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三話 前日

三話です。

 意識が浮上する。もしかしたら今までのことは全て夢だったのではないかと、淡い期待を抱きつつ開いた目の先に見えるのは薄暗く、松明の光に照らされる石でできた天井だった。パジー草の効果で起きた際になんとなくわかってはいたが、やはり気が滅入ってしまう。しかし一晩寝たおかげか昨日に比べれば幾分かマシだ。

 そこまで寝心地の良くないベッドから起き上がるが、どうやら体調に問題はないようだ。今まで質のいい布を手に入れていた記憶はあるのだが、こいつらはとりあえず寝られる場所があればいいようで、使い道のなく売れそうなものはそういう筋の人物に売ってしまうようだ。俺からしたらなにに使うかわからない物よりも、こういうものに力をいれておいてほしかったと思う。

 そんなくだらない話しは置いておき、一先ずなにをするかを考える。宴をするとは言ったが起床してからすぐに宴をしたところで、そこまで長続きするはずもない。それならばあの少女たちの様子を見にいこう。

 とは思い立ったがどうにも体の汚れが気になる。結局昨日は皮鎧も脱がずに寝てしまったため、ベッドにも汚れが付いてしまったとベッドを見てみたが最初から汚れに汚れていて、よくこんなベッドでぐっすりと眠られたもんだと思う。まぁ。あの少女たちのところへ向かうのは皮鎧を脱いで体を拭いてからでいいだろう。

 盗品のなかには水を出す魔道具もあったので、皮鎧を外し麻の布の服を脱ぎその辺に落ちている布を濡らし体を拭く。一拭きするごとに布が汚れていくのを見ると、相当な期間体の汚れを落としていなかったのだろう。それを思うと俺が意図してやったわけではないにしても、イチモツを押し付けられていたあの少女には申し訳ない気持ちが湧き出てくる。

 体を拭いていて思ったが、この体はガタイがいい。肌が少し黒めなのは生まれつきみたいだ。


 体も拭きおわり、またも盗品のなかにあった適当な麻の布でできた服を着てすぐに部屋を後にする。どうやら盗賊たちも既に起きているようで、通路を歩いていると居住区の方から話し声が聞こえてくる。居住区に着くと俺のことを目敏く見つけた盗賊の一人が、喜色をあらわにしながらこちらへと向かってくる。その盗賊がこちらへと向かってきた際にほかの盗賊も気が付いたのだろう、みなこちらへと顔を向ける。正直言うと汚いおっさんたちが全員でこちらを見てくる様は少し気持ち悪い。

「首領! ガリルさんから聞きやしたよ、今日は宴らしいっすね!」

「おう、ガリルはちゃんと伝えといてくれたのか。そうだ、昨日は生殺しみてえなことしちまったからな。だからと言っちゃなんだが、そのために宴をやってやるってこった。あぁそれと、あの女たちに手出すのはもう少し待っとけ」

「勿論でさ! 宴なんてしばらくぶりっすからね、それくらい簡単っすよ!」

「そうか。そんなら暫く宴の準備でもしとけ、俺はあの女たちを見てくるからよ。宴をやる時は言う。だからいつでも始められるようにしておけよ」

「了解っす! おい、おめえらも聞いたか! 早速準備にはいっぞ!」

 その声を合図にほかの盗賊たちも動き出す。記憶の中のこいつらとは動きの機敏さがずいぶんと違う。楽しむこととなるとここまで動きに差ができるのかとも思ったが、まぁ誰だって死ぬようなことに比べて、楽しむことの方がやる気が出るのも当然だろう。そんな盗賊たちを横目に少女たちの元へと足を向ける。


 少女たちの牢へ向かう途中村娘たちの牢の中を歩きつつ見てみたが、みな固まって少し震えつつも眠っていた。その震えが恐怖によるものなのか、肌寒い洞窟のせいなのか。それともその両方なのかはわからないが、あと一日か二日で助けてあげるから待っていてくれと思う。元凶であるはずの俺がこう思うのも図々しいかもしれないが。

 新たに心構えをしたところであの少女たちが入れられている牢の前へと着く。こちらの少女たちは既に起きているようで、足音に気が付いてこちらを見ていた。

「よお、どうやら起きているようだな。気分はどうだ」

「貴様っ……! どうせわかっているのだろう、この下衆め……!」

「はっ、よくわかってんじゃねえか。まぁ安心しな。今日は宴だからな、おめえらはまだ清らかな体のままでいられるぜ?」

「そんなもの、どうせ早いか遅いかだけの違いでしかないだろう! 貴様はわざわざそんなことを言うために、私たちが絶望する様を見て楽しむためだけに来たというのか!」

「はっはっは! 俺がそこまで考えて動くように見えるのか? そんなわけねえだろ。おめえらの感情が抜け落ちちまったら、いざするときに楽しめねえだろ? それの確認に来ただけだ」

