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破壊か保存か  作者: 九乃頭虫
転生と出会い
4/9

四話 戦いの準備

「ケイー、そろそろ起きなよー」


ホークさんの声をきっかけに、僕は眼を開ける。と言うことはもしかしたらこの世界は夢かも、という可能性は今断たれた。


「……ぁ、おはよう…ございます…」


あくび混じりの声が出る、僕は相変わらず朝には弱いようだ。


「すごく眠そうだけど大丈夫?下で顔を洗ってきなよ、今日もやることがあるから」

「…分かりました…」


僕は覚束ない足取りで顔を洗いに向かう。この世界は王道ファンタジーみたいだから施設も中世風なのかと思っていたが、水道設備は日本と同じくらいしっかりしている、色々な時代が混ざっているようだった。顔を洗い終えて、ホークさんと共に食堂で朝食を取り、部屋で今後について話し合うことにする。


「…あの、これからどうするんですか?」

「その事なんだけど…あ、まず敬語はやめようか」

「え…」

「私たちは同じ冒険者なんだし、しばらくは一緒に行動するでしょ?それに何より私が話しやすいからね、あ、『ホークさん』も無しでね」

「あ、はい、分かりまし…あー…分かった」

「うん、それでよし、冒険者はみんな立場がほとんど同じだから、冒険者相手だったらそうやって気兼ね無く話した方が楽だよ」

「そうなんで…あ…そうなんだ」

「で、これからなんだけど、ケイの使う武器を今から買いに行こうと思ってるんだ」

「武器?」

「うん、魔物と戦う訳だからね、当然必要でしょ?お金は出世払いでいいよ、そんなに高いものじゃないし」

「え、いいの?」

「うん、ケイみたいな世間知らずは、誰かの助けが必要じゃない?」


確かにホークが居なかったら僕は今頃死んでいただろう。


「それじゃあ、ささっと武器を買いに行こうか、ケイ、付いて来て」



ホークに連れられたのはブロウド武器店と書かれている場所だ、中には剣、槍、斧、弓、杖などゲームにお決まりなものはもちろん戦輪、鞭、多節棍、籠手などマイナーな武器も並んでいる、この世界の人間は使う武器にも個性が多いようだ。


「っらっしゃい!今日はどんなご用で?」


赤く短めの髪で豪傑そうな茶色の目の店主が、威勢の良い声を上げる。


「こんにちは、ブロウドさん、この人の武器を見繕って欲しいのだけれど、良いかな?」

「ほお、新人さんかい?任せておきな!最高の武器を選んでやろう」


ブロウドさんと呼ばれた店主は自信ありげに答える。


「そんじゃ新人さん、ちょっと奥に来てくれ」


ブロウドさんに手を引かれ、カウンターの奥の扉に入る。そこには少し広い空間に店の中にあったすべての武器が一つずつ置いてあった。


「そんじゃ、始めるとしよう」

「始めるって…何を?」

「今からお前さんには此処にある武器を一つずつ試してもらう、そん中から一番素質のある武器を俺が選んでやるのさ」

「そんなことできるんですか?」

「俺だって昔は冒険者だったんだ、そんくらい分かる」


冒険者ってそんなにすごいのか。それともこの世界の人間自体がすごいのか…、後者だろうな。


「そんじゃ、まず剣だ」


ブロウドさんから剣を受けとる、試験の時に使った訓練用の物より、数段重い。


「じゃあ、ちょっと二、三回自分なりに素振りしてみてくれ、目の前に敵が居ると思って」

「え、振るだけで良いんですか?」

「ああ、それだけで十分素質は見てとれる」


僕は言われた通り、剣を振ってみる、重くて少しよろけてしまったが。


「ふむ、もういいぞ、じゃあ次、槍だ」


こんな具合に全ての武器を振り終える。


「よし、これで全部終わったな」

「これだけで、その、素質っていうのは分かるんですか?」

「ああ、もちろんだ。素質だけじゃないぞ、お前さんが武器を持ったことも殆ど無い、臆病者だって事もよぉく分かった」

「えっ…!?」

「ははァー、図星だろう?人が武器を持つと、案外多くの事を語るのさ」

「武器屋の人って、皆そんなことが出来るんですか?」

「皆じゃあないが、大体はな。んで、お前さんに一番素質があったのが…槍だな」

「槍、ですか」

「ああ、本来槍は突くための武器なんだが…お前さんは斬ることの方が得意みたいだな。ってことはだ…ちょっと待っててくれ」


ブロウドさんが店の倉庫に向かい、三分ほどで戻ってくる。


「こいつを使ってみるといい、これは薙刀といってな、ちょっと珍しい武器なんだが、これなら突くことはもちろん、斬ることも想定されている。用途の広さなら棒斧でも良かったんだが…新人のお前さんじゃ使いこなせないだろうからな。ちょっと試し振りしてみな」


