席に私を乗せてね? 慎一はもう私には乗っちゃったけどね?」綾子が笑いながら茶化すように言った。

「アハハハ……それはたしかに……」慎一は小指を突き出すと言った。「うん、約束」

 綾子は差し出された小指に自分の小指を絡めた。

「指切りげんまん、嘘ついたら、針千本、タイヤに刺す、指切った!」綾子は笑いながら少しお道化て言った。

「タイヤに刺すか……綾子ちゃん、なかなかセンスあるね?」慎一がケラケラと笑いながら言った。

「そう? ありがとう。慎一、次は何に乗ろうか? 私はディズニーの雰囲気が好きだからさ、この空間にいる。それだけでとっても幸せなの。だから、もしも、慎一が乗りたいものがあるなら付き合うよ?」

「そうだな……俺も特にこれってのは無いんだけどさ……」

 慎一がふと思った。ディズニーランドが夢の国と呼ばれる理由、それはこの非現実的な時間を感じられる雰囲気なのだろうと。

「――そう言えばね、リゾート内には十九種類百本以上の桜があるんだけど、それを一度に見れるのがここなんだよ? ここだけで七十本以上もの桜があって、春はお花見気分を味わえる名所なんだ。いつか桜が満開の頃にもう一度来て、今度は満開の桜の下をゆっくり走りたいね?」

「――流石、よく知ってるんだね……百本以上の桜か……桜の季節のディズニーはさぞかし綺麗だろうね?」

「――うん! きっと……すごく綺麗だと思う。って、こんなことを言っておきながら、実は私も桜が咲き誇ったディズニーは一度も生で見たことないんだけどね……」

 綾子は今は葉を茂らせた桜の木を見て、まるで満開の桜を想像するような表情になりながら言った。

「……綺麗だ」慎一が呟いた。

「――え? 綺麗?」綾子は慎一を見ると首をかしげて訊いた。

「――あ、いや……上手く表現が出来ないけれど……今の想いを馳せた綾子ちゃんの横顔……すごく綺麗だなって……なんか、見惚れちゃった……」慎一が照れながら言った。

「……stay by my side ずっと私のそばにいてね。今度は私から約束、また来よう! 二人で薄紅色の

季節のディズニーに……」

 そう言って綾子は慎一の前に小指を突き出した。小さく頷くと慎一は優しく小指を絡め、数回上下すると、その指を無言のまま優しく解いた。

「……慎一は言わないの? 指切りげんまんって!」

「うん、きっと嘘をついたら……千ヵ月、針を飲んだような苦しみを味わって、後悔するのがわかっているから……絶対に破らないもん。だから、言わない!」

「……私はやっぱり……ずっと慎一を探して生きてきたのかな? ……ありがとう。泣きそうなくらいに嬉しいよ……」

「……いや、そんな大袈裟な……そこまで言われちゃうと……」慎一が少し困った表情で綾子を見た。

「……だって、慎一はいつだって私の話を馬鹿にしないでちゃんと聞いてくれる。私は自分が人より変わってるのは自覚してるよ? だけどね、真面目に聞いて欲しい時もあれば、真面目な答えを聞かせて欲しい時もあるの。殆どの人は『はいはい』って受け流すことさえも、慎一はいつでも真面目に答えてくれるじゃない? 私がそれがたまらなく嬉しんだよ? ……だから、大袈裟なんかじゃないもん……」

「……そっか……綾子ちゃんがそう思ってくれたなら嬉しいな……この場所で交わされてきた小さな約束から、大きな約束まで色々とあるんだろうけどさ、女の子が夢を見る場所が、男にはその夢を現実にする場所なんだって思えたなら……それは本当に夢の国だね? きっと、今までここで沢山の人が色々な夢を見て、そして叶えてきたんだろうね? 俺もディズニーがすごく好きになったよ!」慎一は優しい口調で綾子に言った。

「……じゃあ、私達が将来……結婚したなら……ハネムーンは世界中のディズニー一周にする?」笑顔で訊いてきた。「……でも、すごくお金もかかるし……みんなそんな夢みたいな事は思わないか……」綾子が少し俯いた。

