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鼻をほじれば冬は過ぎる

作者: 新井さら

 あるところに四季を司る四人の女王様が交代で住んでいました。

また、それぞれ性格も違っており、季節の印象も彼女達の影響から来ていると伝えられています。

彼女たちはとてもこの世界にとって大きな存在です。

今こうして四季が巡っているのは、彼女たちが居るからなのだと言い伝えられています。

女王様を実際に見た狐の男はこう語っています。


「目に入れても痛くないほど凛々しく、美しいお方だった。姿勢も正しく

、こちらが手を振るとにっこりと微笑んでくれた。その日、家に帰ると 三日三晩寝込んでいた子供の熱が治っていたのだ。これも女王様のお陰なのだろう」


村の人たちの評判もとても良く、愛想の良い女王様たちに比べて、何かと悪評の多い王様とはよく比べられておりました。

ですが、その中でも冬の女王様を見たことがあるのは誰もいませんでした。

極度の恥ずかしがり屋だとも、とても醜悪な顔だとも噂で流れてはいますが、定かではありません。

何せ噂はあくまでも噂なのです。

普通ならば村民にとって、冬の女王の素性について特に気にする必要はないのですが、今は違います。

異常事態が発生しました。

なんと冬の魔女が塔から出てこないのです。

これでは作物を育てることもできず、わ村民達は凍え死んでしまいます。


「お母さんこのままだと僕たちどうなるの?」


狼の子供はぶるぶると震えながら言いました。


「大丈夫大丈夫。

ちょっと冬の女王様は体調を崩してて予定が少し遅れてるだけよ」


子供はお母さんに撫でられると少しだけ笑顔を取り戻しました。

お母さんは顔には出さずにいましたが、内心はとても心配でした。

そうして、村民達の冬を越せない不安は、どんどん募っていく一方なのでした。

流石のこれには王様も黙ってはいられません。

しばらくして御触書が公布され、今回の事柄について、村民達に情報が行き渡りました。


「冬の女王を連れ出せ。褒美は好きなものをやる」


内容はこのような杜撰なものでした。

ですが、このお触れが広まったとたん、村の勇敢な男たちがその塔にわんさか集まってきたのです。

誰もが我こそはと、塔に進み出てきたのでした。

まず最初に出てきたの

は、村でもっとも目立つ男です。


「こんな取っ手俺の力でへし折ってやる」


村でも随一の力持ちである牛のカインは大声で言いました。


「ふんっ!」


カインは鉄扉の取っ手を思いっきり引っ張りました。

他の村民達は勢い扉が外れて、カインが向こうの湖まで飛んでいかないかと心配です。

ですが、結果は意外なものでした。


「なんだこりゃかてぇ!俺んちの壺よりかてえ ……ぐぉぉ」


カインはいっそう

腕にはみるみる血管が浮き出ており、白かった顔は真っ赤になりました。

いよいよ村民達は待ちきれず、次は俺の番だと声を荒らげ始めました。


「ううう……うおおおお!!」


どすん!という音が響きました。

ですが、それはドアを開く音ではなかったので、村民達は安心しました。


「ぐぞおおおお……」


カインは仰向けで空を睨みながら、悔しそうな声を漏らしました。


「ボクに任せろ!」


次に名乗りを上げて飛び出したのは技術屋の兎、アランです。

小柄なアランは大男たちの隙間を、持ち前の賢い頭脳で掻い潜ってきました。


「こういうのは力でやろうとしても無理なんだよ」


アランは取っ手を触りながら、持っていた工具を駆使して外そうとしました。

誰もが不安そうにアランをみています。

なんせ困った物があればアランに任せれば大抵直ると言われるほど、信頼の厚い兎なのです。


「……んー?」


……ですが、いくらたってもアランは取っ手をいじくって、工具をカンカンと当てているだけで、何も進展はありません。


「おっかしいなぁ……こっちか?」


次々と工具を取り替えていくアラン。

ですが、大量に持っていたはずの工具は一周してしまいました。


「あれっ……」


とうとうアランは目を回らせながらふらふらと後ろの方まで戻っていきました。


「だめだ。あんな取っ手の種類見たことないや」


アランはまだ目を回らせながら、工具をカチカチと鳴らしていました。

もう日も暮れかかっている頃。

村民達はまだまだ諦めません。


「おうじょさまあああああああ!!!」


村一番の大きな声を持っているカトーが叫びました。雲の上まで続いている塔の上までは、届かなかったようです。

村一番の髭を持つ猫のケニーが挑みましたが、髭を巻き付けた取っ手はびくともしません。

夜になるとフクロウのライトがやってきて、羽を仰いで塔ごとなぎ倒そうとしましたが、びくともしませんでした。

ライトはそのあと村民にこっぴどく叱られました。

