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カノジョに恋した理由  作者: 仲村 廣樹
12/15

第十一話:彼女達は馬車で夢の国へ

仲村廣樹ナカムラヒロキの高校生時代の話です。ちょくちょく誤字脱字直します。



 ――金曜日の夕方――

 廣樹達六人は仙台駅の新幹線ホームにいた。

「……あのさ、なんで奈那はキャリーバッグが二個もあるの?」と、奈那を見ながら廣樹が訊いた。

「帰りのみんなのお土産を持って帰る用なんだとさ。俺もさっき同じことを待ち合わせた喫茶店で聞いたよ」と、純也が説明するように言った。

「お土産用って……どんだけ買うつもりなんだか……」と、廣樹が呟くように言った。

「ああ……これからディズニーランドに行くんだね。すっごく楽しみ」綾子が楽しそうに言う。

「そうだね、俺も綾子と夢の国でデート出来るなんて夢みたいで楽しみ」と、慎一が綾子を見ながら笑顔で言った。

「……慎一、それは洒落か?」廣樹が不満気な口調で言った。

「なんで廣樹はそんなにムスっとしてるんだよ?」純也が廣樹に尋ねた。

「……俺だってさ、そりゃあ……行くのは楽しみだよ? でも……前泊って何? 小遣いから京子とのホテル二泊分を出す身にもなれよ……」廣樹が純也を見ながら答えた。

「――は? 俺なんてチケット七枚分プラスだぞ!」純也はそう言って廣樹の背中を叩いた。

「……あ、なんかゴメンね。私達女子ばっかり負担が無くて……」綾子が申訳無さそうに口を話した。

「――良いの! 良いの! こいつ等はちゃんと金持ってるから! それに廣樹と純也は自業自得だしね!」京子が廣樹と純也の背中を叩きながら言った。

 それを聞いて純也は京子をチラ見すると『香菜さんの事の口止め料』ってヤクザかよと思っていた。廣樹は京子を見て『彼女いるのに軽い気持ちでオイタはするものじゃないな。これからの人生は気を付けて生きていこう……本当に高い授業料だった』と、二人は心の底から後悔をしていた。

「……やっぱり、綾子の分は俺が払うよ」慎一が純也に言った。

「――要らない! 慎一だって片桐さんと自分の宿泊費を払うだろ? 俺が一度出すって言ったんだから要らない。その分、ディズニーランド行ったら片桐さんにサービスしてやれよ?」

「……なんか、今日の純也カッコいいんだけど……」廣樹がボソリと言った。

「……うるせえな、あと二十分くらいあるし一服して来ようぜ?」純也はそう言って廣樹を喫煙所に誘った。


「廣樹さ……京子達いないから聞くけど……パソコン届けた姉ちゃんと本当に何も無かったの?」

「――は? そんなのあるわけ無いだろ!」廣樹が焦った口調で答えた。

「……本当に? 何も無い?」純也が疑いの眼で廣樹に尋ねた。

「……実は……少しだけおっぱい揉んでたりして……」廣樹が小声で言った。

「――やっぱりな! 京子に電話番号がバレたくらいで廣樹が変に焦っていたからさ……」

「――だって! 男なら不可抗力だろ? 胸大きいですね? って言っただけだよ? そしたら、ペロンチョして生乳を見せてきてさ、別に揉んで良いよとか言われたんだぜ? 男なら無理だろ! それ以上は無かったけどさ……」廣樹は自分の行ないを正当化した。

「……ああ、それは確かにな……男なら見ちゃった以上は触りたくなるよな……」

 純也は煙草の紫煙を吐きながら同意するように言った。

「――そうだろ? 純也こそさ、あの小悪魔な香菜さんと本当に何も無かったの?」廣樹が煙草に火を点けながら訊いてきた。

 それを聞いて煙草を吸っていた純也がゲホゲホっと咳き込んだ。

「――あんのかよ! 純也も人の事を言えねえじゃねえかよ!」

「……いや、あれは俺も不可抗力だから。バスタオルがヒラりんちょして裸が……でも! 俺も何も無かったからな……」純也が小声で言った。

「――どんなシュチュエーションだよ! 普通はそんな状況ならねぇだろ! 俺ですら裸は見てないのに……」廣樹がブツブツと言った。

「いや、打ち合わせで香菜さんの部屋に行ってたんだけどさ、香菜さんが仕事行く前にシャワー浴びたいって言っていてさ、待ってる間に俺が台帳に入金記載していたら、バスタオル巻いたまま部屋に戻って来てさ、躓いてタオルが落ちて全裸みたいな?」

「……ああ、それは確かに仕方ないな」

「……だろ? 飲み屋の姉ちゃんって怖いな……これからの人生……お互いに気をつけような?」純也は再び紫煙を吐きながら言った。

「……本当だな。お互い、安く済んだのかもしれないな? これは俺達の秘密でお互いに墓場まで持って行こうな」廣樹も紫煙を吐きながら言った。

「――当たり前だろ! どの面下げて彼女に話すんだよ!」純也が語気を荒げて言った。


 その頃、慎一は女子三人とディズニーの会話で盛り上がってた。

「――でもさ、綾子が俺に『私はね。いつか……慎一と二人でディズニーランドに行けるように願ってる』って言ってくれたけど……こんなに直ぐ本当に行けるとは思ってなかった」慎一が綾子に言った。

