表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

六話 邂逅

六話です。

初めての予約掲載です。ということで殆ど一日での仕上がりとなりました。


 朧げな意識のなか振動を感じ目が覚める。おかしい、昨日は天幕の中で寝ていたはずで、間違っても天幕が揺れ動くなんて事態になるはずがない。やけに重たいまぶたを開け、未だに揺られ続けるなかで現状の確認をする。視線の先に映るのは麻の布でできた壁と天井。俺の着ている服も麻の布ではあるが、こちらの麻の布はだいぶ質がよく見える。床も質がよさそうな木材で、近くには振動で転がらないようにか縄で固定されている樽や袋が置いてあった。見た感じではどうやらこの揺れの原因は馬車が走っているせいみたいだが、どうにもこれに似たものを見たような記憶がある。どこで見たのかと思いだそうとしてみるがなかなか思い出せない。

 一先ずこの馬車の御者が誰なのかを確かめてみよう。

「っんだこれ!?」

 と思った矢先、両手足を縛られているとは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。しまったと思った時には既に遅く、これほどの大声を上げてしまえば気が付かれてしまうのは言うまでもないことだろう。

 手は後ろに縛られ、立つこともままならない今の状態ではなにをされようと、抗うことはできないだろうし腰に差していた剣もどうやら取られてしまっているようだ。まさかあの森の中で捕まるとは思っていなかった。これは完全に俺の不注意が招いた状況だ。

 そんな自己嫌悪をしていると、御者台のほうにあると思われる幕が白く細い指によって開けられる。そこから顔を出したのはつい最近、ほんの数日ほど前に見たホワイトブロンドの髪をした少女だった。


「よかった、やっと起きたんですね。思った以上に長く寝ていたので少し不安だったのですが、体調はどうですか?」

「は? あ、あぁ。体がやけに重く感じることと、手足を縛られている以外に問題はなさそうだ」

「そうですか、よかったです。手足を縛っていることに関しては申し訳ありませんが、こうでもしておかないと危険だと怒られてしまったのでもう暫く我慢してください」

 まさか笑みを浮かべながら話しかけてくるとは思わずに一瞬呆けてしまったが、多少皮肉まじりに返し動揺を気取られないようにする。少女の笑みを見る限りではその皮肉ですら、皮肉と思ってはいないであろうが。

「あと少しだけなら我慢してやってもいいが、なんでお前らは俺のことを見つけられたんだ。森の深くにいたってわけじゃねえが、そんな簡単に見つかるような場所でもなかったはずだ」

「そう、ですね。話すと少しだけ長くなってしまうので、掻い摘んでお話しますがよろしいですか?」

「あぁ、そうしてくれ……って待て。なんで態々こっちへ来て話す」

「え? こちらの方がよく聞こえると思いまして……駄目でしたか?」

「聖女様! その男は危険なんですからそこまで近づくのはやめてください!」

「大丈夫よエレナ。この人はそんな危険な人じゃないの」

 御者をしているエレナと呼ばれた少女が声を荒らげて止めようとするが、聖女様と呼ばれた少女は全く気にもせず俺の目の前に座った。この少女はあのときの事を覚えていないのだろうか。まさか自分を捕まえ、挙句に犯す寸前までいった人物に対して危険ではないと言い切り目の前に座るなんて、口調の柔らかさからは考えられないほど豪胆な性格をしているのだろうか。

「どうしました?」

「いや、俺が言えた義理じゃねえけどよ、お前馬鹿なんじゃねえか。手足を縛られてるとはいえ、俺はお前を犯そうとしてたんだぞ? 普通はあの女みてえになるのが普通だと思うんだがな」


 俺が微妙な表情をして目の前にいる少女を見ていたら、首を傾げつつ問われたのでそのまま思ったことを返した。しかしそれでも少女は柔らかい笑みを浮かべたまま離れるような気配はない。逆に先程よりも少し笑みが深くなったような気さえする。

