四話 決行
四話目です。またまた連日投稿。割と疲れる。
うわっ……私の小説、展開早すぎ……? といった感じで四話です。
翌日、目を覚ました俺は早速準備にとりかかることにした。準備とは言ったものの用意するものはパジー草に火を起こす魔道具と風を起こす魔道具に、革袋と装備だけだ。装備は皮鎧とこの体の持ち主が使い古していた剣にする。やはりこの体が使い慣れているのだろう、ほかの剣に比べて手に馴染み振りやすかった。
準備も終わったことだ、すぐに作戦を始めるとしよう。前とは違いこの場にあったパジー草をふんだんに使い、洞窟内全域をカバーできるように緑色の煙を発生させる。そのぶん魔力の消費量も増えているが、この程度であれば湖の水をコップ一杯ぶんを汲み取るに等しい。俺の魔力量が多いというわけではないが、パジー草に使う魔力量がそこまで大きくないというのが大きい。
魔力を注ぎ始めるとたちまち部屋の中が緑色の煙に埋め尽くされ、開け放っておいた扉から我先にといった風に出て行く。その際に風を起こす魔道具で多少勢いをつけてやる。
煙が居住区へとたどり着いたのだろう、扉の外が途端に騒がしくなるがそれもほんの僅かな間だけで、すぐに火の燃える音だけが空間に響くようになる。
とりあえずは上手くいったようだとパジー草に魔力を送りこむのを中断し、余ったパジー草を革袋に入れて部屋を出る。流石にすぐに部屋を出たせいか煙はまだ通路内に拡がっているようで、少し歩きにくい。
居住区に着くころにはすでに煙は消えており、そこらで倒れ伏す盗賊たちの様子が見て取れた。この洞窟内にいる盗賊は俺を含めて三十人に満たないが、一人で三十人弱もの盗賊の命を絶たねばならないとなると多少骨が折れる。
腰に差した剣を抜き放ち倒れ伏す盗賊の近くに立つ。記憶の中で人を殺している場面は見たが、実際に殺すのは初めてだ。こうして目の前に立ち殺そうとしていても忌避感はやはり湧いてこないが、緊張はする。
一度ため息を吐き緊張した体をほぐし、腕を軽く上げ盗賊の心臓に剣を突き立てる――
「っ!?」
――瞬間、首筋にピリッとした違和感を覚え、ほとんど無意識に突きの体勢から無理やり剣を後ろへと振る。
金属を弾く音とともに衝撃が体を走り、崩れた重心は体を支えきれず殺そうとしていた盗賊の上に尻もちをついてしまう。
気を抜く間もなく頭上から剣が振り下ろされるのを感じ、横に飛び退く。下敷きにされていた盗賊は振り下ろされた剣に斬り裂かれ、辺りに血飛沫が舞う。
剣を振り下ろした人物が剣を抜く合間に立ち上がり、剣を構えつつ相手を見据えた先にはまさかの人物が立っていた。
「おいおい、まさかてめえが裏切るなんて思わなかったぜ……」
「はっ、そらそうだ。そのために二年間仲良しこよししてやったんだ。だがよ、てめえも現在進行形で裏切ってる最中じゃねえか。人のことは言えねえぜ?」
「あぁ、俺はちょっと心変わりをしてな。しかしガリルてめえ、なんで起きてやがるんだ。あの煙を吸って起きてられるとは思えねえが」
「なぁに、たまたまてめえの部屋に行ったらよ、丁度よくあのよくわからねえ草を使ってる最中だったからな。俺も少しだけ失敬させてもらったってわけよ」
あの場面を見られていたとは思わなかった。普段と変わらない調子で顔に笑みを浮かべているのを見ると、どうしても違和感を拭えない。記憶の中でガリルは俺よりも実力的には下だったはずだ。
「なぁガリルよ。てめえ俺に負けるとは思っちゃいねえのか? てめえは俺より弱かった覚えしかねえんだがよ」
「てめえはあの聖女を犯そうとした後から、なんか変わったよなぁ。普段だったら俺がてめえの部屋の扉に近づいたら気が付いてやがった。それなのに扉を開けても気が付かないまま。そのあと何度か話してみてわかったが、てめえスキルを上手く使えなくなってやがるだろ」
正直なところ、ガリルの言葉を否定しきることができない。さきほどの剣を防ぎ、避けられたのはスキルの効果による助けがあったかもしれないが、スキルの使い方というのが俺にはあまり理解できていない。