ブロウドさんから薙刀を受け取り、軽く素振りをする。確かに、重さもしっくりくるし、振りやすい。明らかに他の武器よりも使いやすいことが僕でも分かる。


「確かに、使いやすいです」

「よぉし、決まりだな、そんじゃ、店に戻るとするか」


ブロウドさんと共に店のカウンターへ戻る。


「おかえり、どうだった?ブロウドさん」

「しっかりと槍の素質があった、いずれ良い冒険者になるんじゃないか?」

「なるほど、槍か、今日はありがとうブロウドさん、いくら?」

「1000ブロンだ、ホークが払うのか?」

「うん、未来への投資、ってね」

「ただのお人好しに聞こえるが…、1000ブロン丁度だな、確かに、そんじゃ、また来いよ!ああそうだ、新人さん!お前さんの名前を教えてくれるか?」

「あ、えと、ケイです」

「そうか、ケイだな。また来るのを楽しみに待っているぞ!」


ブロウドさんに見送られ、僕とホークは武器屋を後にする。しかし魔物と戦うために武器を整えるとは、本当にゲームみたいだ。


「さてと、じゃあ次はケイが少しでも生き残れるようにしないとね」

「それなんだけど…具体的に何をするの?」

「各種魔法を使えるようにするの、一番簡単な魔法でもあると無いとじゃ大違いなんだから」

「じゃあ、ホークも全部使えるの?」

「もちろん使えるよ、補助魔法以外あんまり使ってないけどね」



次にホークに連れられた場所は外壁に囲まれたとても広い鍛練場だった。そこには多くの冒険者が居て、手合わせをしていたり、魔法の練習をしたりしている。


「あ、ケイじゃないか、ホークと一緒に鍛練?」


声のした方を見遣ると、昨日冒険者組合で受付をしていた跳ね方に特徴のある青髪で優しそうな緑色の眼をした青年、アロンが立っていた。その隣には昨日試験官を勤めていた短い銀髪で明るい赤色の眼をした青年、ダイトも居る。


「アロンさんとダイトさんって知り合いなんですか?」

「アロンで良いよ。ダイトは僕の相棒なんだ」

「ここら辺じゃ結構名があるよね、ダイトもアロンも」

「当然だろ?俺とアロンは強いからな」

「ダイト、自分達の力を過信するなって言ったろ?」


三人は大分仲が良さそうだ。他愛の無い会話をして、一緒に笑うような友達、日本に居た時は居なかったな、そういう人。


「あ、そうだ、ねぇ二人とも、ケイの訓練手伝ってくれない?」

「え、良いけど、僕とダイトに出来る事あるの?」

「二人とも私より強いでしょ?強い人たちに訓練してもらった方が効果的かと思ってさ」

「なるほど、そりゃあ良い案だな。そんじゃ、俺とアロンは何をすれば良いんだ?」

「ケイは魔法の使い方も殆ど知らない極度の世間知らずだから、とりあえず基本的な使い方だけでも教えてもらっても良いかな?」

「あー、それなら攻撃、回復魔法はアロンに任せた」

「承知したよ。それじゃあケイ。ちょっと来てくれ」



「じゃあ始めようか、まず攻撃魔法からやろう、まぁ難しいところもコツもないけどね、まずは初歩の初歩から。それじゃあ手を前にかざして、あそこにある的を狙ってみてくれ」

「えーと、こう?」


僕は奥に見える的に手をかざす。


「そうそう、ケイは自分の魔力の流れって感じれる?」

「…さあ、覚えに無いけど…」

「ならいい。それじゃあ頭の中で『撃て』とか願ってみるんだ、そうしたら発動できるはずだよ」


…撃て

そう願った瞬間試験の時のように僕の手の平から石の礫が発射され、的を破壊する。


「そうそう!上出来だ」

「今のでいいの?」

「うん、簡単すぎるかもしれないけど、最初のうちはそんなものだよ。さ、じゃあ早く次行こうか。ケイは、回復魔法がどんなものか知ってるよね?」

「えっと、確か、体の再生能力を高めて傷を塞ぐ魔法、だったはず」

「そう、えっと、例えば…」


そういうとアロンはおもむろに剣で自分の手のひらに傷をつける。


「えぇ!?」

「…っ、大丈夫、死にはしないから」


傷口からは青い色をした気体のようなものが流れ出ている。


「そ、それ、手から何が出て…!?」

「ああ、魔力だよ、知らなかった?この世の生き物はすべて魔力で構成されていて、傷を受けると、傷口から主属性の魔力が流れ出るんだ。で、致命傷を受けると体から大量の魔力が失われ、最後には体の形をとどめていられずに命石を残し気体となって消滅する。これが死だ」