 どうせここから離れないのだからと、俺はこの少女が話し始めるのを待つことにする。体が重く、手足を縛られているせいで未だに起き上がることができないせいで、多少見上げる形になっているのはこの際仕方がない。

 そう決めて笑みを湛える少女を見上げていると、目を閉じ『私は……』と呟いてから少しの間を空けて話し始める。

「あなたが私を犯そうとし、突然ふらついてガリルと呼ばれたあの男性と話しているとき、魔法を使ってあなたのことを調べさせてもらいました」

「ん? あのとき変な声出したのはそれが原因か。しかしよ、お前はあの首輪で魔力を使えないはずじゃなかったか? そもそも、俺を調べたってあそこまで驚くようなことがあるとは思えねえ」

「あの隷属の首輪は、体外に放出する魔力量によってその使用者に相応の激痛を齎すものです。私は体内で魔力を練り、発動させたので問題はありませんでした。それと、安心して下さい魔力を体内で練って発動させることができる人物はそこまで多くありません。次に、私が使った魔法は鑑定という魔法なのですが、これは色々なものの詳細を知ることができる魔法でして、真実の水晶も同じ効果を持っていますが、これは自身のステータスを見るといった使用法しか皆さん知らないようなんです」

「おいおい、お前とんでもねえ奴だな。それを俺に言ってもよかったのかもわからんが……お前があそこまで驚いた理由がわからねえ。俺だってあの真実の水晶を使ったが、驚くようなことなんてなかったぞ」

 俺がそう言うと、浮かべ続けていた笑みをきょとんとした表情へと変える。それもほんの数瞬であったが、すぐに納得がいったような雰囲気を出し話し始める。

「もしかして、最後に真実の水晶を使ったのはだいぶ前だったりしますか?」

「あ? んなもん盗賊やってて使えるような状況になんざ、普通はならねえだろ。俺が最後に使ったのはあの洞窟でのことを除けば、ギルドで賞金を掛けられる前の話だ」

「そうですか。それなら驚きがなかったというのも納得です。実は、あの真実の水晶はその人物が犯した罪を表示させる効果もあるんです。罪を犯していた場合は懲罰の欄が加えられます」

 そう言われてあの洞窟内で使ったときのことを思い出す。確かあのステータス表は上から順にレベル、ステータス、スキルといった感じだった。懲罰という欄はいくら思い返しても見当たらない。


「お前、そりゃあおかしいぞ。俺が使った時にその懲罰の欄はなかった。俺は過去に殺人や強姦をしたんだ。それなら絶対にあるはず……って」

 そこまで言ってこの少女が驚いた理由に気がつく。目の前にいる少女もそうだと言わんばかりに首を上下に一振りした。

「そうなんです。私は初めてあなたに捕まったときも鑑定を使い、あなたのことを調べさせてもらいましたが、そのときにはしっかりと懲罰の欄がありました。しかし、あのときあの洞窟の中で調べたときには、既にあなたの懲罰の欄はなくなっていたんです」

 まさかとは思うものの、心当たりは十二分にある。俺がこの体に乗り移ったさいにその懲罰というものは消え去ってしまったのだろう。懲罰というものがあったとは知らなかったが、それすらも消してしまうとはそれ相応の力が働いているとしか思えない。

 多少考え込む俺を、目の前にいる少女はなにも言わずに待っていてくれていたようで、考え事の終わった俺が顔をあげると少女との目があった。それを合図としたのか、少女は再び話し始める。

「先程の続きとなりますが、あなたは多分真実の水晶の使い方を知っているのでしょう。でなければパジー草のあの使い方を知っているとは思えません。ですので、あなたに水晶の効果を教えてしまっても問題はないと判断しました」