「――それ、良いね! 人と違うって自分らしいって事だしさ、それって素敵な事じゃない? オーロラ姫が言っていたみたいだよ? 『何かの夢を一度以上見たら、それは必ず叶うって言われてるわ。私は何度もその夢を見たんだから!』って、それなら自分が描いた夢を沢山見れば良いだけじゃない? そうしたら、その夢はきっと叶うんじゃない?」慎一が笑顔でウインクしながら言った。

「……慎一……」綾子は慎一の胸にコツンと自分のオデコを押し付けた「――ごめん! 今度は無理! 本当に泣いちゃう!」

 慎一は綾子の長い髪を優しく何度か撫でながら言った。「ここで綾子ちゃんが泣いちゃったら、俺が女の子を泣かした悪い男になっちゃうじゃない……」

「……バカ……そんな台詞じゃ涙が止まらないよ! ごめんね、今だけは悪い男になって……」そう言って綾子は泣きながら慎一の胸に抱きついた。「うわああん! 涙が止まらないよ……」

 それから綾子が泣き止み、落ち着くまでのしばらくの間、本当の理由なんて二人しか知らないのに、慎一達の近くを通る人が色々な事を言いながら歩いていった。

「おいおい、女泣かせてるじゃんか……」「え? 女の子、嬉し泣きしてる? キャー! 彼、いったい何て言ったんだろう?」「青春してるなあ……」などと。

 

「……ごめんね慎一……」綾子が申し訳なさそうに謝った。

「……別にさ、人には好きに言わせておけば良いじゃない? 俺は綾子ちゃんの純粋な部分が見れて嬉しかったよ?」

「……慎一……本当に素敵な王子様(オトコ)になったね?」

「そりゃあ……俺はプリンセスに育てられてるもん!」慎一が笑いながら言った。

「……もう……バカ……」

「……今日は夢の国で、俺のプリンセスとして素敵に咲き誇って!」

 綾子は小さくコクンと頷くと、慎一の手をギュッと握って歩き出した。

 


「――やっと、飯も食えたな……やっぱり、値段も良かった……」廣樹が隣に座る京子を見ながら言った。

「……まあ……値段は仕方ないよね? そうゆう場所だしさ……」

「――ああ! 俺も早く稼げる男になりたい! 金ならあるって言ってみたいもんだ!」廣樹が笑いながら言った。

「……お金稼げる男ねえ……普通は高校生がいう台詞じゃないよね?」京子が首を傾けて、廣樹を覗き込んで言った。

「そうか? じゃあさ、金がある俺と無い俺ならどっちが良いんだよ?」

「――は? そんなのお金持ちの廣樹に決まってるじゃん! 貧乏な福山と金持ちの出川なら未だしも、どっちも同じ廣樹なら、そんなのお金持ちの方が良いに決まってるじゃん!」

 京子は少し呆れた顔で廣樹に言った。そんな馬鹿な質問なら誰もが同じ答えを言うに決まってる。まるでそう顔に書いてあるみたいだった。

「――アハハ、確かに! ……そりゃあ……そうだよな。どっちも同じ人間なんだから……」廣樹は自分の言葉に笑ってしまった。

「――そうだよ!」京子が唇を尖らせて言った。「……そう言えばさ、廣樹って将来……やりたいことって何かあるの?」

「……そうだなあ……普通に考えたら、親父の跡を継ぐなら不動産会社にでも就職なんだろうけどさ……俺は車とかバイク転がすの好きだからな……だからって、そのメーカーの車種しか乗れないディーラーには就職とかしたくないしなぁ……っていうか、あんまり働きたくないかも……アハハ!」廣樹はお道化てみせた。

「……働きたくないって……私のヒモとかは本気でやめてね? ま、そんなことは廣樹のプライドが許さないだろうけどねぇ……」

「うん、確かに……将来やりたいことか……考えたことなかったな。俺は周りの人が幸せならそれで良い人間だからなあ……例え、知らない誰かがどれだけ困ろうと、今の自分の周りにいる人が幸せならそれで良いって思ってるようなちっぽけな人間だからな……」廣樹は晴れて心地好い空を見上げながら言った。「……でも、その為には莫大な金がいるんだろうな……九割の幸せは金で買えるっていうくらいだしさ……」