「……慎一、ウォルト・ディズニーが言っていたよ?『夢を求め続ける勇気さえあれば、すべての夢は必ず実現できる。いつだって忘れないでほしい。すべて一匹のねずみから始まったということを』って」

「……いい言葉だね。なんか……俺までディズニー信者になりそう」慎一が笑いながら言った。「確かにそうだね。綾子とディズニーランドに行きたいと願った気持ちに嘘は無かったし、いつか必ず連れて行ってあげたいと思ったもんな……」

「ありがとう、素直に嬉しいよ。ところで奈那先輩もディズニーが好きなんですよね? 好きになった理由って何ですか?」綾子はふとした好奇心から奈那に尋ねた。

「――わ、私か? 子供の頃にさ『何が人を特別にするの? きっとそれは人によるの。だからこそ私たちはユニークな存在なのよ』って台詞を聞いてさ『みんな違ってみんな良い』って背中を押された気がしたんだ」奈那は少し照れながら答えた。

「あ、リトルマーメイドですね。私も好きですよ」綾子が笑顔で言った。「京子ちゃんは好きな台詞とかある?」

「……私は……白雪姫の『いつも幸せでいることを忘れずに、だって誰があなたの笑顔で恋に落ちるかなんて分からないから』かな? なんか、いつも笑顔でいれば、いつかきっと素敵な恋に巡り合えるって言われたみたいでさ……」

「へえ……なるほどな、廣樹が京子に出会ってその笑顔に惚れちゃったんだな?」奈那が少し揶揄うように言った。

「もう……先輩、揶揄わないでくださいよ……」京子が照れながら言った。

「――そうだ、ディズニーラブな綾子は?」慎一が綾子を見ながら訊いた。

「――あ、聞いちゃう? この綾子ちゃんにそれ聞いちゃうの? まずはアリエルの『いつ、どうやったら叶うのか私にはわからないけれど、それでも私の中で何かが始まったことだけは確か。見ていて、いつかきっと私はあなたの世界の一部になってみせるから』でしょ。あとは美女と野獣の『人々は私が変わり者だって思っているの。だから私には人と違うことがどういうことか分かるわ。それにそれがどんなに寂しいことかも』と『外見に騙されてはいけない。美は内面に宿るのだから』それにオーロラ姫の『何かの夢を一度以上見たら、それは必ず叶うって言われてるわ。私は何度もその夢を見たんだから』でしょ。最後にシンデレラの『誰だって真の愛に出会う資格はある』……あたりかな?」

「アハハ、綾子はディズニーが好きだけあって沢山出てきたね? 俺が綾子に教えてあげられることってあるのかな……」慎一が反対側のホームを見ながら呟いた。

「――うん、ちゃんと……あったよ」綾子が慎一を見ながら小声で言った。

「――え? 本当に?」急に真面目な顔で慎一が訊いた。

「……うん。シンデレラの『ああ、これが愛なのね、これが人生を神々しくさせるものなのね』ってヤツ。慎一と付き合わなければ気づかなかったと思う……」綾子が照れながら言った。

「えへへ……なんか……すごく嬉しいや」慎一は頭を掻きながら答えた。

「お、女にここまで言わすなんて慎一も隅に置けないな」奈那が慎一を小突きながら揶揄った。

「――ちょっと! ディズニー着く前からお二人共ラブラブなんですけど……」京子も続いて揶揄った。「……それにしても、二人ともいつまで煙草を吸ってんのよ! もうすぐ、新幹線が来ちゃうじゃない!」

 そんな話をしていると廣樹と純也が『悪い、悪い』と喫煙所から戻ってきた。そんな二人を京子と奈那が本当だよ。と、怒っているとアナウンスと曲が流れてタイミング良く東京行きの新幹線がホームに到着した。

「――さ、それじゃあ、夢の国に向かいますか?」

 廣樹がそういうと、みんなが『うん、行こう!』と言ってキャリーケースを引きながら新幹線に乗り込み、少しして扉が閉じた新幹線はまるで滑るように動き出した。夢の国へ向かう馬車のように特別な雰囲気を生み出していた。



 新幹線の中に乗ると廣樹と純也が早速京子に説教されていた。

「――あんた達ねぇ、新幹線に乗り遅れたらどうするつもりだったわけ? 大体、煙草くらい少しは我慢できないわけ?」

 はい、すいませんと平謝りする二人をそれから二十分程、京子は眉を吊り上げて怒っていた。


「――新幹線かぁ……久しぶりだな……」

 純也が車窓から風景を眺めながら囁いた。

「そうだな……前に乗ったのは純也と横浜に行った時だから夏休みだったもんね……」奈那が懐かしそうに呟いた。

「……本当だな。横浜に行ったのが……まるで去年みたいに思えるよ。でも……まさか、奈那と付き合うようになるとは……あの時は夢にも思わなかった。でも、いつも先の事ばかり考えている俺だから……奈那の自由なところには……時折、助けられてるよ。……ありがとうな……」純也は横にいる奈那に少し照れながら話しかけた。

