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第82話:機人と竜人

 今日は快晴。

 それでいて日差しは強すぎず弱すぎず。

 そよそよ吹く風が最高に気持ち良い。


 こんな日に起動実験をするのだ。

 部屋の中に閉じこもるなんて勿体ない!


「さあついにこの時が来たぞー!」

「来たぞ我が主ー!」

「果たして成功するのか失敗するのか。どっちにしても楽しいぞー!」

「楽しいぞ我が主ー!」

「……おぬしら、気持ちは分かるのじゃが、少し落ち着いた方が良いのではないかの……?」


 俺とクレア、スゥ、レティ、そしてニナさんは魔機研の裏手にある広場に来ていた。

 いや、もう一人。

 アルファも一緒に。


 朝食を食べながら聞いたクレアの話によると、やはり魔岩人工筋の実装は完了しているらしい。

 今の時点では、これまでの機人とアルファで最も異なる部分がその魔岩人工筋だ。

 その実装が完了したとなれば、早速動かしてみる他ない。


 今、アルファはニナさんが作ってくれた木の椅子に座っている。

 感情がないはずのその顔が、どこかワクワクしているように見えた。


「あの……! 書き込みはどうしましょう? 正直に言って私、魔岩人工筋の動かし方が分からないんですけど……」

「そうだね。実際、これまでとはかなり違うから、今回は俺が書き込むよ。レティにはまた改めて教えよう」

「分かりました!」


 実は俺達人間の身体を動かしている筋肉は、かなり面白い駆動源だ。

 なんせ動いてない時ですら力を発揮している働き者なのだから。

 筋肉が働くのをやめてしまったら、途端に俺達の身体はだらりと倒れ、その場に立つことすら出来なくなる。


 緊張。

 対になった筋肉が骨を両側から引っ張ることで、姿勢を保持するための身体の硬さを調整している。

 単に動く、止まるという運動だけを見ればひどく非効率。

 だが、代わりにしなやかな柔軟性を得ることが出来る。

 この柔軟性こそが、様々な事態に瞬時に対応する適応力を支えている。


 ……さて、じゃあやってみるか……。

 俺はアルファに近寄り、魔力プログラミングを開始する。

 動作確認なので、最初にやるのは二本の足で立つこと。


 とはいえこれも簡単ではない。

 椅子から立ち上がる必要があるからだ。


「……よし、じゃあ……行くよ! アルファ、立て!」


 俺の指令を受けた途端、アルファの全身に力が込もる。

 全身の筋肉が互いに引っ張り合い、程良い緊張状態となったのだ。

 次にアルファはゆっくりと、しかししなやかに椅子から立ち上がった。


 これまでの機人のような、どこかぎこちない動きとは一線を画す動き。

 美しさすら感じる自然な所作だった。


「おお……! こ、これは……成功じゃな!?」


 スゥが興奮気味に俺の顔を見る。

 その後ろでクレアが口に手を当て、足を震わせていた。


「ああ、これは大成功だ……! 俺の想定以上に滑らかで良い動きだった。やったなクレア!!」

「こ、これをボクが……? レ、レティごめん。ボクを支えて欲しい……腰が抜けそう……」

「わわわっ!」


 レティとスゥに支えられたクレアの視線は、アルファに釘付けだ。

 クレアの魔岩人工筋の性能がいい。

 俺が書き込んだ魔力プログラミングが要求する通りの力を、高い精度で発揮しているようだ。

 とてつもない作り込み……頑張ってくれたのだと再認識する。

 その頑張りに応えよう。


 ここまで思い通りに動くなら、もっと色々できる。

 俺は再び書き込みを行った。


「……よし、皆よく見ててよ?」


 俺はアルファに次々に指示を出す。

 その指示に応え、辺りを歩き回り、走り、手を振り、踊るアルファ。


 その様子に弟子三人組は目を丸くしていたが、次第に一つ一つの動作に歓声を上げ、拍手を送るようになった。