「ちょっと待て。お前、なんで俺がパジー草を使ったことを知っていやがる」

 俺が話しを何度遮っても、少女は全く嫌な顔をせずに、当然といった風に返す。

「それは勿論、あのときあなたがパジー草で皆を眠らせたとき、私だけは起きていましたから」

「いや、おい。それじゃあなにか? お前はあのとき俺が牢を開けて首輪を外したときすら起きていて、寝た振りをしてやがったってことか」

「はい。ちなみに、首輪を外してもらったときあなたの体に魔力で印を付けさせていただきました。それを追って私たちはあの森の中であなたを見つけることができたんです。その際、起きて抵抗されないようにと痺れ薬を少々使ってしまったのはすみませんでした」

 腰を折り頭を下げる少女を見ていると、頭が痛くなってくる。どうやらこの少女には全て筒抜けだったってことだ。これじゃあなにを言ったとしても意味がないだろう。

「それで?」

「それで、とは?」

「俺がお前たちを助けたってことは既にバレてんだ。だとしたら俺はなんでお前たちに捕まっているかを聞きたいんだが?」

「そのことですか。そのことでしたら簡単です。あなたを王城へ招くためです」


 想像していた以上に訳の分からない返事がきた。全くもってなにが簡単なのかはわからないが、俺は王城へ行かなければならないらしい。この少女が聖女という肩書きを持っていてこの国の皇女であることは知っている。だが、俺が王城へ行かなければ理由はやはりわからない。

「理由は教えてもらえるんだろうな。俺の懲罰は消え、お前らは何事もなく助かった。それなら俺に関わる理由は既にないはずだ」

「いえ、理由としては二つほどあるんです」

「二つ……?」

 二つもあるとは思わず、小さく呟いてしまう。もう一度考えてみたものの、一つとして理由はわからない。

「はい。二つです。まず一つ目として、あなたの懲罰が消えたことに関してですね。罪を償う必要もなく懲罰の欄が消えたという話しは今までに聞いたことがありません。そして二つ目。どちらかと言えばこちらの方が私たちに……というよりも、私にとって凄く重要な事です」

 なるほど、そういう理由ならばわからなくもない。しかし前例の無いこと以上にあるのかと少女の口から漏れる次の言葉を待つ。

「あなたのユニークスキル。これが私があなたをここに連れてきた一番の理由です」

「ユニークスキル? んなもん俺は水晶で見ちゃいねえぞ。なにかの間違いじゃねえのか」

 ユニークスキルとは生まれたばかりの人間が生まれた時から既に持っているスキルだったはずだ。希少性が高く持っている人間は少なかった記憶がある。この記憶の中でさえユニークスキルを持っている人物を見たことはない。

「そうですね。それが一番重要なところなんです。真実の水晶に映るユニークスキルには限度がありまして、私が求めていたのは真実の水晶に映らないあなたのような人物なんです」

「水晶に映らないユニークスキル……? お前が使う鑑定と水晶の効果は一緒だったはずだろ?」

「一緒ではありますが、スキルのレベルが違うんです。私の鑑定はユニークスキルによる補正で、真実の水晶よりも詳細を知ることができるんです。」

「なるほどな……んで、その鑑定で見た俺のユニークスキルはどんなもんなんだ」

「ふふふ、それはまだ秘密です。もっと詳しい話は王城でしましょう」

「てめぇ……どうしても連れて行きたいらしいな……」

 口元に手を当て笑う姿はとても様になっているが、とてもじゃないが王城へ行きたいとは思わない。そもそも、ここから王城までどれほど離れていると思っているのか。

「安心して下さい。悪いようにはしませんから」

「その台詞を聞いて悪いようにされなかった奴を俺は知らねえんだが?」

「大丈夫です。ちゃんと客人として王城へ招く予定ですから」

「信用ならねえが、どうせ抵抗しても逃がす気はねえんだろ? それじゃあ大人しく連れて行かれるしか選択肢はねえわけだ」

 最初から最後までこの少女の手のひらの上で転がされているような気がする。天然ではなくだいぶ強かな少女だったようだ。まぁ、聖女であるこの少女の言葉を信じるならば本当に悪いようにされることはないだろう。

小説での会話の書き方で小説を上手く書けるか否かがよくわかる気がします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