第5話 弱者は強者を喰う話
目が覚めるとベットの上にいた。死んだはずではなかったのか。
傷や火傷は消え、痛みなどはなかったが、動けない。仰向けの状態で一切動けない。さっき味わった魔法と同じだ。
「やぁ、目が覚めたかい?」
部屋に入ってきたのは武器屋の店主。闇魔導士だ。
「ここは私の部屋だよ。動けないのは拘束魔法を使っているから。闇魔導士はデバフがメインだからね。君みたいな冒険者じゃ解除できない」
「なんで、殺さなかったの」
店主はため息をつき少し上を向いて答える。
「NPCはプレイヤーを殺してはいけない。なぜなら強すぎるから。NPCのルールだ。もし殺した場合そのNPCは消滅する」
NPCにもルールがあったんだ。
「じゃあなぜ拘束するの?殺されたくないから?」
「それもあるが殺さなきゃいいんだよ。死なない程度に遊ぶことは可能だ」
一瞬何を言ってるのかわからなかった。
「この世界でも痛みはある。さぁ、どこまで耐えれるかな」
正気じゃない。今すぐにでも逃げたいが動けない。力が入らない。首から上は動くのにそれより下は一切動かない。
「まず最初は左腕を切り落とそうかな。さっき君が見ていた雪道の切れ味が知りたいだろ?切るときに声を出されても困るから少し強めようか」
そう店主が言った後、首から上すらも動けなくなった。勿論声も出ない。
「まずは左腕から、よっと」
ナイフが左腕に食い込んでくる。
相当痛い。狂ってる。いつの間にか半分まで行ったのか。痛いのに動けないし声も出ない。
骨まで到達した。雪道の切れ味は本物で骨すらも簡単に切っていく。
声は出ないが猛烈に痛い。
「あれ?予想以上にあっさりと切れてしまったな」
え?左腕を見てみる。本当に左腕は切れていた。指の感覚は消え、あるのは痛みという苦痛だけだ。
「次は右腕かな。今度はもう少しゆっくり切ろう。予想以上の切れ味だ」
ふざけるな。まだやる気か。左腕でもう死ぬほどつらい。このままだとこっちが狂ってしまう。何とかして逃げ出さないと......
すると店のドアが開く音がした。
「おっと客か。少し待っていてくれ。まぁ動けないから問題ないんだけどな」
チャンスだ。何かできることはないか。この拘束魔法さえ消えれば何とかなるのに
あたりを見渡す。近くには何もないあったとしても動けない。もう無理かと諦めた時だった。
『悪魔地獄がお似合いだよ』
懐かしい言葉が頭を過った。ああ、そうだ。私は......
何かを思い出したかのように笑う。そして目の色を変えた。
その瞬間店主が帰ってきた。
「あの客結局何も買わず帰っていったよ」
「へーそれは残念だったね」
「ああ、本当に残念......?!」
店主は相当驚いた顔でこちらを見た。
「拘束がまだまだ甘いようだね。修行が足りないのでは?」
トレースは起き上がりながら嘲笑うかのように言った。
「冒険者ごときが私の魔法を壊すな!」
店主は手を出し『爆炎』を使う。拘束がない状態なので容易に避ける。
「なぜ避ける?!この速さは銃弾と同じ速さだぞ。どうなってるんだ」
「さーね。だけど遅いのは事実なんじゃないかな。実際避けれるし」
店主は何発も連発するがトレースは華麗にすべて避ける。
正直自分でも驚いていた。いつもより体が軽い。その理由は左腕がないからだろう。勿論まだ血は出ている。出血多量で死ぬ可能性もある。だが気にしていたら火の玉にあたり同じことを繰り返すだけだ。
かといって避けるだけでは事は進まない。反撃をしなければ永遠にこのままだ。
少しずつだが魔法もペースが落ちている。連続して使うのは流石にきついようだ。
一瞬の間を狙った。魔法と魔法の微かな間を。
「今!」
店主が魔法を打った瞬間魔法と店主の視界が重なる位置にナイフを投げる。店主はまだ気づいていない。魔法が当たる寸前で避け店主もナイフに気づき避ける。
「え......?」
避けた先にはもう一本のナイフを持ったトレースがいた。武器屋なだけあってナイフが色々な所に置いてあったのを拝借した。
素早くナイフを下す。店主は避けた反動で重心がかたよっている立ち直ることは不可能だ。ナイフが店主の首を切り落とす。
「はぁ、はぁ。殺した。やっと......」
最初の時とは違い血が流れている。やっと殺した。安心しきったその時だった。
『死印』
店主が死に際で魔法を使った。その瞬間トレースは移動速度低下、攻撃不可等のかなりのデバフと同時に吐き気や熱、全身が重く感じた。
死印とは魔法ではなく闇魔導士特有のアビリティで死ぬ間際に使うことができる。
全てのデバフを変えることができ更に高熱などを出させ精神的にも攻撃する大技だ。
40%の確率で死ぬことがある。
「残念だったな。お前も道連れだ」
立っていることも危うくなり倒れ込む。また、意識が遠くに行く。ダメだ。何としても生きてみせる。
店主のほうを見るともう生きてはいなかった
トレースももう限界で目を閉じる。
「また、この感覚か。次は本当に死ぬのかな」
小さな声で呟いた。もう。全て諦めた。やっぱり冒険者だったのがいけなかったか。少しばかり後悔しながら眠りにつく。
「おい!大丈夫か!目を覚ませ!トレース!」
どこかで呼ばれた気がしたが動くこともできず助けを求めることもできず眠りについた。
また目を覚ました。次は知っている布団の中。確かここはティグリスの宿。なんでここにいるの?