 拍手を送ったところでアルファの動きに変化はないし、アルファが何かを感じることもない。

 そんなことは皆も分かっている。

 それでも自然とそうしてしまう。

 それは人に対する反応と同じもの。

 俺達が抱いていたのは、単に作ったものが上手く動いたという感情とは違う感情だった。


「本当に凄いですね。腕が六本ある種族だと言われれば、信じてしまうかもしれません。」

「おお、ありがとうニナさん! 本当に凄い動きの良さだ……。クレアの頑張りだね」

「へへ……我が主、ボク……嬉しい。……でも、まだ完成じゃない」

「その通り! まだアルファは俺が指示に書き込んだ運動を再生してるだけだ。ここからスゥにセンサを付けてもらって、レティと制御則を改善して——」


 その時、頭上から声が聞こえた気がした。

 ここは屋外。

 頭上には空しかない。


「……?」

「ドコウさん、何か来ます。」


 上を見上げると、雲に穴が開いていた。

 その穴の中心に何かがいる。

 翼を生やした人間のようなシルエット。

 それはどんどん高度を下げ、やがて俺達の前に降り立った。


 青い髪に黄色い瞳。

 青白い肌にはところどころに鱗がある。

 衣服まで纏ったその姿は人間を思わせるが、背中に生えた大きな翼がその認識を否定する。

 前世でファンタジーもののゲームが好きだった俺には、ドラゴンの翼に見えて仕方ない。

 さながら、竜人。


「モ、モンスターか!?」

「恐らく。」


 スゥの問いにニナさんが答え、俺も抱いていた疑問を払った。

 人型のモンスターはこれまでも居たが、それらとも明らかに異質。


 モンスターなら倒す必要がある。

 しかし俺は、重力魔法を発動させていない。

 どこか様子がおかしい。


 竜人は上空から降りる間も、降りた後もただ一点を見つめている。

 その視線の先にあるのは……アルファだった。


 モンスターは本能的に人間を襲う。

 いくらアルファが人のようによく出来ているからといって、俺達を無視するなんてあり得るだろうか?


 竜人の口が動いた。

 おかしなほど滑らかに。


「ソンナ……ナンデココニ……」

「!?」


 俺は耳を疑った。

 混乱する。


「威嚇か!? 聞いたことのない鳴き声じゃ! 警戒するのじゃ!」

「ドコウさん。どうしたんですか? 重力魔法を。」

「アルファは私とクレアさんで守ります!」


 スゥが、ニナさんが、レティが慌てている。

 鳴き声?

 違う。

 言葉だった。


 竜人はゆっくりと一歩、アルファに近づいた。

 その様子に攻撃の意思が感じられない。

 驚き、喜んでいるようにしか見えない。


「わ、我が主……!? ……ダ、ダメ! アルファは我が主達の想いが込められた大切なロボット……! 壊させない!!」


 クレアがアルファと竜人の間に立ち、両手を広げた。

 その様子を見て、竜人は戸惑うような表情になり、立ち止まった。


「ジョセイ……? イヤマサカ……」


 二度目の竜人の言葉を聞き、俺は決断した。

 クレアの傍に寄り、肩に手を乗せる。

 震えている。


「……クレア、きっと大丈夫だ。どいてあげよう」

「で、でも! ……我が主、何か考えが……?」

「うん。とても信じられない仮説を検証したい」

「…………分かった」


 クレアと俺がどくと、竜人はまたゆっくりとアルファに近づいていった。

 手がギリギリ届かない距離で足を止める。

 戦闘用に磨いたであろう鋭い爪が生えた手は、小刻みに震えていた。


 竜人の目元が太陽光を反射してキラキラ輝いている。


「ヤッパリ、マチガイナイ……。ワスレモシナイ、ウツクシサ……」


 アルファの前に跪き、その名を呼んだ。


「……ジュリエット……」


 日本語で。

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