六話 出立
「でぁっ!!」
打ち振った薙刀がリクルトの腹部を抉る、リクルトは傷口から大量の魔力を吹き出し、散った。
(フゥ…これで全部かな?)
僕は周囲を見渡す、魔物は…もう居ないようだ。
(よし、じゃあ、命石を回収してテノールに帰ろうかな)
僕がこの世界に来てからもう一ヶ月、もうこの世界にも大分慣れてしまった。
「ただい…あれ、ホークも依頼に行ったのかな?」
疲れた体をベッドに投げる、戦闘にも少し慣れてきたのでリクルト退治くらいなら一人でも行けるようになった、むしろリクルト退治しかしていない。
(というかリクルト以外と戦うの怖いし、…やっぱり僕は何時の世も臆病者だ…)
それからしばらく経って、部屋の扉が開けられた。
「ケイ、ただいま。疲れてるみたいだね?」
「ホークか…、うん…今日も今日とてリクルト退治だよ…」
「最近はずっとリクルト退治に行ってるよね、冒険者組合では『リクルト殺し』って呼ばれるほどだよ?他の魔物退治とか、行かないの?」
「だって…怖いじゃないか、リクルトとかウォドックは弱いから戦ってみよう、って気になれるけど、他の奴となると何をしてくるか分からない、対処できなかったら死んでしまうかもしれないし」
「ケイは、保守的なんだね」
「うん、だから皆に臆病者って常に言われて…自分でも変えなきゃいけないって、分かってるはずなのに…」
「無理に変わるくらいなら、変わらなくても良いんじゃない?」
「僕はいつもそうやって逃げてきた、でもこの世界で生きていくなら、なんとか恐怖を克服しなきゃ…」
「んー、私は、ケイが臆病者でも、臆病者じゃなくても、ケイが好きだけどな」
「…ホークは…何でそんなに僕に優しいの…?…こんな僕に…」
「…何でだろうなぁ、元々お人好しだったけど、ケイは…ほっとけないんだよ、誰かが守ってあげなきゃ、すぐに死んでしまいそうでさ」
「…はは、情けないな…女の人に守ってもらうなんて…」
「それを情けないって思えるのなら、ケイも十分優しいよ」
「…ありがとう、ホーク、少し元気が出てきたよ」
「それなら良かった、さぁ!もう夜だし寝ちゃおうか」
「そうだね、明日に備えて…」
ホークが明かりを消し、ベッドにもぐる。
(変わらなくても良い…本当に、それで良いのかな…?)
次の日、眩しい朝日で眼が覚める、重い瞼を擦りながら、僕は窓を開ける。眩しい朝日と、テノールの町並み。この綺麗な景色を朝一で見るのが、いつのまにか日課になってしまっている。
僕はその景色から目を離し、少し部屋を見渡す。
(ホークが居ない、もう依頼に行ったのかな?…僕も朝食を摂ったら、リクルト退治に行こうかな)
僕は部屋を出て、食堂に向かった。
「お、ケイ、おはよう」
宿屋の店主、スウェイトさんに話しかけられる。
「スウェイトさん、おはようございます」
「ホークから伝言を預かってるぞ」
「伝言…?」
「ああ、『今日は話があるから部屋で待ってて』だとさ」
「そうですか…」
(部屋で待っててか…僕何かしたかな?)
「ッごめんケイ、ちょっと遅くなっちゃった」
時は昼過ぎ、ホークが部屋に帰ってきた。
「ホーク、どこ行ってたの?」
「ちょっと調べものをね、そろそろ出発しようと思ってさ」
「出発って、何処に?」
「空間魔法に詳しい人の居る場所だよ、長旅になるかもしれないけど…」
「えっと…長旅って、どれくらい?」
「あー…ちょっと待ってね」
ホークが地図を開き、道をなぞり始める。
「んー、基本歩いていくから…何もなければ…十日くらいかな」
「十日!?」
「うん、流石に海を渡るときは船を使うけどね、大陸一つ挟んで向こう側なんだよ」
「随分遠いところに住んでるんだ…」
(場所移動で十日か…日本だと考えられないな、もっとも、この世界に来てからそんなことばかりだけど)
「夕方前に出発したいのだけど…準備とかは大丈夫?」
「えっと…うん、大丈夫、あんまり私物はないし」
「そっか、私もちょっと準備をしようかな、先に正門で待っていても良いよ」
「わかった、じゃあ、待ってるよ」
「さて、まず最初の目的地は…」
ホークが正門の前で地図を広げる。
「ここから北の森を抜けて…ウェーバーっていう港町に向かう」
「そこから船に乗るんだね」
「そう、それじゃあ、出発しようか!」