「……そうかな?」奈那は俯くと照れたように小声で言った。

 新幹線の座席に並んで座る慎一は純也たちの前席でガイドブックを見ながら、ディズニーランドを左右どちらから回るべきか、お土産は帰りに何を買おうか、明日の天気はなどと語る綾子に優しい相槌を打ちながら聞いていた。

「……綾子は本当にディズニーが好きなんだね。そんなプリンセスと付き合える俺は幸せ者だね?」慎一は笑顔で言った。

「プリンセスかぁ……私もなれるかな?」

「……俺にとっては、既に世界で一人しかいないプリンセスだけどね」慎一が笑いながら言った。

「……世界で一人だけのプリンセス……うん。これからもワガママ言ったり、理解できないかもしれないこと沢山言っちゃうかもしれない……だけど……ずっと隣で見ていてね?」綾子は慎一に腕を絡めると覗き込みながら甘えるような口調で言った。

 慎一達と通路を挟んで隣に座る廣樹が慎一を見ていた。

「いやぁ……純也も慎一も既にイチャイチャしてるなぁ」廣樹が京子を見ながら言った。

「あ、私にさっきまで怒られたこと反省してるの? ごめんね、ちょっと言い過ぎたかも……」京子がバツが悪そうに謝った。

「――え? いや、それもあるんだけどさ……」

 廣樹は慌てて弁解した。確かに先程まで怒られて多少なりに反省していたのは確かだ。だが、廣樹がイマイチ元気になれない理由は別な所にあった。今までコツコツと貯金してきた額、あと少しで百万円。それが今回の旅行で一気に目減りしたことだった。別に京子との旅行なのでそこまで惜しい訳ではなかった。ただ、高校生の間に残高百万円の貯金をした実績が欲しかった。ただ、それだけなのだ。純也を親友と思っているし、金を稼ぐスキルが今の自分では到底敵わないのも理解している。そんな親友に少しでも近づきたいという男のちっぽけなプライドなのだ。

 ずっと廣樹の横顔を見ていた京子が口を開いた。

「……廣樹はね、廣樹で良いんだよ?」

「――え?」

 それを聞いた廣樹が驚いたように京子の顔をを見た。

「……廣樹が純也を見て唇を軽く噛む時って……純也とか誰かに負けたくないって思った時だもん。そんな癖があるって自分で気づいていた?」京子が笑顔で訊いてきた。

「……気づいてなかった」

「そっか……親友に負けたくないって素敵じゃない? ライバルが親友っていつも近くにいるから頑張れるじゃない? いつか追い越せば良い、そして追い抜かれてまた追い越して……親友がライバルだからいつまでもお互いを高められる。これって本当に素敵なことじゃない?」京子はウインクしながら言った。

「……京子さん……ちょっと惚れ直して良いですか? 今の台詞……胸にガツンときたよ」廣樹は泣きそうなほど感激した表情で京子を見ていた。

「――もちろん! 何回でも私に惚れ直して、何回も私が惚れるイイ男になってね?」笑顔で答えた。

 廣樹はこんなイイ女に金を惜しんだ自分を少し責めた。『イイ女は金がかかる』そんな台詞が昔からある。今日までは香菜みたいな女は金がかかるという遊び好きなオヤジの嫌味な台詞と思っていた。でも、今は好きな女を自分から喜ばせる為、好きになった女の前でずっとカッコよくいる為には沢山の金がいるんだという考え方に変わった。そう思うと確かに当たっているなと思えて自分をクスっと笑った。

「お、イイ顔になったね。また一つ廣樹の中で何かが変わったのかな?」

 廣樹はそう言った京子を見ると、優しくうなじに手を回しキスをした。いきなりキスされた京子は驚いて目を見開いた。

「京子、愛してる。……俺が惚れた京子はやっぱり本当にイイ女だったよ」

「――もう! 周囲も気にしないでいきなり新幹線の車内でキスするなんて反則だよ。ちょっとは場を弁えてよ!」

「アハハ……確かに。でも、好きな気持ちが強くなっちゃった」

 京子が照れて車窓から見える景色に視線を移した直後、慎一が言った。

「あ、チョコあ~んぱんだ。なんか、懐かしいね? よく小学生の頃に食べてたな……」

 懐かしそうに呟いた慎一を見ながら綾子が手に持つお菓子を見ながら言った。

「そう? 私は今でもよく買って食べてるよ? でも、なんでチョコなのに()()()()()っていうんだろうね?」

 その時、前席で純也がクスっと笑った。『わかってねえな』という顔で笑った純也を見て奈那が訊いた。

「ん? 純也は名前の由来を知ってるの?」

「――もちろん! 俺を誰だと思ってるんだよ?」そう言って立ち上がると振り返り慎一に言った。「慎一、片桐さん見て口開けて?」

 慎一が大きく『あ~ん』と口を開けると純也が言った。

「片桐さん、そこ口に手に持ってるチョコパンを一個入れて。その一口で食べる『あ~ん』だよ」

 純也は勝ち誇ったようなドヤ顔で言った時に耳ダンボで盗み聞きしてた廣樹が食いついた。

「――何それ! そんなの恋人ゲームとか、ご褒美お菓子じゃんか! 俺が人生で何回そのお菓子一個を女子から貰ったと思ってるんだよ? 人生でどれだけ損してるの――俺!」さっきから綾子から何回も口に入れて貰ってる慎一を見ながら廣樹が叫んだ。

