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第85話:受け継がれる意思

 前世には、『同じ釜の飯を食べた仲』、なんて言葉があったと思う。

 確か……一緒に暮らし、苦楽を共にした深い関係を示す言葉だったはず。

 それほどまでに、一緒にご飯を食べるというのは特別な効果を持っている。


 夕食を済ませたことで、シヨウさんに対する皆の警戒心はだいぶ薄まったようだ。

 終始クレアが傍にいたことも影響しているかもしれない。

 これなら本題に集中して話し合いが出来るだろう。

 本題、それはつまり……。


「星霊が言うこの星の危機に対して、どうするかを話し合いたい」

「……うむ。そうだな」

「あ、あの!」


 ヴァルさんが同意し、全体に協力の雰囲気を作ってくれた直後。

 レティが意を決した様子で手を挙げた。

 きっとご飯の最中も考えていたのだろう。

 予め決めていたような行動だった。


「レティ、そんなに緊張しないで、いつも通りでいいんだよ」

「あ……なんだか、かしこまった感じが久々で……。……えと。……星の危機は、炎魔法によって魔力が枯渇しちゃうって問題ですよね?」

「うん、そうだね。……まあ正確にはどんな星も最後にはエネルギーを使い切って寿命を迎えるんだけど、それが急速に早まるってことだろう」

「それならきっと、魔機研の成果を普及することが、解決に繋がると思うんです……!」


 レティの発言に、力強く頷くスゥ。

 全くの同意だ。

 ヒト族が使う魔法の効率が悪いのなら、ヒト族が魔法を使う必要のない世界を作ればいい。


「レティが目指してることと、一致するってことかな?」

「はい! 魔法を使える人にも、魔法を使えない人にも、皆に魔工学の便利な道具を使ってもらうんです! ……加熱魔岩は純粋に熱を生み出せる道具です。他にもスゥさんが開発した発光魔岩は、光だけ発する道具……。魔力は使いますけど、どれも目的がハッキリしてて、無駄にはしてないと思います!」

「……でも、攻撃魔法はどうする? そもそも、一番効率が悪いのは攻撃用の炎魔法だよね」

「それは……」

「誰も攻撃魔法など使わぬようにしてしまってはどうじゃ?」


 もはや俺が誘導尋問をしているのか、弟子達と以心伝心なのか……。

 欲しい答えを誰かが返してくれる。


 しかし、問題はどう実現するかだ。

 それは世界平和を成すことと同義ではないだろうか。


「先日の式典で、そなたが行った演説を覚えておるかの?」

「……え? ああ、俺がつい話し過ぎちゃった……」

「じゃから誰も話し過ぎなどと思っておらんと言っておるじゃろう! ……妾は感銘を受けたのじゃ。そしてそれは、妾だけではなかった」


 スゥの言葉にはニナさんが頷いた。


「夜遅くまで各国の色々な方が話しに来ました。」

「……確かに。あの日は流石に疲れたね……」


 俺はマギアキジアお披露目の式典で、魔工学を人類全体の役に立つ技術にしたいこと、その発展に多くの人の協力が必要であることを説明した。

 その反響は確かに大きかった。


「つまりじゃ。魔工学の発展と普及を共通の目的として、(みな)で協力するのじゃ」

「……それで攻撃魔法は不要になるかな……? 争いは耐えない気がするけど……」

「争いは耐えんじゃろうな。サイトウの遺書にも争うのが人間と書かれておったが、妾も同意じゃ。……仮に人類同士が争うのをやめたとしても、モンスターに対抗する手段がいる。モンスターが居なくなったとしても、動物を狩る。……便利と危険は表裏一体じゃ。根絶などできん。……そうではない。魔工学の発展に各国を巻き込むことで、皆の教養を高めるのじゃ」

「教養……」

「うむ。魔工学を用いた道具に触れれば、自ずとその仕組みに興味を持つ者が出るじゃろう。製作に携わろうと考え、学ぼうとする者も現れると思うておる。……そこで教えるのじゃ。魔力を熱に変える仕組みを。炎魔法がなぜ炎を纏うのかを」


