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 最初に異変に気が付いたのは魔獣だった。知恵持つ人がなんとか周りの意見をまとめては全員が折り合いのつく所を探して折衷案を出す中、有翼種のその者がなぜ人が仕切るのかと一石を投じた。

 人は誰がやっても同じだよ、ただそこに責任を追う事を理解し間違った道を進もうとしたときに引き返す勇気がある者がやれば良いだけだ、適任が自分だと思うのならば君がやると良い、私は喜んで補佐するよ。

 投じられた一石に人がこう返すと、有翼種の者がその役を引き受けた。最初は上手く廻っていた物の不満が次々に噴出し、ある日有翼種の者がこう言った。お前が私の足を引っ張るから上手くいかないのだと、人は自分を信じる者を連れて有翼種の元を立ち去った。有翼種は人の居なくなった国で次々と神から禁じられた事に手を染めていった。何をしたら神が罰しに来るのかと、だが神は彼が何をしても姿を現すことは無かった、そうして数百年数千年、かつて美しかった有翼種のその者は神の見捨てた世界の王として魔獣と有翼種と少しの人の王となった。


 一方、信じる者を連れて新天地にて国を興した者を指導者とし、皆でまとまるように国を動かしていった、その新天地にさえ魔王の手は伸びその度に払い従う者達から魔王を封じて欲しいと声が上がり、指導者となった彼の子が魔王を封じる旅へと出た。これが後の世に伝わる防魔戦争である。


「で、その防魔の旅に出たのが、俺の先祖ってわけ、アルセール・ルヴァンっていう英雄王がいるだろあれだあれ」

 カミーユ、アンバーに連れられ森の奥、人気の少ないどころか人の気配のない所でそんな話を聞かされ、ベゼルはへ~っと面白そうな話だな!と目を輝かせている。

「代々引き継がれる名前により、魔王がまだこの東大陸に英雄がいると思わせ、手を出さないようにしているのですよ、まぁ、実際初代の英雄王は有翼種の者とツガイの契約をし随分長くそして多くの子孫を残されていますから」

