第16話 もう悪魔じゃない
鬼編はラストです!
お楽しみください!
『束王』とは
スキル詳細不明。この世界において実装されていない技。そのため技とも認識されていない。
「おい悪魔、何した?」
流伽は動きを止めたままトレースに話しかける。
「完全オリジナルスキル。束王。敵一体の動きを止めることができる」
吹っ飛ばされたティグリスも驚きこちらを見ている。
「冒険者風情がなぜスキルを使えるんだよ!」
「だから言ったでしょ?完全オリジナルスキルだって」
「そんなの不可......」
「不可能って言いたいんでしょ?でもそれを可能にした。それがこの結果だよ」
頭がついてこない流伽は喋るのをやめた。ティグリスはこちらに歩いてきて尋ねる。
「どうしてスキルが使えた?冒険者はスキルが使えないはずだろ」
「冒険者も職業の一つに含まれているのにスキルがないのはおかしいと思ってね。もしかしたら無いと思い込んでいるだけで本当はあるんじゃないかと思ってね」
「それで模索した結果というわけか」
NPCすらも知らなかった冒険者のスキル。この世界の革命と言っていいほどの発見だ。
「つかこれいつまで動けねえんだ?」
流伽が固まった状態で聞く。もう既に5分は経っている。
「このスキルの長所は制限時間がないこと、短所は自分より強い相手には通じないってこと」
「なるほど、悪魔は死神より強いってことか。やっと証明できたな」
「......証明したくなかったけどね」
トレースは少しかないし顔で下を向く。
「トレース、早くとどめ刺して進むぞ。ここで時間喰われすぎだ」
「......無理」
「は?いくら知り合いだからって助けるのか?トレースを殺そうとしていた相手だぞ?」
「それでも殺せない」
もう二度とプレイヤーを殺さない。その言葉をティグリスは思い出す。
「まさかこいつも元は人間だから殺したくないって言いたいのか?」
トレースは静かに頷く。それを見て流伽が驚いていた。
「まぁいくら鬼でもこのまま放置されてればいつかは死ぬか」
「放置は正直勘弁して欲しいな。なら殺せよ。悪魔」
「何度言われよと人は殺さない。もう悪魔に戻りたくはない」
「戻るも何もお前は悪魔だ。今までも、これからも」
トレースは黙り込む。静寂の中ティグリスが動く。
「ならトレース、俺が殺そうか?」
「......え?」
トレースは驚いた。NPCがプレイヤーを殺せば消える。今の言葉は自ら命を絶つのと同じことだ。
「何言ってるの?殺したら消えるんだよ?ここで一人にする気なの?」
「別にトレースが殺らないんだったら俺が殺るって言ってるんだけど?」
「だからそれに対して死にたいの?って聞いてるの!」
トレースは怒りながらティグリスに問いかける。それでもティグリスは至って冷静に答えている。
「はは。NPCよ。俺を殺して一緒に死のうぜ」
「生憎と俺はまだ死ぬ気はないんでね。トレースを神の街まで連れていくまでは」
「ほー。でも悪魔は殺す気がない。お前さんは殺せば消える。この状況をどうするよ」
「......いい加減トレースを悪魔って呼ぶんじゃねえ」
ティグリスは低い声で威圧をかけるように言った。その言葉を聞いたトレースはものすごく驚いていた。
「トレースは悪魔じゃねえんだよ。昔はそうだったかも知れねえが今はトレースって名前があんだよ。いつまでも昔を引きずってんじゃねえよ」
「そいつの名前、一応あるんだぜ?なのになぜ改名する」
「ああ、エルだったか?言ったろ。昔を引きずってんじゃねえって。少しでもこっちで馴染んで貰おうと思っただけだ」
そのこ言葉を聞きトレースの目から涙が流れていた。それに気づいた流伽がトレースに向かって喋りかける。
「おいエル。お前はこの世界にきて正解だったみたいだな。俺はこの世界に向いてなかったらしいわ。おいNPC、俺を殺せ」
「言われなくても最初から殺す気だ。悪いがトレース、少し向こうに行っててくれんか?」
トレースは不安そうな顔をしながら問いかける。
「戻ってくるよね?」
「安心しろ。トレースは何としてでも神の街まで案内するから」
少し安心した顔をしトレースはその場を離れる。
「何か最後に言いたいことはあるか?」
「エルのこと頼んだぞ。あとはお前に任せる。あとこれ、エルに渡しといてくれねえか?きっと役に立つ」
「......承った」
ティグリスは小さなナイフを流伽から受け取った後静かに剣を下ろした。
トレースが待っているとティグリスの姿が見えてきた。
「ただいま。ちゃんと戻ってきたぞ」
「なんで......?鬼は対象外だったりするの?」
「その辺りを詳しく話すが歩きながらでいいか?少し時間取られすぎた。と、その前にこれ、流伽からだ」
ティグリスはトレースに先ほどもらったナイフを渡す。
「これは?」
「トレースが探してた紅の魂だよ」
「なんでそれをあいつが持ってたの?!」
「さーな。プレイヤーを狩っているとき偶然手に入ったんじゃねえか?」
やっと手に入った三つ目の武器紅の魂。春夏秋冬まではあと一本となった。
「因みにこのアビリティって何かわかる?」
「アビリティは確か秋に使うと武器が透明化するとかだったはずだぞ。まぁ自分の見えないから当たり判定が分からないのがデメリットだが」
「使えそうで使えない武器だね」
「確かにな。それじゃ歩くか」
二人は山岳を登りながら話し始めた。
「俺は少し特殊なアビリティを持ったNPCなんだ。NPC一人一人にアビリティがあるが中でも異名持ちは特殊アビリティが手に入る」
「え?ティグリスって異名持ちって事?」
「ああ、言ってなかったな。異名『鬼狩りの虎』だ。昔に鬼ばっかり殺してたらいつの間にかな」
「どこから虎が出てきたの?」
「ティグリスって名前からだ。ラテン語で虎って意味なんだよ」
虎......ラテン語でティグリス。鬼狩りの虎......普通に強そう。
「それで?特殊アビリティとやらはなんなの?」
「大体察しはついてると思うがNPCのルールが無効になるだ」
「そんなチートみたいなアビリティが存在していいの?」
「まぁそれがありなんだわ。だからプレイヤーを殺しても死なねえよ」
「なるほどね。すべて理解した」
アビリティは無限にあるがその中でもチート級のアビリティ。NPCのルール無効化は普通に強すぎる。
「それじゃ俺からも聞いてもいいか?」
「答えられる範囲で答えるよ」
「あの流伽って奴とどういう関係なんだ?あとトレースの過去もできれば話してくれないか?いやだったら無理に話すことはないけど」
「別にいいよ。でも私の過去ぐらいだったら知ってるんじゃないの?NPCの情報で」
「確かに少しは知ってるが全てを知れるわけじゃないんだよ」
「まぁいいよ。そっちも色々話してくれたし......悪魔を否定してくれたし......」
「ん?最後なんて言った?聞こえなかったんだが」
「何でもないよ。じゃあ私が悪魔と呼ばれた理由と死神との出会いを話すね」
見ていただきありがとうございます!
次回はいよいよトレースの過去編に入ります!
感想やアドバイスがありましたらコメントまで
高評価やブックマークお願いします!
次回の投稿は未定です。