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第89話:魔機人計画

 ある者は云う。

 人を造り出す行為は神にのみ許されている、と。

 一方で、人は人を造ることに惹かれ続けてきた。


 多くの者が空想上に無数の人を造り、動かし、ドラマを見せる。

 人は造られた人に魅了され、時に愛すら抱く。

 この行為が咎められることは少ない。

 むしろ称賛され、報酬を与えられる。


 ヒューマノイド。

 合理的でないなどと指摘されながらも、常に多くの研究者を魅了する人造人間。

 空想ではなく、実際に手で触ることのできる人が、人によって造り出される。

 その実現が眼前に迫った時。

 輝かしい未来がその先に見えた時。

 その先にしか見えなかった時。

 人はその存在を受け入れられるだろうか。


 ……それでも答えはネガティブだろう。

 我々は確実に人だと断定できる相手ですら、些細な違い……国や種族、信じるものの違いがあるだけで、警戒を怠らない。

 打ち解けるには時間が必要だ。

 唯一の薬は時間。


「俺がこれから皆と協力して進めたい『魔機人計画』。ざっくり言えば、シヨウさんのような魔人の身体に機人の技術を導入し、魔力に耐性のある新しい種族を俺達の手で生み出す」

「えと……種族を……生み出す……ですか?」

「そう。そしてヒト族と交流させる」

「…………異世界人と交流したのと同じように……じゃな」

「そう」


 ……沈黙。

 分かる。

 はっきり言って、疑問点だらけだろう。

 続けてスゥが質問する。


「つまりそなたは、異世界人の血が人類を変えたように、新たな種族……魔機人の血で再び人類を変えよう、と、そう言っておるのじゃな」

「その通り。毒をもって毒を制す……ってところかな」

「理屈は理解できる。……じゃが……そう上手くいくのじゃろうか? 異世界人は皆、英雄となったから多くの相手を得たのじゃろう? 魔機人を英雄に仕立て上げるのかの?」

「いや、英雄が生まれるには困難が……人類共通の問題が必要だ。それは今まさに話していることなんだけど、条件を一つ満たさない。……人類の多くがその問題を認識することだ。俺は無理だと思ってる」


 無意識にニナさんを見てしまった。

 目が合った瞬間は『しまった』と思ったが、表情を見てその後悔は逆転した。


「問題を問題と思ってない人を説得するというのは、それはもう大変なことなんだ。まず間違いなく、何度も争いが起きる」

「確かにの……。ここまでの話を信じるものは少ないじゃろうな。ましてやドワーフのそなたが率いる魔機研の発表ともなれば……ヒト族を否定されたと騒ぐものが出るじゃろう。……恥ずかしながら……ボレアリスは確実じゃ。父上でも抑え込めぬじゃろう」

「どこもきっとそうだよ。……都合良く他の問題が生じることに期待するのも不確実すぎる。……なので、英雄路線は選択しない。即効性を諦めて、効くのは遅くても確実性の高い方法を取るんだ」