「なんか……今の廣樹は珍しく真面目だね? いつもは結構、適当な男なのに……」京子は廣樹の意外な一面に触れたみたいで、なんだか少しだけ嬉しかった。

「人から見て適当や優柔不断なヤツってさ、本当はそんなこと無いヤツもいるんだよ。ハッキリしちゃってさ、相手が傷つくの見たくないってヤツもいるんだぜ?」廣樹が真面目な口調で言った。「俺は自分が好きだからさ、殆どのことは自分中心、マイペースにしか生きられないしさ……」

「……()()()()って事は……中には例外もあるってこと?」京子が問いかけるように訊いた。

「――うん、例えば京子とか純也とかさ。二人には助けられてる分があるしさ、特に京子には本当に支えられてる気がするんだ。もし、二人がいなかったら……俺はこんな生き方は出来ないかもね? 俺は今、すごく幸せだからさ、周りの皆にも同じように幸せを感じてもらいたいんだ……」そう言って廣樹は軽く京子に寄りかかった。

「――ほ、褒めても何も出ないんだから!」京子が照れ気味に言った。

「うん、でもさ、京子ちゃんの可愛い笑顔は出るから、少なくともそれは見れるじゃない?」廣樹は優しい笑顔で言った。

 それを聞いた京子は嬉しさから満面の笑みになる。

「――ま、まったく……この男は……本当に人たらしなんだから……」

 廣樹が何気なく腕時計で時間を確認すると約束の午後三時迄あと三十分程度だった。

「――さ、約束の三時に遅刻するとうるさいヤツもいるし、そろそろ一回戻ろうぜ?」

「――え? もうそんな時間なんだ……」

 二人は立ち上がると、集合場所のミッキーマウス像の前に向かう為、歩き出した。



 ――午後三時――

 ミッキーマウス像の前には記念撮影などをしているカップルや家族連れが溢れていた。

「――お、ちゃんと来たな。廣樹が時間を守るなんて感心感心!」奈那が上から目線で言ってきた。

「……お前に……って純也が一緒だもんな……そりゃあ、ズボラの奈那も五分か十分前行動出来るか……」廣樹が鼻で笑った。

「まあまあ、先輩も廣樹くんも二人とも喧嘩しないで……」綾子が険悪な二人を優しい声で宥める。

「ところでさ、一番早くここに着いたのって誰だったの? 俺と京子はビリだったけどさ……」廣樹が純也を見ると訊いた。

「一番最初に着いたのは、もちろん俺と奈那って言いたいんだけどさ、実は慎一と片桐さんなんだよね」

「……ねえ? 純也くん……ま、廣樹くんもだけどさ、そろそろさ、その……片桐さんって私を呼ぶの辞めない? 友達なんだしさ……もっと砕けた呼び方で呼んでくれて良いんだよ?」綾子が純也と廣樹を交互に見ながら言った。

「……そうね、あんた等は綾子ちゃんのことをもっと親しみ持っても良いかもね?」京子が二人を見て言った。

「そっか……じゃあ、綾子ちゃんの事を二人はなんて呼ぶんだ?」奈那が純也の腕に絡まりながら訊いてきた。

「……あやっち……とか?」純也が言った。

「……あやや……とか?」廣樹が続けて言った。

「――どっちも()()に嫌! ワザと? ねぇ、ワザとなの? なんで、二人とも揃って綾子ちゃんとか、綾子みたいな普通の呼び方じゃなくて、そんな斜めをいったような呼び方が出てくるのよ!」綾子が腰に手を当てて言ってきた。

