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天哮丸戦記  作者: 五月雨輝
上田城風雲編
49/221

槍と錫杖と小刀

 距離を詰めて来る十五人の侍達、


「やれっ!」


 切っ先を並べて一斉に襲いかかって来た。


「久々に暴れてやるか!」


 順五郎が左斜め上から唸りを上げて槍を振り下ろした。

 三人が悲鳴を上げて叩き伏せられた。

 そして壮之介もまた錫杖を横に振るい、数人の刀を暗がりの中へ飛ばした。


「うわっ」

「気をつけろ!」


 俄かに狼狽える面々だったが、またすぐに五人の忍びが加勢に駆けつけて来ると、


「相手はたった二人なんだ、臆するな!」


 勇気づけられたのか、反撃に出る構えを見せた。

 それを見た順五郎、にやりと笑い、


「まとめて相手にする方が早くていいな」

「うむ、我らにとっては好都合だ」


 と壮之介が言い、太い腕から錫杖を振ると、またもや数人の刀を宙に飛ばした。

 そこへ順五郎の剛腕から繰り出される槍が疾風の突きで追いかけ、たちまちに数人を突き伏せた。

 息の合った二人の連携であった。


「お前たちでは相手にならんわ!」


 二人の槍と錫杖が宙に嵐を巻き起こした。

 血が吹き上がり、身体が虚空に飛ぶ凄惨な戦場と化した二の丸に、次々と真田家の侍たちが地に倒れて行った。



「何と凄まじい強さよ・・・」


 真田昌幸は眼下の二の丸で繰り広げてられているこの光景に舌を巻いた。


「誠、これほどとは思いませなんだ」


 隣の頼康もまた驚いていた。


「あの大鳥順五郎、昔から身体が大きく武芸に優れていたが、これほどの剛の者に成長しているとは思わなかったわ・・・そしてあの道全とか言う坊主の剛勇。あのように暴れながらも冷静な戦いぶりを見よ、まるで幾多の戦場を戦って来た歴戦の猛者の如くじゃ」


 昌幸がどこか苦々しげな顔で言う。


「そうですな、ただの坊主ではないのでしょう」

「うむ・・・このような坊主がおったとはな」


 昌幸はしばらく見つめていたが、


「待てよ・・・道全?・・・道・・・?」


 と、何かにはっと気づいたように、


「あの体格、あの錫杖の振るい方・・・あの動き・・・道・・・全・・・?も、もしや?」

「殿、何か?」

「もしや、あの道全とか言う坊主は軍司道隆か?軍司家の・・・」


 昌幸は驚きの表情で壮之介を見つめた。


「え?あの軍司壮之介道隆ですか?我々が戸賀谷の戦いで攻め滅ぼした・・・」


 頼康もまた驚いた。


「うむ、恐らく・・・いや、間違いあるまい、あの錫杖の振るい方、かつて戦場で先頭に立って一人で百人を討ち取り、その武名を轟かせた軍司道隆の槍の使い方にそっくりじゃ。聞いた噂によると奴はあの後に京の寺に入ったとか・・・歳の頃と言い、間違いあるまい、奴は軍司道隆じゃ」


 昌幸は額に汗を浮かべていた。


「あの軍司道隆が・・・」

「あの時は我が策で逆転し、勢いで一気に攻め滅ぼしたが、あの策がうまくいっていなかったらあの剛勇で我々は一敗地にまみれていたかもしれん。大鳥順五郎に加えてその軍司道隆が相手となると・・・まずいな。三十郎、今のこちらの人数ではとても奴らを討ち取ることはできん、もっと数を増やせ、倍だ」