この体の持ち主の使うスキルは目に見えるようなものではない。故に、記憶の中にスキルを使っている場面があろうと、俺にはなんとなくでしかわからないのだ。体がスキルの使い方を覚えているだろうが、最大限スキルの力を引き出せるかと言えば否と言わざるをえない。
だからといってこの場から逃げてしまえば、あの少女たちがガリルの手に堕ちることになる。本調子ではない俺が万全の状態であるガリルに勝てるかどうかは怪しいところだが、まぁ逃げるという選択肢はない。
「ふっ!」
合図をせずに走りだす。これは殺し合いだ、馬鹿正直に突っ込むタイミングを言う必要はない。
そこまで離れていなかった距離は、一足で届く。右後ろ下段に構えた剣を左上に斬り上げる。しかし、ガリルも気を抜いてわけではなく、多少危なげに剣の腹で受けつつ衝撃を逃がすように後ろに飛ぶ。
「ちっ、てめえスキル使えてやがるじゃねえか、こりゃあ見誤ったか……!?」
「なに、スキルを使えなかろうがてめえにゃ負けねえよ、大人しく死んどけ!」
「そうはいかねえよ、あの聖女たちゃ俺がいただくって決めてるんでなぁ!」
互いに台詞を吐いた瞬間に駆け出し剣を交える。鍔迫り合いはどちらが押されるわけでもなく拮抗していて、本調子の体であれば確実にこちらが押しているはずだった。
このままでは埒が明かない。
鍔迫り合いの状態である剣を滑らせるように下へ向け、相手の体勢を崩し腹に膝蹴りを叩き込む。
「ぐぅっ!」
少なからずダメージが入ったようで苦痛に顔を歪めるガリルの後頭部へ柄頭を思い切り叩き込もうとするが、その前に横へと転がり攻撃が当たることはなかった。しかしこのまま逃す気はない。
転がった反動で起き上がろうとしているガリルに向かい駆け出し、振り上げた剣を袈裟懸けに斬り下ろすが起き上がるために使っていた力の向きを、後ろに倒れるために使われまたしても外してしまう。
「はぁ、はぁ、……くそっやっぱりつええなグリードよぉ」
「わりいが、もうてめえと話す気はねえ。このまま殺られろ」
ガリルの言葉を一蹴しガリルへ向かう。俺が辿り着く前に起き上がったガリルは一気に押しこむ気なのか、袈裟懸けに剣を振り下ろしてきたが、体を左下へずらしその剣は空を切る。右の耳元で風を切る音が響くが問題はない。
剣を外したガリルは前のめりになり焦って体勢を戻そうとするが、すでに俺は剣を突く寸前だ。
引き絞るような体勢から突き出された剣はガリルの心の臓を穿つ。
「くっ、そがぁ!」
「なっ!?」
心臓を貫き一瞬気を抜いたのがいけなかった。貫かれた瞬間、ガリルは懐からダガーを取り出し脇腹に突き刺してきた。瞬く間に広がる熱と痛みに気を失いそうになる。
「はっ……この剣にゃ……毒が、塗って……あんだ。道連れだ……安、らかに、死に……やがれ」
「くっ、はっ、は……はぁっ……」
意識が朦朧とし、視界がぼやける。蓋を開けてみればガリルはそこまで手強くはなかった。だが、それにより生まれた油断を突かれた。
ガリルが放った台詞をしっかりと聞き取ることはできなかったが、毒があるのはよくわかる。全身を蝕むように痛みが拡がっていき、下手をしたら意識を失ってしまいそうだ。
ダガーを抜きつつ革袋を朦朧とした意識の中で漁り、中に入っていたビンをなんとか取り出し、中身を一気に呷る。
中身を飲み込むにつれ、体中を蝕むようななにかが体から消えていくような感覚を味わう。ビンの中身が空になる頃には毒はしっかりと消え去ったようで、刺された脇腹の痛みはあるがぼやけた視界はクリアになり、意識もはっきりとしてきた。
ダガーに付いていた毒の即効性には驚いたが、この解毒薬がちゃんとしたもので本当に助かった。
もしもこのポーションを持ってきていなかったらと思うとゾッとしない話だ。
体力を回復させるポーションも飲み、まだ残る盗賊たちを殺すために腰を上げる。脇腹の傷はポーションを飲んだ際に治ってしまった。昔飲んだポーションはここまでの効力はなかった気がするが、あの少女たちの持ち物だ相当いいものなのだろう。