「……いや……だってさ……慎一の彼女だしさ……呼び捨てはどうなんだろうって……」純也が呟くように言った。

「……うん、それは俺も同じ……それに『もっと砕けた呼び方で良い』っていうからさ、あだ名とかが良いのかなって……」廣樹が続くように言った。

「――もう! 普通で良いわよ! 普通で!」綾子が声を大にして言った。

「……じゃあ、綾子ちゃんってことで……」廣樹と純也が同じタイミングで言った。

「――うん! それが良いな!」綾子はコクンと頷くと言った。

「……ところでさ、これからどうするの? また自由行動? それとも六人で行動するの?」

 廣樹が訊くと、女子三人が反応した。

「あ……えっとね……ちょっと、女子だけで買い物をしたいな……みたいな?」京子が男子に同意を求めるように言った。

「そうなんだ。別に良いんじゃない? 俺は構わないし、廣樹も純也も構わないよね?」

 慎一は二人に同意を求めるように訊くと、二人は二つ返事で快諾した。

「……じゃあ……一時間くらいかな?」純也が女子三人を見ながら訊いた。

「えっと……そんなにはかからないと思うけど……たぶん……四十分……くらい……かなぁ?」綾子が自信無さげに言った。

「――了解! じゃあ、俺達は男三人で煙草でも吸いに行ってくるか?」純也が二人を見ながら言った。

「――え? 慎一って煙草は吸わないはず……だよね?」綾子が驚いて慎一に訊いた。

「あんたら……まさか……」

 京子が睨むように廣樹と純也を見た。

「――はい? イヤイヤイヤ! そんなことは神に誓っても絶対に、しないから! もしも、慎一が自分から吸いたいとか、吸ってみたいって言うなら止めはしないけどさ……だけど、絶対に俺達から煙草を薦めたりはしないから!」廣樹が焦った口調で弁明した。

「――アハハ、綾子ちゃん大丈夫だよ。俺はまだ吸っていないからさ。綾子ちゃんも煙草は嫌でしょ?」慎一が笑いながら言った。

「え? 私は……慎一が吸っても……構わないかな? ……お父さんとか吸うから慣れてはいるし……」

「――え? そうなんだ。……そっか……そうなんだ……」慎一が予想外な返事に含みのある反応をした。

「――お! じゃあ、試しに今から――いてっ、何するんだよ京子!」

 廣樹が全てをいう前に、横にいた京子が廣樹の脛を蹴った。

「――今、絶対に俺達から煙草を薦めたりはしないって言ったじゃん! 何、しれっと悪魔の囁き呟いてるのよ!」

 京子が語気を強めてそう言うと、みんなが廣樹を見て笑った。


「――じゃあ、純也また後でね。終わったら携帯に電話するから! あんまり遠くに行って私達を待たせたりしないでね? また()()()されても嫌だしさ……」

 奈那がそう言った後、女子三人は笑顔で手を振ってワールドバザール方向に向かって歩き出した。

「――ナンパ? 奈那をナンパしたヤツいんの?」廣樹が驚いた表情で純也に訊いた。

 廣樹と慎一は興味深々に純也を見ていた。

「……ああ、俺が飲み物買いに行ってる間に奈那をナンパしてヤツがいてさ……」

「……また、物好きな……」廣樹が言った。

「――ええ! ――奈那先輩って結構美人じゃん! 別にナンパされたって可笑しくなくない?」慎一がどこか不満そうに言った。

「……だから余計にだよ! 奈那は確かに美人だよ? そんな女が普通一人でココに来るか? ナンパして落ちると思うか? どう考えたって、無駄な行動と時間の消費だろ? そう思ったら、どう考えたって物好きなヤツだろ?」廣樹が慎一に言った。

「……確かに。そう言われてみれば……かなりの物好きだね……」

 慎一が納得した顔で純也を見た。それに釣られて廣樹も純也を見た。

「……あれ? 純也くん? ……なんかサングラスで今まで気づかなかったけどさ、髪型がいつもと違くない?」廣樹が純也の髪をまじまじと見ながら言った。

「――気づくの遅くないか?」純也が言った。

「……そうか? 慎一はいつ気づいた?」

「……いや、会ってすぐに気づいたよ? 似合ってるし、あえては触れはしなかったけどさ……」

「……もしかして……今更になって気づいたの……俺だけ?」廣樹が自分を指さして言った。

 それを聞いて二人はゆっくりと数回程深く頷いた。

「――さ、時間が勿体ないしさ、どっかで飲み物を買ったらガイドブック見て最寄りの喫煙所に行こうぜ?」

 純也がそういうと二人は頷き、慎一が出したガイドブックを見ながら喫煙所へと向かった。

良かったら、感想や意見よろしくお願い致します。自分の小説は基本同じ時間軸の同じ登場人物になります。

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