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第77話:秘めきれない想い

 今晩も、ドコウさんは魔法を練習中。

 ……昨日より発動が早くなってますね。


 今のところ、木々の異変は感じない。

 昨日はつい話し込んで邪魔してしまったので、今晩は自分用に作った木小屋でゆっくりすることにした。

 それにどうやら、今夜は別の話し相手がいるみたい。


「……どうぞ。スゥ。」


 木で作ったドアが静かに開き、スゥが入ってくる。

 別の小屋で寝ているレティとミミカを起こさない配慮。


「すまぬ。……少し話をしたいのじゃが、良いかの?」


 私が気配に気付くことは分かっていたようで、全く驚いてない。

 でもその声は、いつもの気高さを纏っていなかった。


「ええ。魔岩布はありますか?」

「うむ。持ってきておる」

「こちらに座ってください。」

「……とても嬉しいが、今日はそなたの正面に座りたい。すまぬが、椅子を頼めるじゃろうか?」


 この部屋にはベッドしかないので、隣に腰かけることを勧めた。

 でも、スゥの頼みには理由があるみたい。

 私が木の椅子を作ると、スゥは丁寧にお辞儀をした。


「我儘を言ってすまぬ」

「いえ。気にしないでください。」

「つい顔を逸らしてしまいそうでの……。どうしても、顔を見て話したい」


 今日のスゥは、どこか歯切れが悪い。

 スゥとは出会った頃から、よく話す。

 この旅の道中も、大抵はスゥと話しながら進んできた。

 そこでは話せなかった話題……。


「……今日もドコウ殿は、何かしておるようじゃの。あやつが居ない場で……。いや、二人だけで話したかったのじゃ」

「……新しい魔法の練習をしてるそうです。」

「そうか……。どこまでも進んでいくのぅ……」

「本当に。」


 スゥは息を吸い、改めて私の目を見た。

 紅玉色(こうぎょくいろ)の瞳が、微かな月明かりを受けて美しく輝いている。


「ニナ殿。妾は、これからもドコウ殿の傍にいたい。どんどん進むあやつを、追いかけたいのじゃ」

「……? スゥは既に、ドコウさんの弟子です。」

「……うむ。そうじゃな。しかし一つ、そなたには知っておいて欲しいことがあるのじゃ」

「私に……。」


 長い深呼吸。


「妾は研究者としてのドコウ殿に惹かれ、弟子になることを志願した」

「ええ。」

「しかしの、ニナ殿。妾は……異性としても、ドコウ殿に惹かれておる」


 スゥの目は真っ直ぐ私を見ている。

 その瞳に、敵意のようなものは全く感じない。

 真剣な目。

 スゥらしい。


「……同時に、妾は、ドコウ殿の隣にはニナ殿……そなたに居て欲しいと思うておる」

「……。」

「あやつと対等なパートナーは、そなたしかおらぬ」

「……スゥ、貴女は……。」


 スゥはにっこり笑った。


「ニナ殿、妾は我慢している訳ではない。……妾もようやく自分を理解できたところじゃ。上手く言葉にまとまらぬやもしれぬが、聞いて欲しい」

「……聞かせて。」

「おお、なんだか嬉しい言葉遣いじゃ。……妾は、あやつを好いておる。これは間違いなさそうじゃ。あやつといると、どうしても胸が高鳴ってしまう。……じゃが、妾を好いて欲しいとは思っておらぬようなのじゃ」

「……? ……ごめん、スゥ。私、気持ちを分かるの苦手で……。」


 友達と言えるような人は、居なかった。

 皆と出会って、色んな初めてを得た。

 スゥは、初めての友達。


()()い。話すつもりなのじゃ。……例えばの話じゃ。あやつの隣にニナ殿でなく、妾が居るところを想像してみる。……するとな、全然嬉しくないのじゃ。いや、嬉しいのであろうが、それ以上に落ち着かぬ」

「……どうして?」

「妾は、あやつを対等な存在とは思っておらぬようじゃ。圧倒的な憧れ。この恋慕も、その憧れの一つ」

「……憧れ……。」


 スゥの表情は話すほどに晴れやかになっていく。

 ずっと悩んでいたことが解消されていくみたい。

 ……何に悩んでいたの?


「好いて欲しいとは思わずとも、嫌われたくもない。身だしなみも気にしてしまうし、褒められれば顔がほころんでしまう。……じゃがの、妾は、それでニナ殿に嫌な思いをさせたくないのじゃ」

「…………それが悩み……?」

「バレておったか。その通り、悩んでおった。胸の高鳴りは抑えられそうにない。……いっそ妾が離れようと考えたが、それは妾に期待してくれている多くの者を裏切ることになってしまう。……悩んだ末、全ての我儘を、ニナ殿に話そうと考えたのじゃ」


 スゥは私のために悩んでいた。

 自分の大事な気持ちと天秤にかけて。


「ニナ殿の気持ちを、聞かせてもらえぬだろうか? やはりニナ殿が嫌であれば、他の形を探して——」

「スゥ。私は、今までも嫌な思いなんてしてない。」

「……ニナ殿……」

「……それに私も、スゥに遠くに行ってほしくない。」

「ありがとう。妾の悩みは、一番理想的な形で解消されたようじゃ」


 スゥは大きな安堵のため息をもらした。


「……話はそれだけじゃ。夜遅くにすまなかったの」


 スゥは部屋を出ていこうとしてる。

 いつも他人のことを考えるスゥが話してくれた我儘。

 私も我儘を言ってもいい?


「……スゥ。私、ずっと友達がいなかった。話では聞いたことがあったけど、どんな存在なのか、本当のところはよく分からなかった。」


 スゥは浮かせかけていた腰を降ろし、姿勢を整えて私を見てくれた。


「レティは私を姉のように慕ってくれる……。スゥ、貴女は……私の最初の友達だと思ってる。」

「……奇遇じゃの、ニナ殿。妾も同じように思うておる。ニナ殿は初めての友達なのじゃ」

「ありがとう。……なら、もっと気軽に呼んで欲しい。」

「……そうじゃな、そうじゃった。……ふふっ、ありがとう。ニナ」

「もう少し、お話したい。」

「おお! 妾もじゃ。ではもう少しこの椅子を借りるかの」


 道中でもたくさん話はしたはずなのに。

 私とスゥのお喋りは、夜遅くまで止まらなかった。

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