村民達は大分、疲れはじめて来ました。もう家に戻ったものもいます。


「これはどうしようもないな」


村の長老と呼ばれている亀のロードは深いため息を付きました。


「困ったわねえ」


春の女王様が言いました。


「だいたいあいつはいつもそうなのよ」


夏の女王様は不機嫌そうに木を蹴っています。


「……」


秋の女王様は無言でした。


「ん?」


皆が途方にくれているなか、茂みから小さな狸がひょこひょことやってきました。


「皆さん連れてきました! ほじくりです!」


ほじくりと聞くと、皆は一斉に不機嫌な顔をしました。

女王様たちはそのほじくりを知らなかったので、どういう顔をすれば良いのかわかりませんでした。


「そこのほじくりという者、布を取れ」


夏の女王様の命令を聞くと、ほじくりは被っていた黒い布を外しました。


「ほじくりです」


「「うわ!?」」


すると思わず女王様達は声をあげました。

ほじくりと言われた狸は、とても醜悪な顔をしていたのです。

誰が見ても不細工だとしか言えない、それはそれは言葉では言い表せられないような顔でした。


「ほじくりならなんととかできるかもしれません」


小さな狸は自信満々に言いました。

女王様達は顔を見合わせながら何かごそごそと話しています。

やがて春の女王様が口を開き大声で叫びました。


「ねぇ冬の女王!あなたよりも不細工な男がやってきたわよ 」


「えっ!!」


瞬間皆はどっと叫びました。


「今の聞いたかよ」


「やっぱりあの噂は本当だったのか」


村の皆はざわざわし始めました。

他の女王様達はほじくりが、それを聞いて怒らないかと心配でしたが、ほじくりは何の表情の変化を見せず、ただ鼻をほじくっていました。


しばらくするとあの固い扉から、一人の女性が出てきました。

村民達はおおっ!と歓声をあげました。


「……」


白いドレスを身に纏った冬の女王様がうつ向き気味で表れました。

その時です。

冬の女王様の顔を見るやいなや、村の人たちは皆一斉に自分の体をつねりはじめました。

垂れたしわしわの頬に、汚れた分厚い唇。大きな鼻には一段と大きなニキビがついており、一際悪い目付きでした。

女王様という言葉にはとても似合わない外見です。


「何処に居るのその人は?」


冬の女王様がしゃべると、皆つねる力をいっそう強めました。


「こいつだ」


夏の女王様がほじくりを指差します。


「まぁ……!」


すると、冬の女王様は

顔を上げて、目をキラキラと、夜を照らす月のように輝かせました。


「……」


ほじくりは無表情で冬の女王様の顔を見ています。

冬の女王様は口には出しませんでしたが、少しだけ勝ち誇った顔でほじくりを見ていました。

しばらく見つめあっていると夏の女王様がやってきて、耐えきれず言いました。


「春と交代するぞ」


「ええ。 いいわ。替わりましょう」


冬の女王様はあっさりと認めました。

その勝ち誇った顔に、夏の女王様は少しうんざりしました。


「それで貴方の望みは何かしら?」


春の女王様が聞きます。

ほじくりはあまり考えず、低い声で言いました。


「冬の女王様を、僕にください」


「「えっ!?」 」


その場に居たみんなが声を上げて驚きました。

眠りかけていた犬の子供たちは一斉に跳びはね、見物に来ていたカラス達は一斉に飛び立ちました。

「冬の女王様は僕の顔を見て、嬉しそうな顔してくれた。 僕、初めてそんな顔された。だから欲しい」

ほじくりはきっぱり言い切りました。

よぼよぼした目には強い意思が宿っています。

そこには迷いは微塵も感じられません。

「お、おい。 それはさすがにまずいだろ。な?」

女王様たちは気まずそうな顔をしていましたが、やがて冬の女王様が言いました。

「いいわよ。受け入れましょう」

「「えええっ!?」」


かの有名な、後に語り継がれる

「世界に轟く動物達の声」はこの瞬間誕生したのです。


こうして再び四季が巡り始め、村民たちに安寧がもたらされました。

「昆虫オーケストラ楽団」の演奏会には沢山の人が集まり、「コウモリナイトショー」は例年に比べて一層盛り上がりました。

みんな春が来てとても嬉しそうです。


しばらく経ったある日、二人が塔に幸せそうに入っていく姿を見かけたという噂が流れましたが、それはまた別のお話。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ほじくりのインパクトの強さ。ただ、鼻くそほじっているわけでもないですし、しっくりくるかは別になりますが……。ですがともかく、インパクトはすごかったです。 どんな奴が出てくるんだ、ってわく…
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