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天哮丸戦記  作者: Samidare Teru
上田城風雲編
44/221

真田昌幸の謀略


「何か天井から白い煙が漏れて来たんだがこれは何だ?外はどうなってる?」


 礼次郎が外のゆりに聞くと、


「白い煙・・・?あっ」


 ゆりは、何かに気付いて数歩後ろに下がり、屋根の上を見上げた。

 すると、案の定そこには月光を背に動く怪しげな二人の人影。

 見ればどうやら真田の忍者である。

 ゆりはその二人に向かって叫んだ。


「これはあなたたちの仕業?何してるの!この扉を開けて!」


「・・・・・・」


 二人の人影は答えないまま何やら動いている。


「答えなさいよ!じゃないと殿に言うわよ!」


 ゆりは更に大声で言うと、


「ゆり様、お戻りください。これはそのお屋形様のご命令なのです」


 一人が驚きの答え。


「ええっ!?殿の・・・?嘘でしょ?」

「嘘じゃありません。ゆり様、ここは危のうございます。早くお戻りを」

「お戻りを・・・ってそんなことできるわけないじゃない!早くやめて!」


 しかし、二人は動きを止めない。


「もう!」


 中の礼次郎には、屋根の上の人間の言葉はよく聞こえなかったが、ゆりの声は聞こえていた。

 その言葉の内容から大体のことは察知した。


 真田昌幸が自分を捕らえるか、あるいは殺そうとするべく手配したのだ。



 ――とすればこの白い煙は恐らく毒の煙。



 天井から漏れ出てくる白い煙が徐々に増えて行く。


「ダメか・・・」


 礼次郎が悔しげな表情で扉をドンと叩いた。


「礼次郎、煙は本当に白い?」


 ゆりが外から聞く。


「ああ、白い煙だ。どんどん増えてきてる」



 ――白い煙、白い煙・・・



 ゆりが必死に頭を回転させる。そして思い出した。


「礼次郎、それは吸い続けると意識を失い、やがて最後には呼吸が止まってしまうの!だから吸い込まないようにして!」

「ええっ?でも吸い込まないようにって言ったって・・・」

「なるべく身体を下に!できれば伏せて!」


 言われる通り、礼次郎は身体を屈めた。

 

 しかし、白い煙はすでに部屋の上方を埋め尽くしている。



 ――くそっ、どうすれば・・・



 礼次郎は拳を握りしめて地を叩いた。


 外にいるゆりも、



 ――どうしよう、どうしよう、このままじゃ礼次郎が・・・



 必死に考えを巡らせていた。


 焦りで胸の鼓動が早くなる。


 ゆりは胸元の観音菩薩像をぎゅっと握った。



 ――あ、そうだ!



 彼女の大きな目の色が変わった。

 ゆりは鉄の扉をどんっと叩くと、


「礼次郎!ちょっと待っててね、いい方法があるから!それまではできるだけ煙を吸わないように!」


 叫ぶが早いか身を翻して走り出した。


 ゆりは必死の形相、着物の裾もまくって無我夢中で走った。

 幼い頃は甲州の山野を駆け回った彼女である、腕力は無いが脚力には自信がある。


 すぐに着いたそこはゆりの自室。


 彼女は慌ただしく中に駆け込むと、先程机の上で転がしていた縄が巻かれた黒い玉を手に取った。

 そして葛篭の中からも何やら色々取り出して懐に入れたり帯に挟んだりした。


「よし・・・!」


 ゆりは一人頷くと、またすぐに戻るべく立ち上がった。


 だが、葛篭の中のあるものに目が止まった。


 ゆりは一瞬考えた後、それも無造作に掴んで帯に差し、再び部屋を飛び出した。



 その頃、礼次郎は身体を伏せ、必死に白い煙を吸わないようにしていた。

 だが、白い煙はすでに部屋に充満し始めていた。


 礼次郎は口に両手を当てて吸い込まないようにしているものの、呼吸をしないわけにはいかず、すでに幾らか吸い込み始めていた。



 ――待っててって、いつまで・・・?待ってもここから脱出できるのか?



 礼次郎の焦りは募る。


 そして、ついに脳の奥が麻痺するような感覚に襲われ始めた。



 ――まずい・・・まだか、ゆり・・・



 その時、鉄の扉の向こうからどんっと叩く音が聞こえ、続けて息を切らしたゆりの声が飛んで来た。


「礼次郎!・・・大丈夫!?」


「ああ、大丈夫・・・だがこのままじゃ・・・」


「いい?礼次郎,この鉄の扉の前まで来て。できるだけこの扉にくっついて伏せて!」

「扉に?何で?」

「危ないから!わかった?私はその反対側に回るから!」


 わけがわからないが、今は外にいるゆりだけが頼みだ。

 言われるがまま、礼次郎は全身から力を振るい起こして這い寄り、鉄の扉に身をつけた。


 しかしその時、礼次郎は意識が遠のき始めて行くのを感じた。



 ――まずい・・・



 だが、頭が言うことを聞かない。

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