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天哮丸戦記  作者: Samidare Teru
上田城風雲編
48/221

ゆりの鉄砲


 ズドォン!!


 轟音が夜空に響き渡った。


 銃口が火を噴いたかと思うと、銃弾が稲妻の速さで四人の忍びの間を掠め飛んで行った。


「うぉっ!」

「やっぱり本物じゃないか・・・!」

「ゆり様なんだから作れてもおかしくはねえ」


 当たりはしなかったものの、四人の顔色が変わって立ち止まった。


 一方のゆりは、


「やった・・・!」


 と、驚きと喜びが入り混じった表情で弾の飛んで行った先を見ていた。

 銃口からは白い煙が吹き上がっている。


「初撃ちだったけどうまく行ったわ!」


 ゆりは銃身を見つめた。


 この短筒はとっくに完成はしていたものの、蔵の壁を吹き飛ばした一件の気まずさから、試し撃ちができないでいた。

 今のが初めての射撃であった。


 だが、当たらなかったのはわざとであった。

 長年真田家に世話になっている身なので、流石に実際に当てる気にはなれなかった。実弾を何発か撃って威嚇し、足止めできればいいと思っていた。

 だが、実際にゆりが狙ったのは彼らの頭上であったので、当たらなかったのは奇跡と言えるかもしれない。


「よし、二発目」


 ゆりは続けて早合を装填して構えた。


 四人の忍びたちは足踏みをする形となった。


「おい、どうする」

「向こう側から回り込むか?」

「何、構わねえ、上から行けば当てにくいだろ」


 と、一人が忍びの体術を発揮し、塀の壁を蹴って跳躍し、塀の上に上がった。

 そして身を低くして塀の上を素早く走った。


 ゆりはその様を見て驚き、


「え?え?・・・」


 と、たじろいだが、すぐに銃口を上げて、


「来ないで!」


 引き金を引いた。

 再びのズドーンと言う轟音と同時に、塀の上の忍びが悲鳴を上げて塀の向こうに落ちた。

 銃弾が肩口に命中したのであった。


「ああっ、当たっちゃった・・・ごめんなさい!」


 ゆりの顔が青くなった。


「くそっ・・・これはダメだ」

「仕方ない、向こうから回り込むんだ」


 と、残りの三人の忍びは背を返し、元来た小屋の中へ走って行った。

 ゆりはその様子を見て、


「はあ~・・・」


 ほっと安心して息をついた。

 しかしすぐに、


「礼次郎は?」


 慌てて振り返ると、礼次郎はすでに二人を斬り倒しており、最後の一人と斬り結んでいる最中であった。

 ゆりは、何かを思いつき、銃を構えて礼次郎の相手の侍に銃口を向けた。

 すると、それが視界に入った礼次郎の相手は一瞬動揺して動きが乱れた。

 それを見逃さなかった礼次郎、一瞬の隙をついて一刀の下に斬り伏せた。


「やった!」


 礼次郎は振り返ると、


「向こうの忍び達は?」

「私の短筒に驚いて逃げたわ」

「そうか。音は背中で聞いていたが凄いな」

「うん、これを撃つのは初めてだったから不安だったけど、思った以上に出来が良かったみたい」


 まるで新しい玩具を手に入れた子供のように喜ぶゆり。



「はは・・・助かったよ。じゃあ急ごう」


 二人は再び三の丸に通じる橋を目指して走り出した。



 大部屋を飛び出した順五郎と壮之介は、目の前を塞ごうとする真田家の侍達を次々と斬り倒し、本丸を出て二の丸に入ると、他には目もくれずに離れの屋敷に向かった。


 離れの屋敷の前まで来ると、二人は入り口に鉄の扉が閉められているのに気がついた。


「これは・・・」


 順五郎が驚く。


「やはり真田昌幸は食えぬヤツ、こういう罠になっておったのか」



「どうやって開けるんだ?」


 順五郎が取っ手を探したがどこにも見当たらない。


「体当たりしてみよう」


 壮之介が言うと、


「よし!」


 と、二人は体当たりをしてみたが、扉に軽くへこみができただけで全く破れそうにない。


「駄目か・・・若!いるか!?若!」


 順五郎が大声で中に向かって呼びかけたが、当然返事は無い。


「まさかもうやられてしまってるんじゃ・・・」


 順五郎が焦りの表情を浮かべた。


「何か中に入れそうな方法はないか!?」


 と、壮之介が扉の前から離れて、蔵の横側に回ると、


「何だあれは?」


 白い何かが崩れたようなものが落ちているのに気付いた。


「順五殿、こっちへ!」


 壮之介が呼びかけ、更にその裏側へ回ると、


「壁が崩れてる!」


 と、そこに開いているゆりが爆破して開けた穴に驚いた。

 急いで駆け寄って来た順五郎も驚き、


「誰かが壊したんだ」

「うむ、しかし一体どうやって?」

「いや、そんなこと言ってる場合じゃない。若!」


 順五郎がその穴から中に入った。

 壮之介も続けて入る。


 中は、先程忍びたちが仕掛けた白い煙はすでに消えていた。


「いない・・・連れて行かれたか?」


 順五郎が部屋を見回して言った。


「まずいな」

「すぐに助けに向かおう!」


 順五郎が部屋の隅に立ててある槍を取って駆け出そうとしたが、


「いや待て!」


 と、壮之介が制し、


「この穴・・・・・・おかしいと思わぬか?奴らが礼次郎様を連れて行くなら自分たちで閉じた扉をもう一回開ければそれですむこと。仕掛けた自分達なら開け方を知っているはずであろう。わざわざ壁を壊す必要はないはずだ」


「・・・確かにそうだな・・・じゃあどう言うことだ?」


「何者かが礼次郎様を助けようと壁に穴を開けたのではないか?」

「なるほど!」

「そして城内が騒がしくなり始めた・・・恐らくその者の手引きで礼次郎様はこの城から脱出しようとしているのだと思う」

「そうか!じゃあ急いで若を探して合流しよう!」

「うむ!」


 と、壮之介も鉄の錫杖を取って再び穴から外に出た。

 しかし、そこへ二人を追いかけて来た十五人ほどの真田家の侍たちが姿を現した。


「いたぞ」

「こっちだ!やってしまえ!」


 と、一人が声をかけ、残りの者も呼応して同時に刀を抜いた。

 そして遠巻きにじりじりと距離を詰める。


「しつこい連中だな」


 順五郎は舌打ちして槍を構え、壮之介もまた鉄の錫杖を構えた。



 順五郎と壮之介、二人共に腕力に優れた屈強な大男であるが、相手は十五人。


 流石に歩が悪いのではないか――


 と、頭上高い本丸の天守から見ていた者がある。


 真田昌幸である。


 昌幸は、隣に従兄弟であり重臣である矢沢三十郎頼康を従え、高い天守より眼下のこの光景を見下ろしていた。 



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