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火のなかの氷をさわるような6

『塔』について知っていることは、入ったら出られない事程度。


 顎で示したのは俺が目指している塔ではなかったが、アンバー達によって運ばれた先の街にも4本の塔が天を貫くように、または支えるように突き刺さっていた。

「発動してる」

 ぼそっとそう零したのはサルバトスで彼が塔の天辺を指差した。4本の内2本、尖端が光を反射しているのか発光しているのか輝いている。

「塔の中に有翼種が居ると、あぁやって発光する程度しか私は知りません、あれには近寄るなと子供の頃から言われていました。」

 光ると発動してるのかとベゼルが他を見るが確かに尖端は色を放ってはいなかった。

「丁度いいや、見に行こう。もしかしたら助けが必要かも知れないし」

 人の話聞いてますか?という顔の二人をほぼ無視するかのように身動きしやすい格好に着替えて万が一のための武器を下げる。慌てて二人も用意して塔の側まで来た。

 たっぷりの恨み言を思う存分聞くほどには辺りを見渡して、衛兵が数名交替で見張りをしているのと、塔の尖端に黒い鳥が数羽飛んでいるように見えた。

「あれってさぁ、鳥かな」

「すいませんね~鳥目なので暗くてよく見えません」

 皮肉たっぷりのアンバーの声を聞き流し、衛兵が入れ替わる瞬間の間に塔の扉の下に近づいた。

「特に鍵が掛かってるわけでも無いんだな…中からは何やっても開かなかったんだけど…種類が違うのかな」

 ベゼルが押せば簡単に開いた扉を前に1つ疑問を零した。その直ぐ後、とんっと背中を押されて塔の中へと足を踏み入れた。

 衛兵が戻って来たのだろう。

 薄く扉を開いておこうとサルバトスが扉をゆっくり閉めようとするとそれは青白く一度発光し、静に閉じてしまった。

「何だ?!」

 声を押し殺して三人が扉を開けようとするがびくともしない。

「つまり、出るには塔の上部の窓から出るしかないって事ですか」

 やだやだ、何でこんな事になってるんだかとアンバーの再びの皮肉にベゼルが聞き飽きたよ、さっさと調べて助けて出ようよと告げた矢先、もう少しで登り切る所だったらせん階段の上の部屋から壊れた音の出る人形がケタケタと笑っているような声が聞こえた。

 流石に三人の足がピタリと止まり顔を見合わせ、先頭を歩いていたベゼルが腹を決めるまで数十秒動けずにいた。

 鬼が出るが蛇が出るか一歩踏み込んだ先にあった人物と目が合った次の瞬間、塔の窓の外から内側に向けて焔の柱が向かってきた。

 逃げ場は無い。

 それでも屈めばやけど程度で済むかどうかか?とベゼルがアンバーに被さるように火を除けると、低く唸るごーという音と共に蒼白い炎がまるで盾のようにベゼルの前に起こった。

 何事が起きたのか、横目でその蒼白い炎を見ると何か、誰が法術を使って盾になっているように見えた。

 幻想か、それは透明でその奥の火柱が消える様を見届けるまで続いてゆっくりと消えていった。

「なん、だよ…」

 燃えかすのような灰のような濁りのような、かつて何か物だった物体が外から入る風によって消えていく。風の前の芥のように吹かれて消えるその風を運ぶ窓に、ゴツイブーツが乗り、中を覗う人物と目が合う。

「さっきの光はなんだ」

 殺意しかない眼光に射貫かれて身動きが取れないベゼルを押し退けアンバーが前に立ちはだかる。その背が鉄壁の如く遮った。

「どいつが出した」

 窓から此方には入ってこない、と言うことはこちら側には何かあるのだろう。彼等が入れない何かが。

 もし入れない何かがあるなら、私らを誘き出すためにまた、あれが来る。そう思えばこの目の前の鉄壁を押し退けた。

「多分、俺…だと思う」

 薄闇の中、背後から抑えていたサルバトスの手をふりほどいて窓の彼からは見えるが、手は届かないだろう位置に立つ。対峙する。初めて怖ろしいと思った。ゴミか何か目で見たようなそんな目で見られる。