 アンバーが補足するように続けるのをベゼルはキョウミブカイといった顔でみている。

「で、俺が、それの、何に関係があるの?大事な話って」

 ベゼルが二人に問いかけた時、アンバーが真上を見上げて一言呟いた。

「来ましたね」

 来た?と足下が影が落ちて、ベゼルは空を見上げると翼を持った人物が何かを大事そうに抱えて降りてきていた。

「?!」

 驚いた表情のままベゼルが降ってきた羽を拾いつつ少し全体を見るように下がる。

「凄い…羽だ…」

「あれが有翼種ですよ」

 風圧にベゼルがよろけたのを、カミーユが腕を掴まえる。人一人が飛ぶための強靱な羽からの圧は予想よりも強く想像よりも力強かった。

「お待たせして申し訳ありません。」

 降り立った男の周りに羽が散らばる。

 鳶色の羽は模様がとても綺麗だ。

「いや、昔話をするのには丁度良かったよ」

「昔話ですか?それはそれは、さて、そちらの方が?」

 指を揃えてさされベゼルがうわっとカミーユの背後に隠れた。

「何だよ」

「え、何か」

 小声でちょっと怖いしと零したベゼルへと優しい顔を向けている。

「取って食いは致しませんし、私、菜食主義者なので肉はちょっと」

 猛禽類の羽の模様をして、そう告げられても説得力のかけらも無いが、カミーユに促され、彼の目の前に立たされる。

「血の紋のご説明は?」

「一応は」

 確かめるように目配せされ、ベゼルが血の波紋?で有翼種かどうか判るってと続けた。

「我々有翼種だけが持つ魔術を使うための血の盟約があるかどうかを見るための物です」

「魔法なんて使ったこと無いし、羽も見たことないよ」

 有翼種なんてありえないとベゼルが顔を左右に振り手を広げて否定するが、目の前に居る有翼種の男は一度顎に手を宛て思案してから口を開いた。

「恐らくアンバーからの報告を聞く限り、締結の術によって封印されているのかもしれません、その場合我々の王に解いて貰えれば羽も魔術も使えるようになりますよ」

 アンバーとは似ても似つかぬ程穏やかに話す男が地面に水盤を置き、そこに何かの液体を満たしていった。

「アンバー、仮に探し人だとしたら王に報告しますが、良いですね?」

「探し人?」

 ベゼルがアンバーから聞いたとおり、血の紋の為に指先に刃物を当てながら見上げるとアンバーは一つも表情を変えていなかった。

「ある人の子供を探してる」

 波紋の為に水盤に血が落ちたのと同時にアンバーが告げる。カミーユも有翼種を探しているとは聞いてはいたが、深くまでは聞いたことが無かった。

「ふ~ん」

 カミーユの驚いた顔とは正反対のベゼルの顔が水盤の波紋と共にアンバーの目に映る。

「…」

 ただ静かに満ちる時間はとても僅かで、水盤に血によって紋が浮かび上がる。

 円に焔と何かの模様

「どうなんだ?」

「アンバーの探し人だったようですね」

 彼の言葉にアンバーは空を仰いだ。


「悪い結果だったのか?」

 きょとんとしたベゼルが微動だにしないアンバーの体に指先が微かに触れる。

「触らないで下さい」

 急激に温度を失ったような目がベゼルへと向けられる。

「どうしたんだ」

 世界から温度がなくなったかのような声にカミーユが問い糾すと顔を静かに覆った。

「彼にも、色々あるのですよ」

 取りなすように有翼種の男が思慮深い顔をベゼル達へと向けた。

「一度里へ戻られたらどうです?アンバー」

「…」

 じっと一度だけベゼルを睨むような目で見てからアンバーはカミーユへと暫く隊を抜けるとだけ告げた。

「戻ってくるのか?なら…許可する」

「それは、まだ」

 目を逸らして、戻るとも何とも言わなかったアンバーに対してカミーユは困った表情を浮かべてから下を向いて、とびきりの笑顔を創った。

「お前が破壊した壺なあれ、創世記時代の貴重品だったんだよな~、今更ながらにあれの損害賠償を求めるよ」

 え?と目の前で笑っている男の顔を見下ろせば、真剣な顔付きでアンバーを見つめている。

「今更、何を」

「法律的には問題ない、事件事故から20年以内なら請求可能だ、事故から10数年か?まだ範囲内だ」

 今更じゃないときっぱりと言い放った。

「お前が戻ってくるならチャラ、戻らないならお前の所の王に請求する」

 酷いやり口だなとベゼルが二人の遣り取りを口を挟まずに見ていると、手で目元を覆ったアンバーが毒気の抜けたといった顔付きに変わっていた。

「貴方って人は本当に、…長く人との生活に私も慣れすぎたようですね」

 告解のような呟きにカミーユは黙っていた。

「………一度だけ、里に帰ります………気持ちの整理が付いたら戻ります」

「判った」


 二人の遣り取りの間、有翼種の男性がちらとベゼルに話を振った。

「あなたは、どうされますか?」

 戻れば羽も魔法も使えるようになるという話を思い出してからベゼルは顔を横に振った。

「俺は、このままでいいや…たださ、一つだけ知ってたら教えてくれない?……………」

 風に流された音に目を見開くでもなく、耳打ちするように口を寄せた姿をカミーユは目の端に捉えていた。

 その答えに満足する物だったのかどうかはベゼルの表情からは読み取れない。


 蝶が羽化するかの如く、背中から仕舞われていた羽が姿を現す。白く1枚1枚が大きく長旅にも耐えられるだろう造りをしたものが姿を現す。完全に広がりきるまで瞬き数回、アンバーがカミーユへと向き直り、一度頭を下げた。


「では、行きますか」


 2つの翼が空高く舞い上がって見えなくなるまで見続けてから、残された二人が一瞬無言の内に目を合わせた。

「お前、行かなくて良かったのか?」

「何で?だってさぁ、俺まで一緒に行っちゃったらアンタ一人じゃん?行商とか隊をまとめんのどーすんだよ」

 あっけらかんとした回答にカミーユが引っ掛かった物を口にした。

「あのさぁ、お前、あの使者に何か聞いてただろ?あれは…………すまん!立ち入った事だよなわす」

「どうしたら、人と同じように死ねるのか」

 とカミーユが忘れろと言うよりも早く、冷静な顔で今度はカミーユを見ているベゼルと視線がぶつかった。


 何と無しに、どちらともそれ以上に口を挟む事無く隊に戻ろうと互いに口から出た。

 無言で馬の背に揺られながら、ほんの数時間の出来事をお互いに反芻していた。


「ね~、アンバーはさぁ誰の子供を探してるんだろうね…それってさぁ、俺の親ってことだよね…あの人達じゃなかったんだ…って安心した」

 小声になっていく語尾と何処か安心した顔が馬上で隣に並ぶ。

「あのさ、…ずっと考えてたんだ…アルゴットを自由にしたい助けて欲しい」

 意を決した表情の研ぎ澄まされた空気にカミーユが頷く。ずっと囚われているように感じた。人一人を葬った事を枷のように生きている事はどこに居ても伝え聞く事は出来て、カミーユも友として心配はしていた。それでも彼の父親が生きている間は良かったが彼を支える人はもうこの世には居らず、何処か破滅的に生きているのを止めたいという気持は理解できる。

「まぁ、どうであれ戴冠式の後だな…アンバーも居ないし…」

 くしゃっと項垂れたような頭をカミーユが撫でる。


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