 プロジェクトの詳細に皆の興味が向いたところで、ようやく俺は『魔機人計画』についての具体的な説明を始めた。

 この計画の難しさは、緊急性の高い問題に対処しつつ、効果が出るまで長い時間がかかる対策を仕込んでおかなければならないこと。


 緊急性の高い問題とは、星の魔力枯渇の問題だ。

 星霊は人類がいずれ滅ぶことを知っていてなお、枯渇を防ぐために強硬策に出た。

 つまり、人類が滅ぶより枯渇の方が早い。

 この対策は既にスゥ達が考えてくれた通り、魔工学を普及することだ。


 魔工学の普及には多くの人員が必要になる。

 スゥの言うように学校を設立するならなおさらだ。

 ここで魔機人との交流を開始し、魔工学に関する様々な場面で活躍してもらう。

 人は役に立つものには興味を示す。

 こうして徐々に魔機人に対する信頼を得ていくのだ。


 魔人と機人はどちらも魔力を素にしている。

 魔人は生物模倣の極みであり、星霊曰くほぼ完全に異世界人の特徴を再現している。

 機人は魔力を運動などに活用できる。

 これらを組み合わせれば理想的な特徴になるだろう。


 しかし、いずれも意思を持たない。

 与えられた指令を忠実にこなすが、自ら学び、成長することもない。

 このままでは、道具の延長線上に乗ったままだ。


「……そこでシヨウさん。君の協力が不可欠だ」

「なんダカ懐かしいデスね。……ブランクがありまスガ、もちろん協力しマス」

「……すまぬ。シヨウ殿は前世でどんな研究をしておったのじゃ?」

「『学習する』という仕組みヲ人工的に造る研究……機械学習なんて呼ばれてまシタ」

「学習……。なるほど、まさにピッタリなのじゃな。……それと、妾達に敬語は不要じゃ。シヨウ殿の方が先輩……なのじゃろう?」


 スゥに問い掛けられ、俺の方を向くシヨウさん。

 釣られてスゥも俺を見る。


「……うーん、一緒に研究してる時間の長さでいえば、スゥ達の方が長いかな? シヨウさんの方が先だけど……。総合的に考えて、上下なしってのが妥当じゃないかな」

「分かりまシタ。……では、クレア」

「……ん」

「先生カラ聞いたよ。こっちの世界のアルファは君が作ったッテ。知能にも興味を示してたトモ」

「うん。我が主とシヨウが研究してたアルファ……。その続きをボクも手伝いたくて……」

「じゃア、そのまま僕を手伝ってくれナイカ? 僕は魔力を扱えないカラ、書き込みができない」

「うん、分かった」


 返事をするクレアが嬉しそうなのは、知能とアルファの研究が出来るから。

 それだけではないだろう。


「私は研究には直接貢献できない分、環境整備を任せてもらおう。……まとめると、レティとスゥ殿が中心となって魔工学の普及を進め、クレアとシヨウ殿が魔機人計画……特に重要となる知能の開発を進める。……ドコウ殿は全てに関与するのだろう?」

「うーん、まあそうなんだけど、もうちょっとある」

「南半球は、そのためかの?」


 スゥが再び質問した。


「そう。……ごめん、質問にずっと答えてなかった。……魔機人は魔人の身体に機人の仕組みを取り入れた新しい人種……それを造る具体的な方法をまだ話してなかった。……この人種は、機人……いや、ゴーレム生成の技術を応用して俺が造る。広大な未開の地である南半球で。……未開の地なら、これまで全く交流のなかった新人種がこっそり繁栄してたとしても、おかしくないかなってね」

「人を……造るんじゃな……そなたの手で」

「そうだね。そのために、オズさんにも人体のことを教えてもらわないとな……。とにかく時間がかかると思う」

「その時間を稼ぐのが妾達じゃな?」

「ただの時間稼ぎだと思わないでよ? 魔機人が当たり前になった世界でも、魔工学は必要だ。レティやスゥが言うように、多くの人が豊かに暮らすためにね」


 ここまででスゥの問いには答えていたかもしれない。

 しかし俺の口は止まらず、続く言葉……無用な自分語りを引っ張り出した。


「元々はね、魔工学のように社会を根底から支える技術を創ることが俺の夢だったんだよ。でも、それは何かの技術を創るだけじゃダメで、普及までがセット。スゥとレティは、そこまで含めて凄く上手くやってくれてる。……そして俺には他に、俺にしかやれないことが出来た」


 悪い癖だ。

 喋り始めると頭が回り始めて、余計なことまで出てくることがある。

 気付いた時には後の祭り。

 口から出た言葉は引っ込められない。

 こんな時はもう、腹をくくる方がいい。


「…………うーん…………ここまで言うつもりはなかったんだけど……。もう全部言っちゃうと……俺の夢の一つ、託させて欲しいんだ」


 話を聞いていたスゥは考え、そして顔を上げた。


「それは、責任重大じゃな。任されたものの意味が、よく分かったぞ」

「私もです! スゥさん、頑張りましょうね!」

「うむ! そなたも、無理はせぬようにな」

「それは俺も言いたいね。全員、夜更かしは厳禁だぞ」


 そうして俺達は、人類の存亡をかけた一大プロジェクトに着手した。

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