ガリルに邪魔されてしまったがやっと盗賊たちに止めを刺せる。流石にもう起きている奴はいないようで、盗賊に近寄っては心臓を貫き、またほかの盗賊に寄っては貫きを繰り返す。その作業も特に邪魔されなければ数分で終わり、一応確認として辺りを見まわってみたがどうやらここにいる盗賊で全員らしく、しっかりと殺せたようだ。
全員死んでいるのを確認したあと、ガリルも含めた盗賊たちの死体を血の匂いで充満した居住区の隅に置き燃やす。この洞窟内はよく風が吹くため酸素が足りないという状況にもならないだろう。盗賊の死体を全部燃やしておけば、この体の持ち主であったグリードも死んだと勘違いしてくれるだろうという思惑もある。
しかし、人間の体が火に包まれていくのを見るのは初めてだ。牛や豚の肉が焼ける匂いというのは好きだけれど、人間が焼ける臭いというのは斯くも不快になるものかと思う。辺りに漂う血の臭いも相まって、血に慣れているはずの体でさえ吐き気が込み上げてきそうになる。
盗賊たちの死体が燃え尽きるのを見届け、次は少女たちが捕まっている牢へと向かう。この洞窟内では外と中から吹く風が少女たちのところへと向かうため、あの煙が届いていないということはないだろう。
村娘の牢を先に覗いてみるが、こちらはしっかりと全員寝ているようだ。これなら大丈夫だと思いあの少女たちの牢へと向かう。少女たちの牢へ着き中を覗いて見るが、起きている少女はいない。どうやらこちらも問題はないようだ。
牢の鍵を開け中へと入る。盗賊を殺したあとに何故こちらへ戻ってきたのかといえば、この少女たちの首に付けられている首輪を外すためだ。この黒い首輪は隷属の首輪というらしく、初めに込められた魔力の持ち主を所有者と判断し、それを取り付けられた人物は所有者の命令に背けなくなる効果がある。
その人物の意識までは奪えないため好きなように話したりはできるが、所有者へ危害を加えようとした場合や、魔力を放出しようとした際に痛覚を刺激され体中に激痛が走るようになっている。所有者であればいつでも外せるが、逆を言えば所有者でなければこれを外すことはできないといったことを、これを売っている奴が言っていた。
寝ている少女たちの首輪に手を当て首輪を外す。これを全部で十人分。この首輪は使いきりではないため、一応革袋の中に入れておく。
この少女たちがこの首輪を外せるのが所有者だけであると知っている可能性は高いが、あれだけ保険を掛けておいたのだ不思議に思いこそすれ俺が助けたという判断はしないであろう。
首輪を外し終わった俺は牢の外に出ると再び鍵を閉め、鍵を中へと放り投げる。これであの少女たちが起きた時のみここの牢は開けられる。
これでここでのやるべきことは終わった。踵を返し洞窟の外へと向かう。
久しぶりに出た外の日差しはやけに眩しく感じる。まるで太陽に祝福されているようだと思いつつも目の前にある森へと歩を進める。ここから何日間か歩けば国境を越える。元の体に戻れるかも分からないのならば、そこからあとは俺のやりたいように生きる。
結局、この世界に呼ばれた理由があの少女たちを助けるためだったのか、それともほかに理由があるのかはわからない。
まぁ、なにか問題が起きたときはそのときの俺に任せて、今はこの世界を適当に旅してみることにしよう。
ここまで読んでとりあえずガリルが何故寝ているグリードを殺さなかったのかという疑問を持った方がおられると思います。
ガリルは所詮盗賊。考える頭はそこまで持っていないので、スキルを使えないかもしれないという疑問を抱いた時にはそれを確かめることしか頭に無くなっていました。
ですので、ガリルは最終的にあそこで現れたわけです。グリードが全員殺し終わった後に出てきても良かったとは思いますが、それも所詮はガリルというわけです。
ここまで説明しなくても良かった気がしますが、一応そういう設定でした。
ちなみに一章がこれで終わりかの様な雰囲気ですが、もうちっとだけ続くんじゃ