傷はしっかりと治療されていた。だが、左腕は消えたままだ。
部屋を出てティグリスに事情を聞きに行く。
いつも通りカウンターにいた。
「お。元気になったか」
「おかげさまでね。色々と聞いてもいい?」
「ああ。俺もトレースに聞きたいことがあるからとりあえず食堂に行こうぜ」
二人は食堂へ向かう。入り口近くにある椅子に腰かける。
「まずは私からでいい?」
最初に質問したのはトレースのほうだった。
「ああ、何が聞きたいんだ」
「大きく分けて二つ。一つ目はどうやってここまで運んでくれたの?どうして助けに来たの?」
「おいおい、さりげなく二つ聞いてるぞ」
軽い突っ込みをいれながらもティグリスはゆっくり話す。
「NPCが死ぬことは滅多にないことだ。だから死んだ時の情報はすぐに入ってくる。誰が、どこで、誰を、どうやって、までだ。名前が空白だったから怪しいと思った。そして場所も案内したところの近く。そして助けに来た理由だが、相手が闇魔導士だったろ。闇魔導士のアビリティ死ぬ間際に相手に全てのデバフをかけることが可能だ。だから心配で見に来たってわけだ」
「なるほどね。最後のは魔法じゃなくてアビリティなのか」
アビリティって本当に便利だ。
「因みにあのアビリティは40%で死ぬぞ。運がよかったな」
「え?そうなの?危なかった」
60%の確率で生きられてよかった。
「じゃああと一つは先に聞いてからにしようかな。そっちの質問もどうぞ」
「じゃあ遠慮なく。ちょっと所持金を見てほしい。本当にNPCを殺したのならどうなってるかはわかるよな?」
NPCを殺すと1億だったのを完全に忘れていた。すぐにプロフィールを見る。
所持金 1億4000
本当に1億が入っている。NPCを殺したんだ。
「おー。実際に1億入ってるプレイヤーを始めてみたよ。まぁ俺が聞きたかったのはこのことだ。最後の質問いいぞ」
少し間を置き大きく息を吸って声に出した。
「なんで騙したの?」
一瞬時が止まったかのようにシーンとなった。
「もう一度聞く。なんで新規プレイヤーって嘘をついたの?」
「嘘なんてついてないよ。トレースがNPCの店に行っただけだろ」
「悪いけど誤魔化しても無駄。あの案内されたところにはあの店しかなかった・実際NPCとプレイヤーは区別がつかない。それを利用したでしょ。正直に答えて」
ティグリスは少し黙り込む。しばらくすると口を開いた。
「トレースならNPCでも殺せるんじゃないかと思ってな」
「ふざけるな。こっちはそれで二度死にかけ左腕を失ったんだ!」
食堂に響くぐらい大きな声で怒鳴る。
「だが、こうでもしないとこの世界の残酷さがわからないままだったんだ。どうだった?この世界は喰うか喰われるかの世界だ。それを身に染みてわかっただろ」
正直納得はしたくない。けど否定ができない。確かに闇魔導士を殺すときに思ってしまったからだ。
「まぁ今後殺すか殺さないかはトレースの自由だ。だが、それだけの強さがあるなら喰う側になっておけ」
「そんなの。自分で決めるから。もう、疲れたから部屋で休むね。まだ左腕も完璧じゃないみたいだし」
「おう、ゆっくり休め。あー、あと一つだけ。後ででもいいから装備一覧見ておけ」
「わかった。部屋に戻ったら見てみるよ」
そのあとはすぐに部屋に戻った。ティグリスに言われたように装備一覧を見てみる。
ナイフのところに『雪道』が入っていた。
見ていただきありがとうございます。
いつもは3000文字ですが今回は少し長めの4000文字になっています。まぁそこまで変わりはないと思いますが。
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次回は今週中に上げる予定です(毎回同じこと言ってる)