「多分だぁ?あんな無茶な法術使いやがったくせに多分だぁ?」

 こちらに踏み込もうとしている人物の肩に手が置かれて、ビクリと反射した。

「オヤジ」

 この焔の大元、オヤジと呼ばれるには些か若い顔が此方を窺い、目を見開いた。薄暗い向こうから月明かりで僅かに見えた顔に反射的にアンバーがベゼルを引いた。

「魔王」

 これが、魔王。勝手に思い描いていた想像の人物とは余りにも懸け離れすぎていて、正直、魔王とは思えない。何処か儚いような雰囲気を持つ見た目に自分と然程変わらない男だ。

「…引け…」

 どちらに言ったか瞬時には理解できなかった。が、それは魔王の方の好戦的な奴に向けられた言葉だと解った。

 流石にあの火柱だ、衛兵を配置するほどの塔に何時までも滞在する方が間違っている。階下から駆け上がってくる足音に彼等は既に空に羽ばたいた後でアンバーとサルバトスも続いて外に飛び出ていた。

「ちょ、あの…俺…飛べないんだけど」

 という声は届いたのか届かないのか、足音に気圧されるようにじりじりと窓の縁に立つ。


 アンバーやサルバトスの間を切り裂くように飛んできたあの好戦的な奴が縁に立つベゼルへと睨みつける。こんな所で何なんだよとベゼルが舌打ちしそうになったがその舌打ちは相手に取られた。

「おい、お前飛べねぇのか」

「飛べたら飛んでるっての!助ける気がないならどけよ!」

「誰が助けないって言ったよ、掴まれ街の外れまで連れてってやる」


 ほぼ放り出されるように街外れの泉のほとりに投げ出された。衝撃より何より浮遊感と胃が持ち上がるような何とも言えない体感に吐き気を覚える。放り出された直ぐ真横にトンッと軽やかに降り立ち、腹の辺りを抑える俺の向かいにしゃがみ込んだ。

「なぁ、お前がベゼルなのか?」

「何だよ」

「塔にいたか?」

 質問の意図するところが掴めず、ベゼルが向かい合う奴と膝が付くほど近くでお互い眉間に皺を寄せた。

「居たけど、なんかあるんすか?」

 助けて貰った手前あまり強く言い切れない。

「オヤジがやたら塔に拘るから何なのかと思ってたんだよ」

「だーかーら、何なんだよ」

「お前は攫われた末の兄弟、お前と俺は兄弟、あとオヤジな…さっきお前がつかった奴なあれは守護法術だぜ、親が産まれた子供にかける奴」

 指を俺とお前と順番に指し、空の上で止まっている1つを指差した。

「は?」

 間の抜けた声と、アンバーの羽ばたきがほぼ同時だった。兄弟と言っていた男との間に割って入るように剣を地面に突き刺した。それはベゼルの目の前でも有り、この人は俺も平気で刺し殺しそうだなと乾いた笑いが出た。

「避けなくて良かったんですよ」

 忌々しいという顔を二人が向ける間をベゼルが割って入った。

 当然だが、直ぐに飛び立ち少し上からベゼルへと向けてニッと笑った。

「ライナスだ、またな」

 はぁ、またですかとベゼルが肩を落としながら見上げると、既に白い筋を残して姿は既に見えなかった。


 宿に戻ってから少し落ち着いた頭でベゼルは『あっ!』と叫んで二人を驚かせたが、正直二人を驚かせた事よりも自分の中で、ふーん兄弟かぁ、でもアンバー魔王って言ってたな~…魔王がお父さんなんだ。のこの最後の一行に目を白黒させた。


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