「……へえ、そうなんだ……廣樹ってモテるんだね」

 京子が小声で呟くと、廣樹はまるでそれを誤魔化すように慎一に言った。

「――ってか、慎一も片桐さんも俺が今知って後悔している前で、何回も二人で交互に雛鳥がエサ貰うみたいにパクパク締まりのねえ顔で食ってんじゃねえよ!」

「――え、だって嬉しいもん。俺は食べるの小学生以来だし、廣樹みたいに全然損してないし……」

「――ええ、だって私達ラブラブだし……」綾子はウインクしながら言った。

「ひ、人が後悔の念で凹んでるのにふざけんな! こんな美味しいイベントあるなら高くてもキヨスクで買ったんだけど!」

「……私も買ったから……一応、持ってきてるよ?」京子が小声で言った。

「……うん、私も買ってきた」奈那が続くように言った。

「――え! マジで! 京子ちゃん、俺も食べたい」廣樹がまるで五歳児の如く目をキラキラさせながら言った。

「……もう、仕方ないな……その代わり……私にもちゃんとやってね?」

 先程の(わだかま)りが嘘のように廣樹達は一気にイチャつく。

「……純也も……食べる?」

 奈那はチョコあ~んぱんの箱を差し出しながら言った。

「お、ありがとう」

 純也は受け取ると早速箱を開けて頬張る。

「――私も食べたい!」奈那が言った。

 純也はごめんごめんと箱ごと返した。

「――違う! そんな答え求めてない! 私も『あ~ん』ってやりたいの!」

 照れて迷っている純也に対して廣樹が言った。

「……普段さ、いつもツンな奈那が純也に甘えて言ってるんだからさ、やってあげなよ」

 純也は照れながらゆっくりと奈那の口に運ぶと満面の笑顔でパクっとした。

「純也は本当になんでも知ってるだな……他にもあったりするの?」廣樹が訊いた。

「……そうだな……『あんぱんおじさん』が、きこりの切株の『きこりのおじさん』と親友といった設定ってみんな知ってそうだしな……」

「――いやいや! 普通はそんなコアなネタを誰も知らねえよ!」廣樹がツッコんだ。

「――あ! 私も一個知ってる!」綾子が思い出したように言った。「パックンチョは、私達が三歳だった発売当初から今まで一貫してディズニーのキャラクターをパッケージデザインに使用していて、発売日は東京ディズニーランドの開園日と同じ四月十五日(良い子の日)で、ディズニーとの関わりが深い製品なんだよ」

「……片桐さん、流石はディズニーマニアですね……」廣樹が呟いた。

 それから六人はしばらくの間、お菓子話でこんなのがあったとか、こうやって食べると美味しいなどと話に華が咲いた。


 宇都宮のアナウンスが車内に流れた時に慎一が思いついたようにいった。

「そういえばNSXってさ、栃木県塩谷郡高根沢町にあるホンダ栃木製作所高根沢工場っていう工場敷地内に発電所を備えた専用生産工場で作ってるんだよね?」

 車が好きな廣樹はすぐに食いついた。

「……やっぱ、NSXはカッコいいよな、リアミッドシップエンジンのジャパニーズスーパーカーだもんな……乗り出し一千万超えるから高いけどさ……」

「……ミッドシップ?」綾子が慎一を見ながら呟いた。

「あ、そっか、綾子にはチンプカンプンか」笑いながら言った。「ミッドシップって言うのは、前のタイヤと後ろのタイヤの間にエンジンがある設計の事なんだ。普通はFFとかFR、4WDで前にエンジンがあって、前輪とか後輪また四輪全部を駆動させてるんだけど、NSXはミッドシップエンジン・リアドライブつまりMRっていって、運転席の後ろエンジンがあって後輪を駆動させてるんだよ。走行性能が高いからレーシングカーに採用されやすいんだよ。もちろんF1もリアエンジンだよ?」

 慎一は目を輝かせて綾子に語った。

「……そっか、慎一はいつかは乗ってみたい?」綾子が覗き込むように訊いた。

「――うん、そうだね……いつかは中古で良いから乗れたら良いな……それに、そんなスーパーカーで綾子とディズニーランドに行けたら本当に幸せだね。夢のような車で夢の国に行って、夢の国でいっぱい遊んで、夢のような車で帰るなんて、本当に最高だよね?」慎一が独り言のように呟いた。