「くっ……、なぜあのとき私たちは油断してしまったんだ……。あそこでもっと気を引き締めていればこんなことにはっ……!」

 金色の髪をポニーテールにした気の強そうな少女が、俺の言葉に対して激昂しながら返事をする。ここに来る前に色々と考えたが、このまま普通に助けたとして、この体の元の持ち主は殺人や強姦をしていたような大罪人だ。その記憶を見たときは胸糞悪くなったが、とりあえずそんな奴がこの少女たちを助けたところで結局は捕まってしまうのが落ちだろう。どちらにしろパジー草でなんとかしてしまうのだから、この少女たちが起きる頃には俺はすでに洞窟からいなくなっているが、盗賊たちの死体は全て処理するつもりだ。その際に俺も一緒に死んだという線を色濃く残すためにはここで少女たちを助けるように動いたという事実を、知らせるわけにはいかない。

 それを考えると、このポニーテールの少女はいい具合にこちらの思惑に乗ってくれている。イチモツを押し付けられていたあの少女はというと、こちらを穴が空くほどに見つめてきているが、昨日の突然声を上げたときといい、なにかがあるのではないかと不安になる。

「それじゃあ俺はもう戻るぜ」

「二度と私たちの前に顔を出すな、下衆が!」

「あっはっは。面白え冗談だが、それじゃあお前たちは牢から出ることもできねえじゃねえか。鍵は俺が持ってるんだぜ?」

「くっ……」

 苦い表情をして黙りこむポニーテールの少女を放置して踵を返す。あの少女は最後まで無言でこちらを見つめ続けていた。


 居住区に着くと、そこには酒や食料がまとめて置かれているのが見え、その周りには盗賊たちが笑顔で話し合っている。聞こえてくる内容的には既に準備は終わっているようで、あとはこちらの合図で始まるようだ。とはいえ、流石にこの時間に始めるのは少々早すぎる気がする。

「あ、首領! 準備終わりやした!」

「おう、はええじゃねえか。だが、まだ始めるには早い。あと少しだけ待っとけ」

「え、あ、了解っす!」

「まぁそこまで遅くはならねえからそんな不服そうな顔してんじゃねえよ」

「す、すいやせん!」

「そんくらいで怒りゃしねえよ。まぁいい、とりあえず俺が戻るまで待機しておけ」

 そう言い残し自分の部屋へと歩き始める。後ろでは今話していた盗賊がほかの盗賊と話し始めていて、やれ顔が怖い、話しているときの声が怖いだの、言いたい放題言っているようだった。あちらとしては聞こえないように言っているのだろうが、全て筒抜けである。とはいえ、あの盗賊たちとの付き合いもあと一日だ。思う存分好きなことをすればいい。

 部屋に戻った俺は時間を潰す意味も込め、パジー草の効果が本当に一度切りなのか試してみるためにパジー草の葉一枚と火を起こす魔道具を手に取り、前回と同様に魔力を流しつつ火をあてる。問題なく緑色の煙が出てきてそれを吸い込むが、あのときと同じように眠気が来ることはなかった。若干吸い込むのを戸惑うような色だが普通に嗅いでいても臭いは無く、体調に変化があるわけでもない。

 たった一度であの強力な睡眠状態に陥るのに、二度目にはなんの効果も現れないのは不思議でしょうがない。しかし、これで一先ずは作戦を決行するときに自分も一緒に寝てしまうという最悪の結末は回避できた。あとは色々と量のはいる革袋に食料や使えそうな装備を入れたり、売れそうなものの選別をする。

 それにしても、この革袋はどれだけ入れても限界がこない。この場にある盗品のうち半分ほど入れているが、まだまだ余裕が残っているような気がする。入れたものに比例して重量が増えるわけでもないため、これほどお手軽なものはないだろう。

 一応あの少女たちの持ってきたものや装備していたものを持っていくつもりはない。助けたあとに装備がなくそれが原因でやられてしまっては本末転倒だ。


 持ち出すための荷物の整理も一段落したところで、そろそろ頃合いだろうと宴を始めるために腰を上げる。洞窟内だと正確な時間まではわからないが、体内時計のようなもののおかげか、なんとなくで時間の進み具合がわかる。

