温故知新と言いますが
今更ながら出していない事に気づきまして。
この世界には、エルフと呼ばれる種族が存在している。
実はドワーフにも言える事だが、この呼び名は本来正しくはない。
だが別種族からすると両者の正式な自称名は上手く発音が出来ない。
どちらもそれを理解しているがため、この呼び名に甘んじている。
かつてはエルフ、人間などの別種族とは距離を置きがちであった。
唯一交流、というか付き合いを続けていたのがケットシーである。
しかし千八百年ほど前の古代文明終焉時から付き合いも薄れはじめ、
つい最近までは自分達だけの集落から出てこようとはしなかった。
一部の、集落内でも変わり者扱いされていた者だけが交流を持ち、
ここ王国でもその能力を活かして生活していた。
エルフは体格で言えば、ほぼ人間と同程度か若干背が低い。
筋肉質な者は滅多におらず、見た目同様に腕力体力はやや低めだ。
しかしそれを補って余りある高い知能と体内魔素、長い寿命があり、
一般的なエルフではその生が千年とも千五百年とも言われている。
そして何と言っても目を引かざるを得ないその容姿の美しさ。
人間の貴族も美男美女が多いが、それに全く引けを取らない。
これは体内魔素が関係しているのではないかという仮説もある。
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ここ王立中央学院でも、エルフの姿はそこかしこで確認出来る。
ただし学生ではなく、歴史や言語学、魔術の教員としてである。
その長い寿命は膨大な知識を蓄えるのには最適と言えるだろう、
王国より請われて数十名が教鞭をとっていた。
当然学院長よりも皆年長で古株である。
高齢者に時折ありがちな、年少の者への見下した態度や、
間違いを指摘されて逆上するような者は採用されていない。
どちらかと言えば、おっとりのんびりとした人物が多く、
エルフとはこういう性格なのだろうと誤解されていた。
まあ、学生や他の教員は付き合いのあるエルフが皆こうなので、
そう思い込んでしまうのも無理のない事ではある。
しかし、性格が穏やかだと言っても講義内容もそうとは限らない。
講義が難解であり、受講者の実に七割近くが単位を得られなかった、
などという教員も存在し、知らなかった学生はその不運を呪うのだ。
しかもその講義、選択科目ではなく必修科目なのである。
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科目名は「攻撃魔術座学七章」。七期の騎士必修科目の一つ。
教員は見た目も言動も緊張感を感じさせないエルフの女性だ。
名前はスキャイリ。年齢は王国の建国と同じだとか。
うら若き女性に見えるものの、実はエルフ教員の最年長者である。
性格のせいか、魔術へ長年費やしてきたせいか、理由は不明だが、
とにかく言葉が足りない。だが理解して当然、と講義を進める。
先輩方より噂を聞いていた生徒達はそれなりの覚悟を以って臨み、
碌に情報を得ていなかった者達は講義の難解さに泡を食う。
しかし事前情報を持っていても、ついていくのは至難なのである。
この科目で心折れてしまい、騎士への道を断念する者もいるとか。
逆にここを乗り越えると、続く八章九章が楽に感じられるらしい。
七章より難易度は増しているにも関わらず。
本日も難解極まる講義が終わり、学生達は一斉にため息をつく。
教室から出ていくスキャイリ、扉の手前で足を止めて振り返る。
「ドラゴネグロ卿、後ほどわたくしの研究室へ来てください」
教室に妙な緊張が走る。あの首席、今度は何やらかしたんだ?
別に講義の間中、質問も飛ばなかったし問いかけもされなかった。
何かスキャイリ先生の気に障るような事でもあったのだろうか?
学生たちの間には無責任な憶測が飛び交う。
◆
「魔術構成式のこの部分を起動部分から外して、
隣接式へ付け替えるのはどうでしょうか?
これで体内魔素消費も減りますし、発動も早くなるかと」
スキャイリの研究室で、先程呼び出された生徒が提案している。
この生徒、ロド・ドラゴネグロは平民上がりの男爵である。
人間はエルフと比べると体内魔素が少ない。
人間でも貴族ではエルフと同等の体内魔素を持つ者も多いのだが、
平民上がりのロドは足りない体内魔素を消費の減少で補っている。
既存の魔術構成式を書き換えて、より効率化を図ったのだ。
スキャイリには充分な体内魔素のせいでこんな発想がなかった。
しかし、こうした効率化が出来るのなら自分でも使ってみたい。
これまでは覚えた魔術構成式をただ使っているだけだった。
自分の五十分の一も生きていない子供が新たな試みをしている。
興味を持たない訳がない。
この場にはスキャイリだけでなく、別のエルフ達も集まっている。
魔術で人間に出し抜かれた悔しさよりも好奇心が勝っているのだ。
あれこれと質問や意見が飛び交い、この場は活気に満ちている。
普段見せているのんびりさなど欠片も感じられない。
ロドが入学してから、エルフ達は新たな魔術開発に没頭している。
卒業したら、いや卒業前でも共同研究者にならないか、とも。
エルフ社会の退屈な停滞は、堰を切ったように崩れ出している。