「……そっか――楽しみにしてる! 私の為にも頑張って乗ってね?」屈託のない笑顔で綾子が言った。

「アハハハ、すげえな慎一、車の免許取る前に一台は将来乗らないといけない車が決まったじゃん!」廣樹がケラケラと笑いながら揶揄った。

「ねえ? 廣樹は乗りたい車ってあるの?」京子が覗き込むように訊いた。

「俺? 俺は乗りたい車が在り過ぎてコレっては言えないかな? GT-RもスープラもRX7もシルビアもスポーツカーはみんな一回は飽きるまで乗ってみたいからさ」

「……相変わらず欲張りだね」呆れた口調で京子が言った。

「でもさ、欲張りだからこんな良い女の彼氏になれたんだろ? みんなが諦めるようなイイ女でも諦めないから」

「……バカ……褒めたって何も出ないんだから……」

「見返りは、笑顔で良いよ、京子ちゃん……なんてね?」

 その時、近くの席で飲み物を飲んでいたオジサンが勢いよく飲んでいたモノを吹き出した。

「――もう! よくそんな歯の浮いた台詞をしれっと言えるよね? 本当に廣樹は信じられない!」

 そう言って京子は耳まで赤く染めると俯いた。



 仙台を発ってから約二時間後、六人は東京駅に着いた。

「……なんか、あっという間だったね」慎一が駅のホームを歩きながら皆に話かけた。

「確かにみんなで色々と話をしていたら、もう東京駅って感じだったな」純也が相槌を打つように答えた。

「これからどうする? 京葉線に乗ったら舞浜駅まで二十分かからないけど……」綾子がみんなに提案するような口調で話す。

「そうだな……舞浜駅からホテルまでは近いけど……流石にホテル内でアルコール買うのは値段も高いし、一応は未成年だからリスクもあるしな……」奈那が独り言のように呟いた。

「……別に奈那だから驚いたりしないけどさ……やっぱり……酒……飲む前提なんだ」廣樹がツッコんだ。

「ま、酒の勢いが必要なこともあるだろ?」奈那が笑いながら言った。

「……いや……なんか……怖いんですけど」純也が引き攣った表情で奈那を見ながら言った。

 六人は駅構内のコンビニで各々が明日のディズニーに影響無いだろう量のアルコールを買うとキャリーバッグに積め、ゆっくりと京葉線のホームへと向かった。


 ――京葉線ホーム――

「なんか、キャリーを持ってる人はみんなディズニーに行くように思えちゃう!」綾子が呟いた。

「……まぁ……八、九割はそうだろうな……幕張メッセでイベントやってるならその客も多少なりとも混ざってるだろうけどさ……」純也が答えるように言った。

「あのさ……純也はなんでそんなに何にでも詳しいんだ? お前も立派な宮県民だろ? 都心に詳しいなんておかしくないか?」廣樹が純也に訊ねた。

「……いや……あのさ……廣樹の生き方には下調べって行動は無いの? 普通、何処かに行くなら路線とか乗り換えとか調べないか?」少し呆れた口調で純也は逆に問いかけた。

「廣樹の生き方にそんな行動無いでしょ? 行き当たりばったり、面倒な事嫌い、それで何とかなってる人生だもん!」京子が廣樹が答える前に言った。

「……そっか。確かに廣樹に聞いたのが間違いだったか……」純也が何度か頷く。

「――おいっ! 二人とも俺にかなり失礼だろ! まるで俺が元祖適当男みたいじゃないか!」廣樹が純也と京子を交互に見ながら言い返した。

「――え? だってそうじゃん!」京子達はハモるように廣樹に言った。

「……まぁ……それが廣樹の良いところでもあるしさ……」慎一が二人を宥めるように言った。

「私も……慎一が廣樹くんくらい適当な男だったら良いなって、思う時があるしね……」綾子が慎一に続くように言った。

「――え? どうゆうこと?」

 驚いて振り返った慎一に綾子が腕を組むと言った。

「慎一は、私の事を大事にし過ぎってこと! 女の子はね、たまにはガツンと来て欲しい時もあるんだよ?」

 それを聞いて廣樹と純也がニヤけると慎一の耳元で小声で左右から言った。

「――慎一、ガツンと決めなきゃな!」

 慎一は俯いたまま軽く頷いた。


 ――ホテル前――

「やっと着いた! 腹減った早く夕食が食べたいや」廣樹が独り言のように呟いた。

「確かに腹減ったな」純也が相槌を打つように言った。

 チェックインを済ますと各々の部屋に向かった。ホテルの部屋は同じフロアだったが皆少し離れた部屋を割り当てられた。

 少しして六人は夕食会場前に集合するとカップルで各々のテーブルで夕食を楽しんだ。


「さてさて、どの部屋で飲み会しますか? あ、でも……飲んだ後に戻るの面倒だし、私達の部屋で良っか……」奈那がみんなを見ながら言った。

「まぁ……俺は誰の部屋でも良いんだけど、奈那がそういうならそれで!」廣樹が言った。

「じゃあ、部屋着に着替えたら私達の部屋に集合ってことで」奈那がみんなを見ながら言う。


 ――慎一達の部屋――

「ダ、ダ、ダブルベッド⁉」慎一が部屋に入るなり、ドモるように言った。

「……同じ間取りの部屋って、このタイプしかなかったんだって……」綾子が慎一の後ろから言った。

「あ、そう……知ってたんだね……あ、綾子が別に構わないなら……俺はまぁ……この部屋で全然良いんだけどさ……アハハ……」動揺しながら慎一が言った。

「……私は構わない……よ? だって、慎一は私の彼氏なんだもん。――さ、着替えたら先輩の部屋に行こう?」

「う、うん。そうだね……」慎一は平静を装ったが内心はドキドキだった。そしてこんな事を思っていた。『今日……俺、寝れるかな……なんかドキドキして寝れなそうな気がする。――あ! そうゆう事か!』奈那が東京駅で言っていた『ま、酒の勢いが必要なこともあるだろ?』そして思った『こんな事ならもっとお酒買えば良かったな……』