「それ流して大丈夫なやつ!?」

「もちろん。さあ、傷口に手を当てて、今度は『治せ』とか願ってみるんだ、そうすれば発動する」

「は、はぁ…」


…治せ

そう願うと、手のひらが優しく光出し、傷口をすぐに塞いでしまった。


「わ…すごい」

「だろ?あんまり大きな傷は塞げないけど、大分役に立つよ」


これはよく覚えておこうと思った。この世界がゲームみたいに死んでも復活するかどうか分からないからだ。


「よし、これであとは補助魔法だけだね、それは僕よりダイトの方が長けてるから、ダイトの所に行こうか」


僕はダイトの所に向かい、補助魔法を教えてもらう事にする。


「お、アロン、そっちはもう済んだか」

「うん、補助魔法はダイトに任せたよ」

「よし任された、ケイ、じゃあ始めるぞ。補助魔法はとても単純だが戦闘においてもっとも重要な魔法と言っても過言じゃねぇ、攻撃を防ぐ、攻撃の威力を上げる、それだけでどれだけ役に立つかは言わなくても分かるな?」

「まぁ、ゲームはよくやってたから、多少は」

「げーむ、っていうのはよく分からないが…まぁ、理解したならいいか、そんじゃ、実際に発動してみるか、まず攻撃補助からだ、一回何もせずにこの訓練人形を武器で殴ってみな」


そう言ってダイトは一体のかかしのような人形を持ってくる。僕は言われた通り薙刀で人形に一太刀入れる。しかし人形は以外と強固で僕の攻撃を跳ね返してしまった。


「とまぁ、補助魔法が無いとこんなもんだ、次はその薙刀をしっかりと握って『纏え』とか願ってみろ、そしたら攻撃補助が発動するはずだ」


…纏え

そう願うと、薙刀が鈍い茶色の光を纏う


「よし、発動したな、それじゃ、その状態で訓練人形に攻撃してみな」


言われた通り人形を攻撃する、すると薙刀の刃は人形に刺さり、その衝撃で人形が大きく揺れる。


「な、さっきと全然手応えが違うだろ?魔力を纏わせただけでこんなにも違うんだ、全魔法の中で一番単純な魔法と言われて軽視されてるが、だからこそ補助魔法を極めたやつが戦闘を制すと俺は思うね。そんじゃ、次は防御補助だ、これも簡単に発動できる、手を出して『守れ』とか願うだけだ、やってみな」


…守れ

すると、手のひらから光る盾のようなものが現れる。


「よし、発動したな!」


ダイトがそう言った途端木剣を手に切りかかってきた、ダイトの攻撃は僕の手のひらに現れた盾に当たり、盾は攻撃を跳ね返した。


「ちょ、なんでいきなり切りかかって!」

「ちゃんと防げたろ?」

「なっ、まぁそうだけど、攻撃してくるなら攻撃するって先に言ってよ…」

「ははっ、悪い悪い、けど、魔物は待ってくれないからな?」

「…ですよね」

「ま、今見た通り、防御補助も戦闘においてとても重要なことが分かるだろ?だから、攻撃補助と防御補助、二つともしっかり覚えておけよ?」


「ダイト、アロン、ケイの訓練は終わった?」

「ホークか、今終わったとこだ」

「ケイは結構筋がいいよ、僕たちより大分ね」

「そうなの?それはよかった、ならもう実践に行っても大丈夫そうだね」

「え、実践?」

「そう実践、魔物と戦うんだよ、もしかして怖いの?」

「そりゃあ、当たり前だよ!」

「あれ、予想外の答え、てっきり「そんなこと無い!」とか言うと思ったけど」

「怖いよ、だってもしかしたら死ぬかもしれないんだし」

「自分に正直なのは良いことなんじゃない?ダイトとホークも見習ったら?」

「俺たちは魔物を怖いなんて思ったこと無いけど」

「…さすが双子、思考が似ている」

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