 居住区へとたどり着くと盗賊たちが俺の音頭を今か今かと待ちわびているのが見えた。

「首領、やっとですかい!? もう俺たちゃ待ちくたびれちまったっすよ!」

「うるっせえぞ、少しは落ち着けねえのか。だがまぁ、おめえらにしちゃあよく持ったもんだ。それじゃあてめえら、宴だ! 好きなだけ飲んで食えや!」

「おっしゃぁ! 久しぶりの宴だぁ!」

 俺の音頭とともに盗賊たちが準備していた酒や食料に手を付けはじめる。食料とは言え、そこまでしっかりと調理されたものではないがこいつらは実際騒げれば問題ないのだろう、下品な笑い声を上げながら酒を飲み食べ物をかっ食らう。俺も適当なところに座り込み酒樽の蓋を開け、陶器のようなものに注ぎ飲む。こちらの世界に来る前は二十歳で、友人と飲むことも多少はあったため酒を飲むことに抵抗はない。しかし常温で保存されていたせいか、前の世界の酒よりも飲みにくく感じる。酒に詳しいわけではないので、ただ単にこの酒が飲みにくいだけかもしれないが。

「よぉ、楽しんでるか?」

「見りゃあわかんだろ。楽しんでるさ」

「はっ、とても楽しそうな顔してるようには見えねえけどな。まぁ、おめえがそう言うなら俺はなにも言わねえよ」

「そういうおめえはいつも楽しそうな顔してんなぁ。盗賊なんてやってやがるのに、毎日が楽しそうで俺はおめえが羨ましいぜ」

 座る俺の隣にやってきたガリルが酒樽を置きながら声をかけてくる。記憶の中にあるガリルはよく笑っている気がするが、その理由はよくわかっていない。というよりも人を殺すときだろうがなんだろうが、常に笑っているのは本当に毎日を楽しんでいるのではないかとすら思えてしまう。

「こりゃぁ生まれつきの顔だ。俺だって毎日が楽しいってわけじゃねえさ」

「そうだったのか。俺はてっきりなんでもかんでも楽しんでるのかと思っていたぞ」

「いやいや、なに言ってやがる。お前と一緒に行動するようになってからもうそろそろ二年だ。なんでそのおめえが全く理解しちゃいねぇんだよ……」

「はっはっは。そりゃあおめえ、俺が人の考えてることがわかるように見えるか?」

「あー……、確かに見えねえな。っと、そういや俺達が最初にあったときのことは覚えてるか?」

「あ? なんだ突然。確か俺が賞金首として冒険者に追われて、ちょっとした失敗をしてやられそうになっているところを助けられたのが最初だろ?」

「おう。ちゃんと覚えてたか。それならそれでいいんだ」

 なにを言いたいのかわからないが、首を上下に振りうんうんと納得しているようだ。確かこの体の左目にはそのときの冒険者に切られて上から下に向かって、一本の切り傷が走っている。傷自体は眼球に届いていなかったために目を開けるのに支障はないが、ガリルに助けられていなければ多分この体の持ち主はそこで死んでいたはずだ。現状を思い浮かべるとそのときに死んでくれていたほうが、あの少女たちが捕まることもなく、俺がこの世界に連れてこられることもなかった。そう考えるとこのガリルに対して感謝よりも、余計なことをしてくれたなという気持ちが沸き上がってくる。

「どうしたそんな難しそうな顔してよ」

「いや、なんでもねえ。俺は先に部屋に戻って休むぜ。あいつらには気にせず宴を続けろって言っておいてやれ」

「もうか? 昨日といい本当に大丈夫かグリード」

「あぁ、特に心配されるようなことはねえ。おめえも気にせず宴を楽しんでおけ」

 最後の宴をな。と心の中で付け足し、居住区を出て部屋へと戻る。

 部屋に着いた俺は真っ直ぐにベッドへと向かい倒れこむ。明日は遂に作戦の決行日だ。パジー草の効果を考えれば不測の事態が起きることも考えにくいが、一応なにが起きてもいいように気を引き締めておこう。

会話の描写というのが苦手です。

心情心理というものの表現の仕方が未だにわかっていません。そこは書いてるうちに慣れていくと信じて頑張っていきます。


もしかしたら改行が少なすぎて読みにくいかもしれない?

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