 ――奈那と純也の部屋――

「てっきり……純也と奈那がイチャイチャしてると思ったけど……意外に普通だな? ……なんか……残念だ」廣樹が残念そう言う。

「――はぁ! 一番最初にマッハで来ておいてなんだその台詞は! イチャつく暇なんてないだろ! 大体、京子はどうした? 京子は!」奈那がご立腹な口調で叫んだ。

「あ、なんか汗かいたから、シャワーを浴びたいって言うからさ、湯上りの京子に発情しないように俺だけ来たみたいな?」ケラケラと笑いながら廣樹が言った。

「……廣樹は、やっぱり廣樹だな? 俺なら恥ずかしくてそんな台詞……いくら親友のお前にだって、絶対に言えない……」純也が感心したように言った。

「でもさ、奈那もやっぱり女の子だな。シャワー浴びてたんだな……でも、二人で浴びてたらもっと面白かったのに……」

「――無いから! 俺がお前ら来るのわかっていて奈那と一緒にシャワー浴びるとか絶対に無いから!」純也は語気を強めていった。

「――もう……冗談だってっば」廣樹は茶化すように純也を見ながら言った。

 しばらくすると京子が部屋の扉をノックしてきて合流した。

「……京子……廣樹はやっぱり、お前じゃないと手綱が握れない男だな……」

「――え? 何が? 先輩……いきなりどうしたんですか?」京子は不思議そうな表情を浮かべて奈那を見ながら言った。

 そんなこんなで慎一達も合流し、奈那たちの部屋で賑やかに飲み会が始まった。明日はカップルで各々に行動、基本的に途中の合流は無しのトリプルデートを楽しむ事、何かあった時の為にミッキーマウス像の前に午後三時に一度集まる事、以上三点だけをさっさと決めると、普段から仲の良い六人だけに酒も入り大いに盛り上がった。

 ふと、気づいたら午後十一時を回ろうとしている。

「酒も無くなったし、そろそろお開きにするか? ……片付けが済んだら証拠の酒を捨てるついでに喫煙所で一服しようぜ?」純也が廣樹にそう話かけた。ホテル側にバレると後々面倒なので、飲み会で出たゴミは自販機横に置かれたゴミ箱に捨てることにした。少し面倒だが、こうゆう隠れて悪いことをしている感が楽しい二人でもあった。

「――お、イイね! 流石に部屋で煙草は吸えないもんな。別に大した量じゃないし、後片付けも二人なら簡単に終わるから、慎一達はもう部屋に戻って良いよ」

「そう? ……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな……このままだと……俺は風呂入らないで寝ちゃいそうだしさ」慎一が笑いながら言った。

 

 廊下を自分達の部屋に戻る途中、綾子が慎一に話かけてきた。

「……ねぇ、私が先にお風呂入っても良い……かな?」

「ん? 別に良いよ……じゃあ……綾子を送ったら、俺は廣樹達のいる喫煙所にでも行ってくるか。お風呂が終わったら電話して? そしたら部屋に戻るからさ!」

「……うん、ごめんね」

 綾子を部屋まで送り、二階にある喫煙所に向かうエレベーターで、慎一はほろ酔い気分で変わりゆくエレベーターの階数を表す数字をぼんやりと見ていた

「……綾子ちゃん、やっぱり綺麗だよな……あんな彼女がいるなんて……なんか嘘みたい」思わず笑顔になってしまっていた。「去年まで虐められっ子だった俺が、こんなにも変われたのは……きっと、綾子ちゃんのお陰だよな……今までの人生は誰かに虐められても、きっと誰も助けてくれないんだって諦めていたけれど、クラス替えで廣樹と純也に出会ってからは、少しづつだけど……自分が変わっていって、気づいたら毎日が楽しくなっていたっけ。もし……今の自分に全てを犠牲にしても守りたいモノがあるとしたら……ただ一つだけ……綾子ちゃん……だよな……」

 エレベーターの扉が開くと慎一は喫煙所へと向かい軽快に歩き出した。


「――あれ? どうした慎一」純也が喫煙所に入ってきた慎一を見て訊いた。

「綾子ちゃんさ、先にシャワーを浴びたいっていうからさ……少し時間潰しに来たの」笑顔でそう答えた。

「そっか、アハハ……慎一はやっぱりそっちの方が良いと思うよ? 慎一は優しい男だからさ、片桐さんを綾子って呼び捨てなんかで呼ぶよりも『綾子ちゃん』って方がらしくて良いと思うよ? ま、慎一達が二人で決めることだけどな?」廣樹が言った。

「……そうだな、廣樹が京子を『京子ちゃん』なんて言ったら……また何か悪いことしたのかって疑われちゃうもんな……」純也が茶化すように廣樹の肩を叩きながら言った。

「アハハ……サンキューね廣樹。ちょっと考えて、使い分けてみるよ」

「そう言えばさ、慎一のピアスって片桐さんとお揃いなんだよな?」廣樹が慎一に訊いた。

「ん? うん、それがどうしたの?」

「……なんか、さっき部屋で見ててさ、なんかお似合いのカップルだな……って思ったからさ。上手く言えないけどさ……なんかお揃いのピアスが似合ってた……」

「あ! 廣樹……おまえ羨ましいんだろ?」純也がケラケラ笑いながら言った。「京子にお揃いでピアスを着けようって言った時に『私、両耳空いてるんだけど……』って言われたから!」笑いながら純也が揶揄うように言った。

