八話 街
八話です。学がないのがばれそうな書き方ですが、私にはこれが限界……!
翌朝目を覚まし、横を見てみると丁度聖女とエレナも目を覚ましたところだった。エレナは起きてすぐに自分の体と聖女の体を見てなにもなかったかを確認していたが、俺はなにもやっていないので異変があるはずもない。
なにも無いとわかったのに、なぜかこちらを睨みつけてくる。別に睨まれるだけであればいいが、聖女の護衛がこんな様子でいいのだろうか。まぁ現状では俺たちしかいないからそこまで問題はないんだろう。街でもこの様子ならば聖女がなんとかしてくれることを祈ろう。聖女の言葉であれば大人しく従ってくれるはずだ。
「グリードさん、少しいいですか?」
「ん、どうした」
「あと二日で街に着く予定なのですが、そのことでお話が」
聖女とともに天幕を片付けている途中、聖女が呼びかけてきたので作業をしていた手を止め返事をする。
「街に着いたところでなにかあるのか?」
「はい。その街は国境に一番近い街ということで、もしも隣の国と何かがあった際にこの国の要となるんです」
「あー、なるほどな。その要である街を治める人物に、聖女として形式だけでも挨拶をってことか」
それも当然か。詳しくは知らないが、聖女というのはこの国にとって最も重要な立場であるらしい。そんな大物がこういった街を治める人物に合わず、そのまま素通りしては色々と不味いものがあるだろう。
「そういうわけで、グリードさんには私たちが雇った護衛という体でいきたいのですが、よろしいですか?」
「いや、なにがそういうわけなのかわからんが、捕縛した盗賊じゃなにか問題でもあるのか?」
「今グリードさんのステータスには懲罰の欄が表示されていませんよね。それが一番の問題なのですが、この懲罰というのは罪を裁くための指標となるんです。そして、グリードさんにはそれがない。ということはそもそも裁くための罪が無いわけでして、捕縛した盗賊として連れていたら矛盾が生じてしまうんです」
「なるほどなぁ……罪が無い人間を裁いたのがバレたらその国に対する不信感も出ちまうからな、それ以外に選択肢はないってことか」
「そうなりますね。それと、護衛ということになりますと、グリードさんも一緒に領主の方と顔を合わせることになると思います。ですが護衛の方は後ろで立っているだけで大丈夫ですので、申し訳ありませんがその間だけ我慢してもらうことになります」
「まぁしょうがねえだろ。それくらいなら問題はねえよ」
軽く頭を下げながらお願いしてくる聖女に、そんな簡単に頭を下げてもいいのかと思いながらも返事をする。それにたいして『ありがとうございます』と再び頭を下げてから天幕の片付けを再開した。
片付けも終わり街へ向け出発する。馬の数は少女たちの人数と同じ数なので俺は今日も馬車の荷台に座っていて、なぜかその隣には聖女も一緒に座っている。
「おい」
「どうしました?」
「なんでお前までここにいるんだ。あいつが睨んでるからさっさと御者台に戻れ」
「エレナは私に依存しすぎるきらいがありますからね、多少姉離れしたほうがエレナにとってもいいことなんです」
「いや、そりゃわかるが……だからってお前がここに座る理由にはならねえだろ」
それはそうだが、どうにもこの聖女の貞操観念はゆるく感じる。昨日といい今日といいなぜこうも近くに来るのか。それに関しても城で詳しく話してくれるのだろうか。
「理由はありますよ。まだグリードさんとはお話がしたいんです」
「話しなら城でするだろ。とはいえ王都まで一人でずっと座ってるってのもあれだしな。少しくらいなら付き合ってやるよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
俺の言い方が照れ隠しにでも聞こえたのか、口元に手をあて柔らかく笑う。馬車の中でも絵になるほどの美人というのはなんとも凄いものだと思う。
