第8話:始動
基盤学校に通い始めてから六年弱。
何事もなく学校生活を送り、俺は今日、卒業式を迎えた。
在学期間中、俺は徹底してジーナスさんとの約束を守り、地味に地味に過ごしてきた。
真面目に勉強はすれどもテストでは程々の点数を取り、戦闘訓練では土魔法と拳術を封印した。
ボロが出るのを防ぐため、友達もつくらなかった。
「あの……そこまでしなくても大丈夫ですよ……?」
と、俺の徹底ぶりに若干引いたジーナスさんは言ってくれたが、問題ない。
まず、戦闘訓練は新しい技術に触れるいい機会になった。
前世で大学教員だった俺は当然、剣や槍なんかほとんど振ったこともなかったのだが、この六年間で基本的なことは習得することができた。
とはいえ、父直伝の拳術とは比べるまでもない練度なので、実戦で使うことはないかもしれない。
次に、ジーナスさんが一番気にしていた交友関係だが、さっきも言ったように俺は元大学教員だ。
自慢じゃないが、伊達に友達や同僚と呼べる人がいない生活を長く続けてない。
学校に行き、誰とも会話せずに帰宅する日なんて、むしろ懐かしくすら感じた。
……泣いてなどいない。本当だ。
……冗談はさておき、家に帰ればジーナスさんやアリアナさん、さらに護衛の皆さんが相手をしてくれるので、疎外感などはあまり気にならなかった。
そもそも、基盤学校の生徒は全員が俺より年上だが、それはこっちでの実年齢の話。
俺は元36歳のおっさんでもあるのだ。上手く交流するにはかなり気を遣う。
そんなわけで、地味に地味にと努力してきた俺だが、じゃあ実際に地味で目立たなかったのか? と問われると、答えに困ってしまう。
……背が伸びたのだ。凄く。
卒業式の今日、俺はもうすぐ10歳になる9歳児だ。
しかし、見た目は18から20歳くらいの筋肉質な青年にしか見えない。
身体の急成長が始まったのは学校生活が始まってすぐ、4歳の誕生日を過ぎた頃だった。
ヒト族のニ倍以上のスピードで、ぐんぐん大きくなり始めたのである。
ちなみに、ヒト族というのはジーナスさんやアリアナさんたちのような種族のことで、前世の感覚で言えば『普通の人』だ。
ドルフィーネの人口の大半はヒト族である。
最初は、成長期かな? くらいに思っていたのだが、6歳になる頃には、俺はもうどう見ても年齢相応の体格ではなかった。
身体のことだし……、と心配したジーナスさんが父に手紙を書いてくれたのだが、その返事が——
『ドワーフだからな!!』
——だった。
……今思えば、最初のヒントは4歳の誕生日に母から届いたプレゼントだったのかもしれない。
プレゼントはブレスレットだったのだが、当時の俺にはサイズが大きすぎた。
明らかに大人用で、その時は母がサイズを間違えたのだと思ったが、よく考えると母が家を出て間もない俺のサイズを間違えるだろうか……?
子供サイズだとすぐ使えなくなることを知ってたのだろう。
……あ、もしかして村に子どもがいなかった理由はこれ……?
急成長は8歳まで続き、この時点ですでに今とほぼ同じ見た目まで成長していた。
子どもの中に筋肉質な大人がいるのだ。
ただそこにいるだけで相当目立っていたに違いない。
それでも日々の努力のお陰か、誰も俺を王だなんだと言うことはなかった。
ちなみに成長した外見の方だが、なかなかいい感じに育った。
体格は父に似ず、どちらかというとヒト族に近い感じがする。
ただ、見る人が見れば筋肉ですぐ判別できるだろう。
母もそうだったし、この世界のドワーフの特徴は筋肉なのかもしれない。
顔つきも少し母に似たと思う。
爽やかイケメン! という感じではないが、凛々しい顔になった。
父に似た琥珀色の目と少し褐色の肌は生まれたときからそのままだが、栗色の髪は少し色が濃くなった気がする。
我ながら勇敢な見た目になったと思うが、中身の方もそれに見合うように頑張ったつもりだ。
休日や学校帰りなどに、護衛の皆さんに同行して何度もモンスターを退治したのだ。
もう近隣のモンスターは単独でも余裕で討伐できる。
もちろん、それに加えて拳術と土魔法の訓練も毎日行った。
せっかくなので、ここで俺が編み出した秘密の特訓方法を一つ、紹介しよう……!