「ん? ま、まぁちょっとだけね……」廣樹が自分に不利な話題を変えるように言ってきた。「慎一さ、片桐さんとはまだ一線超えてないんだろ?」

「……う、うん……まぁ……多分、超えてはいない……と思う……」

 綾子の胸を揉んだことがあるので『実際どうなんだろう?』と思いながらも、自分の中では一応超えてはいないと思っているので曖昧な返事を返した。

「……慎一を親友だと思ってるから言うんだけどさ……俺も初めて京子抱いた時って、アイツにキスされるまで俺……何も出来なかったんだ。男ってさ、どうでも良い女なら、簡単に抱きたいって思えてもさ、本当に大事な女だと、意外と奥手になるもんなんだよ……きっとさ!」廣樹は煙草を吸いながら笑顔で慎一に言った。

「……俺も……そう……かな……」純也がボソリと呟いた。

「――はい?」廣樹は純也を見ながら言った。

「いや……俺も、奈那が俺に発破をかけるまで何も出来なかったなぁ……って……」

 それを聞いた廣樹が笑いだした。

「――ハハハ……そっか、そっか、純也もか。男なんてそんなモノだよな? だから慎一も、今夜どうこうって焦らなくて良いと思うよ?」廣樹が笑顔で言った。

「……なんか、ありがとうね。二人も同じだったって思ったら……ちょっと気が楽になった」

 その時、タイミングよく慎一の携帯が鳴った。

『――うん、わかった。じゃあ……もう少ししたら戻ってシャワー浴びるよ。うん、オヤスミ……』

「……ということで、俺はそろそろ部屋に戻ってシャワーを浴びるよ。じゃないと酔いでこのまま寝ちゃいそうだし……大人ぶっても高校生。あんまり慣れない酒は飲むものじゃないね?」慎一は笑いながらそう言うと、喫煙所を後にした。


 慎一が部屋に戻ると、部屋は薄暗く綾子は既に寝ているようだった。

「……寝ちゃったか……少し残念かも。でも……なんか安心した。さ、俺もちゃっちゃと風呂に入って明日に備えるか……」慎一は独り言のようにそう呟くとバスルームへと向かった。

 ゆっくりと湯船に浸かって汗をかいたせいか、少しアルコールが抜けて身体と気持ちが楽になった。慎一は髪を乾かすと、さっさと歯を磨き、電気を完全に消すと、そっとベッドの端っこから布団に入り、天井を見ながら小声で呟いた。

「……綾子ちゃん、俺なんかの彼女になってくれてありがとう。キミは本当に俺にとってのプリンセスだよ。キミがいたからここまで強くなれた気がする。きっと……俺は王子様にはまだまだ遠い男だろうけどさ……いつか綾子ちゃんにとって、本当に誇れる王子様になれたら良いな……こんな可愛い彼女がいて……俺は幸せ者だよ。大好きだよ……オヤスミ……僕のプリンセス……なんちゃって……」

 少し照れながらそのまま眠りに就こうとした時だった。

「……もっと……」

「――え?」

 驚いて慎一が綾子の方を見ると、綾子が布団から顔を出してこっちを見ていた。

「……起きていたの?」

「……うん。……ねぇ……もっと言って……」

「……な、何をでしょうか?」慎一がドモりながら訊いた。

「……僕のプリンセスって……大好きだよって……もっと言って……」

 いざ相手が起きていると思うと照れてしまうのは仕方ない。

「……ぼ、僕のプリンセス……大好きだよ……」

 綾子がモゾモゾと布団の中を少し近づいてきた。

「……もっと……ねぇ……もっと……」

「だ……大好き……だよ」

 慎一を見つめながら言葉を待つ綾子に照れながら言った。

「……私も大好き……」

 真横まで移動してきた綾子からシャンプーのいい香りが漂った。とろんとした瞳をした綾子が慎一にゆっくりとキスしてきた。アルコール特有の味と石鹼の香りが慎一の思考を誘惑する。

「……私……こんなにドキドキしてるの……」

 布団の中で慎一の手を優しく掴むと、自分の胸に押し当てた。

 そして慎一の予想を裏切る感触が伝わってきた。直に触れた固い突起物と伝わる鼓動。

「……綾子……ちゃん?」

「……摘まんでも……良いんだよ?」

 誘惑に負けて優しく摘まむ慎一の指に反応して色っぽい声が漏れる。慎一の股間に綾子の手が伸びると優しく撫でるように刺激をしてきた。

「……ねぇ……私のも触って……私……慎一に発情期かも……」

「……いい……の?」

 綾子がコクリと小さく頷いた。慎一がゆっくりと恐る恐る手を伸ばすと、初めて経験する淡い茂みに彩られた肉の割れ目の感触、粘膜から染み出る嬉し汁でぬめりとした粘度と温度を感じる。