その日は馬車に揺られつつ他愛のない話しで終わり、次の日の昼ごろには街の街壁が御者台ごしに見えてきた。
「だいぶでけえ街壁だな」
「グリードさんは見たことが無いんですか?」
荷台から街壁を見て呟く俺に首を傾げつつ問いかけてくる。
「そうだな。この近くに来たときは既に賞金首だったし、街に寄ることなんざなかったさ」
「そういえばグリードさんはもともと賞金首でしたね。普通にお話しているとそういう雰囲気がなくて忘れてしまいます」
そりゃあ別人だからなとは心の中で思うも口にはしない。信用をしていないわけではないが信頼まではできていない。
そうこうしている内に門へと着いたらしく、門番をしている兵士と馬から降りた少女が話をしている。
「ご無事の帰還、心より嬉しく思います!」
「ありがとうございます。早速で悪いんですけど調べてもらっていいですか?」
「はっ!」
明らかに兵士が畏まっているさまを見て、この少女たちがやはりそれ相応の身分を持っているのだと改めて思う。それを捕まえていたと思うと、もしかしたら既にこの世から消えていたという可能性も無くはなかったはずだ。本当に恐ろしいことをしてくれたものだと悪態をつく。
「そういや、調べるって言ってたがなにを調べんだ?」
「真実の水晶よりも低ランクの水晶で懲罰があるかないかを調べるんです。グリードさんは大きな街でやったことはありませんか?」
そう言われるとそんなものがあったような気がする。なにを調べているのかを一々考えていなかったのですっかり忘れていた。そうか、あれは懲罰を調べていたのか……となると懲罰の事を知らなかったとはいえ、一人でほかの街へ行こうとするなんて相当危ない橋を渡っていたんだな。
暫くして真実の水晶より少し小さい水晶を持った兵士が歩いてくる。普通はこちらが向かうべきなんだろうが、目上の人間の場合はこうなるのかと思いつつ少女たちが水晶に手を当て調べる様子を眺める。
「あの……この方は?」
荷台の方へと水晶を持ってきた兵士が俺を見て、思わずといった風に零す。
「この方はあちらの村で出会った方で、今は国に戻るまでの護衛をしてもらっています」
「なるほど……。あっ! すみません不躾な質問をしてしまって! それではすみませんが聖女様方もお願いします」
事前に考えておいた説明をしてから調べる。多少不安ではあったが俺の方も特に問題なく調べ終わった。
「ありがとうございました。それではお通り下さい!」
終始元気だった兵士の声を聞き、門を通って街へと入る。人の数はそこまで多いというわけではないが、馬車や少女に気が付いた人たちは揃って足を止め眺めている。女性からは憧れのような視線、男性からは見惚れるような視線が多い。みな綺麗な容姿をしていて、尚且つ戦闘も出来るとなれば当然だろう。
「んで、まずはどうするんだ?」
「そうですね、まずは宿を取りに行って、そのあとに領主の方へ帰還の報告になりますね」
「領主のところに泊まるわけじゃねえんだな」
「普通であれば私たちを狙うような人はいませんからね。基本的には宿でも大丈夫なんです。とはいえ、高めの宿でないと沢山人が来てしまったりするんですよね」
「まぁそりゃ仕方ねえ。それと普通じゃなくて悪かったな」
この体の持ち主たちは聖女のことを知りつつ攫ったが、普通であればここまで人気のある人物たちを攫って無事に行きていけるようなやつはいないだろう。怖いもの知らずもここまでいくと末恐ろしいものがある。
街に入ってから暫くして、大通りに面した宿へ到着した。宿の表面には白色の漆喰のようなものが塗ってあり、石や木で出来た家屋に比べ清潔感のある作りになっている。大きさも周りに比べると二回りほど大きく、隣には馬車を停めておくための建物もある。聖女の話ではこの街で一番大きい宿なんだとか。