「はっ」


 命を受けた頼康は手配するべく階下へ走った。


「軍司壮之介・・・」


 昌幸は額に汗を浮かべたまま複雑な表情で眼下を見つめた。

 ちょうど、順五郎と壮之介の二人が、眼前の相手を全て突き伏せた後であった。


「これでひとまずは片付いたな」


 壮之介がふうっと息をついた。


「うむ、ちょろいもんだ、さあ急いで若を探そうぜ」

「うむ」


 と言うが、壮之介は倒れている真田家の侍たち一人一人の懐を探り始めた。


「何してるんだよ、早く」


 順五郎が焦れるが、


「ちょっと待ってくれ」


 壮之介は一人の侍の懐から小刀を見つけ、取り出した。

 そして天守の方を見上げた。


 彼は天守から昌幸が見ているのに気付いていた。


 壮之介は気迫のこもった目でカッと昌幸を睨みつけた。


「むっ、あいつまさか気付いて・・・」


 昌幸が後ずさりすると、

 壮之介が気合いの叫びと共に小刀を天守に向かって投げつけた。


「うっ・・・!」


 小刀は昌幸のすぐ隣の壁に刺さった。

 昌幸の顔が青ざめた。


 壮之介は昌幸の顔に鋭い眼光を向けたままだった。



 ――真田昌幸・・・あの時の報復などはもとより考えてはいない・・・人の生き死には乱世の常。そしてあの時のことは俺の愚かさが招いたものだからだ・・・。しかし、もう二度と貴様に俺の大切な人の命を奪わせはせんぞ・・・!



 壮之介の眼が爛々と光る。


「おい、壮之介、どうした?ん?あれは安房守様か?」


 順五郎が見上げて言う。


「うむ、再会の挨拶よ」


 壮之介が不敵な笑みを浮かべた。


「はあ?」

「よし、急ごう」


 壮之介が錫杖を小脇に抱えて走り出した。


「おい、待てよ!」


 順五郎は慌てて後を追いかけた。




 礼次郎とゆりは、騒然とし始めた上田城内を三の丸目指して走った。


 突如、ガンガンガンと鐘の音が鳴り響いた。


「あの音は・・・?」


 礼次郎が振り返った。


「非常事態を知らせる合図よ、あれが鳴ると三の丸に控えてる者たちも動き出すわ、急ごう」


 ゆりが答える。


「そうか、まずいな」


 礼次郎の顔に焦りが浮かんだ。


 そして、すぐに三の丸に通じる橋に差し掛かった。


「ここか!」

「うん」


 二人が橋を渡り始めた時だった。

 そこへ三の丸側からやって来て立ちはだかった大きな人影。


「誰だ!?」


 礼次郎とゆりが立ち止まった。


 それは順五郎と同じぐらいの体格の一人の侍。

 角ばった顔と大きな目、そして筋骨隆々たるその身体は一目で腕の立つ荒くれ者とわかる。


 その男が言った。



「お前が城戸礼次郎か?」


 礼次郎は左手を刀の柄にかけた。


「誰だお前は?」

「ほう・・・その様子、やはり城戸礼次郎か」


 男はにんまりと笑った。


「駒場殿・・・」


 礼次郎の後ろでゆりがそう呟くと、ゆりの姿を見つけた男が、


「うん?ゆり様、何故こいつと一緒に・・・?」


 と訝しんだ。

 礼次郎は、


「駒場?知ってるのか?」

「駒場又兵衛・・・武芸の腕は家中随一と言われてる人よ、城内で乱闘騒ぎを起こして蟄居してたはずだけど・・・」


 ゆりが言うと、


「その通り、しかし蟄居が解けたので先程戻って来たのです。宴をしていると言うので一刻も早くお屋形様にお目通りをしようとやって来たらこの騒ぎ・・・聞けば城戸礼次郎と言う男が狼藉を働いたので討ち取れと言うではないか」


 駒場又兵衛は不気味に笑った。


「ゆり、下がってろ」


 礼次郎が鯉口を切り、刀の柄に右手をかけた。


「ちょうど良い、蟄居明けの汚名挽回の手柄としてくれん!」


 言うが早いか、駒場又兵衛が刀を抜いていきなり上段から振りかぶって来た。

 素早く応戦する礼次郎、右手から刀を閃かせて真正面から受け止めた。

 しかし、


「うっ・・・」


 受け止めたものの、その力の強さに刀が押された。

 礼次郎は刀を引いて素早く駒場の右側に回り込み、右払いを放つも、駒場はそれをたやすく打ち払った。


「なっ・・・!」


 礼次郎は驚いた。



 ――この男、何て力だ・・・順五郎や壮之介と同等・・・それに速さもある。


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