二話 気付いた事
「此処はテノールっていう城下町、来たことはある?」
来たことがあるわけがない。僕はいいえと答える
「そう、君って本当に世間知らずなんだね。草原の真ん中で武器も持たないで突っ立ってたし」
武器を携帯しなきゃいけないくらい危ないところなのか此処は、ひょっとしたらあのときに死んでいたのかもしれないな。
このテノールという場所は人が多く、まさに中心都市のようだった。人の髪色は青や緑など、日本では考えられない物だけれど、髪を染める文化でもあるのかな。街道はゲームなどでよく見られる石畳、建物も同じく石造りだ。いわゆる中世風というものなのだろうか。気になったのは城下町の入り口に衛兵が立っていたり、町中で大剣を背負って歩いている男性を見かけたりしたことかな。
「着いたよ」
彼女に連れて来られた場所は活気があり、とても賑やかな場所だった。宿屋というものらしい、外の看板にはスウェイト亭と書かれていた。ホテルの様なものなのだろうか。
「やあ、いらっしゃい。今日はどういった用件で?」
気の良さそうな店主が彼女に声をかける。
「こんにちは、スウェイトさん。一週間ほど部屋を貸してくれる?二人分」
「あいよ、一週間だね。800ブロンだよ」
「ありがとう、じゃあ行こうか」
彼女に手を引かれ向かったのは十二畳ほどの相部屋だった。やはりゲームのような趣があり、ベッド、タンス、机など基本的な家具は揃っている。
「この方が話しやすいから相部屋にさせてもらったよ。私の名前はホーク、君の名前は?」
「えっと…ケイ、です」
「そう、よろしくね、ケイ。で、君はなんであんな所に突っ立ってたの?」
「それが…僕にもよく分からないんです、ベッドで寝ていたはずなんですけど…目を覚ましたらあそこにいて…」
「…うーん…」
彼女は少し考え込み。
「何かの魔法だとは思うんだけど、私あんまり魔法には詳しくないんだよね…ちょっと調べてくるね、私が帰ってくるまで待ってて!」
と言い、部屋を出ていってしまった。
「えぇっえ!?ちょっと待っ…!…行っちゃった…」
帰ってくるまで待てと言われたので追いかけるわけにもいかない。しばらく何をして時間を潰そうかと考え、此処がどういう場所か整理する事にした。
まず日本語が通じている時点で此処は日本だろう。だけど僕の記憶が正しければ日本に今だ栄えている城下町なんて無かったはず、それに此処の城は西洋風だ、それに剣をもって町中歩いてるって、銃刀法はどうしたんだ。
「…!まさか」
ここで僕はひらめいた。とても信じられない答えだが、こう考えればすべて納得がいく。様々な髪色、大剣を持った男性、僕を襲った者…
「…異世界?」
自分でも馬鹿らしい結論だと思う、しかしこれが一番辻褄が合う。髪色が青や緑なんて地球にはそんな人間はいないし、それに武器を携帯しなければならないほどの治安の悪さ。そして携帯する武器は銃ではなく剣。異世界なら地球から見て常軌を逸していてもそれが普通と考えられる。ベッドから急に草原に移動したのも、その瞬間に異世界に転移したと考えれば納得がいく。
「そうだとして、誰も僕に違和感を感じないのか…?」
眠りについたとき、僕はパジャマだった。転移した時に御丁寧に着替えさせられたのか?この世界の人たちはそういったことを気にしないのか、もしそうじゃなかったら…。僕は一つの可能性をたよりに、机に置いてある鏡を見た。
そこには僕の知らない人間が写っていた。
「っ…!」
僕は思わず飛び退いた、鏡の奥に人間がいるとは考えにくい。ということはこれは自分というわけだ。真っ直ぐな茶色の髪、気の弱そうな水色の眼。これはいわゆる…
「…転生?」
その時部屋の扉が開く音がした。少し長めの赤髪に自信ありげに光る銀色の眼、ホークさんだ。
「ケイ!君がどこから来たのか分かるかもしれないよ!」
自分がどこから来たのかは分かっているが、この世界から帰ることが出来るのなら、ホークの報せは重要だ。
「本当ですか!?」
「うん、ケイがあの場所に転移したのは恐らく空間魔法の影響だと思うよ、だから空間魔法に詳しい人に聞けば、良い答えが得られると思う」
「空間…え、魔法…?」
「あれ、魔法を知らない?……もしかしてだけど…魔力とかも?」
「あ…はい、聞き覚えが…無い…ですね」
「ここまで世間知らずだと何か怖くなってくるな…、よし!じゃあ私が世間知らずのケイのために色々と教えてあげよう!」
異世界に来てしまった以上、この世界についてもっと知る必要があるだろう。しかしここが異世界だと気づいたのが早めで良かった、もし気づかずに怪物とかに遭遇していたらきっとパニックになっていた。…これからどうなるんだろう。僕は