馬車の荷台から降り、エレナが馬車を停め戻ってくるのを待ってから宿へと入る。内装は観葉植物が適度に置いてある程度で、奥にはカウンターが一つありそこにはメイド服を来た女性が立っていて、部屋を取るために代表としてエミリーと聖女が受付の女性と話しをして戻ってくる。
「部屋は問題なく取れましたので早速部屋に行きましょうか」
「部屋をとったのはいいが、俺は一人部屋だろ? とりあえず部屋の場所を教えてもらえればあとで向かうぞ」
俺の発言を聞いたエミリーと聖女はなにを言っているのだろうかという表情を浮かべている。
「なにを言っているんですかグリードさん。みんな一緒の部屋ですよ?」
「はぁ!?」
俺とエリナの驚愕した声が同時に響く。いくらなんでも宿の部屋まで一緒なのはおかしいだろう。あの日一緒に寝たのは仕方がなかったからであって、宿に泊まるなら一緒の部屋である必要はないはずだ。聖女とエミリーは全く気にしていないようだが、少女たちのうち数人も少し躊躇うような表情をしている。
「なんで俺がお前らと一緒の部屋なんだよ! 普通に考えてお前らが拒否する立場じゃねえのか!?」
「お金は大切ですよグリードさん。無駄遣いなんてしちゃいけません」
「いや、そりゃそうだがよ……捕まった日から思ってたが、どうにも貞操観念が緩くねえかお前」
「ふふっ、そんなことはありませんよ。私はあなたがなにもしないと信じていますから」
あんなことをされて信じるとは、この聖女はなにを考えているのかわからない。とはいえ聖女に言われてしまえばエレナやほかの少女たちはなにも言えず、結局俺は聖女たちと同じ部屋で寝ることになってしまった。
俺達の部屋は最上階のようで、そこにある部屋は大部屋一つのみ。この人数が泊まるのだ当然と言えば当然か。そして、この世界では珍しいことに浴槽のある風呂が付いている。俺がこの体に乗り移ってから濡れた布で体を拭いたりはしていたが、やはり日本人としては湯船に浸かれるというのは嬉しい。
「それでは私とエレナ、エミリーとグリードさんは領主の方に報告をしてきますので、ほかのみなさんは体を休めていて下さい」
荷物を置き一息ついたところで聖女が言葉を発し、宿を後にする。領主の館がある場所は宿からそこまで離れているわけではなく、あまり時間がかからずに着いた。流石に領主の館というところか、あの宿よりもさらに大きく門もあり、その前には門番が二人立っている。
「そこでお止まり下さい。何用で来られたのかお聞きしてもよろしいですか」
「お仕事お疲れ様です。シーナ・フレンツェル、聖女として帰還のご報告に参りました。領主の方にお伝えしてもらってよろしいですか?」
「かしこまりました! 少々お待ちください!」
こちらに気が付いた門番が最初から畏まった様子で声をかけてくる。一応形式として聞いてきただけのようで、聖女の返事を聞きすぐに門番のうち一人が館の中へと入っていく。
暫く待つと先程の門番と燕尾服を着た壮年の男性がこちらに向かってくる。
「お待たせいたしました。領主様が今すぐ謁見致したいとのことですので、ご案内させていただきます」
「お願いします」
落ち着いた声色の執事に連れられ館の中へと入り、広めの廊下を歩く。領主というと金目のものばかり置いてあるといった印象を持っていたが、ここの領主はそういった類の人間ではないらしい。特になにも置いていないというわけではないが、くどいわけでもない。柱に掘られた模様などもいい感じに雰囲気を出している。
「領主様、聖女様方をお連れいたしました」
「わかった。入れてくれ」
数分歩いた所で執事が立ち止まり扉を叩き、中にいる人へ呼びかけるとすぐに返事がくる。その返事を聞いた執事は『かしこまりました』と答え、扉を開けて中に入るよう促す。
圧倒的語彙の少なさに涙が出そう。書くのに時間が掛かったのは、なにを書こうか決まっているのにその言葉が全く思い浮かばなかったからになります。
頑張らねば