 俺には思いつかなかった意見を次々に提示するスゥの表情には、自信が表れていた。

 かと言って押し付けがましい訳でもない。

 謙虚さと気高さに、適切な自信が備わった。


「効率の悪い方法に縋るのは、他に選択肢を知らぬからじゃ。理解が進んだ時、炎魔法を好む者は減るじゃろう」

「……人類が魔工学に夢中で一丸となっているうちに、水面下で意識を変える……ってことか……」

「そうじゃ!」

「となれば、教えることは凄く重要だね」

「そこで『学校』じゃ。ドルフィーネの基盤学校のように、多くの者に魔工学を教えるのじゃ。……やがてマギアキジアだけでなく、あちこちで魔工学が発展するようになる。……妾はの、そなたと魔工学に救われたのじゃ。今度は魔工学を皆のものとしたい。……それこそが『普及』するということだと思っておる。…………どうじゃろう? 壮大な話じゃが、妾は挑戦したい」


 俺は、スゥの言葉に抱いた感情を、上手くまとめることが出来なかった。

 そして気付くと、ゆっくり手を叩いていた。

 俺に続いて皆も拍手で称える。


 シヨウさんも戸惑いながら、皆に合わせて手を叩いている。

 ……やべ、翻訳するの忘れてた。


 感動したレティがスゥと意見交換を始め、どんどん構想を練り上げているうちに、俺はスゥの言葉をシヨウさんに伝えた。


「……センセイ! ソレハマサニ、センセイノ……」

「ウン。チョクセツイッタコトハ、ナインダケドネ。……ツタワッテタ、ミタイダ」


 シヨウさんは立ち上がり、もう一度拍手を送った。

 先程よりも大きな音で、精一杯の気持ちを表現している。

 それを見たスゥは一瞬驚いたが、すぐに嬉しそうに笑う。

 方針が決まった。


「……ありがとう、スゥ。……皆、スゥのお陰で俺達のやるべきことがハッキリと定まったと思う……異論はなさそうだね」

「はい! 私もスゥさんと一緒に頑張りたいです!」

「それは心強いの。……元々はレティが話し始めたことに出しゃばってしまい……すまぬ」

「そんなの気にしないでください! 今、私とってもワクワクして楽しいです!」


 レティを見るヴァルさんの表情はとても穏やかで暖かい。

 とうに自分の足で歩き出し、今や駆けている妹の邪魔にならぬよう、見護る兄がそこに居た。


「さて、じゃあ、今日決めた方針を星霊に伝えないといけないね」

「……ドコウさん。それには『星の声』を聞く必要がありますが……。」

「そうだね。ニナさんなら自力で聞けそうだけど……今はもう一人いる」


 皆の視線がシヨウさんに集まった。

 またもや事態が分からず、なんとか察しようとしている。

 ……いや、後ろを振り返っても何もないよ……。

 定番のギャグだと理解するのは俺だけだが、真剣なのに的外れなその仕草に、思わず皆の顔がほころんだ。


「シヨウサン、セイレイト、ハナセナイカナ?」

「……アア。……ハハ」


 恥ずかしそうに頭をかく。

 この数時間で随分と人間らしくなった。

 思い出したのかもしれない。


「ワタシモ、イツデモハナセルワケデハ、アリマセン」


 曰く、シヨウさんは普段、魔力の濃い南半球にいるそうだ。

 その理由が星霊とコンタクトを取るため。

 魔力が特に濃い場所でないと、声が届かないという。


 今日決まった話を実際に率いる役は、レティとスゥに任せようと思っている。

 話し合いの場には二人も立ち会ってもらいたい。

 そして俺には星霊に聞きたいことがある。

 返答次第でどう事態が転ぶか分からないので、クレアにも付いてきてもらいたいと考えている。

 この人数で南半球を目指すのは、かなり大変そうだ。


 ……魔力が濃い場所……。


 一つ、条件を満たしそうな場所が浮かんだ。

 シヨウさんに話してみると、可能性はあるとのことだった。


 皆に明日は朝から出掛ける必要があることだけ伝え、それに備えて今日はお開きにした。

 大半が風呂の支度をしに自室へ向かう中、シヨウさんを引っ張って応接間の方に向かうクレアが視界に入った。

 …………あの目は……うん、近づかないでおこう。


 長い一日の疲れを落とすため、俺も大浴場へと向かった。

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