「……温かい……」

 慎一は初めて味わう感触に段々と思考が誘惑されそうになる。それに反応するように漏れる綾子の声が更に追い打ちをかけてくる。

「……ねぇ……きて欲しいな……」

「――え? ……でも、何も着けてないよ……そもそも無いし……」慎一が不安そうに言った。

「……大丈夫……だよ。私ね、月経不順でピル服用してるから妊娠は絶対にしないから。……それに初めては大好きな慎一をナマで感じたいから……」


 ――ホテルの廊下――

「――本当にさ、奈那も京子も普段からよく会うんだからさ、別に千葉県に来てまで話に華を咲かさないでもよくね?」純也が横を歩く廣樹に言った。

「……まぁ……ミニ修学旅行みたいなノリなんじゃねぇの? 俺らだってさ、また喫煙所でゆっくり話せるし、結果オーライで良くない?」廣樹が純也の肩を軽く叩きながら言った。

「まぁ……な……ん? エレベーター前にいるのって……慎一と片桐さん?」純也が二人に指を差しながら言った。

「――二人ともどうしたの?」廣樹が二人に明るく声をかけた。

 二人は一瞬ビクっと反応しながらも笑って答えた。

「これから二人でどっかに行くの? 本当に二人は仲が良いね?」純也が笑いながら二人に話しかけた。

「……あ、ありがとう……」綾子がぎこちない返事を返す。

「ちょ、ちょっと……喉乾いたから一階のコンビニまで行こうかなぁ……って思ってさ……」慎一もぎこちない返事を返してきた。

「……そっか。俺たちは京子達が話に華咲いてるからさ、また二人で喫煙所に煙草でも吸いに行こうと思ってさ」純也が煙草を吸うジェスチャーをしながら言った。

 純也がそう言った瞬間、エレベーターが到着して扉が開く。慎一と綾子が乗り込み、廣樹が乗ろうとした瞬間、純也が廣樹の体を引っ張った。

「あ、俺らは次のエレベーター待つから先に行って良いよ」

「――は? なんで……」

 廣樹がそう言った瞬間、エレベーターの扉が閉まり始めた。扉が閉まり、壁に表示された階数が移動したことを確認してから純也がゆっくりと口を開く。

「――お前な、二人を見て察しろよ! どう見たって、あれは二人とも一線超えただろ! 俺ら見て挙動不審になるわ、その割に手はずっと繋いでるし、片桐さん着ていたシャツって慎一が昼間に着ていたヤツだろ?」

「……純也……よく見てるなぁ……まったく気づかなかったよ」

 純也から深い溜め息が零れる。

「……本当に廣樹って奴は……」


 ――エレベーターの中――

「――びっくりした! まさか廣樹くん達に会うとは思わなかった……」

「……本当に……」慎一が小声で言った。

 二人はお互いに目が合った。綾子が慎一を引っ張るとキスをした。

「……キス……またしちゃったね?」

「うん……綾子ちゃんって意外と積極的な女の子なんだ……ね……」

「……嫌い? そうゆう子って嫌?」

 慎一は首を振って否定した。

「……慎一……大好き……すごく好き!」

「……俺も大好き……だよ」

「……部屋に戻ったら……また……続きしようよ……」綾子がとろけた瞳の笑顔で慎一に言った。

 慎一は綾子を抱き寄せ抱きしめると言った。

「もう……なんか……愛おし過ぎて……綾子ちゃんに首ったけかも俺。今なら映画のデロリアンさえも作れちゃいそうな気がする!」

「――それ! 面白い。私もなんか……モナ・リザ以上の絵画を描けちゃいそう!」

 二人はエレベーターの中で声をあげて笑った。


 コンビニに着いた二人はドリンクコーナーにいた。

「うーん、何にしようか? お水? それともスポーツドリンクとか? お茶は……無いか……」綾子が笑いながら言った。

「そう言えばさ……純也が前に疲労回復なら、筋肉の疲労回復を促進するクエン酸が含まれているからポカリよりもアクエリが良いって言っていたっけ……」

 慎一が思い出したように言った。そう言いながら純也の雑学の深さに改めて感心していた。

「へぇ……そうなんだ。慎一……もしかして……疲れちゃった?」

「いや、全然大丈夫。アレして疲れたは……男として駄目でしょ?」慎一が笑いながら言った。

「……バカ。そんなこと急に言われたら恥ずかしくなるじゃん……」

 二人はスポーツドリンクと数本と水をカゴに入れるとレジへと向かった。

 

 エレベーター前に着くと上のボタンを押した。

「……ねぇ……禁断の果実に手を伸ばした気分どうだった?」綾子が照れながら訊いた。

「――え? ……そうね……かなり中毒性が高かった……かな?」慎一は頭を掻きながら答えた。

「慎一……今日は寝かせないから……ね?……」綾子は腕を慎一に絡めながら言った。

「――え? 明日はディズニー……って、言っても……目の前にいるプリンセスの方がずっと大事か。明日の心配より、今、目の前にいる綾子ちゃんとの時間……優先する!」

 そう言って慎一は綾子のおでこに優しくキスをした。

良かったら、感想や意見よろしくお願い致します。自分の小説は基本同じ時間軸の同じ登場人物になります。

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