その名も、『ほこたてトレーニング』!!!
やり方は簡単っ! (3分で調理するあの音楽を再生)
まず、モンスターを想定したサイズの魔岩をドンッと生成しますっ。
次にコレを、土魔法でお好みのモンスターの形に整形しましょう! 造形にこだわったほうがやる気がでますっ。
ここからがポイント! 鍛冶魔法で出来る限り硬く、強く変質させます! これが訓練の成否を左右するのでしっかり、丹念に仕上げましょう!
そして最後! 作った最高硬度のモンスター像を拳術で……破ッッッ!!!
……。
……サイズと形にこだわることで、殴ってもよし、蹴ってもよし、鉄山靠でも何でもありの、良いサンドバッグになる。
ネーミングの由来はそう、矛盾だ。
自分で最強の盾を作り、それを壊せるように矛を鍛える。
壊せてしまったら次は盾の方を鍛える。
これで双方の技術を際限なく伸ばすことができる。我ながらいい方法だ。
ちなみに、バラバラに粉砕した像は魔力に戻して処理している。
……と、サラッと言ったが、これが出来るようになるまではかなり! 苦労した。
元々、自分で魔力から作り出した魔岩を、自分で変質させたものだから、魔力に戻すこともできるのではないか? ……と考えたのだが……着想から実現まで三年かかった。
それまではジーナスさん宅の敷地内にどんどんモンスター像の残骸が溜まっていたので、かなり迷惑をかけていた。
塀のお陰で外からは見られないし、ジーナスさんは問題ないと言ってくれたが……。
お世話になっておいて、ゴミを放置しておくわけにはいかないだろう……、ということで必死に習得したのだ。
そうそう、ほこたてトレーニングで威力まわりの訓練は十分だったが、魔力のコントロールについては物足りなかったので、もう一つ、コツコツ練習したことがある。
歯車の作成だ。
生成した魔岩を土魔法で整形し、鍛冶魔法で変質させる、という工程はいつも通りだが、必要な整形の精度が違う。
訓練し始めたときはガチッとなって全く回らなかったし、回り始めてからも、数年はかなり力を込めてゴリゴリッと回さないといけない代物だった。
最近になってようやく、そこそこスムーズに回るようになってきた。
歯車を題材に選んだ理由は、正直言ってあんまりない。
前世でロボットを研究していたし、基本的な部品としてパッと頭に浮かんだだけだ。
他にも、母が見せてくれた装飾品も思い浮かんだが、俺には絶望的にデザインのセンスがなかった。
これもネーミングセンス同様、転生前から変わらないらしい。
ただ、こうして毎日毎日、歯車を作成していると、ふと『ロボットを作りたい』という気持ちが湧いてきた。
……思い出してきた、という方が正しいかもしれない。
前世では人類のパートナーとなるロボットの実現を夢見て、研究を続けていた。
こっちの世界でも前の世界と同じように、いやそれよりもずっと、人々の生活の中にロボットが役立ちそうな場面がある。
「……やっぱりロボットかなぁ……」
転生の直後に、『当たり前に利用されるほど便利な技術を創る!』と決めたが、具体的にどんな技術を目指すかは決めていなかった。
あの時はまだ、この世界について何も知らなかったので、保留していたのだ。
基盤学校に通い、多少の知識がついた結果、結局はロボットに落ち着く。
人の根っこの部分というものは、なかなか変わらないモノである。
……よし! 決まりだ!
この世界で、この世界の技術を使って、ロボットを作る!
ドワーフによって確立されるロボット技術……名付けて、『ドワーフロボティクス』!!
いつも通りのネーミングセンスだが、そんなに悪くない気がした。




