七話 森の支配者
「なんか、少し不気味だな…」
僕とホークが今いるのはテノールから北に位置する森の中だ。木の本数は多くないようだが、葉が繁っているため日の光が少し遮られてしまっている。
「結構魔物も多いし、危険な植物も沢山居るから、その表現が的確かもね。常に警戒を怠らないようにしないと…」
「え、危険な植物ってどうゆうっ!?」
突如として足が右側に強く引っ張られ、転倒する。足を見ると太い蔦のようなものが巻き付いていて、その先には大きな口を持った植物が口を広げていた。
(う、わっ…!?引っ張る力が強い…!!撃てっ!!)
僕は足に巻き付いている蔦に向かって、攻撃魔法を発動する。至近距離から攻撃魔法を受けた蔦は鈍い音を立てて千切れた。
「っ…!一体…っのわっ!?」
間髪入れずにに左右から二つの鋭い爪が襲い掛ってきた、僕はこれを避けきれず、左腕を負傷する。
「ッケイ!大丈夫?」
「っ…まだ戦えはするけど…!奴等は何…!?」
不意に現れた二匹の爪の持ち主は狼のような体をしている、体色は緑で、眼の存在を確認できない。
「奴等がさっき言った危険な植物だよ、私は食人植物をやるから、ケイは後の二匹をお願い!」
「っ承知した!」
(食人植物って言うのは多分あの大口だよな、僕の相手はあの狼みたいな奴等か…!)
「ガウゥッ!」
二匹のうち片方がホークの方へ走り出した。
(一匹の狙いはホークか!後の"二匹"を任されたんだ、行かせるかっ!撃て!)
僕の放った攻撃魔法がホークの方へ駆けて行った一匹に直撃する。気は逸らせた様だか、あまり効いているとは思えない。
(っ!流石にウォドックとは違うか…!?)
「グウゥ…」
「ガウゥッ!」
二匹がこちらに頭を向けて威嚇している、目が存在しないにも関わらずその殺気は感じとることが出来た。
「グウゥッゥガァゥッ!!」
二匹はシンクロした動きで左右から挟む形で自らの持つ爪を振り上げる。
(っ!?挟み撃ち…!?守れ!)
咄嗟に防御補助を発動させるが間に合わず、右側から来た爪を受けてしまう。
(ぐっ…!防御補助のタイミングが合ったとしても、連続して防ぎきれる気がしない…!どうにかして連携を崩さないと…!)
二匹は同じ動きをして再び挟み撃ちを仕掛けてくる。
(また来る…!こうなったら無理矢理にでもっ…!纏え!)
僕は攻撃補助を発動させ、左から向かって来る一匹に狙いを定める。
「おぉぁっ!!」
打ち振った薙刀が左側の一匹の胴体を両断したと同時に右側の一匹の爪が僕の右腹部に突き刺さった。
(ぐっ…!この…撃て!)
僕は透かさず爪が突き刺したままの一匹に攻撃魔法を放つ、その衝撃でその一匹は二、三メートル吹き飛んだ、そして吹き飛んだ先に居たのは食人植物を退治し終わったホークだ。
「せぇぃっ!!」
ホークはまるでボールを打ち返すかの様に飛んできた一匹を切り捨てる。
(っ勝った…!…いっっ…!!っさっきの傷が効いたな…流石にあれは無謀すぎたかな…)
「ケイ、今治すよ」
「…ありがとう。…ねぇホーク、さっきの奴等…危険な植物って言ってたけど、魔物と何が違うの?死体も残っているようだし…」
「まさか徘徊植物も知らないの?魔力と並ぶ常識だよ?」
徘徊植物、この一ヶ月の間に何回か聞いたことはあったが、リクルト狩りしかしていない僕にとっては無縁だと思っていた。
「徘徊植物って言うのは文字通り歩く植物の事で、魔物と同じように群れを作っている植物が居るの、さっきの狼みたいな奴、狼型って言うんだけど、それがそうね。で、その場から一切動かない植物が非徘徊植物、食人植物がその部類ね」
(植物の進化著しいな)
「なるほどね…だから魔物と違って死体が残るのか」
「そういうこと、後は植物を食べる緑食植物なんていうのも居るけど、それは私たち冒険者にはあまり関係ないかな…よし、傷はどう?」
「もうなんともない、ありがとう」
「さて、ささっと森を抜けちゃいますか!」
リクルト退治しかしていなかったせいか、森で会う魔物や、植物達は僕にとってとても手強く思えた。そして僕とホークは森の中である人物と遭遇する。
「ん?」
「ケイ?どうしたの?」
「いや、なんか向こうから音が…」
その直後、茂みから高さ二メートルほどの巨体を持った猪の様な植物が現れた。
「そこの人ぉっ!!巻き込むようですまないが手を貸してくれっ!!」
その後に続いて茂みから現れた紫髪の青年がこちらに向かって叫んだ。
「っ!?ホーク、っどうする!?」
「助けるしかないでしょ!」
(聞くまでもなかったよね!ホークはお人好しだからね!)
ホークが剣を構え、猪型の植物に向かっていく、僕はあまり近付きたくないので攻撃魔法で遠距離から攻撃する事にする。
「助かるよ二人とも!奴の正面には絶対に立つなよぉっ!!」
「言われなくとも!」
ホークに気付いた猪がホークに向かって突進を仕掛ける、あの巨体が走るだけで軽い地震が起きた様に感じるほど強烈なものだ。
(やっぱり猪だ…!突進の速さが尋常じゃないっ…!!狙いが定まらない!)
僕は攻撃魔法を連発し、なんとか足止めをしようと試みる。
(こいつ…!撃て!撃てっ!!)
下手な鉄砲数撃てば当たるとはよく言ったもので、十数発の内一発だけ猪の脚部に命中した、猪はその衝撃で少しよろける。
(よし、当たっ…)
しかしその直後、猪は怒りの矛先をこちらに向け、地面を蹴った。
(なっ…!?行きなり来たっ!?のわぁっ!?)
僕は横に跳び、この突進をなんとか回避する、だが、猪はすぐに振り向き、再びこちらに向かって地面を蹴った。
(はぁっ!?っまだ体制が整って…!?)
「しまっ…!ケイが…!」
僕は防御補助を発動させようとしたが、当然間に合うわけもなく、猪の突進をもろに受けてしまう。
(えっ…これ、死ん…)
僕の意識はそのまま落ちてしまった。